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金属3Dプリンターの民主化に向けて|Meltioの取り組み
いまだ一般人には手が届かない金属3Dプリンター 金属3Dプリンターは一般に工業用3Dプリンターとして認識されている。金属という重厚な素材を扱う3Dプリンターであるから、ということも一つの理由だが、それ以上に金属3Dプリンター本体、及び関連ソフトウェアの高価さが、一般ユーザーを遠ざけている。出力方式によっても違いはあるが、おおまかな価格帯としては依然として数千万円以上。FDM方式の金属3Dプリンターであれば比較的安価ではあるものの、バインダー除去や焼結を行う費用を考えれば、やはり一般ユーザーには簡単に手が出せるものではない。 知られざる金属3Dプリンターの世界~現状と基礎知識~ https://skhonpo.com/blogs/blog/metal?_pos=1&_sid=0df96b506&_ss=r 実際、3Dプリンターの通販事業を行なっている弊社においても、現状で金属3Dプリンターは取り扱っていない。本来なら様々な素材を用いた3Dプリントの機会がより広い層に提供されるべきではある。しかし、価格帯を考えると難しいのだ。また、高価であるだけでなく、金属3Dプリンターはオペレーションも非常に難しいと言われている。そのため、一般ユーザーどころか中小企業にとっても、その導入は簡単なことではない。専門のオペレーターも一緒に雇用しなければならないとなれば、二の足を踏むのも無理はないだろう。せっかく素晴らしい技術があるのに、そのポテンシャルが発揮されうる場が、ある一部に限られてしまっているというのは、端的にもったいない。果たして、金属3Dプリンターは今後も手の届かない高嶺の花であり続けるしかないのだろうか。 金属3Dプリンターを民主化するために こうした状況を打破し、金属3Dプリンターを民主化したい、つまりより広いユーザーへと開放したい。そうした目標を掲げて研究開発を進めている企業も存在する。たとえば、2019年に設立されたスペインの多国籍レーザー金属堆積メーカーMeltioだ。これまで同社は、安全で信頼性の高い、手頃な価格の金属3Dプリンターの開発に熱心に取り組んできた。とりわけ、同社が目下注力しているのは、高価で操作が難しい金属3Dプリンター用ソフトウェアの改革だ。「金属付加製造は、歴史的に複雑で高価なソフトウェアと関連付けられており、非常に専門的であるため、ごく少数の人々の使用に限定されていたことに注意する必要があります。Meltioでは、新しいソフトウェアの発売により、金属3D印刷を民主化するための学習時間を促進および短縮し、企業内のさまざまなプロファイルでソフトウェアにアクセスして簡単に使用できるようにします」そう語るのはMeltioのCEOであるÁngel Llavero氏だ。 画像:Meltio これまで同社の金属3DプリンターであるMeltio M450のユーザーは、ツールパスを作成するためにサードパーティのFFFスライサーを使用しなければならなかった。これは操作が非常に専門的で、習得するためには非常に時間がかかる。その障壁を突破しようと、同社が行なったのは独自のソフトウェアMeltio Horizonの開発だ。これによって同社は、ユーザーにとってより簡単に、カスタムプリントおよび材料プロファイルと独自の機能を提供することを試みている。この新しいソフトウェアソリューションでは、印刷速度、サポート材料、線幅、層の高さなど、他のFFFソフトウェアで使用される従来のスライスパラメータに加えて、レーザー出力やホットおよびデュアルワイヤ設定などの材料固有のパラメータを提供しているそうだ。操作の説明も充実した形で提供されるため、特別な学習を経ることなく簡単に使用を開始できる形になっているらしい。おそらくは、このソフトウェアの登場によって、導入、運用にかかるオペレーションコストは大幅に下がる。本体の価格革命には至っていないものの、金属3Dプリンターの民主化に向けて一歩前進であることは間違いない。果たして、金属3Dプリンターを一般向けユーザーが気軽に使える日が訪れるのは、まだしばし先のようだ。ただ少しずつ着実に、金属3Dプリンターは私たちの元へと降りてきている。
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従来型と比較して速度は100倍以上、ボリュメトリクス3Dプリント技術「VAM」の現状と今後
原料液の中に突如としてオブジェクトが!未来の3Dプリント技術「VAM」とは? 以前も本ブログ欄で紹介した「ボリュメトリクス3Dプリント」という言葉をご記憶だろうか。 出力速度は従来型の数百倍!? 世界初のボリュメトリクス3Dプリンター「Xube」https://skhonpo.com/blogs/blog/xube?_pos=1&_sid=a3822bb0c&_ss=r あらためて解説すると、ボリュメトリクス3Dプリントとは、これまでの光造形(SLA)や熱溶解積層(FDM)といった方式とは異なるボリュメトリック積層造形(通称VAM)と呼ばれる方式を採用した3Dプリント技術のことだ。このVAMとは、容器に入った液体前駆体の中で、光を用いて物体を素早く固化させる方法のこと。異なる波長の2本の光ビームを交差させて物体全体を固化させることで、オブジェクトを一気に造形する。その技術の何が凄いかといえば、まずその造形速度だろう。少なく見積もって従来の数倍。たとえば、ドイツのベルリンを拠点とするxolo社が昨年発表した世界初となる市販型のボリュメトリクス3Dプリンター「The xube」では従来の3Dプリンターであれば約90分ほどかかる90mmのオブジェクトを、数秒から長くても5分で出力可能だと言われた。同時にこれまで速度とトレードオフにあると考えられてきた精度においても、従来の方式を大幅に上回ると言われている。さらに注目されたのがVAMにおいてはサポート材もビルドプレートも必要としないという点だ。イメージとしては原料液の中に突如としてオブジェクトが現れ、浮き上がってくるような形になる。VAMはしばしば人気SF映画『スター・トレック』に登場するレプリケーターというマシンに喩えられているのだが、まさに近未来の最先端3Dプリント技術なのだ。 Vitro3Dがシード資金調達ラウンドで新たに130 万ドルを調達 そんなVAMではあるが、現状ではまだまだ発達途上。広く一般に普及するところまでには至っていない。そんな中、先日、ボリュメトリクス3Dプリント技術の開発研究を行う米国のVitro3Dが、シード資金調達ラウンドで新たに130 万ドルを調達したというニュースが流れた。これは現在急成長中のボリュメトリック3Dプリンティングの世界において、かなりホットなトピックだ。Vitro3Dは、ボリュメトリクス3Dプリント技術は既存の3Dプリント技術よりも 100 倍高速であると主張している。現在、同社はレジンカートリッジを使用してより大きく、また高解像度で複雑なコンポーネントをプリントすることを目指している。これによりレジンの取り扱いが不要になるとのこと。今後は、利用可能な幅広い材料特性の開発と、最小限の後処理を必要とする部品の製造も同時に行っていくそうだ。同社がまず注力しているのは、一般家庭向けの汎用3Dプリンターではなく、歯科用アライナー(マウスピース)の3Dプリントと、組織工学用の足場の3Dプリントだ。もちろん、これは入り口である。技術の発展とともにその用途は大幅に拡大していくはずだ。 