博物館収蔵の文化遺産の精巧なレプリカを3Dプリント|本物は民族の元へと返還か
3Dプリンターが博物館を変える?
世界各地には様々な民族が存在していて、それぞれに文化遺産となるような歴史的遺物を有している。現状、そうした文化遺産の中でも、特に彫刻や土器などの遺物に関して貴重なものは、多く博物館に所蔵され、歴史学習のために用いられている。
だが、本来ならそれらの文化遺産は、それぞれの民族の財産であり、民族によって独自に保管されて然るべきだ。今までは民族が独自に博物館を持っていなかったりすることから、文化教育の観点からもそうした文化遺産が他所の博物館へと寄贈されることが多くあったが、そうした流れを3Dプリント技術が変えつつある。
先日、ハドソン博物館が下した決断はその一つのきっかけを生むかもしれない。ハドソン美術館はメイン大学のアーティストやエンジニアのチームとともに、北米の先住民族であるトリンギットのカエルの彫刻品のレプリカを3Dプリンターによって作成した。そのクオリティは非常に高く、本物と見紛うばかりだ。
画像引用/メイン大学
なぜレプリカを制作したのか。これはトリンギットの中央評議会が、これまでに寄贈した民族の文化遺産のいくつかを博物館に対して返還するよう請求したからだ。この請求を受けてハドソン博物館の館長はトリンギットからレプリカの3Dプリントの承認を得て、エンジニアたちとともに、その正確なレプリカの制作に着手。今後は展示品をレプリカに切り替えることを決定したのだ。
館長いわく「私たちはネイティブアメリカンのコミュニティと非常に緊密に連携しており、これらのオブジェは彼らの文化的慣習に不可欠です。したがって、(今回の返還は)これらのコミュニティを、彼らの先祖によって作られた彼らの文化的伝統と再接続するものです」とのこと。
おそらく今後、こうした文化遺産や歴史的遺産の返還の流れはその他の民族、博物館へも波及していくことだろうと思う。本物のオブジェを気安く鑑賞できなくなってしまうことには寂しさもあるが、それぞれの民族にとってその返還がポジティブな効果をもたらすことになるのであれば、これは当然の権利であると言えるだろう。それに現在の3Dプリント技術を用いれば、小さな傷や欠陥などの詳細までをも再現した精巧なレプリカを模造することができる。本物同然の鑑賞体験をえることだって不可能ではないのだ。
これもまた技術が歴史を変える一つの事例となるだろうか。3Dプリント技術によって博物館のあり方が変わろうとしている。