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3Dプリンティングジュエリー業界の市場規模が1500億円規模に|3DSystemsの最新機種が市場成長を加速する
3Dプリンティング・ジュエリー市場調査の2023年版 ここ10数年、3Dプリント技術がジュエリー業界に与えてきた影響は大きい。SmarTech Analysisの最新のレポート「3Dプリンティング・ジュエリー市場2023:市場調査と予測」によれば、3Dプリンティング・ジュエリーの市場規模は2031年までにおよそ9億8,900万ドルに達すると予想されている。市場規模の拡大の推進力として見込まれいるのは、金属とポリマーの両方を使用して金型とパターンを共に3Dプリントする最新のソリューションだ。これはロストワックス・キャスティング用の高品質で複雑、かつ正確なワックスジュエリーパターンを製造するために用いられ、特にジュエリー業界の要件を満たすように設計されている。中でも注目すべき最新の3Dプリンターに3DSystems「ProJet MJP 2500W Plus」がある。本機は、高解像度かつ滑らかで繊細なワックス・キャスティングパターンを数時間というこれまでにない速度で印刷することができる。そのため、ジュエリー製造の生産性を大幅に向上させることが期待されている。さらに、貴金属廃棄物の量を減らすためにパターンの仕上げにかかる工程は最小限に抑えられており、複雑な形状でも迅速かつ費用対効果の高いジュエリー生産を実現するのに役立つと言われている。 ジュエリー業界の環境課題 そもそもジュエリーは贅沢品であり、環境改善が叫ばれる昨今においては、どうしてもその風当たりは強い。ただ、人はパンのみで生きるにあらず。生活をバラで飾りたいと思ってしまうことそれ自体は誰にも責めることはできない。ただ、その際に発生する無駄はできるだけ減らしたい。その上で3Dプリント技術が大いに役立つというわけだ。実際、すでに3DプリントジュエリーとしてはJenny WuやGanit Goldsteinなどをはじめとするデザイナーたちによって多くデザインされてきている。あるいは、3DSystems、HP、B9Creations、Formlabsなど、多くのAM(アディティブマニュファクチャリング)関連企業もこの分野に参入している。 Jenny Wuの作品 Ganit Goldsteinの作品 ただ、これまではジュエリーを手作業で研磨する必要があったためにリソースに大きな負荷がかかり、収益性という観点で問題を抱えていた。そこに登場したのがProJet MJP 2500W Plusなのだ。同機はワックス材料の消費を増やすことなく、3Dプリントされた鋳造パターンの垂直解像度を最大で2倍改善すると言われるZHDプリントモードを備えている。このモードでは、高品質の表面仕上げが施された状態で作品が出力される。つまり、素材の損失が少なくなり、かつ最終的なオブジェクトを研磨する必要が少なくなる。さらに、本機は100%VisiJetワックス材料でプリントされ、シャープなディテールとエッジを備えたCADデータに忠実な形状でジュエリーを印刷できる。つまり、より複雑なデザインの出力にも対応しているというのだから、これは革新的だ。おそらく、ジュエリー業界は今後、3Dプリント技術の導入をこれ以上に求められることになる。そして、それはジュエリーそのものを大きくアップデートする効果を生み出していくはずだ。
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FDM3Dプリンターをレジン出力用に改造するという奇想天外すぎる実験
人類の進歩は果敢な挑戦によってこそもたらされる 世の中には「なぜそんなことをするんだ」と思うようなことに挑戦する人たちがいる。一般的にそうした人たちは社会から笑い者にされたり除け者にされたりすることが多い。実際、彼らの挑戦は多く失敗に終わるし、成功したところでそれが何の役に立つのか分からなかったりする。ただ、人類の進歩はそうした果敢な挑戦者たちのトライ&エラーなしには果たせなかった。それこそ今それが何の役に立つか分からないような挑戦だとしても、そのプロセスにおいて生じた発見が、あるいは大きなイノベーションをもたらすことだってあるかもしれないのだ(もちろんないかもしれない)。今回は3Dプリンター界におけるそうした挑戦者を紹介したい。YouTubeチャンネル〈Proper Printing〉の主催者が現在挑戦しているのは、FDM3Dプリンターを使ってレジンを素材に3Dプリンティングを行うという、正直言うとなんでそんなことをわざわざするのか分からない、改造実験だ。 以下では彼の果敢な挑戦を駆け足で追ってみたい。 レジンをペースト化してノズルにレーザーを搭載 まず、この実験を行う上で最初に必要なこと。それはFDM3Dプリンターでレジンを使用するために粘性液体であるレジンを素早くUV硬化することだった。そのために彼が行ったのは、いくつかの化学物質とフィラーを使用してペースト状のレジンを作り上げること、そして、プリンターの印刷領域に焦点を合わせた2つのレーザーヘッドを搭載することだ。 何度かの失敗を経て、ようやく上記のセットアップが完了。作動させてみると、おお、きちんと造形を開始したではないか。 ぺーストの配合を調整しながら試行錯誤した結果、プリントされたのがこちらだ。 微妙ではある、が、ひとまずはモデルが出力されている。一応は成功と言っていいんではないだろうか。ただ、問題もあった。レーザーがノズル内の材料を硬化せずひどい目詰まりを起こしたのだ。ただ、いずれにせよ、これをあえて行うことによる積極的な意味は見当たらない。しかし、きっと彼にはそれを行うことが必要だったのだ。そして、やりきった。まずはそのトライを賞賛したい。 ノズル、光源、レジンを大幅に改良してみるも… 実を言うと、この実験には続編がある。彼は前回の実験結果を踏まえて、このFDMレジン3Dプリンターを大きく改良することにしたのだ。今回アップデートしたのは、ノズルと光源、そしてレジンペーストの配合だ。ノズルと光源に関してはレーザービームをスポットからリングに変換する円錐レンズが要となるが、前回は不安定だったノズルが今回の追加カスタムによって大幅に改良されていた。 ...
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3Dプリント技術を用いた様々な犯罪事例|先端技術を“正しく”使うために
あの「犯罪行為」に3Dプリント技術が用いられている いまや3Dプリント技術は様々な業界においてなくてはならない技術となっている。製造業は言わずもがな、食品、医療、衣服、ホビー、果ては宇宙工学に至るまで、3Dプリント技術の活躍の範囲は果てしなく広い。ただ、一方で汎用性の高い役立つ技術というものは必ずしも「良い目的」のためばかりに用いられるわけではない。実際、「犯罪行為」のために3Dプリント技術を用いる人たちもいる。もちろん、そうした行為は許されるべきではない。技術の悪用については正しく取り締まられていく必要がある。その上でも、現在、3Dプリント技術が一体どのような形で悪用されているのかを知っておくことは重要なことだろう。そこで今回は世界で現在問題となっている、また今後問題になっていくかもしれない3Dプリント技術の違法な使用例についてを紹介したい。 違法薬物を隠すための容器を3Dプリントで製造 まず一つ目は違法薬物の輸送だ。製造された違法薬物は、その後、様々な場所へと輸送されていく。当局による厳しい取り締まりの目をかい潜るために、犯罪組織はこれまでも様々な技術を用いてきた。3Dプリント技術もまた、違法薬物を隠すために幾度も使用されてきている。たとえばある例においては、薬物輸送者は任天堂のカートリッジに偽装したオブジェクトを3Dプリントし、その内部に違法薬物を隠していた。また、現在、違法薬物取引の主要な舞台の一つとなっているダークウェブのサプライヤーたちも、様々な容器を3Dプリントして、その内部に違法薬物を隠し、郵便などで購入者の元に配送していると言われている。3Dプリンターはどのような形状のオブジェクトでも迅速に製造できる。それゆえ視覚的検査などを通過しやすい容器の製造に利用されてしまっているというわけだ。あるいは、ドローンや半潜水艇などが違法薬物の運搬に使用されるケースもあるが、それらの移動機の改造や製造においても3Dプリンターが用いられている場合もある。さらに違法薬物を製造するためのツール製造に3Dプリンターが用いられていたという事例もある。 カードスキミング詐欺にも3Dプリンターが 3Dプリント技術が詐欺行為に用いられるケースもある。特に問題となっているのはカードスキミングだ。カードスキミングとは、キャッシュカードなどの情報を不正に抜き取る行為であり、それによって他人の銀行口座から金銭を略奪することをいう。このスキミングに使用されるのがスキマーと呼ばれるデバイスであり、過去10年以上にわたり、詐欺師たちは3Dプリンターをスキマーの製造に用いてきたと言われている。海外ではATMキャッシュマシンのカードリーダー部分にスキマーが設置されていたという事例も多い。