歯科市場向けの部品を3D プリントするために使用される Vitro3Dのプロセスのレンダリング。画像:Vitro3D. ボリュメトリクス3Dプリント技術は多くの可能性を秘めた急成長中の分野であり、ほとんどの場合はまだ研究段階にある。部品全体を一度に3Dプリントすることは極めて論理的だが、果たして現実世界でどのように機能していくかはまだ未知数の部分が多いのだ。しかし専門家たちは、これがSLAなどの既存の技術をやがて追い越していく可能性が非常に高いと考えている。以前、本ブログ欄でも取材させて頂いたボリュメトリクス3Dプリンターを扱うxolo社のCEOであるDirk Radzinski氏によれば、市場開拓はステップバイステップで進んでいくだろうとのことだった。同社はxubeをはじめとするVAM3Dプリンターをすでに開発済みだが、それらは現状で研究目的以外には販売されていない。 「ボリュメトリクス3Dプリントは今後いくつかの市場を制覇するだろう」——世界を変える技術を開発する「xolo」のCEO・Dirk Radzinskiが語るhttps://skhonpo.com/blogs/blog/volumedirk?_pos=2&_sid=a3822bb0c&_ss=r とはいえ、にわかに役者は揃いつつある。おそらく数年内にまた大幅な進展があるだろうことは間違いない。果たして私たちが日常的にVAMでものつくりを行う日は訪れるのだろうか。今後の展開にますます期待したい。
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ハーバード大学が開発した水面張力を用いたナノ3Dプリンター|驚くべきイノベーションだと話題に
水面張力を利用してナノ構造を3Dプリント ハーバード大学のエンジニアと研究チームが開発したあるマシンが話題になっている。そのマシンは水の表面張力を利用して微細な物体をつかんで操作するマシンとのことで、ナノスケールの構造物を製造する上で今後、極めて強力なツールになっていくだろうと目されている。「私たちの研究は、微細構造およびナノ構造の材料を製造するための潜在的に安価な方法を提供します」そう語るのは研究チームの教授であるVinothan Manoharan。「レーザーピンセットのような他のマイクロマニピュレーション方法とは異なり、私たちの機械は簡単に作ることができます。多くの公共図書館で見られるような、水タンクと3D プリンターを使用しています」このマシンは、3Dプリントされたプラスチック製の長方形からなり、昔のスーパーファミコンのカートリッジとほぼ同じ大きさとなっている。デバイスの内部には交差するチャネルが刻まれていて、各水路に広い部分と狭い部分が設けられている。水路の壁は親水性で、水を引き付けるようになっている。 果たして、なぜこのデバイスがナノ構造を3Dプリントするのに役立つのだろうか。その鍵となるのが「水面張力」なのだ。 水流とフロートの運動を使って繊維を編む 研究チームは一連のシミュレーションと実験を通じて、このデバイスを水中に沈め、ミリサイズのプラスチックフロート(浮き具)をチャネルに配置することで、水の表面張力によって壁がフロートを反発することを発見した。フロートが水路の狭い部分にあった場合は、フロートは壁からできるだけ離れて浮くことができる広い部分に移動していく。水路の広い部分に入ると、フロートは中央に閉じ込められ、壁とフロートの間の反発力によって所定の位置に保持される。デバイスが水から持ち上げられると、チャネルの形状が変化するにつれて反発力が変化する。フロートが最初に広い水路にあった場合、水位が下がると狭い水路にいることに気づき、より広い場所を見つけるために左または右に移動する必要がある。 今回、利用したのは、この水流とフロートの運動だ。研究チームはフロートに微細な繊維を取り付けた。そうすることで、水位が変化し、フロートが水路内で左右に移動すると、繊維が互いに絡み合うことになる。かくして、研究チームは一連のチャネルを設計してフロートを編組パターンで動かすことによって、合成素材ケブラーのマイクロメートルスケールの繊維を編むことに成功した。さらに研究チームはこれをナノレベルで行うための機械を構築した。つまり、サイズが10マイクロメートルのコロイド粒子を捕捉して移動できる機械だ。「それで試してみたところ、うまくいきました。表面張力の驚くべき点は、手に収まるほど大きな機械でも、小さな物体をつかむのに十分なほど穏やかな力を生み出すことです」 これらの研究は「毛細管力を使用して微細な物体を操作する3Dプリントマシン」として論文化され、科学雑誌『Nature』に掲載、現在大きな反響を呼んでいる。もちろん、まだ研究途上だ。目下、研究チームは、高周波導体を作ることを目標に、多くのファイバーを同時に操作できるデバイスを設計することを目指している。 水の表面張力が切り開いたナノ3Dプリント技術の新しい可能性。今後の展開に期待だ。
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造形速度は従来の10倍以上!? マルチレジン3Dプリント技術「iCLIP」が登場
現在実用化されている最速の3Dプリンターよりも5〜10倍の造形速度 スタンフォード大学が開発した最新の3Dプリント技術が注目を集めている。その名は「iCLIP」。なんでもこの技術、現在実用化されている最速かつ最高精度の3Dプリンターよりも5~10倍の造形速度をもち、かつ一つの造形物に対して複数種類のレジンを用いることができるというものらしい。たとえば、この記事のトップ写真。これはiCLIPメソッドを使用して作成されたオブジェクトであり、キエフの聖ソフィア大聖堂をモデルにしているのだが、ご覧のようにウクライナの国旗カラーである青と黄色の2色が用いられている。「この新しい技術は、デジタルマニュファクチャリングの新時代の到来を告げる。これまでよりはるかに高速に印刷できるようになるだけではなく、複雑なマルチマテリアルオブジェクトを1つのステップで製造できるようになる」そう語るのはスタンフォード大学のジョセフ・デシモーネ教授だ。5〜10倍の速度というだけでも十分な革新だが、なおかつマルチカラーに対応しているというのだから、これはたしかに夢が膨らむ話である。この「iCLIP」は2015年に同チームが開発した連続液体界面製造法「CLIP」に端を発し、この「CLIP」を大幅に改良したものが今回の「iCLIP」だそうだ。では、「iCLIP」の何が特別なのだろうか。従来の光造形3Dプリンターの場合、マシン下部のレジンプールから造形に必要なレジンを吸引して造形を行うのが一般的である。しかし、この「iCLIP」においてはオブジェクトを上昇させるプラットフォームに設置されたシリンジからも加圧したレジンを同時に供給しているのだ。それによって、造形速度を大幅に速めることに成功し、かつ複数のシリンジを用意することで、1度の造形において複数のレジンを使用することも可能になった。 なんでもジョセフ・デシモーネ教授にヒントを与えたのは、あの名作映画「ターミネーター2」の1シーンだったという。革新のヒントは思わぬところに潜んでいるものだ。現在、チームは「iCLIP」を最適に駆動するためのソフトウェアの構築を検討しているとのこと。それによって複数のレジンの境界を制御し、さらなる高速プリントを実現することが目指されている。果たして、「iCLIP」式の3Dプリンターが市場に登場するのはいつ頃になるのだろうか。
