
造形時間が10分から20秒へ! 驚異の速度と正確さを誇る造形方式LAPD方式とは?
光造形と熱溶解積層、それぞれの利点を完全に兼ね備えた出力方式
自宅用に3Dプリンターを購入しようと考えている人にとって、まず最初に行う必要のある主要な決定は、光造形プリンター(レジン)と熱溶解積層方式プリンター(フィラメント)のどちらを購入するかということだろう。
一般的にレジンを素材とする光造形には造形物のディティールが細かいという利点があり、フィラメントを素材とする熱溶解積層にはより強度のある造形物を出力できるという利点があると言われている。実は今、光造形と熱溶解積層、それぞれの利点を完全に兼ね備えたある方式が登場して話題を集めている。
その新方式を開発したのは、スイスのエコールポリテクニックフェデラルデローザンヌ(EPFL)内の応用フォトニックデバイス研究所(LAPD)の研究者たちだ。彼らが開発したのは、速く、正確に、かつ強度の高い出力を行う、新時代の3Dプリンターだ。
記録破りの時間で造形物を作成するLAPD方式
実はこの3Dプリンターの開発は5年前に遡る。2017年、研究チームはほぼ瞬時にオブジェクトを製造できる3Dプリント技術をすでに開発していた。しかし、それを一般に流通させるマシンへと改善していくために5年の月日を要したのだ。
LAPDの3Dプリンターは既存の光造形プリンターと同様に、レジンに特定の光のパターンを当てて硬化させることで造形を行う。主な違いは、レジンを最初にシリンダーに入れて高速で回転させるという点だ。特定の領域でレジンを硬化させるために、非常に正確な強度とタイミング、かつさまざまな角度で樹脂に光を当てることで、この最新3Dプリンターは記録破りの時間で造形物を作成できるという。
たとえば、研究チームが小さなヨーダ(映画『スターウォーズ』の登場キャラクター)を作成してテストしたところ、彼らがそれを作るのにたった20秒しかかからなかった。一方、従来の積層造形プロセスでは約10分かかった。
©2022EPFL
「私たちの方法は、光がずれることなくレジンを直線で通過する場合にのみ機能します」とLAPDのポスドクであるアントニー・ボニフェイスは述べている。「これまで私たちは常に透明なレジンを使用していましたが、生物医学産業で使用されているような不透明なレジンでオブジェクトを印刷できるかどうかを確認したかったのです」。2017年の段階では、彼らの3Dプリンターは透明なレジンにおいてのみしか、その機能を果たすことがなかった。しかし、彼らはレジンの不透明性によって生じる光線の歪みを補正するためのコンピューター計算を設計することでこの問題を解決した。これにより、不透明なレジンで透明なレジンとほぼ同じ精度でオブジェクトを3Dプリントすることができるようになったのだ。これは重要なブレークスルーだと言えるだろう。
©2022EPFL
LAPD方式は、人工動脈などの生体物質を3Dプリントするために使用できるという。次のステップとして、エンジニアは一度に複数のオブジェを3Dプリントし、かつ解像度を10分の1ミリメートルから1マイクロメートルに上げることを目指している。
あるいは現在のプロトタイプ3Dプリンタは高価格のため一般人にはまだ手が届かず、加えて現在は小さな造形物に限定されているという点もクリアーされなければならない課題だろう。
いずれにせよ、このLAPD法の進化は、3Dプリンティングの速度と精度を劇的にあげる可能性を大いに秘めている。今後の発展に注目したい。