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ワンコインで「うな重」が食べられる日は近い?|Umami MeatsとSteakholderが開発する3Dプリント「ウナギ」
ウナギは食いたいがお金は惜しい ウナギが好きだ。しかし、いかんせんウナギは高い。本来なら牛丼のような手軽さでうな重を頼みたいところだが、現状のウナギ価格を考えるとそうもいかない。さらにウナギの値段はその年の漁獲量にも大幅に左右される。ウナギの量も毎年減っており、いまや各国で絶滅危惧種にさえ区分されている。実際のところ日本国内でのウナギの値段は過去20年で上がり続けている。総務省の小売物価統計調査によると、うなぎ蒲焼100g(東京23区)の価格は過去20年で536円(2001年)から1200円(2021年)と倍以上になっているそうだ。とりわけ昨年は従来の2割増しの値段となっていた。ウナギ好きとしてはつらいところである。このままウナギは値上がりを続け、庶民には手が届かない高級食材としての道をひた走っていくのだろうか。実はそんな暗澹たる未来を回避するための技術が開発されている。バイオ3Dプリントウナギだ。 Umami MeatsとSteakholderがウナギのバイオ3Dプリントを実現 ウナギの身をバイオ3Dプリントする技術を開発したのは2020年に設立したシンガポールの企業Umami Meatsだ。同社の技術は、魚から細胞株を取り出し、独自に増殖させた上で筋肉や脂肪に変え、シーフードへと3Dプリント成形するというもの。とりわけ同社は日本人好みのシーフードに目を向けており、手がけているのは、ニホンウナギ、キハダマグロ、タイの3種だ。 現状ではまだそれらの3Dプリントシーフードは商品化されていない。しかし、先日、ディープテック食品会社Steakholder Foods (STKH) がシンガポール・イスラエル産業研究開発財団(SIIRD)からの100万ドルの助成金を獲得した。どうやらSTKHはUmami Meatsとの協力のもと、3Dプリントウナギの製品化を実現させる気らしいのだ。 Steakholderは、新しく開発された3Dバイオプリンティング技術とバイオインクを使用して、最近仮特許出願のために提出された調理済みの魚のフレーク状の食感を模倣することを約束している。プロジェクトの最初のプロトタイプでとなるのはハイブリッドのハタ製品。これは、2023年の第1四半期に完成する予定とのことだ。このハタのプロトタイプがうまくいけば、次に待っているのは3Dプリントウナギの製品化だろうか。果たしてあのフワフワの食感をどの程度再現することができるのか、今のところ未知数ではあるが、もし本物のウナギと遜色のないバイオウナギが市場に流通しだすとすれば、牛丼価格でうな重を食べれる日が現実にやってくるかもしれない。もちろん、それはウナギの絶滅回避にもつながることだろう。世界中のウナギ好き、そしてウナギたちのためにも、一刻も早い製品化を願うばかりだ。
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3Dプリントファッション界の鬼才アヌーク・ウィプレヒトが仕掛ける没入型ダイニング体験「Journey360」
あの「スパイダードレス」で知られるアヌークが仕掛ける未来空間 以前、本欄で紹介したアヌーク・ウィプレヒトという人物をご記憶だろうか。アヌークはオランダ出身のファッションデザイナー。その近未来的で独創性の高いデザインによって3Dプリントファッション業界のみならずファッションシーンそのもにも大きなインパクトを生み出し続けている。たとえば、彼女の代表作の一つである「メテオドレス」。 LEDライトが無数にあしらわれた、映画『フィフス・エレメント』の世界を彷彿させるようなSF的デザインに目を奪われるが、驚くべきはその発光のシステムだ。なんでも実際の流星データのサンプリングを通じ、流星が大気圏にぶつかって、地球の夜空で大気を燃やすたびに、空で観察されたものと同じ速度と明るさで光を発する仕組みになっているという。そう、これは夜空と共鳴するドレスなのだ。 隕石が落下するたびに点灯する3Dプリントドレス「メテオドレス」がすごい——オランダの新鋭デザイナーであるアヌーク・ウィプレヒトのSF世界https://skhonpo.com/blogs/blog/meteo?_pos=3&_sid=84be6c09f&_ss=r&fpc=2.1.365.596066bca8c8032d.1688992280000あるいは彼女の作品で最も有名なものとしては「スパイダードレス」が挙げられるだろう。 このドレスの特徴はドレスに取り付けられたセンサーと可動アームにある。このセンサーは着用者の呼吸リズムを感知する仕組みとなっている。着用者が恐れを感じたり不安を感じたりして呼吸リズムが変容すると可動アームに信号が送られ、それらがまるで着用者を守るように大きく広がりプライヴェートエリアの境界設定を行なってくれるのだ。男女平等の機運が高まる今日らしい、実にアクチュアルなデザインだろう。 ニューヨークを舞台とする、今までになかった「没入型ダイニング体験」プログラムが誕生 さて、そんな奇想天外で前衛的な3Dプリントファッション作品を続々と発表し続けているアヌーク・ウィプレヒトが、この度、またしても世間を驚かすような企画を始動させている。その名も「Journey360」。ニューヨークを舞台とする、今までになかった「没入型ダイニング体験」プログラムだ。 会場となるのはニューヨークのチェルシー地区に昨年末にオープンしたレストラン「friend & family」。この会場でレストラン×没入型体験×ファッション×ロボット工学×プロジェクション×アートと多ジャンルに跨がる壮大なプログラムが展開される。 Anouk Wipprecht アヌークが今回主に手がけたのは、会場でパフォーマンスを行うブロードウェーのパフォーマー達が着用する衣装制作だ。アヌークは今回の衣装をニューヨークのShapewaysと提携し、熱可塑性ポリウレタン (TPU) とポリアミド 11...
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ムレない、軽い、見た目もいい、業界を刷新するActivArmor3Dプリント防水ギブス
石膏ギブスよりも軽量で不快が少ない 医療現場における3Dプリント技術の活用が目覚ましい。これまでに幾度も取り上げてきたように3Dプリンターは様々な形で医療分野におけるイノベーションを促している。その中には治療技術そのものを刷新するような革新的なイノベーションもあり、これらは多く報道されてもいるのだが、実は患者にとってより重要なのは、3Dプリント技術によってすでにある治療技術の拡充と速度の向上を促すようなイノベーションの方かもしれない。たとえば、最近の事例だと、3Dプリント防水ギブスが挙げられる。これは2017年に米国のActivArmorが開発したギブスだ。以来、この患者それぞれにカスタマイズ可能な防水性のギブスは米国内に広がり、使用患者も増え続けている。このギブスはスマートフォンによるスキャンに基づいてFDM3Dプリンターで出力され、その後、手作業によって仕上げられる。プロセスに3Dプリンターを用いることで、従来のギブスの製造よりも速やかに患者に提供されることが可能であり、また一般的な石膏ギブスよりも軽量であることから、患者の不快も少ないという。 さらにActivArmorのギブスは石膏ギブス特有のかゆみもほぼ起こらない。取り外しも簡単であり、あるいはそれをつけたままスポーツに興じたり、入浴したりすることも可能だ。 きっかけは貧困に苦しむ子供たちとの出会い もともと、このActivArmorの3Dプリントギブスは、ActivArmorの代表であるダイアナ・ホールがコロラド州で貧困に苦しむ子供たちのための指導プログラムを開始したときに生まれたそうだ。そのプログラムにおいてホールは石膏ギプスを着用するときに個人の衛生状態を維持することがどれほど難しいかを知ったという。その後、化学エンジニアであったホールは、技術的な専門知識を活用し、より優れた選択肢としてActivArmorの3Dプリントギブスの祖型を生み出した。その3Dプリントされたプロトタイプは直ちに医療専門家に共有され、2年の臨床試験にかけられた後、市場に投入されることとなった。 ホールによれば、この3Dプリントギブスは快適さのみならず、筋肉刺激などの高度な治療技術の可能性にも開かれているという。「患者の治癒結果を迅速かつ手頃な価格で改善し、さらに人々にライフスタイルの自由を取り戻させる」 現在、米国内ではこの3Dプリントギブスが発注から2営業日内に患者の元へと届くシステムが確立されている。ただ、近い将来には当日配達に短縮したいと考えているという。
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“私のためだけ”の3Dプリント・スキンケアサプリメント「Skinstacks」が登場|ニュートロジーナが切り開く美容2.0時代