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Cloud Factoryが展開する海外セレブ向けの3Dプリントジュエリー
3Dプリントジュエリーの発展には「エシカル」だけでは足りない? 先日、エストニアを拠点にオンデマンドのジュエリー3Dプリントビジネスを展開するCloud Factoryが新たな事業拡大のおための資金200万ドルを調達したというニュースが発表された。同社はブランドやインフルエンサーと協力としてジュエリーコレクションをデザイン、かつそれをオンデマンドで3Dプリントするスタートアップとして知られている。また同社は同時にNFT事業にも参入しており、メタバースを視野に入れた全く新しい事業展開を考えている。「私たちはメタバースの時代に生きることに本当に興奮している。有力なブランドや有名人のために、フィジカルな製品と絶妙なジュエリーのNFTの両方を生産することで、古い伝統のある産業をこのゲームに持ち込むことができる」そう語るのは同社CEOのタヴィ・キカスだ。とにかく話題には事欠かない。同社はまた「世界初の廃棄物ゼロのジュエリー工場を設立する」など、多くの興味深い主張を同時に行なっており、実際、彼らが3Dメタルプリントに用いるのはリサイクルされた持続可能な貴金属のみであるらしい。さらにオンデマンド生産により無駄な製造を控えることで環境問題にも取り組んでいきたいとしている。 ジュエリーを製造する以上、エシカルであるだけではダメだ。そこには華やかさと洗練が欠かせない。そのためにも同社は世界中のブランドやセレブ達の支援を獲得している。宣伝においてはSNSを上手に利用し、また3Dプリンティングならではのスピード感によって、アパレル業界の基本であるSSとAWの2シーズンにとらわれることなく、コレクションも素早く変更されていく予定だ。 同社の目標は、「ダイレクトメタル3Dプリントを使用して、費用対効果が高く、かつ持続可能な方法で、ファインジュエリーをスケーラブルに製造する世界初の企業」になること。果たして、Cloud Factoryはジュエリー業界にどんな旋風を巻き起こすことになるのだろうか。 Cloud Factoory https://www.cloudfactory.jewelry/
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「狼瘡」の治療を前進させる3Dプリントデバイスをミネソタ大学が開発
皮膚の炎症と紫外線の相関関係 狼瘡と呼ばれる皮膚疾患がある。正式名称はエリテマトーデス(紅斑性狼瘡)。免疫の異常による自己免疫疾患で世界に約500万人の患者がいるとされている。全身または皮膚に炎症が起こってしまう病気で、その発疹が狼に噛まれた痕のような赤い斑状であることから、狼瘡と名付けられた。同時に発熱、全身に及ぶ倦怠感などの症状、腎臓、肺、中枢神経などの内臓にもさまざまな症状が現れることもあることから指定難病とされており、一般の治療にあたってはステロイドが用いられている。もうひとつ、狼瘡の目立った症状に日光過敏症がある。皮膚を紫外線に暴露した後に、露光部位に紅斑、水疱、あるいは熱が出ることがある。これは狼瘡の症状を悪化させることになり、当事者としても非常に苦痛を伴う。それゆえ日光過敏症を発症している狼瘡患者は、日中の外出に大変気を使うことになる。こうした患者さんへの治療を促進するためにミネソタ大学の研究者が3Dプリントされた光感知デバイスを作成したことを先日発表した。このデバイスでは、狼瘡の症状と光感受性を関連づけるデータを収集し、世界中の医師たちが狼瘡を適切に治療するのに役立てることが目指されている。 3Dプリント紫外可視光検出器によるデータ集積 発端となったのはミネソタ大学医学部の皮膚科医であるデイヴィッド・ピアーソンだ。 彼は臨床の場において日光が狼瘡を悪化させる問題に向き合ってきた。しかし、日光と狼瘡には相関関係があるということはこれまでも分かっていたものの、各患者それぞれが日光によってどのような影響を受けるのかを予測することは困難だった。そこで、ピアーソンはその相関関係をよりよく理解するために、ウェアラブル医療機器の開発者であるマイケル・マカルパインと共同でこのデバイスの開発に着手した。 今回、作成された3Dプリント紫外可視光検出器は、1日中連続して皮膚に装着することができる。それによって患者が曝されているUV露出を監視し、かつその露出を患者の症状に関連付け、それらのデータを集積していく。マカルパインはこの制作にあたり、3Dプリントされた発光デバイスを用いた。それらを修正し、受光デバイスに変換することで、本デバイスを制作した。なお、臨床試験もまもなく開始される予定だという。 3Dプリント技術と医療機器は非常に相性がいい。今回のデバイスも、3Dプリント作成であればこそ、患者に合わせてパーソナライズされたデバイスを印刷することが可能になる。確かにこれは「小さな一歩」に過ぎないかもしれないが、この「小さな一歩」の集積によってしか医療は進歩しない。この研究が狼瘡患者の苦しみを少しでも取り除く日が来ることを願っている。
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まるで巣作りする蜂のよう? ドローンの群れで3Dプリントする実験が話題に
無数のドローン蜂が巨大建築を3Dプリントする近未来 今、3Dプリント技術に関する一つの実験が話題になっている。この実験の目的はサイズの制約のない3Dプリントマシンを探求すること。通常、出力オブジェクトのサイズは、マシンフレームそのもののサイズに依存する。しかし研究チームは、ある方法を用いれば、ほぼ上限なしにどこまでも出力することができるはずだと考えた。 その方法とはドローンを用いる方法だ。 アイディアそのものはシンプルだ。素材の押出機を取り付けたドローンが飛行しながら素材を押し出していく。もちろんドローンである以上、高度は自在にコントロールが可能。これによって、マシンフレームという概念を超えた超高度の出力物のプリントが可能になるというわけだ。しかし、当然ながら問題もある。ドローンには飛行中わずかにドリフトする傾向があることだ。正確さを求められる3Dプリントにおいてこれは問題だ。チームが思いついた解決策は、ドローンの下部にぶらさがっているデルタボットキャリアにエフェクターを取り付け、これにより測定された動きを補正し、位置誤差の大部分をキャンセルするというものだった。果たして念願のドローン3Dプリンティング実験は複数のドローンの編隊飛行によって実現された。今回は2機。最初のドローンはスキャナーとして機能し、印刷面とすでに完了した印刷を測定する。すると2番目のドローンが近づいて1つのレイヤーを配置する。すると、また場所を入れ替えて、という流れを構造が完成するまで繰り返していく形だ。 チームの目標は、大規模で複雑な形状の構造を任意の表面に印刷できるようにすることだという。そのためには、ドローンの群れを使用して、それぞれが必要な材料を堆積させていく必要がある。それはちょうど虫の、特に蜂の巣作りのようだ。実際、実験の映像を見てみると、まさに新種の羽虫が巣を作っているように見える。研究チームもまた蜂の巣作りを参考に研究を進めたらしい。 遠くない将来、無数のドローン蜂の群れが大規模建築を3Dプリントしている光景を街中で見かける日が来るのかもしれない……と思うと、ちょっとゾッとしたりもする。
