革新的3Dプリント技術のアワード「3Dパイオニアチャレンジ」2022の受賞プロジェクトを紹介
今最も注目すべき革新的な3Dプリントプロジェクトとは?
3Dプリントにおける最も革新的で画期的なプロジェクトを表彰する「3Dパイオニアチャレンジ」。今年、審査員たちが栄えある同賞に選出したのは、一体どんなプロジェクトなのだろうか。カテゴリ別に選出された同賞からいくつか見ていきたい。
まず全体の最優秀賞を受賞したのはETHチューリッヒinspireAGのメンバーが考案した「ハイパーループブレーキ」だ。ハイパーループとはチューブ内をポッドやカプセルなどと呼ばれる車両が空中浮遊して高速移動する新しい輸送システムのことで、これによって時速1000kmを超える移動が可能になるとも言われる夢の技術だ。現状ではまだ実現していないものの、もしハイパーループが実現した場合、そこにはブレーキの存在が必要になる。
このプロジェクトは、そんな「獲らぬ狸の皮算用」的なブレーキを3Dプリントしようというものになっているのだが、チームはいたって真剣。いわく「ベローズを加圧することにより、コンプライアントシステムが強制的に切り離されるようにブレーキが作動する。これにより、ガイドレールとブレーキの間にギャップが生じる。圧力が解放されると、ベローズを収縮させることによって即時ブレーキが開始される。統合されたジャイロイド構造がブレーキ力を吸収し、エアチャネルがブレーキの解除を支援する」とのことだ。
建築と持続可能性のカテゴリで受賞したのはWASPのデュアルハウス3Dプリントだ。WASPについては以前にも別記事で取り上げたことがある。その時はWASPが3Dプリントしたディオールのコンセプトストアについてだったが、この際に使用されたのもデュアルハウス3Dプリント技術だった。
同社は、天然素材とその巨大なCraneWASP3Dプリンターを使用して建造物を3Dプリントすることで知られている。その土地で採取される粘土と現代の技術を組み合わせる彼らの方法は、デジタル粘土の未来を示していると言えるだろう。審査員いわく「3Dプリントされた家のパイオニアであるWASPは、地元の粘土を使用し、地面から家を建てるという古風な原則に則り、説得力のある試みを行っています。ディオールのようなグローバルブランドがこの持続可能な原則に焦点を当て、それを誰もが理解できるように提示しているのはとても良いことです」とのこと。
学生カテゴリーで受賞したのは、Burg GiebichensteinKunsthochschuleHalleのShuyunLiuとStefaniePutschによる「GlasKlar」プロジェクトだ。このプロジェクトでは、特定の材料におけるバクテリア発生の促進と管理が試みられた。バクテリアを使った生きたプロダクトを生産するという、環境時代に相応しい試みとして評価された。
エレクトロニクス部門で受賞したのは、英国の製造技術センター(MTC)による3Dプリントモーターだ。MTCは、高出力密度の3DプリントモーターであるFEMS3を披露。チームは従来のエンジン製造と比較して、質量を65%削減すると同時に、部品と組み立て手順の数を削減することに成功した。審査員いわく「機能的な電気モーターの軽量化–全体的なコンセプトの持続可能性。モーターは産業において用いられるエネルギーの大部分を消費します。アディティブマニュファクチャリングによって電気モーターを改善するというアイデアは、パフォーマンスを向上させ、持続可能性を改善するための優れた手段です」と述べている。
医療機器部門で受賞したのは、中国科学院遺伝与発生物学研究所、種子デザインイノベーションアカデミー、中国科学院、北京中国//マンチェスター大学英国//北京国立情報研究センターによって作成された多軸バイオプリンティングロボットだ。チームによれば、この多軸バイオプリンティングロボットによって「血管が新生され、収縮性がある、長期間生存する心臓組織を3Dプリントできるようになる」と主張している。
デジタル部門で受賞したのは、Schubert Additive SolutionsによるPARTBOXだ。PARTBOXにおいては3Dプリントの知識は必要とされず、パブリックインターネットではなく、モバイルネットワークを介してデータをボックスに直接ストリーミングし、パーツを受信して印刷できるらしい。
さて、主だった受賞プロジェクトを見てきたが、今年の「3Dパイオニアチャレンジ」は全体として「持続可能性」への関心が際立っていたように見える。環境問題が深刻化する現代においては、SF的で夢のような技術よりも、今ある無駄を減らすことに意識が向かっていくことは当然なのかもしれないが、そんな中、最優秀賞を受賞したのが「ハイパーループブレーキ」だったということには、審査員たちの技術進歩へのささやかな期待が込められているようにも思えた。果たして、来年はどんなプロジェクトが受賞を勝ち取ることになるのだろうか。