スキマーを隠すために詐欺師たちは3Dプリントされた部品がカードリーダーに取り付けられている場合もあるという。海外旅行に行かれる際はくれぐれも気をつけていただきたい。また鍵の複製に3Dプリンターが用いられるケースも相次いでいる。3Dプリンターのユーザーならば分かるように、現在の技術においては鍵の写真さえあればそのCADデータを製造することができてしまうのだ。 今後こんなことに悪用される可能性がある 現時点ではまだ問題にはなっていないが、今後そうした悪用がされかねないケースも見ていこう。一つは指紋のコピーだ。現在の技術であれば他人の指紋の入ったプラスチック板を3Dプリントすることも可能である。つまり、セキュリティが指紋認証だからと言って安心することはできない。指紋は様々なところに付着しており、それらを採取することも難しくはない。防犯を考えると、セキュリティは二重三重にかけておく必要がありそうだ。また、これは以前にも紹介したが、すでに3Dプリントで出力した他人の顔貌を模したマスクを使ってAIの顔面認証を騙せることが判明している。こうした技術は他人のスマートフォンやPCなどのロックを解除する際に用いられる危険がある。あるいは他人になりすまして、目撃情報などを操作するというような目的に3Dプリントマスクが使われるケースも考えられる。なお、現在の技術であれば、瞳の虹彩もコピーすることが可能らしい。そうなってくるとフィジカルな認証システムはほぼ突破可能ということになる。結局、一周回って自分の脳内にだけ保存されているパスワードや合言葉などによる認証の方が安全性が高いということだろうか。ただ、こちらに関しては自分自身も忘れてしまうというリスクが常についてまわる。難しいところだ。 悪用の事例を知識として持っておくこと いかがだっただろうか。もちろん、ここで紹介したような3Dプリント技術の悪用は許されるものではない。だが今後、3Dプリントの犯罪的使用が拡大していくことはおそらく間違いない。技術が普及するというのはそういうことだ。そうした状況に対してあらかじめできることとしては、まず技術の倫理的使用をしつこく啓蒙していくこと、そして悪用事例を知識として持っておくことで被害者となることを回避することだろう。いかなる技術にもそれ自体に善悪はない。いずれも使う人、使われる目的次第で、その価値は反転する。是非とも皆さんには3Dプリント技術を正しく、そして楽しく、用いてもらいたい。
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CrealityのCRシリーズから大型3Dプリンターが登場|期待の新作CR-M4の真価はいかに?
Crealityから待望の大型ハイスペック3Dプリンターが登場 FDM方式やFFF方式の3Dプリンターメーカーとして知られるCrealityのCRシリーズから新作3DプリンターCR-M4が登場した。 今回の目玉は何と言っても450x450x470mmという巨大なビルドボリュームだろう。一回の出力でビッグサイズのモデルを高精度で作成したいという方にとっては、今回のCR-M4がその期待に応えてくれるかもしれない。実際、前評価は非常に高い。「後処理をほとんど行わずに大きなモデルを作成するための真の主力製品」といった声もあり、使い勝手の良さについても評判は極めて上々だ。 おそらく多くのユーザーにとっての心配点はサイズアップしたことによりモデルの品質に劣化が生じていないか、という点だろう。一般的に大型モデルを出力する場合、小型モデルの出力と比較してガタつきによる印刷不良が発生する可能性が高い。CR-M4はこの問題をデュアルZ軸と2つのサポートロッドによる堅牢な三角形のフレーム、そしてデュアルY軸リニアレールによって解決しているという。 公式データによると、ガントリーのたるみとZウォブリングを抑制するデュアルZ軸はそれぞれ独立したモーターによって駆動させることでクリーンな動きを実現。さらに高品質の軸受鋼からCNC加工されたデュアルY軸リニアレールは、高精度であるのみならず摩耗、バックラッシュ、重い負荷への耐性を兼ね備えており、印刷品質を保証している、とのこと。発売前のCreality Labのテストによると、ステッピングモーターを720時間 (30日間) ノンストップで稼働させても安定した印刷ができることが示されたという。少なくとも品質の安定性については心配がなさそうだ。さらに今作の美点として、USBドライブ、USB-Cケーブル、RJ45 ケーブル、およびWiFi経由で印刷できるという点がある。LAN接続により、ユーザーはLAN上の任意のPCからCreality Printを介して印刷することもできる。またインターネットへのアクセスを通じて、ユーザーはCreality CloudアプリまたはWeb上 からリモートで3Dプリントの全体をモニターすることもできる。あるいは複数のCR-M4プリンターがインターネットに接続されている場合、大量生産用の3Dプリントファームを簡単に開始することも可能だという。 また、操作性もユーザーフレンドリーだと評されている。 CR-M4の4.3インチカラースクリーンは、モデルのプレビューと温度PIDチューニングをサポートする、シンプルで応答性の高いタッチコントロールを備えており、アクティビティがないと5分後にタイムアウトする仕様になっている。騒音性も低く、静音メインボードにより、CR-M4からのノイズは1メートルの距離内で50デシベルに制御されている。これは室内で話す音とほぼ同等だ。とはいえ、CR-M4は世界的にもようやく販売が開始されたところ。ここから実際に使用したユーザーたちから様々にレビューがあがってくるに違いない。取り扱いの有無を含めて、続報をお待ちいただきたい。
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次世代電池も3Dプリントの対象に|シリコンバレーの新興企業Sakuuがバッテリー生産を変革する
リチウムイオン、リチウム金属、固体電池などの次世代電池を3Dプリント 今日、電池もまた3Dプリントの対象となっている。たとえば、2022年12月にシリコンバレーの新興企業であり、次世代バッテリーの積層造形 (AM) を専門とするSakuuは、同社のKavian AMプラットフォームをバッテリー生産に使用できるようになったことを発表。同社が描いている展望は、独自のSwiftPrint技術を使用して、リチウムイオン、リチウム金属、固体電池などの次世代電池をEV市場やその他のさまざまな産業向けに3Dプリントすることだ。 この展望が可能にすることは、リチウムイオン電池材料のリサイクルの合理化である。またバッテリーの形状のカスタマイズも従来より容易になるだろう。Sakuuは、その「乾式」の性質がSwiftPrintプロセスの重要なセールスポイントの1つであると考えている。この機能により、バッテリー製造方法の信頼性、費用対効果が向上し、「湿式」のAM電池出力よりも高速になる。プレスリリースによれば、SakuuはまたSwiftPrint技術を他のメーカーにもライセンス供与する計画があるようだ。これは、バッテリーIPのライセンサーとライセンシー自身だけでなく、バッテリーサプライチェーンのあらゆるメーカーにとっても有利に働く。やがては、世界経済全体での次世代バッテリー生産の加速につながっていく可能性が高い。さらにバッテリー製造を自社工場で行うことが可能になれば不要な輸送機会も削減される。これはサプライチェーンによる環境負荷の見直しにもなる。電池はあらゆる機械製品に欠かせない動力源。3Dプリント技術が時代に及ぼす影響はとどまることを知らない。
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ケニアで1週間に1軒のペースで3Dプリント住宅を建設中|加熱する技術競争とその展望
アフリカで深刻化する住宅不足 兼ねてより叫ばれてきたアフリカにおける住宅不足。一方でアフリカではいまだ人口が増加傾向にあり、ある推定ではいずれ30億人分の住宅が不足することになるとも言われている。そうした状況を改善するための様々な対策の一つに、スイスのセメント会社のホルシムによる3Dプリント集合住宅の建設予定があった。これは以前に本欄でも取り上げている。2021年末の段階で、ホルシムはケニアにおいておよそ52棟からなる集合住宅の建設計画を立てていた。 2021年にホルシムがケニアに建設した3Dプリント住宅 実は、昨年末よりこの計画は実行に移されている。3Dプリントを手がけたのはホルシムのジョイントベンチャーである14Trees。使用しているのはデンマークの建設企業COBODの建設用3Dプリンターだ。14TreesとCOBODは以前にもマラウイにおいて世界初のコンクリート3Dプリント学校を建設している。また、世界最大の3Dプリント住宅コミュニティのモデルなども発表してきた。このチームが現在、1週間に1軒のペースでケニアに3Dプリント住宅を建設しているのだ。 この速度は注目に値する。実は昨年末より、アメリカはテキサス州で、これまで最大規模の3Dプリント住宅コミュニティの建設が進められてきた。手がけているのはオースティンを本拠とするICON。予定では100戸の住宅を建設する予定であり、現状3ヶ月で9戸の住宅を出力し終えているのだが、一方で14Treesは10週間で10戸を出力している。これが世界最速と言えるかどうかはまだ分からないが、いずれにせよ重要なことは、現在、3Dプリント住宅建設業界における技術競争が加熱しているということだ。この競争の加熱は、遅かれ早かれ、プリンターあたりのコストの低下につながるだろうと言われている。現状、プリント機器のコストが3Dコンクリートプリンティング市場の成長障壁になっているということを踏まえれば、このコスト低下は3Dプリント住宅のさらなる普及を後押しすることになるだろう。住宅が不足しているのはアフリカだけではない。米国でも住宅不足は深刻化している。特に問題なのは低所得者向けの住宅が足りていないということだ。3Dプリント住宅は従来建設の住宅と比較してかなり安価で提供されている。3Dプリント住宅建設の拡充は時代の急務と言って差し支えないだろう。また今後は気候変動により世界規模で災害が増加していく可能性もあり、災害対策を兼ね備えた設計も求められている。その点、日本には多災害国家として積み重ねてきた耐震設計をはじめとしたノウハウがある。是非ともそうした技術を3Dプリント建築にも落とし込み、世界をリードしていってほしいところだ。