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廃棄ペットボトルをPETフィラメントに変換するPetalotプロジェクトとは?|今以上に3Dプリンターを気持ちよく使うために
プラスチックの一人あたり消費量において日本は世界第二位 3Dプリント技術の浸透は既存のサプライチェーンを見直し、また製造業における原材料の無駄遣いを減らすことを可能にするといわれている。これは製造業がもたらす環境負荷を減らすための取り組みに大いに資するとされているポイントだ。ただし、その一方で環境問題への取り組みという観点においては、3Dプリント技術には大きな弱点もある。それは3Dプリンターが3Dプリントを行う際の主要な原材料の一つであるプラスチックの問題だ。プラスチックによる海洋汚染は深刻である。通常の素材と異なり、プラスチックはそう簡単に自然分解されない。一般的にその分解には450年の月日を要するとされており、それゆえ海洋に廃棄されたプラスチックはかなりの長期間、海中を彷徨い続けることになる。さらに、その分解の過程においては有害なマイクロプラスチックも発生する。とりわけ2014年の調査によれば日本は国民一人あたりのプラスチックの消費量、廃棄量が米国に次いで世界で2番目に多いと言われる。これはちょっと他人事では済まされない問題なのだ。 とはいえ、プラスチックという素材それ自体に罪はない。プラスチックは人間がかつて発明してきた様々なものの中でも非常に優れた発明品の一つだ。私たちが享受している現代的な暮らしは、プラスチックなしでは決して実現しなかった。だから、これは0か100かの議論ではない。重要なことは、プラスチックの増えすぎてしまった総消費量を減らすこと、そして、そのためのリサイクル方法の確立だ。 ペットボトルからフィラメントを|Petalotの試み そうした背景を受け、3Dプリントの世界においても、現在、プラスチックを上手にリサイクルするためのプロジェクトを実践する人たちも現れている。たとえばPetalotと呼ばれるプロジェクトもその一つだ。このプロジェクトでは、プラスチックの総消費量の中でも単独で15%近くを占める使用済みペットボトルを3Dプリント用のフィラメントへとリサイクルするためのツールを提供している。 画像/Petalot Petalotがそのリサイクルにいて用いている方法は通常の3Dプリント用フィラメントを製造する方法とほとんど変わらない。一般的にフィラメントは溶融プラスチックをダイスと呼ばれる開口部から押し出し、それを冷却してスプールに巻き取ることによって作られる。Petalotの場合は、古い3Dプリンターのホッドエンドを改造した金型の両サイドにペットボトルカッターとフィラメントワインダーを配置し、それによってペットボトルを螺旋状のストリップにカット。その先端が3Dプリンターのホットエンドを介してスプールに巻き取られることで3Dプリント用フィラメントとしてリサイクルされる。 画像/Petalot こうして作られたPET素材のフィラメントは弊社でも扱いのあるCreality Ender3で使用することができるという。ただ、PET素材はフィラメントとしては反りやすいという特質もあり扱いが難しい部類の材料でもある。ただ、一方で剛性の高いオブジェクトを出力できるという利点もあり、適切に使用すれば十分に使える素材となる。開発者はこのPetalotの製造方法をオープンにしている。基本的には古い3DプリンターやPCのハードウェア、木製パレットなどの素材があれば自作することができるようだが、それなりに手間がかかるという点は否めない。これはあくまでも3Dプリンターユーザーの立場からプラスチック問題にアプローチするための一つの実践例であり、より多くの人がリサイクルフィラメントを当たり前に使用するようになるためには、さらなる試行錯誤が必要だろう。 画像/Petalot いずれにしても、せっかくの素晴らしいテクノロジーなのだ。今以上に気持ちよく3Dプリンターを使うことができるようになるのなら、それに越したことはない。プラスチックをただの憎まれ役にしないためにも、さらなる技術の発展を願うばかりだ。 Petalotのtiktok https://www.tiktok.com/@function.3d/video/7136244219143933190?is_from_webapp=v1&item_id=7136244219143933190
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世界初のゼロネットエネルギー3Dプリント住宅が登場|高騰する電気代、圧迫される家計に希望の光が?
電気代が高すぎる! そんな悩みを解決するかもしれない3Dプリント住宅 ゼロネットエネルギーという言葉をご存知だろうか。これは一年間における一次エネルギーの収支がプラスマイナスでゼロになる状態を指す言葉で、主に住宅やビルなどの建物に対して用いられる言葉だ。一般に建物内では人が活動しているため、エネルギー消費量をゼロにすることはできない。しかし、快適な室内環境を整えるためのエネルギーを建物内において創エネし、一方でこれまでの無駄を減らして省エネすることで、実質的な収支ゼロを実現することが、このゼロネットエネルギーの骨子だ。実は先日、3Dプリント建築においては初となるゼロネットエネルギー住宅が誕生した。建築を手がけたのは3Dプリント建築業界の雄であるMighty Buildingsで、建設地はアメリカは南カリフォルニア。なんでも従来のゼロネットエネルギー住宅を超える野心的な試みがなされたらしい。 エネルギーを相殺する以上に多く生成する Mighty Buildingsが今回示したのはカーボンニュートラルという概念のその先だ。この新建築においては、ライフサイクルの過程や建設プロセスにおいて消費されるエネルギーを単に相殺するのではなく、それよりも多くのエネルギーがそこで生成されるように設計されている。 これを実現させたのは、サプライチェーンへの依存と、材料の廃棄物を必要最小限に抑え、なおかつ住宅が建てられた後に再生可能エネルギー源を利用することによって達成される。今回の建築には住宅の屋根にソーラーパネルが組み込まれ、かつソーラーストレージ用のバッテリーを装備している。デザインも洗練されている。フラットな長方体は自然豊かな南カリフォルニアの自然に溶け込んでおり、まさに新時代の住宅といった感がある。なお、Mighty Buildingsは今後、このゼロネットエネルギー住宅をキット化して南カリフォルニアだけで40以上の3Dプリント住宅を建築していくことを計画しているようだ。 エネルギー価格が高騰を続けている今日、ゼロネットエネルギー住宅への関心は、特に欧米で一層高まってきている。環境問題云々は一旦棚にあげるとしても、光熱費の高騰は単純に家計を圧迫する問題だ。3Dプリント建築技術の発達がこの問題のソリューションを生み出す日もそう遠くないかもしれない。
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実物大のティラノサウルスの頭骨をVRスカルプトして3Dプリントした男性が話題に|使用したのはCrealityのCR-10Max