3Dプリント技術がサプリメントをパーソナライズする 健康管理のためには摂取栄養のバランスが大切だということは誰しもがすでに理解している。しかし、知っていることとその実践の可否はまた別の話だ。野菜不足と分かっていても付き合いで焼肉屋に出かける日はあるし、日々、栄養価の優れた食品を食べたいと思いつつも、そうした食材は相対的に高価だったりもする。あるいは仕事に忙殺され、外食中心の食生活になってしまっている人も少なくない。日本のファストフードは美味しいが、やはり栄養バランスを考えると物足りなさもある。ただし、そうした場合でも栄養をバランス良くとるための方法はある。サプリメントだ。すでに栄養サプリメントは一般化しており、コンビニでもスーパーでも簡単に購入することができる。ビタミン不足と思えばビタミンを、鉄分不足と思えば鉄分を、それぞれがそれぞれの状況に応じて購入、摂取できるのだ。ただ難点はある。一体、自分がどの栄養を不足しているのかを正確に知ることは難しいし、不足栄養が分かったとしてもそれが多岐にわたる場合、それらを一挙に、かつ必要に沿ったバランスで摂取することは、一般的なサプリメントではほぼ不可能だろう。しかし現在、そんなサプリメントの難点を3Dプリント技術が解決しようとしている。2023年1月5日に発表された、個人それぞれの健康状態にフィットする3Dプリント栄養サプリメント「Skinstacks」が、その嚆矢だ。 最先端の3Dプリント技術を用いたスキンケア用の7層サプリメント 3Dプリントサプリ「Skinstacks」を作成したのは、スキンケアやヘアケア商品で知られる米国の医療メーカー「ニュートロジーナ」。今回、ニュートロジーナは、英国の3Dプリントグミのパイオニアである「Nourish3D」と協力することで、90年以上にわたる皮膚の健康に関する専門知識、人工知能 (AI)、および最先端の3Dプリント技術を組み合わせ、スキンケア用の7層からなるサプリメントを開発した。「Skinstacks」の最も注目すべきポイントはやはりサプリメントが各人の肌のニーズに合わせて提供されるという点だろう。用いられるのは2018年にリリースされたiPhoneベースの肌分析ツールであるニュートロジーナのSkin360テクノロジー。これはiPhoneカメラによって肌の状態を分析し、スキンケアアドバイスを提供するアプリだ。 流れは簡単。まずはユーザーがSkin360によって顔のスキャンを行う。そして日々のスキンケアや居住地域の気候、自身の肌で懸念しているポイントなどについてアンケートに回答する。すると、スキャン結果とアンケート回答を元に、そのユーザーに最も適したSkinstacksが自動的に示されるというわけだ。Skinstacksの成分はすべて植物由来。また口当たりを考えサプリメントはスイカ、ピーチ、チェリー、リンゴ、ミックスベリーの5つの無糖フレーバーのいずれかでコーティングされているらしく、接種が苦にならないよう工夫されている。まさにスキンケアサプリメントの最終兵器といった感。ただし、現状では「Skinstacks」、完全なパーソナライゼーションではないようだ。なんでも当面はエイジレス、クリア、ハイドレイト、グロウ、レジリエントの5種類の肌目標だけを提供する予定とのことらしい。ただ、ビタミンA~D、セレン、亜鉛、リボフラビン、コエンザイムQ10など、さまざまな栄養素を変更することはできる。 しかし、いずれは3Dプリントサプリメントが完全にフルカスタマイズ化していくことは間違いない。あるいはスキャンの技術も向上すれば、より自分に適したサプリメントを入手することができるようになるだろう。3Dプリント技術が可能にした「私のためだけ」のサプリメント。今後の展開に期待大だ。
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世界初のAI生成3Dプリントウェアラブルスニーカーが登場
3Dと2DのAIアプリケーションの組み合わせを使用して作成された世界初のAI生成3Dプリントウェアラブルスニーカー 3Dプリント衣料において最も進展が目覚ましいのがシューズ業界だ。本欄でもこれまでに様々な3Dプリントシューズを紹介してきた。パーツ単位で見るならば、いまやほとんどの有名スニーカーブランドが3Dプリント技術を導入している。HERON01がスニーカーを刷新する? 最先端3Dプリンターシューズに業界が大混乱https://skhonpo.com/blogs/blog/heron3d?_pos=1&_sid=db5ff5897&_ss=rドイツが生んだUMAのような3Dプリントスニーカー|その斬新すぎるデザインが話題にhttps://skhonpo.com/blogs/blog/3duma?_pos=2&_sid=db5ff5897&_ss=r あのイッセイミヤケが3Dプリントフットウェアを発表|日本の「草履」をモチーフに伝統と革新を融合させた名作https://skhonpo.com/blogs/blog/3dissey?_pos=3&_sid=db5ff5897&_ss=rバクテリアを用いた生体素材を3Dプリントすることでファッション産業による環境汚染を防ぐhttps://skhonpo.com/blogs/blog/3dbacterium?_pos=4&_sid=2c11ce202&_ss=r一方で、それらの試みはあくまでも人間の設計したデザインをデータ化して3Dプリントするというプロセスによって作られてきた。当然だろう。3Dプリンターは出力マシンであり、デザインマシンではないのだ。しかし最近、バルセロナを拠点とするフットウェア業界のイノベーションプラットフォームであり、経験豊富なフットウェアの専門家を世界中から集めて、オンライントレーニング、メンタリング、コンサルティング、R&Dサービスを提供しているFootwearologyが発表したシューズにおいては、その大原則が覆されていた。同社が発表したのは、3Dと2DのAIアプリケーションの組み合わせを使用して作成された、世界初のAI生成3Dプリントウェアラブルスニーカーだ。 好きなキーワードを入れるだけでAIがスニーカーのデザインを生成 果たしてどのように製造されたのかというと、まず使用されたのはDalle-2と呼ばれる画像生成AIツールだった。これは、入力したフレーズから画像を生成するAIツールであり、今回実際に使用されたフレーズは、「High quality photo of a shoe composed by radolarian fossils, designed by Ernst Haeckel, 8k, digital art.(エルンスト・ヘッケルがデザインした放散虫の化石で構成された靴の高品質の写真、8k、デジタル アート)」というものだったという。ちなみに放散虫とはシリカの小さな微小骨格をもつ原生生物であり、ドイツの動物学者であるエルンスト・ヘッケルによる美しいスケッチで知られている。 Cyrtoidea(エルンスト・ヘッケル)...
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カセットテープを使った3Dプリントネックレスが流行する?
再ブーム中のカセットテープを斜めから楽しむ 数年前よりカセットテープの人気が急上昇している。音楽記録媒体としてリアルタイムでカセットテープを経験している世代はいまや30代中盤世代以上。あるいはCDやMDにさえ触れたことがないという人も、今時なら多いのではないだろうか。とはいえ、古いものには古いものの良さがある。いかにサブスクでのストリーミングが主流になった現在でも、レコードにこだわり続けているマニアはいるし、実際にレコードにしか出せない音色もある。カセットテープも同様だろう。なんといってもカセットテープの魅力はそのアナログさゆえの「がさついた」音にある。世代の人なら共感してくれると思うが、様々なアナログ媒体の中でもカセットテープはとりわけ音の経時劣化が激しい。特に安物のカセットテープの場合、よほど丁寧に保管しない限り、すぐに音質が悪くなってしまう。ただ、あの独特に間延びした音が今となってみれば妙にノスタルジーを誘うのもまた事実。そうした懐古趣味と、単純にレトロな好奇心もあって、いま、国内外を問わず、若者も巻き込む形でカセットテープに注目が集まっているというわけだ。さて、今回はそんなカセットテープを、音楽記録媒体として以外の形で楽しむある方法を紹介したい。もちろん、その際に使用するのは3Dプリンターだ。 Thingiverseに投稿されたアイディアグッズ カセットテープの再人気を駆動している大きな要素は、そのビジュアルの「可愛さ」にある。とはいえ、カセットテープは基本的に他人に見せびらかすものではなく個人的に使用するものだ。すると、せっかく「可愛さ」に惹かれてカセットテープを入手しても、ひっそり愛でるくらいしか楽しみようがないということになってしまう。そんな思いからあるガジェットを3Dプリントした人がいる。Thingiverseのアカウント名「rainbowdefault」氏だ。氏がThingiverseに投稿したデータ、それはカセットテープをネックレスのヘッドとして身につけるためのアダプターだった。 https://www.thingiverse.com/thing:5736778 カセットテープは構造上、そのリールにチェーンを通すだけでテープがあちこちに巻き出されてしまう。これではネックレスにならない。そこで氏はカセットテープの二つのリールに挿入して所定の位置に保持するプラスチック製のデバイスを作成した。そしてキャップを反対側からねじ込み、デバイスをカセットテープに固定。このデバイスにネックレスチェーンを通せば、レトロで可愛いアクセサリーが完成するというわけだ。 https://www.thingiverse.com/thing:5736778 実にシンプルだが、氏によれば重要なポイントはサイズを間違えないということ(間違えるとカセットリールが回転してしまう)。データは標準設計のカセットテープに合わせて作成されているとのことなので、かつて市販されていたほとんどのカセットで使用できるとのことだ。注意点としてプレミア価値のついてるような貴重なカセットテープでは使用しないほうがいいだろう。ネックレスとして首にかけておけば、転んだり人とぶつかったりした際に破損してしまう可能性がある。そこだけはご留意を。 https://www.thingiverse.com/thing:5736778 「聴かせたい曲があるんだ」と胸元のネックレスからテープを取り外す姿が、果たしてかっこいいものかどうかは分からないが、こうしたユーモアのある3Dプリンターの活用は実に微笑ましい。あるいはどこかのインフルエンサーが身につけたりすれば結構流行るかもしれない。もし自宅にちょうどいいカセットテープがあるぞという方、年末年始のちょっとした手遊びに試してみてはいかがだろうか?