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機械学習が3Dプリントを変える!? デザイン、設定、障害検出が完全自動化する前に
AIは3Dプリント業界には何をもたらしてくれるのだろうか AIの研究者たちが目標にしているのは「考える機械」の製造だ。機械学習は世界中のあらゆるデータを参照する。人間をはるかに圧倒する速度と能力で過去のすべてのデータを整理し、並べ替え、ふるいにかけることで、いまだ気づかれていない法則が明らかになる。さらにAIはその法則に基づいて、目的の実現のために最も合理的な方法を導き出す。AIが私たちの仕事、日常生活、経済において、とても強力なツールとなっていくことは間違いない。では、AIは3Dプリント業界には何をもたらしてくれるのだろうか。あるいは、何をもたらしてくれる可能性が高いのだろうか。以下では考えうるいくつかの可能性を提示してみたい。1.フィラメントの最適設定まず、FDM3Dプリンターに関していえば、AIによる機械学習が膨大な出力データの蓄積を元にフィラメントの最適な設定をその都度見つけ出してくれるようになる可能性がある。これは十分に実現可能だろう。必要なのは厳密なテストとデータの集積。それさえあれば、材料会社は変更した配合を入力して、多くのマシンで新しいフィラメントを最適に設定するためのアイデアを得ることができる。3Dプリントにおけるトライ&エラーは、確かに3Dプリントの醍醐味の一つかもしれない。しかし、材料費だって決して安くはないし、一回の出力にも時間がかかる。出力失敗を可能な限り回避するということは誰しもにとって重要なテーマだろう。機械学習とAIはこうした失敗リスクの逓減に役立つはずだ。 2.スライサーソフトの最適設定また、スライサーソフトにおける充填率の決定にも、機械学習は大いに役立つ可能性がある。様々な充填率とパターンの強度テストによって、様々な部品に最適な設定を提供してくれるはずだ。あるいは、レイヤーの接着設定、トラックの厚さ、レイヤーの高さなどについても同様の働きを期待できる。3.障害検出と障害回避さらに、AIと機械学習は障害検出にも役立つ可能性がある。これまでに失敗した3Dプリントのデータベースを元に、エラーの原因となる特定の高さ、形状、動き、モデルなどの障害の発生源をAIが発見してくれるのだ。原因が分からないまま出力失敗を何度も繰り返すストレスを思うと、これは非常に嬉しい。プロセスモニタリングを導入すれば、エラー、ミスプリント、およびその他のエラーを可能な限り早期に検出することも可能になるだろう。4.デザインやモデリングの最適化もう一つ、デザインやモデリング自体も最適化されていく可能性もある。これはすでにジェネレーティブデザインという形で様々な場面に導入されている。ジェネレーティブデザインとは、AIを利用した設計検討プロセスのこと。デザイナーやエンジニアは、設計目標とともに機能、空間条件、材料、製造方法、コストの制約などのパラメーターをジェネレーティブデザインソフトウェアに入力することで、可能性のあるソリューションをすべて見つけ出し、設計案をすばやく生成することができる。 アルゴリズムとジェネレーティブ デザインから3Dプリント用に設計されたハイブリッド スーパーカーHV-001 AIは3Dプリントの難易度を格段に下げる さて、ここまでAIが3Dプリントにもたらしてくれる可能性があるものについて見てきたが、暫定的な結論としては、AIは3Dプリントの難易度を格段に下げてくれるだろうということが言えそうだ。材料の設定やスライサーソフトの設定、あるいは障害の発見やモデリングの試行錯誤など、現在の3Dプリントユーザーたちが頭を悩ませ、また3Dプリントの敷居を高いものにしている諸問題をAIが解決してくれるようになるかもしれない。もちろん懸念点もある。カーナビの浸透によって地図を読めない人が増えてしまったように、失敗や試行錯誤の経験の喪失は、3Dプリント技術を深く理解する機会の喪失にも繋がるからだ。ある意味では、今3Dプリンターに慣れ親しんでいる世代が、3Dプリンターとガチンコで向き合った最後の世代となる可能性もある。何かを手にすれば何かを失う。とりあえず当面は、より良き3Dプリントを求めて3Dプリンターと格闘する日々が続きそうだ。
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3Dプリントが可能にした高度な素材の新しい構造|カーボンファイバー、セラミックス、メタマテリアル
3Dプリント技術によって可能となった重要なイノベーション 3Dプリンターの登場が人類文明のステージをさらに一つ押し上げたことは間違いがない。現在、医療、建築、製造、ヘルスケア、ファッション、宇宙開発まで、暮らしや文化の様々な側面に3Dプリンターが関わっており、そして多くの場合、それは従来よりも良い方向へと進んでいる。またかつては大変高価だった3Dプリンター自体も、より手頃で利用しやすい価格帯へと変化してきており、産業のみならず趣味の分野でも欠かすことのできないテクノロジーとなりつつある。ただ、具体的に3Dプリンターは何を変えたのだろうか。大きなところではオンデマンド生産の可能性をぐっと切り開いたという点が挙げられる。その他にも、人工ミートの製造や新しい医療技術の開発、住宅建築の低コスト高速化、考古学的価値を持つ美術品の修復などなど、数え上げたら枚挙にいとまがない。そこで今回は3Dプリント技術によって可能となった、特に重要なイノベーションについてを考えてみたい。従来の方法では扱いきれなかった高度な素材を用いた新しい構造の造形についてだ。 カーボンファイバー|樹脂の23倍、アルミニウムよりも高い強度対重量比 3Dプリンターの登場によって高度な素材による新しい構造を持つ物質の造形が可能になった。3Dプリンターには様々な素材があり、一般的なところでは樹脂や金属、その他にもガラスや木材、あるいは幹細胞や食材など、素材のバリエーションは日々増していってるが、ここで注目すべきはカーボンファイバーだろう。カーボンファイバーとは炭素繊維のこと、石油やアクリル系の長繊維を炭化(黒鉛化)して作られ、耐熱性、通電性、薬品反応耐性、低熱膨張率、自己潤滑性などに優れていることを特徴とする。現在多くのメーカーがカーボンファイバーで出力できる3Dプリンターを提供している。3Dプリンターで用いるカーボンファイバー素材には大きく分けて二種類あり、一つは樹脂に炭素繊維を混ぜ込んだフィラメントだ。フィラメントは線状のものがスプールに巻かれた状態で販売されていますが、樹脂を線状にする前に、溶けた樹脂に炭素繊維を混ぜ込んでからフィラメントとして製造したものがこれに該当する。樹脂にカーボンを混ぜ込むことで、樹脂単体よりも丈夫になり、強度や耐摩耗性に富んだオブジェクトを出力することができるようになる。もう一つは、Markforged社が開発した「CFR(Continuos Fiber Reinfoeced:連続繊維強化)」技術で利用できるカーボンファイバーだ。これは3Dプリンターが物体を出力する際、必要な層と層の間に1mm以下ほどの直径の長くて連続性のある繊維を埋め込むようにして、強度を向上させるもので、現在カーボンファイバー3Dプリントといえば、主にこの素材を指しているといってもいい。 先述の通り、カーボンファイバーを素材とした3Dプリントの造形物で最も特筆すべきはその高い強度だ。実際、その強度は樹脂の23倍と言われており、アルミニウムよりも高い強度対重量比を実現している。自動車などの部品としても使用しうる強度を備え、かつ軽量でもあるカーボンファイバーは、今後の製造業を革新する鍵となることは間違いない。近年では軽量かつ頑丈なカーボンファイバーの特性を活かし、3Dプリンターで製造されるカスタマイズ自転車「Superstrata」が話題になった。シルエットも洗練されている。