出力にかかった時間は3070時間以上! 家庭用3Dプリンターの限界に挑む 今、Redditであるひとつの投稿が注目を集めていいる。その投稿には、ある男性が巨大な恐竜の頭骨を掲げてにんまりと満足げな笑みを浮かべている画像も添えられている。この本物と見紛うばかりの精巧な恐竜の頭骨、なんとこの男性が個人的にモデリングして3Dプリントしたティラノサウルスの等身大の頭骨なのだ。 この男性(@Topgunsi)によれば、この頭骨の3Dプリントにあたって使用した出力時間は3070時間以上、使用したフィラメントの総量は97kg以上だという。気が遠くなるような時間と質量。その重労働を担ったのは、SK本舗でも取り扱いのある3DプリンターメーカーCrealityのCR-10Maxだ。 画像はCrealityのCR30。非常に高性能なFDM家庭用3Dプリンターだ。CR-10Maxはもちろん家庭用3Dプリンターであり、その価格も極めてお手頃。いわば誰にでも手が届くレベルの3Dプリンターであるわけだが、それでこれだけの巨大オブジェをこの精度で作り上げたというのだから、なんとも夢のある話だ。@Topgunsiによれば、今回、彼はVRスカルプトによってティラノサウルスの頭骨の3Dデータを作ったそうだ。以前にも記事にしたことがある通り、VRスカルプトとはVRヘッドセットを装着し、VR空間の中であたかも本当に彫刻作品を制作するように3Dデータを作り上げていく最新の手法。使用アプリはShapelabs VRというメッシュスカルプティングアプリ。有機的なモデルの造形に強い人気アプリだ。 VRモデリングの魅力と難点──近い将来、VRモデリングがスタンダードに?https://skhonpo.com/blogs/blog/vrmodeling?_pos=1&_sid=2f8e346e9&_ss=r @Topgunsiはこの手法にのめりこんで以来、様々な恐竜や先史時代の生き物の骨格をバーチャル空間で造形し、恐竜骨格の仮想ミュージアムを構築してきた。そして今年に入り、地元であるニュージーランドで本物のティラノサウルスの骨格標本を鑑賞する機会を経て、現在は自身が作ったティラノサウルス骨格モデルの全体を等身大で3Dプリントするという、壮大な計画に着手している(計画の進捗は常にRedditにて公開されている)。 ただし、実は恐竜の骨格の3Dプリント自体は珍しいことではない。すでにスミソニアン博物館は独自でスキャニングしたティラノサウルスとトリケラトプスの3Dモデルを一般に無料公開しており、もし恐竜を3Dプリントしたいだけなら、誰にでもその門戸は開かれている。つまり今回注目すべき点は、やはり一般人がVRスカルプトによって複雑な骨格データを作りあげ、それを家庭用3Dプリンターで等身大サイズにおいて出力するという力技を達成した点にこそあ流のだ。それはまた同時に、時間と根気さえあれば誰にでも挑戦できるということをも意味している。 果たして、@Topgunsiの無謀な挑戦は今後どんな展開を見せるのだろうか。さしずめ現代版「シュヴァルの理想宮」。続報を待つことにしよう。
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あの有名キャラクターが自分の顔に!? FormlabsとHasbroの新しいフィギュアシリーズ《SELFIE SERIES》が提供する「究極の消費者体験」
フィギュアとコスプレの融合? 3Dプリンターの登場によって最も大きな影響を受けている業界のひとつにフィギュア業界がある。すでにフィギュア業界において3Dプリンターがなくてはならないものになっているということについては論を待たない。フィギュアを3Dプリンターで自作するというのはもちろん、3Dプリンターを製造過程に取り入れることによってメーカーのフィギュアに関してもユーザーのカスタマイズ可能性は格段に増した。そんな中、FormlabsとHasbroの提携によるアクションフィギュアシリーズが新しい展開を見せようとしている。同シリーズではこれまでも様々なカスタマイズに開かれたアクションフィギュアを発表してきたが、今回発表された新シリーズ「SELFIE SERIES」においては、なんでも人気のアクションフィギュアの顔面をユーザー自身の顔を模したモデルにカスタマイズすることができるらしい。 ラインナップも充実している。マジック・ザ・ギャザリングやトランスフォーマーなどこれまで同シリーズで展開してきた人気コンテンツに加え、マーベルシリーズやゴーストバスターズ、スターウォーズなども加わり、それら人気コンテンツのキャラクターフィギュアに自分の顔をあてがうことができるようになっているそうだ。 これはなんともオタク心をくすぐる話ではないだろうか。好きなキャラクターを所有する喜びを満たしつつ、さらにそのキャラクターに自分がなりきるという変身願望まで満たしてくれるこの新企画は、ある意味でフィギュアとコスプレの融合とも言えるだろう。開発者たちにとってもこの機能追加は念願だったようで、Hasbroのデザイン、開発、イノベーション担当プレジデントであるブライアン・チャップマンもまた次のように述べている。「パーソナライズされた製品を求めるファンの要望を真に理解するために広範な調査を行い、チームはその夢を実現するために素晴らしい仕事をしました. この独自技術の革新は本当に目覚ましいものです。ファンたちがコレクションに自分自身のフィギュアを追加する日がくるのが待ちきれません」。 約80ドルで手に入る「究極の消費者体験」 果たしてこの「究極の消費者体験」はいかにして行われるのだろうか。その手順はとてもシンプルだ。まずユーザーが自分自身の顔を、3Dスキャナー、あるいはスマートフォンなどのアプリによって、様々な角度からスキャン。その後、そのデータをiOSやAndroidデバイスで利用可能なHasbroの公式アプリ「Hasbro Pulse」にアップロード。あとはお好みのフィギュアを選択して注文したら完了だ。もちろんスキャンされた自分の顔をカスタマイズすることも可能だ。肌の色や髪の色、あるいはヒゲを追加してみたりと、希望の形に近づけていくこともできる。 これらの注文がHasbro独自のFormlabs印刷工場へと届けられると、ユーザーがアップロードしたデータにそってヘッド部分が印刷されることになる。そして、そのヘッドに大量生産された様々なキャラクターのアクションフィギュアのボディが接続された上、ユーザーの自宅へと送り届けられるというわけだ。注文からお届けまでの期間は早ければ数週間以内とのこと。また完全にそれぞれにオリジナルなカスタマイズが施されるにも関わらず、価格も約80ドル程度。これは実に良心的と言っていい価格設定だろう。 自分向けはもちろん、友人へのプレゼントとしても絶対に喜ばれる「SELFIE SERIES」。今のところ残念ながら公式ではアジアへの配送は行っていないようだ。この記事を読んで興味を持ったという人は、是非ともSNSなどで販路拡大を希望する声をあげてみてほしい。
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レゴを象徴するクラシックなアヒルのおもちゃを3Dプリンターでリメイク