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廃棄すれば土に還る3Dプリントサンダルが登場|素材は世界初の完全成形可能な生分解性エラストマー「BioCir」
3Dプリント技術を使用してフットウェアの最終部品の生産を自動化する フットウェア製造における3Dプリント技術の活用に関してはこれまでも幾度か取り上げてきた。この動きで注目すべき点は製造過程の合理化に限らない。たとえば、、世界的な有名メーカーや有名ブランドは、3Dプリント技術を駆使してこれまでになかったデザイン性、機能性を持つフットウェアをすでに数多く発表している。3Dプリント技術は確かに私たちの足元を変えようとしているのだ。ただし現状においては多くの場合、3Dプリント技術の使用は部分的なものにとどまっている。つまり、3Dデータを3Dプリンターに送信するだけで出力されるフットウェアというのは、まだまだ現実的ではない。しかし業界の最終的な目標としては、3Dプリント技術を使用してフットウェアの最終部品の生産を自動化することにある。その試みの一つとして、最近、材料科学会社Balenaが、100%生分解性エラストマーで作られた3Dプリント製サンダルを発表した。 初の完全成形可能な生分解性エラストマー「BioCir」 ミラノとテルアビブにオフィスを構えるBalenaが取り組んでいるのは、「消費財製品の循環モデルの作成」だ。その上で独自に開発したのがBioCirと呼ばれる素材。今回のサンダルも、このBioCirを材料としている。Balenaのウェブサイトに「Balenaの最優先事項は、さまざまな業界で現在使用されている有害で汚染された堆肥化不可能な合成材料に代わる最先端の循環材料を革新および開発することによって、材料産業を破壊することです」と書かれているように、BioCirはBalenaが無駄が極めて多い従来のファッション業界で使用されてきたプラスチックにかわる、より柔軟性と耐久性のある代替品として開発したものだ。BioCirは「高分子量ポリマーと改質剤によって結合された天然成分の組み合わせ」からなり、ファッション業界でプラスチックの代用となる、初の完全成形可能な生分解性エラストマーだと目されている。実際、その組成は60%がバイオベースであり、残りのプラスチックの部分も100%堆肥化可能であることを特徴としている。 重要なのはその使用感だが、すでにこのBioCirから作られた3Dプリントサンダルは何千人もの着用者に配布され、快適な使い心地を実証している。なおかつ、下の写真でも分かるようにたとえ使用後に廃棄しても、きちんと分解され、自然に還元されるようになっている。また同社は産業用堆肥環境での新しい BioCir スライドの廃棄と完全な生分解を支援する完全循環システムであるBioCyclingも導入しており、ユーザーがサンダルを使い終わったらテルアビブにある2つの回収場所のいずれかにっもどすことができるようになっている。 BioCirがファッション業界を刷新する なにより注目すべき点はBioCirのスケーラビリティ(汎用可能性)だろう。今回はサンダルだったが、この素材は様々なプロダクトに使用することができる。3Dプリント素材として極めて容易に射出成形が可能であるBioCirであれば、大規模な複製も可能だ。今回、同社がファッションアイテムに目を向けたのはファッション業界が世界最大の汚染源の一つとなっているからに他ならない。BalenaのCEOはBioCirの成功を事例とし次のように語っている。「(BioCirが示しているのは)ファッションは素晴らしく、機能的で、地球に優しいものになり得るということです。我が社がファッションブランドがより循環的な未来に足を踏み入れるための扉を開く会社であることを誇りに思います」。環境問題がいかに深刻とはいえ禁欲主義では取り組みは続かない。おしゃれも楽しみながら環境負担を減らす方途があるなら、それに越したことはないだろう。 とはいえ、現状ではエコな商品は比較的に高価な傾向がある。なので、余裕のある人から可能な範囲で取り入れていけばいいのだ。自分がそれを購入していないことを気に病む必要はない。それぞれがそれぞれのペースで気持ちのいい暮らしを実現すること。3Dプリント技術がそうした前向きな実践を支える技術となるなら幸いだ。
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光学レンズ分野を刷新する3Dプリンター|最も適しているのはインクジェット3Dプリント
光学レンズ製造を刷新する3Dプリント技術 現在、3Dプリンターの光学レンズ分野での活用の研究が進められている。これはかつては不可能だった光学部品全体を一度に、かつ一つの小さな粒子としてプリントするという試みだ。これにより、複数の機能を一つのレンズ内で組み合わせたり、光学系、マウント(土台)、バッフル(光を遮る筒状のリング)を一緒に作成して、システムを事前調整する設計が可能になると言われており、またこの3Dプリンターを用いた新しい光学設計は、製品の設置面積を削減し、技術的性能を向上させ、商業規模の拡大を容易にするだろうと言われている。たとえば最近では、オーストラリアとドイツの研究者が最近、レンズインレンズ設計で高開口数と低開口数の要件を同時に満たす単一の直径330μmレンズを3Dプリントすることに成功した。これは従来の方法では決して製造することができなかったレンズだ。しかし、このレンズによって一体何が可能になったというのか。曰く「直径0.52mmのプローブで蛍光トモグラフィーと光コヒーレンストモグラフィーの両方が可能になった」とのこと。専門用語が並んでいるため、一般人には理解が難しいが、結論から記せば、このレンズによって従来の光ファイバー設計のレンズと比較して蛍光コントラストが10倍以上改善されたということらしい。向上するのは性能だけではない。光学レンズの製造に3Dプリンターを用いることで、製造にかかる時間を大幅に節約し、取り付けエラーを最小限に抑えることもできるようになると言われている。こうした3Dプリント光学レンズの発達により主に恩恵を受けることになるのは、医療アプリケーションやスマートフォンなどの分野だと言われており、いずれも私たちの暮らしの安全や快適さに直結する分野だ。ただ、現状では光学部品の3Dプリントにはまだ課題もあると言われている。光学関連材料の入手が限られていること、光学系は一般に製造速度が遅いこと、そして大量生産の場合は高コストになってしまうことなどだ。 ソリューションを生み出す研究開発 業界、そして研究者は、今まさに一連の3Dプリント技術を使用してこれらの問題解決に取り組んでいる。たとえばライス大学のTomasz Tkaczyk教授は、光学系3Dプリントを行う上で、FDM、インクジェット3Dプリント、ステレオリソグラフィー、および2光子重合の3Dプリントのどの方法が、機能と性能レベルにおいて適しているかを概説している。Tomasz Tkaczyk教授によれば、FDMモデルが最も短時間で最大の体積構造を出力できることが分かったが、一方でその表面は粗いものになってしまう。これは光学性能に直接的な影響が出てしまう。一方で2光子重合では出力時間は非常にかかるものの、最も微細な形状を正確に出力できることが分かったという。他方、インクジェット3Dプリントやステレオソリグラフィーは、ちょうどその両者の中間くらいに位置付けられるようだ。なんでもインクジェットの方がやや微細な形状の滑らかさで上回ることも分かったらしく、バランスを考えるとインクジェットが最も適していると言えるかもしれない。実際、Luxexcel社は、インクジェット印刷とそれに続くポリマーのUV硬化を使用して、3Dプリントされた光学レンズを作成している。同社は、度付きレンズを使用したスマートアイウェアを構築するソリューションで2022 Prism Awardを受賞した。その他、この分野のスタートアップとして知られるNanoVoxもまたインクジェット3Dプリントを採用し、さらに同社独自の「ひねり」を加えることで、光学レンズを製造している。同社はポリマーを直接プリントするのではなく、ポリマーを構成する最小単位であるモノマーに光を彫刻するナノ粒子を注入したものを使用している。 改良されたインクジェット技術によって、 10 mm f/4 勾配屈折率 (GRIN) レンズなどの 3Dプリント平面レンズアレイが可能になる/NanoVox ここら辺は非常に専門的な話になってしまうが、NanoVoxのこの技術によって、従来、8〜9個のレンズを使用する必要があったスマートフォンのカメラを、4個のレンズで製造できるようになるという。各種メーカーにとっては大幅なコストの削減になるだろう。 VR/ARゴーグル製造へのポテンシャル もう1つの注目すべきスタートアップは、プリントメーカーNanoscribeの2光子重合システムを使用する Printoptixだ。Printoptixは現在、3Dプリントおよびプロトタイピングサービスを販売するサービス ビューローだが、同社の技術は光学処理を加速するポテンシャルを持っていると言われている。...