こちらも3Dプリント技術がなければ登場することはなかったはずだ。 https://superstrata.bike/product/superstrata-c セラミックス|ダイヤモンドに迫る強度と耐摩耗性 カーボンファイバーと並んで注目度が高い素材としてはセラミックスがある。セラミックスは樹脂や金属に対し、3Dプリント分野では随分と遅れをとってきた。しかし、セラミックスには樹脂や金属材料にはない多くの特徴がある。まず特筆すべきポイントとしては、その強度や耐摩耗性の高さだろう。その硬さは超硬金属よりも高く、ダイヤモンドに迫るとも言われている。さらに、表面を緻密に仕上げることが可能であり、芸術的な陶器作品のように、質感の高い製品を作ることもできる。これまでセラミックスは陶磁器を製作するのには使われてきたものの工業製品の材料としては使いこなすことができずにいた。それゆえ、難加工材の代表例とも考えられている。3Dプリントの素材としても部分的な使用こそされていたものの、全面的なセラミックス3Dプリントは長らく実現していなかった。しかし近年、3Dプリンティングに活用できるセラミック材料も登場してきている。たとえばAGCセラミックスが開発した3Dプリンター用セラミックス造形材「Brightorb」などだ。 Brightorb この素材は焼成後の収縮率が1%以下と極めて小さく、設計図通りに3Dプリントした焼成前の造形物の形状を焼成後もほぼそのまま維持できる点を特徴としており、かつ造形物を形成する際の層の厚さが0.1mmと薄く、積層痕が目立たない精度で造形できるという優れものだ。エンジニアリング分野だけではなく、アートデザインの世界にも素材革命を巻き起こしつつあり、3Dプリントの一大潮流になりつつある。実際、AGCセラミックスは2019年に開催されたミラノデザインウィークで、「Brightorb」を用いて3Dプリントした作品によるインスタレーションを展開している。水の波紋を緻密にシミュレーションしたセラミックス作品は、この分野が秘めている可能性をおおいに窺がわせるものだ。 画像引用/AGC https://www.agc.com/hub/pr/BRIGHTORB.html メタマテリアル|4Dプリントを可能にする形状遷移素材 もう一つ、現在注目されている素材がメタマテリアルだ。メタマテリアルとは電磁波の波長よりも細かな構造体を利用して,物質の電磁気学的な特性を人工的に操作した疑似物質のことでそれ自体が複雑な機械のように機能する、まさに近未来の素材だ。一例を挙げればローレンス リバモア国立研究所は、特定の温度範囲に対応するように調整可能な、加熱によって収縮する材料を開発している。こうした素材を用いた3Dプリントによって新たに生み出されたのが、たとえば気化冷却レンガなどだ。これは液体が蒸発する際に周囲の熱を奪っていく「気化冷却」の作用を利用したレンガで「Cool...
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ミスユニバースのシンガポール代表の3Dプリントドレスが美しすぎる|モチーフとなったのはハイブリッド蘭
ミスユニバースはただの「美女」コンテストではない 世界一の「ミス」を決める大会ミスユニバース。2023年1月、その第71回がアメリカはニューオーリンズで開催された。 各国を代表する「ミス」たちに求められるのは単なる容貌の美しさばかりではない。特に容姿で人を判断することが「ルッキズム」として批判される近年においては、容姿以外の要素、たとえば知性・感性・人間性・誠実さ・自信などの内面的な要素の重要さが審査においてますます増してきている。 とはいえ、内面を視覚的に判断することはなかなか難しい。それは審査員にとってもおそらく同様で、やはり視覚的な存在感は「ミス」選定の上で重要な基準となる。 またこれは国際的な大会でもあるため、各国の代表はそれぞれの出身国の文化も背負って競うことになり、いわゆる一般的な個人間の競争とも異なるおもむきがある。そのことが特に顕著に感じられるのが、彼女たちが纏っている衣装だ。 今回の大会でもそれぞれの代表の衣装の艶やかさには目を見張らされた。いずれも各国独自のエッセンスを保ちながらも普遍性のあるコンテンポラリーなデザインの衣装となっている。それらは彼女たち自身の表現というより、今日の国家を象徴する表現という側面が強い。 つまり、ミスユニバースとは、単なる美女コンテストなどでは決してなく、それぞれの国が自国の今日の文化や美意識を表現する、ある種の万博のようなコンテストなのだ。 シンガポールの国花を表現した3Dプリントドレス さて、そんな百花繚乱の第71回ミスユニバースでひときわ目を引いたのが、シンガポール代表であるカリッサ・ヤップさんと彼女が着用していた衣装だった。 その姿はまるで植物の妖精だ。なんでも蘭の花をイメージしたという、この繊細かつ豪奢なドレスは、3Dプリンターによって造形されたらしい。もちろんカリッサさんそのものの美しさも圧倒的なのだが、その美しさを存分に引き立てながら、アジアの富裕国シンガポールの有する先端技術と表現力をもしっかりと示した、非常に優れたデザインとなっている。 ...
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3Dプリンターを子供に持たせるのは良いこと、悪いこと? メリットとデメリットを考える
3Dプリンターに早くから慣れておくことは重要、だがしかし… 3Dプリント技術が今後の世界で今よりもっと重要なテクノロジーとなっていくだろうことは間違いない。つまり、3Dプリンターに関連する知識や技術の重要性が、これからますます増していくということだ。すると当然、子供達にも早くからそうした知識や技術の習得を学ばせた方が良いのではないかという発想に至る。本欄でも兼ねてより子供向けの3Dプリンター学習の機会をもっと増やした方がいいのではないかと提言を行ってきた。しかし、一方で3Dプリンターはそれなりに取り扱いに注意の要するマシンでもある。子供が3Dプリンターに触れることで、思わぬ事故が発生してしまう可能性もあるのだ。実際、世界的に見てもキッズ3Dプリンターの浸透はなかなか進んでおらず(商品は開発されているものの)、現状、3Dプリンター学習も基本的には中学生以上を対象としているケースがほとんどだ。 キッズ向け3Dプリンターの浸透が進まない中でToyBoxはほぼ唯一の例外かもしれない。 では、やはり小学生以下の子供たちには3Dプリンターは触れさせるべきではないのだろうか? その判断をする上で、まず考えうるメリットとデメリットを挙げて起きたい。 3Dプリンターは子供の想像力を養い、先端テックに対する感受性を高める まずはメリットから考えてみよう。小さい頃から3Dプリンターを使ったものつくりを行うことで、子供の想像力は確実に刺激されるだろう。また、いわゆる工作的なものつくりとは異なり、先端テックに対する感受性も身につけることができる。高性能マシンを扱う上で必要な忍耐力の醸成にも役立つかもしれない。3Dモデリングも学習することができれば、3D空間に対するセンスをネイティブで養うことだってできる。そうした能力を早いうちに高めておくことは、将来的に市場価値のあるスキルにつながる可能性が高い。 3Dプリンターは子供にはまだ危険? メンテナンスも大変かも 一方のデメリットも考えてみよう。やはり気になるのは安全面だ。3Dプリンターの加熱されたベッドは、子供が触れれば火傷の危険性がある。化学物質を用いる以上、扱い方を間違えれば健康を害する危険もある。またプリンターのメンテナンスも子供には大変かもしれない。適正なメンテナンスを行わないとマシンの消耗速度が高まるのはご存知の通りだろう。あるいはキッズ3Dプリンターであれば安全性はある程度担保される。しかし、キッズ3Dプリンターは簡便さと安全さを高めるために、性能を犠牲にしている。ありていに言えば、大したものは出力できないのだ。これはともすれば、3Dプリンターに対する子供の期待値を下げる結果に繋がってしまいかねない。 おすすめは子供がデザインして大人が出力する さて、メリットとデメリットを踏まえた上で最後に現状でのまとめをしてみたい。3Dプリント技術に早くから触れることは子供のクリエイティビティを向上させる上で非常に良いことだ。一方で子供が安全に扱うには3Dプリンターというマシンはややハードルが高いということもいなめない。すると、暫定的な最良の結論としては、大人向け3Dプリンターを保護者と一緒に楽しむ、というのが最適解になるかもしれない。ゼロからデザインしたものを出力するいう一連の流れの中で、まず子供たちにはデザインを担当してもらうのだ。たとえばTinkercadなどを使えば、遊び感覚でデザインする楽しさを子供たちに伝えることができる。子供たちが四苦八苦して3Dデータを作り上げたなら、そのデータを元に保護者が実際に3Dプリントして子供たちに見せてあげるのだ。もちろんプロセスも込みで。当然、うまくいく時もあればうまくいかない時もある。うまくいかなかった時はその原因を子供たちと一緒に考え、よりうまく出力するためのアイディアを模索していくのがいいだろう。こうしたものつくりのプロセスを小さな頃に経験しておくことは、きっと子供たちの将来にも役立つはずだ。というわけで、お子さんをお持ちの3Dプリンターユーザーの皆さん、是非ともお子さんと一緒に3Dプリントを楽しんでみてほしい。そしてもし面白いコラボ作品が出力できた暁には、是非とも弊社ツイッターアカウント宛に画像付きでお知らせしてほしい。
