
メットガラ2022を魅了した3Dプリント技術の想像力|イリス・ヴァン・ヘルペンのハイブリッドデザインがモードを革新する
ファッションの世界的な祭典で注目を浴びる3Dプリントファッション
メットガラといえば、毎年5月の第一月曜日にニューヨークのメトロポリタン美術館で開催されるファッションの祭典である。今年の5月に開催されたメットガラ2022にも、多くのハリウッドセレブやアーティストが参加し、次代の最先端モードの一端を垣間見せてくれた。
どうやら、クラシック回帰の流れは今年も健在のようで、たとえばキム・カーダシアンが着用していたのは、かのマリリン・モンローがケネディ元米国大統領の誕生日パーティーで着用した有名なドレスのデザインを再構築したものだ。あるいはブレイク・ライブリーは19世紀末を思わせるヴェルサーチのロングドレスで登場し、そのゴージャスさに誰もが息を飲んだ。
そんな百花繚乱のメットガラ2022の中でもひときわ目立っていた存在がいる。オランダ人デザイナーのイリス・ヴァン・ヘルペンだ。彼女がデザインしたいくつかのガウンたちは、まさに過去と未来を融合させた、レトロフューチャーな新しさに満ちていた。
イリス・ヴァン・ヘルペンは2010年より3Dプリント技術を洋服デザインに取り入れてきた3Dプリントファッションのパイオニア的存在だ。これまでもビヨンセやレディガガなど名だたるセレブ達にドレスを提供し、業界の注目を集めている。
今回まず目を引いたのは、女優で歌手のダヴ・キャメロンが纏った宇宙世界のスパイラル星雲をモチーフにした真っ白なドレスだ。19世紀風の刺繍をモチーフにしつつ、それを3Dレーザーカット技術によって再構成したというデザインは、まさに伝統技術と現代先端技術を交差させる仕上がりになっている。10人以上で手がけ、600時間以上の作業によって作られたというだけあり、そのデザインは極めて繊細だ。
【New Photo】
— Dove Cameron Japan (@DoveJapan) May 3, 2022
Doveは本日、ニューヨークのメトロポリタン美術館で開催される大規模ファッションイベント #MetGala2022 に出席。とっても美しいですね.....🕊 pic.twitter.com/oK0uvDlWmu
スーパーモデルのウィニー・ハーロウもまたイリスのドレスを着て登場した。まるで花のようなデザインの白いドレスの中央を飾っているのは、花粉生成するおしべをモチーフにしたという黒い結晶フィラメント。トランスモーションドレスと名付けられたモノクロームのドレスが、レッドカーペットに異形の花を添えていたということは言うまでもないだろう。
さらに、スウェーデンのクリエイティブディレクターでありファッションアイコンとしても知られるフレドリク・ロバーツソンもまたイリスのスーツを着て登場した。もはやゲームに登場するボスキャラの衣装のようですらあるが、これはダンス中に身体の動きとともに背景が変化していく様をモチーフにデザインしたものらしい。その名も「クォンタムジャンプスーツ」。持続可能性を念頭にアップサイクルされた生地をデジタル3Dプリントした上で、12人がかり、750時間以上かけて制作したという。
イリス・ヴァン・ヘルペンの特徴は、3Dプリント技術を旧来の技術の代替として用いるのではなく、旧来の技術と組み合わせることで革新的なデザインを模索しているところにある。実際、そのデザインの先鋭性は華やかなメットガラにおいても群を抜いていたように見える。
こうしたイリスの技術との向き合い方は3Dプリント技術の今後の活用のされ方を考える上でも大いに示唆に富んでいる。
これまで培われた古い技術を単に新しい技術に置き換えてしまうのは、人類にとっても損失だろう。せっかくなら、古い技術と新しい技術を組み合わせたハイブリッドを目指したい。3Dプリントファッションはその可能性を追求する一つの実験場になっているのかもしれない。