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3Dプリント関連ソフトウェアの収益が現在の12億ドルから10年で62億ドルに|鍵となるのは「CO-AM」
3Dプリント関連市場の拡大が止まらない ここ10年での3Dプリンター市場の成長については誰もが体感的に知っているだろう。ただし成長しているのは3Dプリンター本体のみではない。あるいは本体を凌ぐ勢いで急成長している分野があるのだ。3Dプリント関連ソフトウェアだ。先日発表されたSmarTech Analysis の主力市場調査「2023 付加製造ソフトウェア市場の機会」の最新版では驚くべき予測が建てられている。なんでも今年12億ドルだった3Dプリントソフトウェアの収益が10年後にはおよそ5倍となる62億ドルへと増加するだろうというのだ。 SmarTechによれば、ソフトウェア部門のマーケットは過去2年間で3Dプリンター本体のマーケットと同様のペースで進化しているのみならず、以前の予測よりもさらに急速に成長することを示唆する要素があるという。 一体どの点がそれほどの評価を得ているのだろうか。 推進力となるのはマテリアライズの「CO-AMプラットフォーム」 なんでもこの急成長はソフトウェアワークフローの様々な部分が相互にリンクされることによって完全なエンドツーエンドのプラットフォームとなることによって推進されるという。実際、ドイツの3Dプリント関連ソフトウェア企業のマテリアライズは2022年5月に「CO-AMプラットフォーム」を立ち上げ、これにより「3Dプリントパーツのデザインからデータ準備の自動化、トレーサビリティ、3Dプリント、後処理に至るまで、サポート可能なソリューション」の提供を開始している。さらにこのプラットフォームは業界全体に開かれており、3DSystemsやStratasysやGEAdditiveなど、名だたる3Dプリント関連企業とパートナーシップも結んでいる。 プラットフォームがオープンアーキテクチャであることにより、ユーザーは使用したいツールすべてを統合して運用することができるようになる。航空宇宙、自動車、コンシューマー製品、医療、エネルギーなどの主要な製造業に関わる企業もまた、常に最新のソフトウェアイノベーションにアクセスし、ニーズに基づいて業務を拡張することが可能となるのだ。 CO-AMのワークフロー これまで3Dプリント市場の拡大を促してきたのは主にサプライチェーンの刷新の需要だった。特にコロナ禍とウクライナ戦争は、既存のサプライチェーンを混乱させ、各国で資源不足が相次いだ。そんな中、製造を再ローカル化させることが可能な3Dプリント技術に以前より一層の注目が集まったのだ。そして、その際に重要な鍵を握るのが、製造ワークフローの合理化を導くソフトウェアである。もちろん、ハードウェアも重要だが、ハードウェアは強力なソフトウェアによって強化される。「CO-AMプラットフォーム」の広がりは、ユーザーにとって最先端のソフトウェアに常にアクセス可能な環境を作り出す。これは確かに急成長の予感が高まる。 果たして、SmarTechの予測はどの程度、的中することになるのだろうか。
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廃棄物ゼロで3Dプリントされた家具の現代アート「インスタレーション」がアートバーゼルに出展
まだまだ続くアートバブルとアートフェア 現代美術作品が売れている。欧米だけの話ではない。日本でもだ。この長らく続くアートバブルがいつ終わるのかは定かではない。ただ、最近では日本国内でも美術大学を出たばかりの若手作家の中にも作品が飛ぶように売れている作家もいたりする。もちろん、アートの世界においては「売れている」ことが評価軸の全てではない。かねてよりマーケットとクリティーク(批評)は乖離していると言われてきた。つまり、アートの世界で高く評価されている作家の作品が必ずしも「売れている」わけではないということだ。しかし当然、アーティストも作品が売れなければ生活していくことができない。主に現代のアーティストは所属ギャラリーを通して作品を販売するケースが多く、ギャラリーでの個展などがその売買の場となることが多い。一方、美術館などの公共施設においては作品の販売は原則的にはあまりなされることはなく、そのため美術館展示をするほど赤字になるなんて声もあるくらいだ。ところでアートコレクターにとって、作品を品定めするために、各作家のギャラリー個展を巡り歩くのはなかなかに大変な作業だ。時間もかかれば、労力もかかる。それゆえ注目の作家の作品を一堂に集め、展示を行うアートフェアが、アートマーケットにおいては極めて重要な場となる。日本でもこのアートフェアは各地で開催されているが、世界で最も有名な最大級のアートフェアといえばアートバーゼルだろう。アートバーゼルはその名の通り、スイスの都市バーゼルで毎年開催されているアートフェアだ。しかし、アートバーゼルは近年、世界の各都市でも開催されるようになっている。パリ、LA、香港、そして東京でも。来場者はここ数年は毎年10万人規模というから、アートバブルの一端が窺えるというものだ。ところで、ここまでは話の枕である。今回、アートバーゼルに触れたのは、2022年のアートバーゼル・マイアミビーチに出展されたある作品が画期的だったからだ。 アートバーゼルに出展された3Dプリント家具 12月5日に開幕となった第20回アートバーゼル・マイアミビーチは大規模だ。参加ギャラリーは283ギャラリー。日本からも神宮前のNANZUKAや六本木のSCAIなどが参加している。もちろん世界的なギャラリーも軒並み顔を揃えている。ガゴシアンやハウザー&ワース、リッソンギャラリー、ジェフリー・ダイチ。いずれもアート界きっての名門ギャラリーだ。バーゼルの魅力といえば、プログラムの質の高さだ。参加するギャラリー、コレクター共に、バーゼルの審美眼によって見極められている。それゆえ、展示されている作品はいずれも「本物」だ。ここでいう本物とは贋作でないということではなく、時代を超えて価値を持ち続けるだろう作品たちだということだ。そんな今回のアートバーゼルに出展された作品の中で、3Dプリンターを専門とする当ブログ欄にとっても見逃せない作品がある。ウィンウッド地区のソラナエンバシーにおいて展示されているユニークなデザインの3Dプリント家具からなるインスタレーション作品だ。このインスタレーションはEndless Loop: From Waste to Wantedというタイトルの限定コレクション展となっており、12月13日まで開催される。もちろん、インスタレーションを構成している各作品はいずれも購入可能だ。そして、何より注目すべきは、これらの家具が廃棄物ゼロで3Dプリントされているという点だろう。製作したのはオークランドを拠点とする持続可能な家具のデザイン製造会社Model No.。今回はデザインスタジオも関わっており、複数のアーティストとのコラボレーションになっている。もちろん、アートバーゼルは家具フェアではない。これらの家具が出展されたのは、このインスタレーションが家具ビジネスにおける製造慣行によって引き起こされてきた環境への害に対する警鐘という、時代にふさわしいコンセプトを持った「作品」であるからだ。たとえばコラボ作家の一人であるマイク・ハンが制作したのはモノリスの彫刻作品。ハンは、灰を使った CNC彫刻と3Dプリンターを利用して、これを無駄のない彫刻オブジェクトとして作成した。あるいはアリー・サリアーニが制作したのは、幾何学的な形をした立像。伝統的なフライス加工と職人技、さらに3Dプリント技術とを組み合わせることで、廃棄物として残されたものから機能的で美しいオブジェクトを制作することに成功している。 下の動画はナタリー・ルーのもの。今回のインスタレーション Endless Loop: From Waste to Wanted のイメージが美しい映像によって表現されている。 ...