不朽の名作玩具「レゴブロック」 レゴブロックが子供のおもちゃの代名詞的存在になって久しい。考えてみればすごい話だ。世界では日々、様々な技術が開発され、また様々な商品が新たに製造されている。そんな流動する世界で、一世紀近くも同じおもちゃが、それも世界中で愛され続けているなんて、ほぼ奇跡に等しいだろう。そんなレゴブロックの発祥地であるデンマークのビルンにあるレゴハウスで、先日、世界中のレゴファンを集めてあるイベントが開催された。Adult fun of legoと名付けられているこのイベントは、実は毎年開催されている。大人になって以降もレゴに魅せられてやまないレゴマニアたちが集まり、レゴハウスに集い、レゴブロックで遊び、また対話するためのイベントだ。今回、そのイベントで限定のミニフィギュアを購入した人たちに、あるユニークなプレゼントが贈呈された。一見、それは単純な作りのアヒルの置き物のように見える。実はこれ、1935年にレゴの創設者であるオーレ・カーク・クリスチャンセンの息子ゴッドフレッド・カーク・クリスチャンセンがワークショップを手伝い始めて以来、レゴ社のシンボルともなってきた木製のアヒルのおもちゃの再現なのだ。 レゴの象徴でもあった木製のアヒルのおもちゃ 3Dプリント技術が老舗玩具メーカーを変革する すでに1960年に製造が終了しているそのアヒルのリメイクは、2020年にすでに行われていた。その際、製造の鍵となったのは3Dプリンターだ。レゴパーツをメインの部品としつつ、それが従来のモデル通り口をパクパクさせて動く機能を備えるためのアクセサリーが3Dプリンターによって出力されたのである。 2022年の今回プレゼントとして作られたのは、組み立て式ではないミニフィグのアヒル。ファンたちはこのサプライズに大興奮の様子で、新しいレゴを予感させるマイルストーンになると噂している。 実はレゴは3Dプリンターにずっと関心を寄せてきており、社内にはAMのチームも組まれている。果たして、今後、伝統と革新がいかに融合していくことになるのだろうか。次の1世紀も変わらずレゴが愛され続けることになるかは、案外、3Dプリンターに掛かっているかもしれない。
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3Dプリント可能なオープンソースのVRヘッドセットが2023年にPrusaよりダウンロード開始
ユーザーが独自にカスタマイズ可能なヘッドセット あのPrusaがオープンソースの3Dプリント可能なVRヘッドセットを作成した。今回、PrusaがコラボレートしたのはVRgineersとソーシャアルアプリの開発で知られるSomnium Space。この新しいVRヘッドセットの名前はSomnium VR ONEとなる予定で、2023年初頭にはPrusaのPrintables.comよりダウンロードできるようになるという。開発の背景にあったのは、VR空間でのカスタマイズが、今日のVR業界にとって優先事項であるという意識だ。ユーザーが購入したハードウェアを完全に自分のものとし、いつでもカスタマイズ、あるいは修理や強化をできる環境を提供するためには、ヘッドセットのパーツの3Dモデルが公開され、一般に利用可能である必要がある。Somnium SpaceのCEOによれば「これはメタバースの自由である」とのことだ。 確かに一般にVRヘッドセットを購入した場合、ユーザーにできることは、説明書通りにそれらを使用することぐらいである。しかし、あらかじめオープンソースに設定されているSomnium VR ONEの場合、ユーザーは独自にヘッドセットをカスタマイズし、またそのためのパーツをダウンロードして3Dプリントすることができるようになる。 2023年に完成版がプラハで発表か 現在、Somnium VR ONEのプロトタイプはすでに作成済みとのことだが、実際に公開されるヘッドセットはまだ製造中の段階にあるという。最終バージョンは2023年頭にプラハで開催される予定のイベントSomnium Connectで発表される予定らしい。 実際の流れとしては、まずPrusaはヘッドセットのプラスチック部品の3Dモデルを配布することになる。これは3Dプリンターで誰もが3Dプリントすることができる。そこにオンライン販売される電子機器と独自のレンズを組み立てることで、Somnium VR ONEとなる。 もちろん、自分で組み立てることが面倒だという方のために、完全に組み立てられたSomnium VR ONEを購入するオプションも用意されるらしい。この場合でも後になってカスタマイズしたければ、独自にカスタマイズが可能な仕様になっている。これまで特に精密電子機器は基本的に「完成品」として販売されるのが常だった。よほどの専門的な知識でもない限り、ユーザーが購入した電子機器を独自に改良するということは考えづらかった。しかし、3Dプリント技術によってその状況が変わりつつある。もはや商品は「完成品」ではないのだ。それは常にプロセスの状態に置かれ、さらなる改良を待ち受けながら存在することとなる。Somnium VR ONEがその旗印となるかもしれない。いずれにせよ、2023年の発表が楽しみだ。
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イタリアのロイヤルガーデンに巨大鯨が出現|金属3Dプリントのクリエイティブな可能性
伝統的な緑のガーデンに海の巨大生物が? イタリアの都市トリノのロイヤルガーデンに巨大鯨が登場して話題となっている。ロイヤルガーデンは16世紀以来、トリノ市民を楽しませてきたクラシックな広場。北イタリアらしいのどかな雰囲気を堪能できる、観光客にも人気のスポットだ。そのロイヤルガーデンで現在行われているのが「Animals at Court」展。広大な庭園に様々な生物を模った彫刻が展示されている。その中でもひときわ目立っているのが、件の巨大鯨像だ。制作したのは、スタジオC&Cのパオロ・アルベルテッリとマリアグラツィア・アバルド。今回、彼らはこの鯨のパスデータをデザイン、さらにそのデータをMX3Dのワイヤーアーク積層造形 (WAAM) 金属3Dプリンターによって出力することで、伝統的な陸の広場に海の主を出現させたという。 金属3Dプリンターが「ものづくリ」を革新する まず驚くべきはその重さだ。この鯨の彫刻は約880キロの重量とされている。あたかも地面が海面であるかのように地中から飛び出しているヒレは、通りすがるものたちを驚かさずにはおかないだろう。 制作者によれば、今回、鯨を制作したきっかけとして、ダイビング中にザトウクジラを目撃したという経験があったという。深海で見た鯨はあたかも金属のように重厚だったという。今回はそのインスピレーションに基づき、実際に金属を用いて大地の鯨を制作したというわけだ。大胆極まりない地上の鯨は、言うまでもなく3Dプリント技術なしには実現しなかった。ブロンズの鋳造は従来とてつもない手間がかかる作業であり、不可能ではないものの、アーティストが巨大作品を生みだすために利用するにはコストがかかりすぎる手法でもあった。 あるいは彫刻といえば、これまではあくまでも手作業によって作られるものというイメージも強かった。しかし、今回のケースで明らかなように、すでに彫刻制作はいわゆる彫刻技術を持たない人々にも開かれようとしている。金属3Dプリンターはいまだ発展途上の分野だ。これまで主に工業用に用いられてきたが、実はこうしたアートの文脈においても様々な活用方法がある。実際ここ数年でそうした事例は格段に増えてきている。おそらく、今後もその活用範囲は拡張していく一方だろう。たとえば経済アナリストたちは、金属3Dプリントの市場規模は2026年までに800億円以上の規模になるだろうと推測している。いよいよ本格的な金属3Dプリント時代が始まるということだろうか。次なるニュースを楽しみに待つとしよう。 関連記事 3Dプリンターは芸術の新時代を切り拓くか? ポストデジタル時代の最先端アート 注目すべき3Dプリンターアートを厳選紹介── オラファー・エリアソンからろくでなし子まで 3Dプリントされた人工の森が「光合成」を起こす|ドバイ国際博覧会で話題のスペインパビリオン