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ニコンがドイツの大手金属3Dプリンターメーカーを買収|デジタルマニュファクチャリング業界に旋風
ドイツの名門企業SLMソリューションズを日本のニコンが買収 日本のニコンが金属3Dプリントに本気となった。 実はすでに数年前より、ニコンは国産の金属3Dプリンターメーカーとして頭角を現していた。きっかけとなったのは2019年に発表された金属3Dプリンター「Lasermeister 100Aシリーズ」だろう。「CAD設計する設計者がオフィスの自席の横においても稼働」できるように製造されたというこのシリーズは、粉体を材料に扱うレーザー加工装置である金属3Dプリンターをオフィスに設置できるレベルで作りこんだという点で極めて画期的だった。 Lasermeister 100Aシリーズ そのニコンが先日、ある発表をした。1863年にドイツで創業し、現在は金属3Dプリンターメーカーとして知られる名門企業であるSLMソリューションズ社を買収したのだ。SLMソリューションズ社はこれまで金属3Dプリント業界の最先端を走ってきた。昨年には同社の金属3Dプリンター「NXG Xll 600」2台がカリフォルニアの大手ロケット会社に売却して話題となった。「NXG Xll 600」は、1kWのレーザーを12台搭載した金属3Dプリンター。レーザー1基の同社従来機の20倍の高速造形が可能であると言われ、造形スピードは1000cc/hとパウダーベッド方式の金属3Dプリンターとしては突出している能力を持つマシンだ。 NXG Xll 600 つまり、同社はこの業界のトップ企業の一つということ。そのSLMソリューションズを日本のニコンが買収したというのだ。 まだまだ続くニコンのAM業界進出 さらに、ニコンはSLMソリューションズ買収発表の2週間後、テキサスに本拠を置くHybrid Manufacturing Technologiesへの投資と、ユタ州に本社を置きアンテナやその他の無線周波数 (RF) コンポーネント用の金属AMアプリケーションを設計する企業Optisysの株式購入を発表している。いずれもニコンの「本気」を窺わせる動きだ。「グローバルな大量生産の革命につながると確信している」今回の一連の買収と投資に関して、ニコンのCEOである馬立俊和氏はそのように語っているようだ。すでに2021年にはニコンは南カリフォルニアに拠点を置くAM企業Morf3Dも買収している。つまりニコンは現在少なくともアメリカの3州とドイツにデジタルマニュファクチャリングビジネスの足場を築いたということになる。おそらく、これはニコンが描いている青写真の一部に過ぎないはずだ。今後、同社がどんな展開を見せていくのか目が離せない。 ...
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ワンコインで「うな重」が食べられる日は近い?|Umami MeatsとSteakholderが開発する3Dプリント「ウナギ」
ウナギは食いたいがお金は惜しい ウナギが好きだ。しかし、いかんせんウナギは高い。本来なら牛丼のような手軽さでうな重を頼みたいところだが、現状のウナギ価格を考えるとそうもいかない。さらにウナギの値段はその年の漁獲量にも大幅に左右される。ウナギの量も毎年減っており、いまや各国で絶滅危惧種にさえ区分されている。実際のところ日本国内でのウナギの値段は過去20年で上がり続けている。総務省の小売物価統計調査によると、うなぎ蒲焼100g(東京23区)の価格は過去20年で536円(2001年)から1200円(2021年)と倍以上になっているそうだ。とりわけ昨年は従来の2割増しの値段となっていた。ウナギ好きとしてはつらいところである。このままウナギは値上がりを続け、庶民には手が届かない高級食材としての道をひた走っていくのだろうか。実はそんな暗澹たる未来を回避するための技術が開発されている。バイオ3Dプリントウナギだ。 Umami MeatsとSteakholderがウナギのバイオ3Dプリントを実現 ウナギの身をバイオ3Dプリントする技術を開発したのは2020年に設立したシンガポールの企業Umami Meatsだ。同社の技術は、魚から細胞株を取り出し、独自に増殖させた上で筋肉や脂肪に変え、シーフードへと3Dプリント成形するというもの。とりわけ同社は日本人好みのシーフードに目を向けており、手がけているのは、ニホンウナギ、キハダマグロ、タイの3種だ。 現状ではまだそれらの3Dプリントシーフードは商品化されていない。しかし、先日、ディープテック食品会社Steakholder Foods (STKH) がシンガポール・イスラエル産業研究開発財団(SIIRD)からの100万ドルの助成金を獲得した。どうやらSTKHはUmami Meatsとの協力のもと、3Dプリントウナギの製品化を実現させる気らしいのだ。 Steakholderは、新しく開発された3Dバイオプリンティング技術とバイオインクを使用して、最近仮特許出願のために提出された調理済みの魚のフレーク状の食感を模倣することを約束している。プロジェクトの最初のプロトタイプでとなるのはハイブリッドのハタ製品。これは、2023年の第1四半期に完成する予定とのことだ。このハタのプロトタイプがうまくいけば、次に待っているのは3Dプリントウナギの製品化だろうか。果たしてあのフワフワの食感をどの程度再現することができるのか、今のところ未知数ではあるが、もし本物のウナギと遜色のないバイオウナギが市場に流通しだすとすれば、牛丼価格でうな重を食べれる日が現実にやってくるかもしれない。もちろん、それはウナギの絶滅回避にもつながることだろう。世界中のウナギ好き、そしてウナギたちのためにも、一刻も早い製品化を願うばかりだ。
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3Dプリントファッション界の鬼才アヌーク・ウィプレヒトが仕掛ける没入型ダイニング体験「Journey360」
あの「スパイダードレス」で知られるアヌークが仕掛ける未来空間 以前、本欄で紹介したアヌーク・ウィプレヒトという人物をご記憶だろうか。アヌークはオランダ出身のファッションデザイナー。その近未来的で独創性の高いデザインによって3Dプリントファッション業界のみならずファッションシーンそのもにも大きなインパクトを生み出し続けている。たとえば、彼女の代表作の一つである「メテオドレス」。 LEDライトが無数にあしらわれた、映画『フィフス・エレメント』の世界を彷彿させるようなSF的デザインに目を奪われるが、驚くべきはその発光のシステムだ。なんでも実際の流星データのサンプリングを通じ、流星が大気圏にぶつかって、地球の夜空で大気を燃やすたびに、空で観察されたものと同じ速度と明るさで光を発する仕組みになっているという。そう、これは夜空と共鳴するドレスなのだ。 隕石が落下するたびに点灯する3Dプリントドレス「メテオドレス」がすごい——オランダの新鋭デザイナーであるアヌーク・ウィプレヒトのSF世界https://skhonpo.com/blogs/blog/meteo?_pos=3&_sid=84be6c09f&_ss=r&fpc=2.1.365.596066bca8c8032d.1688992280000あるいは彼女の作品で最も有名なものとしては「スパイダードレス」が挙げられるだろう。 このドレスの特徴はドレスに取り付けられたセンサーと可動アームにある。このセンサーは着用者の呼吸リズムを感知する仕組みとなっている。着用者が恐れを感じたり不安を感じたりして呼吸リズムが変容すると可動アームに信号が送られ、それらがまるで着用者を守るように大きく広がりプライヴェートエリアの境界設定を行なってくれるのだ。男女平等の機運が高まる今日らしい、実にアクチュアルなデザインだろう。 ニューヨークを舞台とする、今までになかった「没入型ダイニング体験」プログラムが誕生 さて、そんな奇想天外で前衛的な3Dプリントファッション作品を続々と発表し続けているアヌーク・ウィプレヒトが、この度、またしても世間を驚かすような企画を始動させている。その名も「Journey360」。ニューヨークを舞台とする、今までになかった「没入型ダイニング体験」プログラムだ。 会場となるのはニューヨークのチェルシー地区に昨年末にオープンしたレストラン「friend & family」。この会場でレストラン×没入型体験×ファッション×ロボット工学×プロジェクション×アートと多ジャンルに跨がる壮大なプログラムが展開される。 Anouk Wipprecht アヌークが今回主に手がけたのは、会場でパフォーマンスを行うブロードウェーのパフォーマー達が着用する衣装制作だ。アヌークは今回の衣装をニューヨークのShapewaysと提携し、熱可塑性ポリウレタン (TPU) とポリアミド 11...