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3Dプリント系TikTokerが急増中!? 注目のアカウントを紹介
最新の情報を収集するならどのSNSがいい? ここ10年で最も変わったことを挙げろと言割れれば、まず思いつくのが3Dプリンターの普及だ。オバマ大統領が3Dプリンターを一般教書演説で取り上げてから早10年、瞬く間に3Dプリンターは一般に普及し、世界同時的にものつくり革命を引き起こした。その技術の進歩速度にも目を見張るものがある。ここ10年で3Dプリント技術がどのように進化を遂げてきたかについては、本ブログ欄の過去記事をいくつか読んでいただければ事足りるはずだ。ところで、もう一つ、ここ10年で大きく変わったことがある。それがSNSの浸透だ。SNS自体は2000年代中頃くらいから徐々に普及はし始めていた。古くはmixiや前略プロフ、あるいはモバゲーなどのソシャゲも2000年代にはすでに浸透していた。ただ、それらはあくまでも趣味の世界の話ではあった。SNSが現実世界に大きく影響を及ぼすようになり、SNS自体が「社会」の主要な一部として考えられるようになったのは、やはりここ10年のことだろう。言うまでもなく、今日、最も新しい情報に触れたいと思ってテレビをつけたり紙の新聞を開いたりする人はいない。情報の最先端はネットにある。そして、その情報がまず最初にアップされることになるのがSNSなのだ。もちろん、SNSにも様々なプラットフォームがある。FaceBookやツイッター、Instagramまでは、中年世代でもなんとかついていけてると思う。ただ、TikTokとなるとどうだろうか。すでに若い人たちにとっては最も馴染みあるSNSになっているらしいということまでは知っていても、なかなか足を踏み入れられずにいるという人も多いのではないだろうか。確かにTikTokは性質上、情報収集にはあまり向かなそうに見える。ツイッターのように文字ベースではないという点も大きい。特に3Dプリント関連情報を収集するためにSNSを用いているような3Dプリンターユーザーにとっては、TikTokはあまり魅力的なSNSではないようにも思える。ところがどっこい、だ。 3DプリントTikTokerの台頭 実はTikTokはすでに3Dプリンターユーザーにとっても無視できないSNSになってきている。 これまで3Dプリンターに関する情報はツイッターやInstagramが主だった。あるいはSNSではないがYouTubeなどはマニュアル動画を検索する上では欠かせないメディアであった。実際、3Dプリンター系ツイッタラーやYouTuberも数多くいる。最新の情報や技術を知りたければ、そうしたインフルエンサーたちが発信する情報に目を配っておけばよかった。だが、ここ最近、TikTok内にも3Dプリント系TikTokerなる人々が増え始めているのだ。彼らは主に自身の3Dプリント作品をSNSに投稿したり、あるいはテクニックをピンポイントで解説することで支持を獲得している。実際、TikTokでハッシュタグ「3dprint」と打ち込んでみると大量の投稿が確認できる。いずれも3Dプリント腕自慢たちによる力作出力作品ばかり。中には今後の出力のヒントになりそうなアイディアも散見される。もちろん、動画投稿SNSであるTikTokならではの魅力もある。3Dプリント情報を紹介してくれる投稿者のキャラクターがまた色とりどりなのだ。 注目の3Dプリント系TikToker たとえば筆者の目に止まったのはこちらのNajoprint.3dさん。 @najoprint.3d ほとんどの投稿が3Dプリント関連なんだが、それ以上にNajoさんの美貌に目を奪われる。フォロワーはすでに32万弱。投稿も非常にこまめだ。スペイン語を理解できないのがただただ悔やまれる。 他にも気になる人はいる。たとえばWf3dprintingさん。 @wf3dprinting アニメやゲームのキャラクタのフィギュアを主に3DプリントしているTikTokerのようだが、いずれも誰もが知ってる有名キャラばかり。そんな馴染みあるキャラクターフィギュアの造形が毎度タイムラプス映像で投稿されている。失敗事例などの紹介もあり、見ているだけで楽しい。もちろん日本人の3Dプリント系TikTokerもいる。たとえばtentenxxx1さんだ。 @tentenxxx1 YouTuberでもある氏のフォロワーは1万人。3Dプリンターの面白ネタやお役立ち情報をリズミカルに紹介してくれていて楽しい。ただ、欧米圏と比較すると3Dプリント系の日本人TikTokerはそんなに多くなさそうだ。おそらく需要はあるはずなのに、これはもったいない。 我こそはという方、是非とも3Dプリント系TikTokerの道に踏み出してみてはいかがだろうか。
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国際的3Dプリントメディアが「家ではなくお金を3Dプリントしよう」と提言。その真意とは?
3Dプリント住宅の世界が盛り上がっている一方で 当ブログ欄でも繰り返し紹介してきたように、現在、3Dプリント住宅が世界中に広がり始めている。すでに3Dプリント建築による住宅街のプロジェクトも複数始動しており、あと10年もすれば、誰もが一般的に3Dプリント住宅を目にする時代になることは間違いなさそうに見える。そんな中、そうした状況に冷や水を浴びせるような話もある。これは世界的3Dプリントメディア「3DPRINT.COM」が先日公開したある記事の話だ。記事のタイトルは「家ではなくお金を3Dプリントしよう」。なんとも扇情的なタイトルだ。記事はまず、3Dプリント住宅のメリットについて伝えている。主なメリットとして挙げられているのが、住宅危機の解決、人件費やコストの削減、建築時間の短縮などだ。確かに先日世界的にも報道されたように、ついに地球人口は80億人を突破してしまった。これだけの数の人口が設備の整った住宅で暮らしていく上では、より安く、より早く、住宅を建築するための技術が不可欠だ。その上で3Dプリント建築はその最も効果的なソリューションとなるだろう。ただ、一方で記事は、3Dプリント住宅のメリットを認めつつも、このように続いていく。「ただし、これらが大きな影響を与えるのは、建築家が3Dプリントされた建物の設計を開始してからなのだ」一体どういうことだろうか。 3Dプリント住宅建築はビジネスとして「おいしくない」 「建物の設計を開始してから」という発言にもあるように、記事で問題にされているのは、建物の設計を開始する前段階の話だ。一般的に、建築に関する規制や、実際に施工に当たる建設会社というのは、きわめてローカルである。つまり、建築に関わる様々なルールは地域ごとに異なり、実際に建築にあたる会社、およびその会社が有している技術のレベルも地域ごとに異なる。したがって「あらゆる設計またはプロジェクトは、開発者やクライアントとの会議と同様に、多くの規制上のトラブルを経験することになる」と記事は指摘するのだ。確かに、実際に3Dプリント建築がスタートすれば、これは大きな価値がある。だが、そのスタートまでに非常に時間がかかってしまう。これは端的にビジネスとしては「あまりおいしく」ない。そこで記事が提案しているのが、住宅以外ですぐに3Dプリント業界に利益をもたらす可能性がある場面でより積極的に3Dプリント建築技術、とりわけセメントを素材とする3Dプリント技術を用いていくというプランだ。記事では具体的に以下のようなリストが紹介されている。通行用バリア、ブロック、装飾品、遮音壁、対テロシールド、タンク トラップ、セキュリティブロック、バンカー、シェルター、セキュリティ ハット、およびその他の安全/防御構造、ボラード、壁やフェンスを支えるポール、部屋の間仕切り、小さな歩道橋、車橋、陸橋、トンネル用の複雑な型枠、厩舎、サイロ、牛/家畜/野生動物用格子、およびその他の農業用小型構造物、トイレを含むトイレ構造物、庭の家、庭とレストランの彫像、噴水、プランター、装飾用の偽の石、 ベンチ、階段と床、浄化槽、パイプ、排水管、サンプ、およびその他の廃棄物管理要素、暗渠、パイプライン、パイプライン サポート コンポーネント、倉庫、車庫、パイロン、フーチング、柱、ファサード、ジョイスト、その他の建築要素、鉄道枕木、護岸、etc。つまり、住宅など建築そのものではなく、建築に付随する各種パーツや部分、また市街におけるインフラストラクチャーに付随するパーツなどだ。記事はこれらのオブジェクトの1立方センチメートルあたりの価値が住宅に比較して高いという点を指摘している。つまり、3Dプリント時間1分あたりで生み出すことができる価値がより大きいということだ。また、住宅と異なり、それらは住宅のように野外でではなく、保護された屋内環境において3Dプリントすることができる。温度や湿度や天気などの変数に左右されない点でも、品質管理がしやすいという点も指摘されている。 潜在的な収益は数十億ドル 実際、3Dプリント技術であれば上記のリストにあるものはほぼ自動で作成できる。 従来なら、これらの作成には数週間がかかっていたところ、3Dプリンターであれば早ければ数時間、長くてもせいぜい数日間で作成が可能なのだ。また、こうしたオブジェクトの在庫を維持するためにかかるコストも削減できる。トレンドの変化や需要に応じて、デザインを迅速に更新することも可能だ。あるいはその場に応じたカスタマイズにも対応しやすい。要するに、すでにある市場のニーズにすぐい応じることが可能なのだ。 記事はこうしたオブジェクトを3Dプリントが請け負っていくことで想定される潜在的な収益は数十億ドルにのぼるだろうとしている。現状ではまだ一部の企業しか、こうした領域への3Dプリント技術の応用を検討していないという。つまり、これは3Dプリント住宅を建設する以上のビジネスチャンスということだ。果たして、記事はこのように締めくくられている。「まとめると、これらの要素を在庫なしで、より速く、より安価に、より少ない材料で製造できるという事実は、競争上の大きな優位性となる。住宅が未来において3Dプリント技術のエキサイティングな分野になる可能性は非常に高い。ただし、そうした“誇大宣伝”は別として、ACで数十億の収益を上げたい場合は、上記の項目に焦点を当てることが、私の考えでは、はるかにすぐに成功するものだろう」
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いよいよNASAが「アルテミス計画」を本格始動へ|3Dプリント部品で打ち上げられたアルテミスⅠロケットの行方
NASAによる今世紀最大のプロジェクト「アルテミス計画」 以前紹介した世界初の3Dプリント月面基地「LINA」の計画をご記憶だろうか。 3Dプリント月面基地「LINA」のデザインをNASAが発表|SF映画のような未来的デザインが話題にhttps://skhonpo.com/blogs/blog/3dlinalina?_pos=1&_sid=c9d2ecef1&_ss=r&fpc=2.1.365.596066bca8c8032d.1688992280000「LINA」は、NASA のフィールドセンターの一つである宇宙建築テクノロジー企業AI SpaceFactory が、ケネディ宇宙センターのエンジニアらと共同開発を行なっている月面基地のプロジェクトだ。今年の初夏にそのデザインがNASAから発表され、まるでSF映画のような近未来的デザインで大いに話題になった。 この「LINA」建設プロジェクトの背景には「アルテミス計画」がある。これは今後10年以内に月の南極に宇宙飛行士を送り込むためのプロジェクトで、「LINA」もまたそのための施設として研究されている。実際の施工においては自律型ロボットを使用する予定で、月の南極部にあるシャックルトンクレーター付近に建設を予定しているという。今回、このアルテミス計画の進展を伝えるニュースが届いた。2022年11月16日、アルテミスⅠロケットが3体のダミーを乗せてテスト飛行を開始したのだ。その後、NASAのオリオン宇宙船は、約63フィートにわたる 4つのソーラーアレイを運びながら月への道を進んでいる。フロリダのケネディ宇宙センターから打ち上げられたアルテミスIは、月と火星への有人探査を可能にするための、ますます複雑化するだろう一連のミッションの最初のものだ。 3Dプリント技術の35%のコストが削減 実はこのアルテミスⅠにも3Dプリント技術が多く用いられている。たとえばロケットが地球の重力から逃れるのに十分なエネルギーを生成するための大量の推進剤を動かす際に、最も高温に対処するように設計された4つのRS-25エンジンには、エンジンの全体的な生産コストを削減する多数の3Dプリントコンポーネントが使用されている。実際、それら3Dプリントコンポーネントを用いることでパフォーマンス、信頼性、安全性を維持しながら、35%のコストが削減される。 画像: NASA/Frank Michaux. この際、主に用いられたのはLPBF方式の金属3Dプリンターだ。LPBF方式とはレザーパウダーベッドフュージョン方式の略。これは素材となる金属粉末を層状に敷き詰め、造形する部分をレーザーや電子ビームにより焼結することを繰り返して部品を造形する方式のことで。他の造形方式と比べて高精度・高密度の造形が可能であることが知られている。一方、その反面、造形速度が遅く、大量生産には不向きであり、そのため今回のようなプロジェクトベースの部品製造に用いられることが多い。また最初の飛行の2分間で推力の75%以上を供給する二つの固体ロケットブースターもまた3Dプリントとコンピューターモデリングに依存している。これらのブースターは2020年にNorthropよりケネディ宇宙センターに出荷されたものだ。 画像:NASA/Kim Shiflett. さて、オリオン宇宙船は21日に月のそばを飛行した後、月面から数マイル離れた非常に安定した軌道へと向かう途中で月面への比較接近を行う予定だ。このアルテミスミッションを通じて、NASAは月面に最初の女性と最初の有色人種を着陸させ、長期的な月滞在への道を開き、宇宙飛行士が火星に向かうための足がかりとして機能させたいとしている。今回の打ち上げは、この10年間で最も話題になった宇宙プログラムの1つの始まりを示す狼煙だ。今後の予定としては、次のロケットであるアルテミスIIの打ち上げミッションが2024年までに実施され、4 人の宇宙飛行士が月を周回することになっている。その成功が確認されたら、いよいよアルテミスIII、有人着陸ミッションへと入っていくとのことだ。
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3Dプリンターと廃品を使って風力発電機を自作する方法|これであなたも自給自足生活?