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AIの発達が3Dプリント技術に与える影響とは? 3Dプリンターの第二の夜明け
AIの発達が3Dプリント技術に与える影響とは? AIによる機械学習の可能性については、すでに多くの言葉が積み重ねられている。それは私たちの暮らしを一変させることになるだろう、あるいは少なくとも今よりもはるかに便利で快適な暮らしを提供してくれることになるだろう、云々。 これらは決して誇張ではないだろう。私たちがなんらかの希望を言葉として発するだけで、それが自動的にプログラミングされ、ただちに具現化される日というのは、そう遠くない未来に訪れるはずだ。一方でAIの発達によって不要となる職業も多く生まれるだろうということもまた兼ねてより指摘されてきた。たとえばエンジニアの仕事の一部か大部分は、AIに取って代わられる日が来るかもしれない。もちろん悲観する声ばかりではない。AIの発達はエンジニアの生産性を向上させ、彼らが今よりも快適に働くことのできる環境を提供する可能性だってある。いずれにせよ、それは完全に予測するということができない。技術の進歩が社会にどのような影響を与えることになるのかということについては、いまだ確たる見通しがないのだ。とはいえ、複数の可能性について、今から思弁を巡らせておくことは決して無駄ではないだろう。たとえ的中率は完璧でないにせよ、空模様から明日の天気を予測しておくことが大きな助けとなることだってあるはずだ。たとえば、我らが3Dプリント技術はどうだろうか。ここではAIの発達が3Dプリント技術に与える可能性がある影響について世界的3Dプリントメディア「3D PRINT.COM」の考察を頼りに探ってみたい。 3Dプリンターが真に国民の必需品になる まず「3D PRINT.COM」によれば、AI技術が3Dプリントに与える影響は相当い大きいという。これはほぼ断言に近い。というのも、実際にそうした研究開発がすでに進められているからだ。たとえばAI Buildという企業においては、3Dプリンターのツールパスを最適化するための制御ソフトウェアを開発中だという。これは画像を3Dプリント可能なモデルに変換し、データを生成するために使用されるソフトウェアである。さらに同ソフトウェアが目指しているのは、データに合わせて最適なシステム設定を割り出すことで、現在ユーザーたちが自身で行なっている多くの退屈な作業の軽減することだという。 画像提供/Ai Build 要するに、AIの発達はやがて3Dデータのモデリングを簡易化し、出力設定の煩雑さを免除することになるだろうということだ。これが実現した場合、3Dプリンターは第二の夜明けを迎えることになるだろう。現状で3Dプリンターを正しく使用するには、それ相応の技術と知識が欠かせない。特にモデリングに関してはなかなか素人が手を出しづらいところもあり、この技術的障壁が新たなるユーザーたちの参入を防いでしまっている。しかし、それが著しく簡易化されたら? その時、3Dプリンターは真に国民の必需品へと育っていくはずだ。これだけでもすでにすごい話ではあるが、「3D PRINT.COM」はさらに踏み込んで、将来起こりうる可能性について論じている。いわくAIと機械学習は、人類の「欲望エンジン」とでも呼ぶべきものを形成し、人々が潜在意識において欲望しているものをデザイン、素材、大きさなど様々な面から割り出し、データとして提供してくれるようになるというのだ。新商品の開発のために費やされるマーケティングコストは膨大だ。欲望エンジンの実現はやがてくる未来において、その「無駄」を大幅にカットすることになる。さらにその製造に当たっても、リサイクル可能な材料の選別をはじめ、AIによる最適化が行われる。要はエネルギーを最小限に抑えるためのリサイクルシステムだ。3Dプリント技術はすでにそのシステムの一部として組み込まれていくことになる。このように見てみると、全てがAIによって合理的に管理された超管理社会が到来するかのようにも思えてしまうが、必ずしもその未来をディストピアだと悲観する必要もないだろう。今ある不必要な無駄を削ったからといって、遊びの精神まで抑圧されてしまうわけではない。いや、むしろメリハリをつけて「無駄」を楽しむことのできる社会が到来すると考えることだってできる。もっとも重要なことはいつの日も私たち自身が遊びの精神を忘れずにい続けることなのかもしれない。
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Anycubicが開発中の未来の3Dプリンター「Photon Nex」|徐々にその驚異の全貌が明らかに
謎に包まれたPhoton Nex PhotonシリーズでおなじみのAnycubicが数年前より開発を進めているあるレジン3Dプリンターがある。その名はPhoton Nex。AnycubicいわくSF映画シリーズの「スタートレック」にインスパイアされたというデザインからも分かるように、同社はこのPhoton Nexを未来の3Dプリンターとして位置付け、開発を進めているという。これまで同社はPhoton Nexの情報を小出しにしか公開してこなかった。しかし2022年に入り、Photon Nexは少しずつ、その全貌の輪郭を露わにさせ始めている。9月に入ってからもAnycubicは公式ツイッターにおいて唐突いPhoton Nexのビジュアルを公開した。これは近いうちに何かが起こるのではないかと予感させるムーブだ。俄然、気になってくる。 Nexの革新ポイント そもそもPhoton Nexはどのような点で「未来の3Dプリンター」なのだろうか。世界的3Dプリンターメディアである「ALL3DP」によれば、Photon Nexには少なくとも4つの革新的なポイントが準備されているという。まず一つ目は「速度」だ。同社がPhoton Nexに期待している出力速度は1600mm/h。これは高さ200ミリメートルのエッフェル塔のモデルを7分半で印刷できる速度であり、もし本当に実現したら革新どころの騒ぎではない。現状でその出力速度を裏付けるような機能的説明はないものの、期待値は否応なしに高まってしまう。二つ目は「色」だ。Anycubicが当初言及していたところによれば、Photon Nexはフルカラー3Dプリンターとして想定されている。それもただのフルカラーではない。現実世界そのままの色を精巧に実現する多色3Dプリントの実現が目指されているという。いまだフルカラー3Dプリンターがそれほど一般に普及していない現状を思えば、かなり先進的なヴィジョンだろう。三つ目は「自動レベリング」だ。Photon Nexにはプリントプレートのレベリングが自動で行われるシステムが搭載される予定だという。つまり、Photon Nexにおいてはプリントプレートをレベリングするためにネジをいじって調整する必要がなくなるということだ。これは光造形ユーザーにとっては単純に非常にありがたい話だ。果たしてどうそのシステムを搭載するのかについては、いまだ明るみにされていない。四つ目は「省エネルギー」だ。Anycubicは機能性だけではなく、省エネにも強い意識を抱いている。Photon Nexではなんらかの形でゾーン照射システムが搭載される予定だという。それによって、今までの3Dプリンター以上に消費エネルギーを節約することが目指されている。さらにPhoton Nexには10.1 インチ 8K モノ LCD、自動レジン供給システム、および停電回復機能が搭載される予定だという。端的に言ってすごい。 ...