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ムレない、軽い、見た目もいい、業界を刷新するActivArmor3Dプリント防水ギブス
石膏ギブスよりも軽量で不快が少ない 医療現場における3Dプリント技術の活用が目覚ましい。これまでに幾度も取り上げてきたように3Dプリンターは様々な形で医療分野におけるイノベーションを促している。その中には治療技術そのものを刷新するような革新的なイノベーションもあり、これらは多く報道されてもいるのだが、実は患者にとってより重要なのは、3Dプリント技術によってすでにある治療技術の拡充と速度の向上を促すようなイノベーションの方かもしれない。たとえば、最近の事例だと、3Dプリント防水ギブスが挙げられる。これは2017年に米国のActivArmorが開発したギブスだ。以来、この患者それぞれにカスタマイズ可能な防水性のギブスは米国内に広がり、使用患者も増え続けている。このギブスはスマートフォンによるスキャンに基づいてFDM3Dプリンターで出力され、その後、手作業によって仕上げられる。プロセスに3Dプリンターを用いることで、従来のギブスの製造よりも速やかに患者に提供されることが可能であり、また一般的な石膏ギブスよりも軽量であることから、患者の不快も少ないという。 さらにActivArmorのギブスは石膏ギブス特有のかゆみもほぼ起こらない。取り外しも簡単であり、あるいはそれをつけたままスポーツに興じたり、入浴したりすることも可能だ。 きっかけは貧困に苦しむ子供たちとの出会い もともと、このActivArmorの3Dプリントギブスは、ActivArmorの代表であるダイアナ・ホールがコロラド州で貧困に苦しむ子供たちのための指導プログラムを開始したときに生まれたそうだ。そのプログラムにおいてホールは石膏ギプスを着用するときに個人の衛生状態を維持することがどれほど難しいかを知ったという。その後、化学エンジニアであったホールは、技術的な専門知識を活用し、より優れた選択肢としてActivArmorの3Dプリントギブスの祖型を生み出した。その3Dプリントされたプロトタイプは直ちに医療専門家に共有され、2年の臨床試験にかけられた後、市場に投入されることとなった。 ホールによれば、この3Dプリントギブスは快適さのみならず、筋肉刺激などの高度な治療技術の可能性にも開かれているという。「患者の治癒結果を迅速かつ手頃な価格で改善し、さらに人々にライフスタイルの自由を取り戻させる」 現在、米国内ではこの3Dプリントギブスが発注から2営業日内に患者の元へと届くシステムが確立されている。ただ、近い将来には当日配達に短縮したいと考えているという。
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“私のためだけ”の3Dプリント・スキンケアサプリメント「Skinstacks」が登場|ニュートロジーナが切り開く美容2.0時代
3Dプリント技術がサプリメントをパーソナライズする 健康管理のためには摂取栄養のバランスが大切だということは誰しもがすでに理解している。しかし、知っていることとその実践の可否はまた別の話だ。野菜不足と分かっていても付き合いで焼肉屋に出かける日はあるし、日々、栄養価の優れた食品を食べたいと思いつつも、そうした食材は相対的に高価だったりもする。あるいは仕事に忙殺され、外食中心の食生活になってしまっている人も少なくない。日本のファストフードは美味しいが、やはり栄養バランスを考えると物足りなさもある。ただし、そうした場合でも栄養をバランス良くとるための方法はある。サプリメントだ。すでに栄養サプリメントは一般化しており、コンビニでもスーパーでも簡単に購入することができる。ビタミン不足と思えばビタミンを、鉄分不足と思えば鉄分を、それぞれがそれぞれの状況に応じて購入、摂取できるのだ。ただ難点はある。一体、自分がどの栄養を不足しているのかを正確に知ることは難しいし、不足栄養が分かったとしてもそれが多岐にわたる場合、それらを一挙に、かつ必要に沿ったバランスで摂取することは、一般的なサプリメントではほぼ不可能だろう。しかし現在、そんなサプリメントの難点を3Dプリント技術が解決しようとしている。2023年1月5日に発表された、個人それぞれの健康状態にフィットする3Dプリント栄養サプリメント「Skinstacks」が、その嚆矢だ。 最先端の3Dプリント技術を用いたスキンケア用の7層サプリメント 3Dプリントサプリ「Skinstacks」を作成したのは、スキンケアやヘアケア商品で知られる米国の医療メーカー「ニュートロジーナ」。今回、ニュートロジーナは、英国の3Dプリントグミのパイオニアである「Nourish3D」と協力することで、90年以上にわたる皮膚の健康に関する専門知識、人工知能 (AI)、および最先端の3Dプリント技術を組み合わせ、スキンケア用の7層からなるサプリメントを開発した。「Skinstacks」の最も注目すべきポイントはやはりサプリメントが各人の肌のニーズに合わせて提供されるという点だろう。用いられるのは2018年にリリースされたiPhoneベースの肌分析ツールであるニュートロジーナのSkin360テクノロジー。これはiPhoneカメラによって肌の状態を分析し、スキンケアアドバイスを提供するアプリだ。 流れは簡単。まずはユーザーがSkin360によって顔のスキャンを行う。そして日々のスキンケアや居住地域の気候、自身の肌で懸念しているポイントなどについてアンケートに回答する。すると、スキャン結果とアンケート回答を元に、そのユーザーに最も適したSkinstacksが自動的に示されるというわけだ。Skinstacksの成分はすべて植物由来。また口当たりを考えサプリメントはスイカ、ピーチ、チェリー、リンゴ、ミックスベリーの5つの無糖フレーバーのいずれかでコーティングされているらしく、接種が苦にならないよう工夫されている。まさにスキンケアサプリメントの最終兵器といった感。ただし、現状では「Skinstacks」、完全なパーソナライゼーションではないようだ。なんでも当面はエイジレス、クリア、ハイドレイト、グロウ、レジリエントの5種類の肌目標だけを提供する予定とのことらしい。ただ、ビタミンA~D、セレン、亜鉛、リボフラビン、コエンザイムQ10など、さまざまな栄養素を変更することはできる。 しかし、いずれは3Dプリントサプリメントが完全にフルカスタマイズ化していくことは間違いない。あるいはスキャンの技術も向上すれば、より自分に適したサプリメントを入手することができるようになるだろう。3Dプリント技術が可能にした「私のためだけ」のサプリメント。今後の展開に期待大だ。
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世界初のAI生成3Dプリントウェアラブルスニーカーが登場
3Dと2DのAIアプリケーションの組み合わせを使用して作成された世界初のAI生成3Dプリントウェアラブルスニーカー 3Dプリント衣料において最も進展が目覚ましいのがシューズ業界だ。本欄でもこれまでに様々な3Dプリントシューズを紹介してきた。パーツ単位で見るならば、いまやほとんどの有名スニーカーブランドが3Dプリント技術を導入している。HERON01がスニーカーを刷新する? 最先端3Dプリンターシューズに業界が大混乱https://skhonpo.com/blogs/blog/heron3d?_pos=1&_sid=db5ff5897&_ss=rドイツが生んだUMAのような3Dプリントスニーカー|その斬新すぎるデザインが話題にhttps://skhonpo.com/blogs/blog/3duma?_pos=2&_sid=db5ff5897&_ss=r あのイッセイミヤケが3Dプリントフットウェアを発表|日本の「草履」をモチーフに伝統と革新を融合させた名作https://skhonpo.com/blogs/blog/3dissey?_pos=3&_sid=db5ff5897&_ss=rバクテリアを用いた生体素材を3Dプリントすることでファッション産業による環境汚染を防ぐhttps://skhonpo.com/blogs/blog/3dbacterium?_pos=4&_sid=2c11ce202&_ss=r一方で、それらの試みはあくまでも人間の設計したデザインをデータ化して3Dプリントするというプロセスによって作られてきた。当然だろう。3Dプリンターは出力マシンであり、デザインマシンではないのだ。しかし最近、バルセロナを拠点とするフットウェア業界のイノベーションプラットフォームであり、経験豊富なフットウェアの専門家を世界中から集めて、オンライントレーニング、メンタリング、コンサルティング、R&Dサービスを提供しているFootwearologyが発表したシューズにおいては、その大原則が覆されていた。同社が発表したのは、3Dと2DのAIアプリケーションの組み合わせを使用して作成された、世界初のAI生成3Dプリントウェアラブルスニーカーだ。 好きなキーワードを入れるだけでAIがスニーカーのデザインを生成 果たしてどのように製造されたのかというと、まず使用されたのはDalle-2と呼ばれる画像生成AIツールだった。これは、入力したフレーズから画像を生成するAIツールであり、今回実際に使用されたフレーズは、「High quality photo of a shoe composed by radolarian fossils, designed by Ernst Haeckel, 8k, digital art.(エルンスト・ヘッケルがデザインした放散虫の化石で構成された靴の高品質の写真、8k、デジタル アート)」というものだったという。ちなみに放散虫とはシリカの小さな微小骨格をもつ原生生物であり、ドイツの動物学者であるエルンスト・ヘッケルによる美しいスケッチで知られている。 Cyrtoidea(エルンスト・ヘッケル)...