もし自給自足生活を望むなら 都会暮らしをしていると、ふと文明的な暮らしに倦んでしまうことがある。便利さ、快適さ、そして欲望を刺激する大量の情報に、時として胃もたれを感じてしまうという人は少なくないだろう。どんなに派手な暮らしも日々繰り返されてしまえば退屈さを逃れられないものだ。いや、そもそもこの不景気に派手な暮らしなんて、そうそうできたものじゃない。雑踏に揉まれながら懸命に働いてみても、その見返りはといえば雀の涙。仕事の休憩時間のレッドブルでさえ値上がり待ったなしの世知辛いご時世だ。胃腸を無情にも締めつけるお金や時間、将来へのプレッシャー。そんな心労の一切から逃れ、自然豊かな地で自給自足の暮らしでものんびりできたら…。そんな夢想をいくら浮かべても、目の前の仕事が減るわけでは残念ながらない。結局、今日も今日とて満員電車に飛び乗り、SNSのタイムラインに流れる必要なのかどうかもよく分からない情報に目を通すエブリデイ。と、なんだか鬱々とした枕になってしまったが、実際のところ、この時代を生きるというのは誰にとっても多かれ少なかれ大変なものだ。そうそう楽して生きる道なんてない。ただ、もし本当にこの暮らしに嫌気がさした時に、そこから逃れるための方法を知っていたなら、少し心の持ちようは変わるんじゃないだろうか。それこそ自給自足の暮らしを本当にするだけの知識を持っていれば、今の仕事でたとえつまづいてしまっても「いざとなったら野生でも生きていけるさ」と鷹揚に構えるだけの余裕が生まれそうなものだ。さて、ここからが本題。仮に賃金労働を最低限に抑えて、ほぼ自給自足の暮らしをしようと思い立った時、まず考えるべきは電力の供給源だろう。いかに自然暮らしと言っても電気一切なしというのはさすがに原始的すぎる。電力といえば、火力、水力、原子力、ソーラーと、その発電方法は様々だが、とりわけ最もナチュラルな発電方法といえば風力発電だろう。実は今、3Dプリンターとスクラップを使って自作された風力発電機がちょっとした話題となっている。 3Dプリンターとスクラップで風力タービンを自作 風力タービンを一人で、しかもゼロから作り出した人物の名前はクリス・ハーバー。農村に暮らしている彼が目をつけたのは3Dプリンターと壊された車の部品だった。彼が作ろうとしたのは三相交流型の風力発電機。この「三相交流」とは、単相と比べて少ない電流で同じ電力を得られるため電気損失が少なく、多くの電気を使う工場などで利用されることが多い電気交流の方法で、名前のとおり、3つの波形が常に流れているので、モーターを起動するときに配線を正しくつなげば、常に同じ方向にモーターを回転させることができる。この基本的なシステムも、もちろんクリスはゼロから作り出した。まず手巻きステーターを2つの磁気ローターの間にしっかりと固定、その上で3Dプリントされた治具によって磁石を所定の位置に固定する。ちなみに治具とは工業製品の製造過程で必要となるパーツ同士を固定させるための器具のこと。この治具製造においては3Dプリターが非常に役立つ。 詳しくは下の動画を見てもらいたいが、使用したのはランドローバーの損傷したホイールのようだ。これが風力タービン全体が風を受けて回転するためのベアリングの基礎を提供している。そこに様々な機械加工部品が加えられることで、自家製の風力タービンができあがっていく。果たして自作した風力タービンはちゃんと発電してくれたのだろうか?どうやらクリスにとって問題となったのは、電力が強すぎることだったようだ。すでに蓄電バッテリーが満タンの場合、作られた電力はどこにいくのか。映像ではその逃がし方も紹介されている。 ところで、実はこのクリス、以前にソーラーフレームや水力発電機も自作している。風が少ないエリアで暮らしたいという人はそちらの動画を参考いただくと良いかもしれない。 さて、これでもういつでも電力に困らず自給自足の暮らしができる…とは、クリスの動画を見る限り、やはりならない。そもそも個人所有にしては立派すぎる工房と、充実した電気工具というアドバンテージがクリスにはある。技術力もすごい。車の壊れたホイールまではなんとか手に入りそうだが、その他は少なくとも筆者には敷居が高いものばかりだ。それに考えてみれば、3Dプリンターやレジンを定期的に購入するくらいの予算は確保しておきたいし、スマホやPCを使わない生活というのも考え難いものがある。ゲームだってしたい。毎日ご飯作るのも面倒だから外食だってしたい。となると、やっぱり自給自足は非現実的なのだろうか。その結論を出すのは、ひとまず目の前に山積している仕事を片付けてからにするとしよう。
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水路のマイクロプラスチックを掃除する3Dプリント魚型ロボット「ギルバート」|データは無料でダウンロード可能
世界を救うための最もかわいい方法 これまでも本ブログ欄で取り上げてきたように、プラスチックによる環境汚染が叫ばれる昨今、合成樹脂を素材とする3Dプリンターにもなんらかの対応が求められている。 廃棄ペットボトルをPETフィラメントに変換するPetalotプロジェクトとは?|今以上に3Dプリンターを気持ちよく使うために https://skhonpo.com/blogs/blog/3dpetalot?_pos=3&_sid=fbddee0ef&_ss=r もちろん、プラスチックという素材そのものが問題なのではない。問題なのはその過剰な消費、そして廃棄されたプラスチックの行方だ。特にいま問題とされているのはマイクロプラスチックだろう。現状でマイクロプラスチックが環境や生態系にどの程度作用するのかはまだ未知数の部分も多いが、少なからず環境に否定的な影響を及ぼしていることはすでに確認されている。そんな中、3Dプリンターで作られたあるユニークなロボットが話題を呼んでいる。そのロボットの名前は「ギルバート」。これは2022年のナチュラルロボティクスコンテストの優勝作品で、設計したのは米国サリー大学の学生エレノア・マッキントッシュ。「世界を救うための最もかわいい方法だ」と絶賛されている。果たして、そのロボットとはどんなロボットだろうか。 プラスチックを吸引する魚型ロボット「ギルバート」 さて、ご覧の通り、ギルバートは魚型のロボットだ。確かに一見したところ、なんともチャーミングである。ただ、このチャーミングな造形だけを理由に優勝を獲得したわけではもちろんない。というのも、今回ギルバートが出品されたコンテスト「ナチュラルロボティクスコンテスト」のテーマが生体模倣ロボットのコンペティションなのだ。実際、コンテストにはカニ型のロボットやクマ型のロボットなど様々な生体模倣ロボットが出品されたという。そんな中、このギルバートが優勝した理由は、その機能性にある。エレノアがギルバートに与えた機能、それは水路に投棄された膨大な量のプラスチックの掃除だ。ギルバートに付属する細かいメッシュが施されたエラは水の濾過のための装置。水路に放たれたギルバードは遊泳しながらエラから廃棄プラスチックを吸引し、それらをお腹の中にためこんでいく。さらに如才がないことに、これらギルバートが水路から抽出したマイクロプラスチックは、その後、リサイクルやサンプリングにも使用できるという。 ギルバートの3Dプリントデータが無料公開 ところで、コンテスト自体は実物ではなくデータによって行われた。つまり、これはアイディアによって審査されるコンテストなのだ。しかし、今回は優勝作品であるギルバートのみ、コンテストを主催している科学者チームによって3Dプリンターによって具現化されることになった。完成されたギルバートは暗闇でも光る仕様になっており、すでに遊泳実験も行われている。これまでも魚型のロボットは海洋生物の研究に使われてきたが、マイクロプラスチックを吸引する魚型ロボットはギルバートが最初だ。 ただ、研究チームによれば、今回3Dプリントされたギルバートはあくまでもプロトタイプとのこと。現在、ヒレの最適化や尾による動力供給システムを開発することでよりギルバードの性能アップを試みているそうだ。ちなみに、このギルバートはオープンソースになっており、GrabCADというサイトより無料でデータをダウンロードすることができる。つまり、3Dプリンターといくつかのガジェットを用意すれば、あなたの家の近くの水路においてもギルバートを使ったマイクロプラスチック掃除ができるということだ(もちろん、それぞれの地区の条例などが許す限りにおいて)。 これは3Dプリンターを使った市民レベルにおける環境問題への取り組みを促すことにもなるだろう。今後プラスチック問題において3Dプリンターが「悪者」扱いされないためには、こうしたユーザーたちの工夫とセンスが欠かせないのかもしれない。
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金属3Dプリンターの民主化に向けて|Meltioの取り組み
いまだ一般人には手が届かない金属3Dプリンター 金属3Dプリンターは一般に工業用3Dプリンターとして認識されている。金属という重厚な素材を扱う3Dプリンターであるから、ということも一つの理由だが、それ以上に金属3Dプリンター本体、及び関連ソフトウェアの高価さが、一般ユーザーを遠ざけている。出力方式によっても違いはあるが、おおまかな価格帯としては依然として数千万円以上。FDM方式の金属3Dプリンターであれば比較的安価ではあるものの、バインダー除去や焼結を行う費用を考えれば、やはり一般ユーザーには簡単に手が出せるものではない。 知られざる金属3Dプリンターの世界~現状と基礎知識~ https://skhonpo.com/blogs/blog/metal?_pos=1&_sid=0df96b506&_ss=r 実際、3Dプリンターの通販事業を行なっている弊社においても、現状で金属3Dプリンターは取り扱っていない。本来なら様々な素材を用いた3Dプリントの機会がより広い層に提供されるべきではある。しかし、価格帯を考えると難しいのだ。また、高価であるだけでなく、金属3Dプリンターはオペレーションも非常に難しいと言われている。そのため、一般ユーザーどころか中小企業にとっても、その導入は簡単なことではない。専門のオペレーターも一緒に雇用しなければならないとなれば、二の足を踏むのも無理はないだろう。せっかく素晴らしい技術があるのに、そのポテンシャルが発揮されうる場が、ある一部に限られてしまっているというのは、端的にもったいない。果たして、金属3Dプリンターは今後も手の届かない高嶺の花であり続けるしかないのだろうか。 金属3Dプリンターを民主化するために こうした状況を打破し、金属3Dプリンターを民主化したい、つまりより広いユーザーへと開放したい。そうした目標を掲げて研究開発を進めている企業も存在する。たとえば、2019年に設立されたスペインの多国籍レーザー金属堆積メーカーMeltioだ。これまで同社は、安全で信頼性の高い、手頃な価格の金属3Dプリンターの開発に熱心に取り組んできた。とりわけ、同社が目下注力しているのは、高価で操作が難しい金属3Dプリンター用ソフトウェアの改革だ。「金属付加製造は、歴史的に複雑で高価なソフトウェアと関連付けられており、非常に専門的であるため、ごく少数の人々の使用に限定されていたことに注意する必要があります。Meltioでは、新しいソフトウェアの発売により、金属3D印刷を民主化するための学習時間を促進および短縮し、企業内のさまざまなプロファイルでソフトウェアにアクセスして簡単に使用できるようにします」そう語るのはMeltioのCEOであるÁngel Llavero氏だ。 画像:Meltio これまで同社の金属3DプリンターであるMeltio M450のユーザーは、ツールパスを作成するためにサードパーティのFFFスライサーを使用しなければならなかった。これは操作が非常に専門的で、習得するためには非常に時間がかかる。その障壁を突破しようと、同社が行なったのは独自のソフトウェアMeltio Horizonの開発だ。これによって同社は、ユーザーにとってより簡単に、カスタムプリントおよび材料プロファイルと独自の機能を提供することを試みている。この新しいソフトウェアソリューションでは、印刷速度、サポート材料、線幅、層の高さなど、他のFFFソフトウェアで使用される従来のスライスパラメータに加えて、レーザー出力やホットおよびデュアルワイヤ設定などの材料固有のパラメータを提供しているそうだ。操作の説明も充実した形で提供されるため、特別な学習を経ることなく簡単に使用を開始できる形になっているらしい。おそらくは、このソフトウェアの登場によって、導入、運用にかかるオペレーションコストは大幅に下がる。本体の価格革命には至っていないものの、金属3Dプリンターの民主化に向けて一歩前進であることは間違いない。果たして、金属3Dプリンターを一般向けユーザーが気軽に使える日が訪れるのは、まだしばし先のようだ。ただ少しずつ着実に、金属3Dプリンターは私たちの元へと降りてきている。
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従来型と比較して速度は100倍以上、ボリュメトリクス3Dプリント技術「VAM」の現状と今後
原料液の中に突如としてオブジェクトが!未来の3Dプリント技術「VAM」とは? 以前も本ブログ欄で紹介した「ボリュメトリクス3Dプリント」という言葉をご記憶だろうか。 出力速度は従来型の数百倍!? 世界初のボリュメトリクス3Dプリンター「Xube」https://skhonpo.com/blogs/blog/xube?_pos=1&_sid=a3822bb0c&_ss=r あらためて解説すると、ボリュメトリクス3Dプリントとは、これまでの光造形(SLA)や熱溶解積層(FDM)といった方式とは異なるボリュメトリック積層造形(通称VAM)と呼ばれる方式を採用した3Dプリント技術のことだ。このVAMとは、容器に入った液体前駆体の中で、光を用いて物体を素早く固化させる方法のこと。異なる波長の2本の光ビームを交差させて物体全体を固化させることで、オブジェクトを一気に造形する。その技術の何が凄いかといえば、まずその造形速度だろう。少なく見積もって従来の数倍。たとえば、ドイツのベルリンを拠点とするxolo社が昨年発表した世界初となる市販型のボリュメトリクス3Dプリンター「The xube」では従来の3Dプリンターであれば約90分ほどかかる90mmのオブジェクトを、数秒から長くても5分で出力可能だと言われた。同時にこれまで速度とトレードオフにあると考えられてきた精度においても、従来の方式を大幅に上回ると言われている。さらに注目されたのがVAMにおいてはサポート材もビルドプレートも必要としないという点だ。イメージとしては原料液の中に突如としてオブジェクトが現れ、浮き上がってくるような形になる。VAMはしばしば人気SF映画『スター・トレック』に登場するレプリケーターというマシンに喩えられているのだが、まさに近未来の最先端3Dプリント技術なのだ。 Vitro3Dがシード資金調達ラウンドで新たに130 万ドルを調達 そんなVAMではあるが、現状ではまだまだ発達途上。広く一般に普及するところまでには至っていない。そんな中、先日、ボリュメトリクス3Dプリント技術の開発研究を行う米国のVitro3Dが、シード資金調達ラウンドで新たに130 万ドルを調達したというニュースが流れた。これは現在急成長中のボリュメトリック3Dプリンティングの世界において、かなりホットなトピックだ。Vitro3Dは、ボリュメトリクス3Dプリント技術は既存の3Dプリント技術よりも 100 倍高速であると主張している。現在、同社はレジンカートリッジを使用してより大きく、また高解像度で複雑なコンポーネントをプリントすることを目指している。これによりレジンの取り扱いが不要になるとのこと。今後は、利用可能な幅広い材料特性の開発と、最小限の後処理を必要とする部品の製造も同時に行っていくそうだ。同社がまず注力しているのは、一般家庭向けの汎用3Dプリンターではなく、歯科用アライナー(マウスピース)の3Dプリントと、組織工学用の足場の3Dプリントだ。もちろん、これは入り口である。技術の発展とともにその用途は大幅に拡大していくはずだ。 歯科市場向けの部品を3D プリントするために使用される Vitro3Dのプロセスのレンダリング。画像:Vitro3D. ボリュメトリクス3Dプリント技術は多くの可能性を秘めた急成長中の分野であり、ほとんどの場合はまだ研究段階にある。部品全体を一度に3Dプリントすることは極めて論理的だが、果たして現実世界でどのように機能していくかはまだ未知数の部分が多いのだ。しかし専門家たちは、これがSLAなどの既存の技術をやがて追い越していく可能性が非常に高いと考えている。以前、本ブログ欄でも取材させて頂いたボリュメトリクス3Dプリンターを扱うxolo社のCEOであるDirk Radzinski氏によれば、市場開拓はステップバイステップで進んでいくだろうとのことだった。同社はxubeをはじめとするVAM3Dプリンターをすでに開発済みだが、それらは現状で研究目的以外には販売されていない。 「ボリュメトリクス3Dプリントは今後いくつかの市場を制覇するだろう」——世界を変える技術を開発する「xolo」のCEO・Dirk Radzinskiが語るhttps://skhonpo.com/blogs/blog/volumedirk?_pos=2&_sid=a3822bb0c&_ss=r とはいえ、にわかに役者は揃いつつある。おそらく数年内にまた大幅な進展があるだろうことは間違いない。果たして私たちが日常的にVAMでものつくりを行う日は訪れるのだろうか。今後の展開にますます期待したい。