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カセットテープを使った3Dプリントネックレスが流行する?
再ブーム中のカセットテープを斜めから楽しむ 数年前よりカセットテープの人気が急上昇している。音楽記録媒体としてリアルタイムでカセットテープを経験している世代はいまや30代中盤世代以上。あるいはCDやMDにさえ触れたことがないという人も、今時なら多いのではないだろうか。とはいえ、古いものには古いものの良さがある。いかにサブスクでのストリーミングが主流になった現在でも、レコードにこだわり続けているマニアはいるし、実際にレコードにしか出せない音色もある。カセットテープも同様だろう。なんといってもカセットテープの魅力はそのアナログさゆえの「がさついた」音にある。世代の人なら共感してくれると思うが、様々なアナログ媒体の中でもカセットテープはとりわけ音の経時劣化が激しい。特に安物のカセットテープの場合、よほど丁寧に保管しない限り、すぐに音質が悪くなってしまう。ただ、あの独特に間延びした音が今となってみれば妙にノスタルジーを誘うのもまた事実。そうした懐古趣味と、単純にレトロな好奇心もあって、いま、国内外を問わず、若者も巻き込む形でカセットテープに注目が集まっているというわけだ。さて、今回はそんなカセットテープを、音楽記録媒体として以外の形で楽しむある方法を紹介したい。もちろん、その際に使用するのは3Dプリンターだ。 Thingiverseに投稿されたアイディアグッズ カセットテープの再人気を駆動している大きな要素は、そのビジュアルの「可愛さ」にある。とはいえ、カセットテープは基本的に他人に見せびらかすものではなく個人的に使用するものだ。すると、せっかく「可愛さ」に惹かれてカセットテープを入手しても、ひっそり愛でるくらいしか楽しみようがないということになってしまう。そんな思いからあるガジェットを3Dプリントした人がいる。Thingiverseのアカウント名「rainbowdefault」氏だ。氏がThingiverseに投稿したデータ、それはカセットテープをネックレスのヘッドとして身につけるためのアダプターだった。 https://www.thingiverse.com/thing:5736778 カセットテープは構造上、そのリールにチェーンを通すだけでテープがあちこちに巻き出されてしまう。これではネックレスにならない。そこで氏はカセットテープの二つのリールに挿入して所定の位置に保持するプラスチック製のデバイスを作成した。そしてキャップを反対側からねじ込み、デバイスをカセットテープに固定。このデバイスにネックレスチェーンを通せば、レトロで可愛いアクセサリーが完成するというわけだ。 https://www.thingiverse.com/thing:5736778 実にシンプルだが、氏によれば重要なポイントはサイズを間違えないということ(間違えるとカセットリールが回転してしまう)。データは標準設計のカセットテープに合わせて作成されているとのことなので、かつて市販されていたほとんどのカセットで使用できるとのことだ。注意点としてプレミア価値のついてるような貴重なカセットテープでは使用しないほうがいいだろう。ネックレスとして首にかけておけば、転んだり人とぶつかったりした際に破損してしまう可能性がある。そこだけはご留意を。 https://www.thingiverse.com/thing:5736778 「聴かせたい曲があるんだ」と胸元のネックレスからテープを取り外す姿が、果たしてかっこいいものかどうかは分からないが、こうしたユーモアのある3Dプリンターの活用は実に微笑ましい。あるいはどこかのインフルエンサーが身につけたりすれば結構流行るかもしれない。もし自宅にちょうどいいカセットテープがあるぞという方、年末年始のちょっとした手遊びに試してみてはいかがだろうか?
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廃棄すれば土に還る3Dプリントサンダルが登場|素材は世界初の完全成形可能な生分解性エラストマー「BioCir」
3Dプリント技術を使用してフットウェアの最終部品の生産を自動化する フットウェア製造における3Dプリント技術の活用に関してはこれまでも幾度か取り上げてきた。この動きで注目すべき点は製造過程の合理化に限らない。たとえば、、世界的な有名メーカーや有名ブランドは、3Dプリント技術を駆使してこれまでになかったデザイン性、機能性を持つフットウェアをすでに数多く発表している。3Dプリント技術は確かに私たちの足元を変えようとしているのだ。ただし現状においては多くの場合、3Dプリント技術の使用は部分的なものにとどまっている。つまり、3Dデータを3Dプリンターに送信するだけで出力されるフットウェアというのは、まだまだ現実的ではない。しかし業界の最終的な目標としては、3Dプリント技術を使用してフットウェアの最終部品の生産を自動化することにある。その試みの一つとして、最近、材料科学会社Balenaが、100%生分解性エラストマーで作られた3Dプリント製サンダルを発表した。 初の完全成形可能な生分解性エラストマー「BioCir」 ミラノとテルアビブにオフィスを構えるBalenaが取り組んでいるのは、「消費財製品の循環モデルの作成」だ。その上で独自に開発したのがBioCirと呼ばれる素材。今回のサンダルも、このBioCirを材料としている。Balenaのウェブサイトに「Balenaの最優先事項は、さまざまな業界で現在使用されている有害で汚染された堆肥化不可能な合成材料に代わる最先端の循環材料を革新および開発することによって、材料産業を破壊することです」と書かれているように、BioCirはBalenaが無駄が極めて多い従来のファッション業界で使用されてきたプラスチックにかわる、より柔軟性と耐久性のある代替品として開発したものだ。BioCirは「高分子量ポリマーと改質剤によって結合された天然成分の組み合わせ」からなり、ファッション業界でプラスチックの代用となる、初の完全成形可能な生分解性エラストマーだと目されている。実際、その組成は60%がバイオベースであり、残りのプラスチックの部分も100%堆肥化可能であることを特徴としている。 重要なのはその使用感だが、すでにこのBioCirから作られた3Dプリントサンダルは何千人もの着用者に配布され、快適な使い心地を実証している。なおかつ、下の写真でも分かるようにたとえ使用後に廃棄しても、きちんと分解され、自然に還元されるようになっている。また同社は産業用堆肥環境での新しい BioCir スライドの廃棄と完全な生分解を支援する完全循環システムであるBioCyclingも導入しており、ユーザーがサンダルを使い終わったらテルアビブにある2つの回収場所のいずれかにっもどすことができるようになっている。 BioCirがファッション業界を刷新する なにより注目すべき点はBioCirのスケーラビリティ(汎用可能性)だろう。今回はサンダルだったが、この素材は様々なプロダクトに使用することができる。3Dプリント素材として極めて容易に射出成形が可能であるBioCirであれば、大規模な複製も可能だ。今回、同社がファッションアイテムに目を向けたのはファッション業界が世界最大の汚染源の一つとなっているからに他ならない。BalenaのCEOはBioCirの成功を事例とし次のように語っている。「(BioCirが示しているのは)ファッションは素晴らしく、機能的で、地球に優しいものになり得るということです。我が社がファッションブランドがより循環的な未来に足を踏み入れるための扉を開く会社であることを誇りに思います」。環境問題がいかに深刻とはいえ禁欲主義では取り組みは続かない。おしゃれも楽しみながら環境負担を減らす方途があるなら、それに越したことはないだろう。 とはいえ、現状ではエコな商品は比較的に高価な傾向がある。なので、余裕のある人から可能な範囲で取り入れていけばいいのだ。自分がそれを購入していないことを気に病む必要はない。それぞれがそれぞれのペースで気持ちのいい暮らしを実現すること。3Dプリント技術がそうした前向きな実践を支える技術となるなら幸いだ。