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ハーバード大学が開発した水面張力を用いたナノ3Dプリンター|驚くべきイノベーションだと話題に
水面張力を利用してナノ構造を3Dプリント ハーバード大学のエンジニアと研究チームが開発したあるマシンが話題になっている。そのマシンは水の表面張力を利用して微細な物体をつかんで操作するマシンとのことで、ナノスケールの構造物を製造する上で今後、極めて強力なツールになっていくだろうと目されている。「私たちの研究は、微細構造およびナノ構造の材料を製造するための潜在的に安価な方法を提供します」そう語るのは研究チームの教授であるVinothan Manoharan。「レーザーピンセットのような他のマイクロマニピュレーション方法とは異なり、私たちの機械は簡単に作ることができます。多くの公共図書館で見られるような、水タンクと3D プリンターを使用しています」このマシンは、3Dプリントされたプラスチック製の長方形からなり、昔のスーパーファミコンのカートリッジとほぼ同じ大きさとなっている。デバイスの内部には交差するチャネルが刻まれていて、各水路に広い部分と狭い部分が設けられている。水路の壁は親水性で、水を引き付けるようになっている。 果たして、なぜこのデバイスがナノ構造を3Dプリントするのに役立つのだろうか。その鍵となるのが「水面張力」なのだ。 水流とフロートの運動を使って繊維を編む 研究チームは一連のシミュレーションと実験を通じて、このデバイスを水中に沈め、ミリサイズのプラスチックフロート(浮き具)をチャネルに配置することで、水の表面張力によって壁がフロートを反発することを発見した。フロートが水路の狭い部分にあった場合は、フロートは壁からできるだけ離れて浮くことができる広い部分に移動していく。水路の広い部分に入ると、フロートは中央に閉じ込められ、壁とフロートの間の反発力によって所定の位置に保持される。デバイスが水から持ち上げられると、チャネルの形状が変化するにつれて反発力が変化する。フロートが最初に広い水路にあった場合、水位が下がると狭い水路にいることに気づき、より広い場所を見つけるために左または右に移動する必要がある。 今回、利用したのは、この水流とフロートの運動だ。研究チームはフロートに微細な繊維を取り付けた。そうすることで、水位が変化し、フロートが水路内で左右に移動すると、繊維が互いに絡み合うことになる。かくして、研究チームは一連のチャネルを設計してフロートを編組パターンで動かすことによって、合成素材ケブラーのマイクロメートルスケールの繊維を編むことに成功した。さらに研究チームはこれをナノレベルで行うための機械を構築した。つまり、サイズが10マイクロメートルのコロイド粒子を捕捉して移動できる機械だ。「それで試してみたところ、うまくいきました。表面張力の驚くべき点は、手に収まるほど大きな機械でも、小さな物体をつかむのに十分なほど穏やかな力を生み出すことです」 これらの研究は「毛細管力を使用して微細な物体を操作する3Dプリントマシン」として論文化され、科学雑誌『Nature』に掲載、現在大きな反響を呼んでいる。もちろん、まだ研究途上だ。目下、研究チームは、高周波導体を作ることを目標に、多くのファイバーを同時に操作できるデバイスを設計することを目指している。 水の表面張力が切り開いたナノ3Dプリント技術の新しい可能性。今後の展開に期待だ。
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造形速度は従来の10倍以上!? マルチレジン3Dプリント技術「iCLIP」が登場
現在実用化されている最速の3Dプリンターよりも5〜10倍の造形速度 スタンフォード大学が開発した最新の3Dプリント技術が注目を集めている。その名は「iCLIP」。なんでもこの技術、現在実用化されている最速かつ最高精度の3Dプリンターよりも5~10倍の造形速度をもち、かつ一つの造形物に対して複数種類のレジンを用いることができるというものらしい。たとえば、この記事のトップ写真。これはiCLIPメソッドを使用して作成されたオブジェクトであり、キエフの聖ソフィア大聖堂をモデルにしているのだが、ご覧のようにウクライナの国旗カラーである青と黄色の2色が用いられている。「この新しい技術は、デジタルマニュファクチャリングの新時代の到来を告げる。これまでよりはるかに高速に印刷できるようになるだけではなく、複雑なマルチマテリアルオブジェクトを1つのステップで製造できるようになる」そう語るのはスタンフォード大学のジョセフ・デシモーネ教授だ。5〜10倍の速度というだけでも十分な革新だが、なおかつマルチカラーに対応しているというのだから、これはたしかに夢が膨らむ話である。この「iCLIP」は2015年に同チームが開発した連続液体界面製造法「CLIP」に端を発し、この「CLIP」を大幅に改良したものが今回の「iCLIP」だそうだ。では、「iCLIP」の何が特別なのだろうか。従来の光造形3Dプリンターの場合、マシン下部のレジンプールから造形に必要なレジンを吸引して造形を行うのが一般的である。しかし、この「iCLIP」においてはオブジェクトを上昇させるプラットフォームに設置されたシリンジからも加圧したレジンを同時に供給しているのだ。それによって、造形速度を大幅に速めることに成功し、かつ複数のシリンジを用意することで、1度の造形において複数のレジンを使用することも可能になった。 なんでもジョセフ・デシモーネ教授にヒントを与えたのは、あの名作映画「ターミネーター2」の1シーンだったという。革新のヒントは思わぬところに潜んでいるものだ。現在、チームは「iCLIP」を最適に駆動するためのソフトウェアの構築を検討しているとのこと。それによって複数のレジンの境界を制御し、さらなる高速プリントを実現することが目指されている。果たして、「iCLIP」式の3Dプリンターが市場に登場するのはいつ頃になるのだろうか。
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Cloud Factoryが展開する海外セレブ向けの3Dプリントジュエリー
3Dプリントジュエリーの発展には「エシカル」だけでは足りない? 先日、エストニアを拠点にオンデマンドのジュエリー3Dプリントビジネスを展開するCloud Factoryが新たな事業拡大のおための資金200万ドルを調達したというニュースが発表された。同社はブランドやインフルエンサーと協力としてジュエリーコレクションをデザイン、かつそれをオンデマンドで3Dプリントするスタートアップとして知られている。また同社は同時にNFT事業にも参入しており、メタバースを視野に入れた全く新しい事業展開を考えている。「私たちはメタバースの時代に生きることに本当に興奮している。有力なブランドや有名人のために、フィジカルな製品と絶妙なジュエリーのNFTの両方を生産することで、古い伝統のある産業をこのゲームに持ち込むことができる」そう語るのは同社CEOのタヴィ・キカスだ。とにかく話題には事欠かない。同社はまた「世界初の廃棄物ゼロのジュエリー工場を設立する」など、多くの興味深い主張を同時に行なっており、実際、彼らが3Dメタルプリントに用いるのはリサイクルされた持続可能な貴金属のみであるらしい。さらにオンデマンド生産により無駄な製造を控えることで環境問題にも取り組んでいきたいとしている。 ジュエリーを製造する以上、エシカルであるだけではダメだ。そこには華やかさと洗練が欠かせない。そのためにも同社は世界中のブランドやセレブ達の支援を獲得している。宣伝においてはSNSを上手に利用し、また3Dプリンティングならではのスピード感によって、アパレル業界の基本であるSSとAWの2シーズンにとらわれることなく、コレクションも素早く変更されていく予定だ。 同社の目標は、「ダイレクトメタル3Dプリントを使用して、費用対効果が高く、かつ持続可能な方法で、ファインジュエリーをスケーラブルに製造する世界初の企業」になること。果たして、Cloud Factoryはジュエリー業界にどんな旋風を巻き起こすことになるのだろうか。 Cloud Factoory https://www.cloudfactory.jewelry/
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