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光学レンズ分野を刷新する3Dプリンター|最も適しているのはインクジェット3Dプリント
光学レンズ製造を刷新する3Dプリント技術 現在、3Dプリンターの光学レンズ分野での活用の研究が進められている。これはかつては不可能だった光学部品全体を一度に、かつ一つの小さな粒子としてプリントするという試みだ。これにより、複数の機能を一つのレンズ内で組み合わせたり、光学系、マウント(土台)、バッフル(光を遮る筒状のリング)を一緒に作成して、システムを事前調整する設計が可能になると言われており、またこの3Dプリンターを用いた新しい光学設計は、製品の設置面積を削減し、技術的性能を向上させ、商業規模の拡大を容易にするだろうと言われている。たとえば最近では、オーストラリアとドイツの研究者が最近、レンズインレンズ設計で高開口数と低開口数の要件を同時に満たす単一の直径330μmレンズを3Dプリントすることに成功した。これは従来の方法では決して製造することができなかったレンズだ。しかし、このレンズによって一体何が可能になったというのか。曰く「直径0.52mmのプローブで蛍光トモグラフィーと光コヒーレンストモグラフィーの両方が可能になった」とのこと。専門用語が並んでいるため、一般人には理解が難しいが、結論から記せば、このレンズによって従来の光ファイバー設計のレンズと比較して蛍光コントラストが10倍以上改善されたということらしい。向上するのは性能だけではない。光学レンズの製造に3Dプリンターを用いることで、製造にかかる時間を大幅に節約し、取り付けエラーを最小限に抑えることもできるようになると言われている。こうした3Dプリント光学レンズの発達により主に恩恵を受けることになるのは、医療アプリケーションやスマートフォンなどの分野だと言われており、いずれも私たちの暮らしの安全や快適さに直結する分野だ。ただ、現状では光学部品の3Dプリントにはまだ課題もあると言われている。光学関連材料の入手が限られていること、光学系は一般に製造速度が遅いこと、そして大量生産の場合は高コストになってしまうことなどだ。 ソリューションを生み出す研究開発 業界、そして研究者は、今まさに一連の3Dプリント技術を使用してこれらの問題解決に取り組んでいる。たとえばライス大学のTomasz Tkaczyk教授は、光学系3Dプリントを行う上で、FDM、インクジェット3Dプリント、ステレオリソグラフィー、および2光子重合の3Dプリントのどの方法が、機能と性能レベルにおいて適しているかを概説している。Tomasz Tkaczyk教授によれば、FDMモデルが最も短時間で最大の体積構造を出力できることが分かったが、一方でその表面は粗いものになってしまう。これは光学性能に直接的な影響が出てしまう。一方で2光子重合では出力時間は非常にかかるものの、最も微細な形状を正確に出力できることが分かったという。他方、インクジェット3Dプリントやステレオソリグラフィーは、ちょうどその両者の中間くらいに位置付けられるようだ。なんでもインクジェットの方がやや微細な形状の滑らかさで上回ることも分かったらしく、バランスを考えるとインクジェットが最も適していると言えるかもしれない。実際、Luxexcel社は、インクジェット印刷とそれに続くポリマーのUV硬化を使用して、3Dプリントされた光学レンズを作成している。同社は、度付きレンズを使用したスマートアイウェアを構築するソリューションで2022 Prism Awardを受賞した。その他、この分野のスタートアップとして知られるNanoVoxもまたインクジェット3Dプリントを採用し、さらに同社独自の「ひねり」を加えることで、光学レンズを製造している。同社はポリマーを直接プリントするのではなく、ポリマーを構成する最小単位であるモノマーに光を彫刻するナノ粒子を注入したものを使用している。 改良されたインクジェット技術によって、 10 mm f/4 勾配屈折率 (GRIN) レンズなどの 3Dプリント平面レンズアレイが可能になる/NanoVox ここら辺は非常に専門的な話になってしまうが、NanoVoxのこの技術によって、従来、8〜9個のレンズを使用する必要があったスマートフォンのカメラを、4個のレンズで製造できるようになるという。各種メーカーにとっては大幅なコストの削減になるだろう。 VR/ARゴーグル製造へのポテンシャル もう1つの注目すべきスタートアップは、プリントメーカーNanoscribeの2光子重合システムを使用する Printoptixだ。Printoptixは現在、3Dプリントおよびプロトタイピングサービスを販売するサービス ビューローだが、同社の技術は光学処理を加速するポテンシャルを持っていると言われている。...
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3Dプリント関連ソフトウェアの収益が現在の12億ドルから10年で62億ドルに|鍵となるのは「CO-AM」
3Dプリント関連市場の拡大が止まらない ここ10年での3Dプリンター市場の成長については誰もが体感的に知っているだろう。ただし成長しているのは3Dプリンター本体のみではない。あるいは本体を凌ぐ勢いで急成長している分野があるのだ。3Dプリント関連ソフトウェアだ。先日発表されたSmarTech Analysis の主力市場調査「2023 付加製造ソフトウェア市場の機会」の最新版では驚くべき予測が建てられている。なんでも今年12億ドルだった3Dプリントソフトウェアの収益が10年後にはおよそ5倍となる62億ドルへと増加するだろうというのだ。 SmarTechによれば、ソフトウェア部門のマーケットは過去2年間で3Dプリンター本体のマーケットと同様のペースで進化しているのみならず、以前の予測よりもさらに急速に成長することを示唆する要素があるという。 一体どの点がそれほどの評価を得ているのだろうか。 推進力となるのはマテリアライズの「CO-AMプラットフォーム」 なんでもこの急成長はソフトウェアワークフローの様々な部分が相互にリンクされることによって完全なエンドツーエンドのプラットフォームとなることによって推進されるという。実際、ドイツの3Dプリント関連ソフトウェア企業のマテリアライズは2022年5月に「CO-AMプラットフォーム」を立ち上げ、これにより「3Dプリントパーツのデザインからデータ準備の自動化、トレーサビリティ、3Dプリント、後処理に至るまで、サポート可能なソリューション」の提供を開始している。さらにこのプラットフォームは業界全体に開かれており、3DSystemsやStratasysやGEAdditiveなど、名だたる3Dプリント関連企業とパートナーシップも結んでいる。 プラットフォームがオープンアーキテクチャであることにより、ユーザーは使用したいツールすべてを統合して運用することができるようになる。航空宇宙、自動車、コンシューマー製品、医療、エネルギーなどの主要な製造業に関わる企業もまた、常に最新のソフトウェアイノベーションにアクセスし、ニーズに基づいて業務を拡張することが可能となるのだ。 CO-AMのワークフロー これまで3Dプリント市場の拡大を促してきたのは主にサプライチェーンの刷新の需要だった。特にコロナ禍とウクライナ戦争は、既存のサプライチェーンを混乱させ、各国で資源不足が相次いだ。そんな中、製造を再ローカル化させることが可能な3Dプリント技術に以前より一層の注目が集まったのだ。そして、その際に重要な鍵を握るのが、製造ワークフローの合理化を導くソフトウェアである。もちろん、ハードウェアも重要だが、ハードウェアは強力なソフトウェアによって強化される。「CO-AMプラットフォーム」の広がりは、ユーザーにとって最先端のソフトウェアに常にアクセス可能な環境を作り出す。これは確かに急成長の予感が高まる。 果たして、SmarTechの予測はどの程度、的中することになるのだろうか。
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