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色覚異常の治療を前進させる3Dプリント色付きメガネ
私たちは本当に同じ世界を見ている? 唐突だがこの画像を見たことがあるだろうか。 この写真に写ってるボーダー柄のドレス、実は見る人によって全く異なる色として見えることで知られているのだ。おそらく、これをお読みの方の多くは、このドレスが「白と金」のボーダー、あるいは「青と黒」のボーダーに見えていると思う。ちなみに筆者は初見において白と金のボーダーに見えた。正直、これが青と黒のボーダーに見える人がいるということが信じがたい。多分、青と黒に見えてる人もまた同じように思っているに違いない。なぜこのような違いが生じるのかといえば、この画像に対する「光の当たり方の解釈」によって見え方が変わってくるのだという。 なるほど。つまりはこの画像を見た際に、脳が勝手に光の当たり方を解釈し、それによって認識される色が何色かが変わってしまうというわけか。それにしても、なんとも奇妙な気持ちにさせられる。普段、私たちはなんとなしに、同じ人間である以上、みんな同じように世界を見ていると信じ込んでいる。私が赤だと感じている色は誰かにとっても赤に見えているはずだし、その赤は私が感じている赤と同じ赤であるはずだということに、特に疑いすら抱いていない。しかし、このドレスの画像はそうした確信を突如として揺らがせる。もしかしたら、私が赤だと信じ込んでいる色はみんなにとっての赤とは違う色なのかも。そんな疑いにさいなまれてしまう。思えば確かに、動物は種によって視覚が全く違うと言われている。そもそも認知できる色数も異なれば、解像度だってまちまちだ。たとえば猫の目は緑や青は認識できるものの赤を認識することはできないらしい。赤信号でいかに危険を知らせてみたところで、猫の世界には赤という色そのものが欠落しているのだ。 「むぎにゃん毎日猫日記」より画像引用 これはなにも種間関係に限った話でもないだろう。同じ人間であっても、色彩感覚がその種の平均的な感覚から大きく乖離してしまっている人たちもいる。そうした人々は一般に「色覚異常」と呼ばれている。 3Dプリント色付きメガネが色覚異常を補正する 色覚異常には様々なケースがあるが、最も多いとされているのは、赤緑色覚異常だ。程度によって差はあるものの、一般に赤緑色覚異常の方は、赤と緑、橙と黄緑、茶色と緑、青と紫、ピンクと白や灰色、緑と灰色や黒、赤と黒、ピンクと水色などの色を見分けることが、一般的な色覚を持つ人に比べて困難だとされている。 色覚異常の簡易検査に用いられる石原式検査表。正常とされている色覚を持っている人にはドットパターンの中に浮き上がっている数字や文様が認識可能。 こうした色覚異常によって日々の暮らしに生じる困難は様々ある。そうした困難に対処するために現在一般に用いられているのが、色付きのメガネだ。この色付きのメガネを装着すると色覚が補正され、装着していない時に比較して、色の区別が容易になる。ただ、難点もあり、通常、この色付きメガネは個人に合わせてカスタマイズされているわけではないため、装着者によっては不快であったり、あまり効果がなかったりしてしまうのだ。こうした状況を好転しようと動いているのがアブダビのハリファ科学技術大学(KU)の研究チームだ。彼らは3Dプリント技術によって個々人の色覚に合わせてカスタマイズされたレンズを出力することで、それぞれに違和感のない色付きメガネをスムーズに作り出す技術について研究している。 チームによれば、レンズへの色付けは2つの波長フィルター染料を混ぜた透明樹脂を使用して行われるという。2つのうちの1つの色素が患者にとって望ましくない赤緑色の波長をブロックし、もう1つの色素が患者にとって望ましくない黄青色の波長をフィルタリングする。これらのバランスを患者それぞれの色覚に合わせて調整することで、あらゆる人にストレスのない色付きメガネをスピーディーに作ることができるというわけだ。 メガネレンズの3Dプリントは過去にも行われてきたが、色付きメガネのレンズの3Dプリントはこれまでにない全く新しい試みである。加えて、その研究は色覚異常の人々により快適なオプションを提供する可能性がある。研究チームによれば、3Dプリントされたカラーレンズは耐久性も優れているとのこと。これは少しでも早い実用化が期待される。先に触れたドレスの色味の話からも分かるように、周囲と色彩を共有できないという状況は、それだけでも強いストレスが伴う体験だ。3Dプリント技術がそうした状況の改善につながってくれることを願ってやまない。
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3Dプリンターはあと数十年内に死滅すると言われているサンゴ礁を救うことができるか
サンゴの死滅は人類の終焉を意味する? あの静的な見た目ゆえに一般に植物だと誤認されがちだがサンゴとは動物である。つまり、サンゴは生きている。今年の夏も日本の海で「サンゴ礁の白化」が話題となっていたが、この「白化」とはサンゴにとっての死を意味する。今、世界中の海でサンゴが死に絶えていっているということについては、海洋研究者らによってずっと指摘されてきたことだ。サンゴが死ぬことによって生じる最大の問題とは何か。それは気候変動だ。サンゴは進化論学者のリン・マーギュリスによって「ホロビオント」と造語されたような生態系をその身体の周りに形成することで知られている。サンゴは一般にカラフルなイメージを持たれているが、あの極彩色のボディは実はサンゴそのものではなく、サンゴに棲みついている褐虫藻と呼ばれる海洋プランクトンが発する色なのだ。そして、この褐虫藻は海洋内において酸素を作り出す存在として知られている。褐虫藻はサンゴに棲みつくことで生きることができ、またサンゴもまた褐虫藻から送り込まれる栄養で生き永らえることができることから、彼らの関係はシンビオシス(共生関係)とも呼ばれている。さらに、そうした複数の種があたかも一つの生物として存在しているかのように見える様子が「ホロビオント」と呼ばれているというわけなのだ。しかし、気候変動などに伴う海水温上昇などの環境ストレスを受けると、サンゴは自身に棲みついている褐虫藻らを追い出してしまう。これは褐虫藻にとってのみならずサンゴにとっても致命的な振る舞いだ。こうしてサンゴが死に褐虫藻が海中から減少すると、生産される酸素が減少し、それが海水温のさらなる上昇を引き起こす。その水温上昇がさらにサンゴにストレスを与え、どんどんサンゴが死に絶えていってしまうというのだから、これは完全に負のスパイラルだろう。 とりわけ話題となったのは2015年から2016年にかけての記録的な海水温の上昇によって世界遺産であるグレートバリアリーフの90%を超えるサンゴが白化するという壊滅的な被害が報告されたことだ。このペースでサンゴの白化が進めば数十年後には世界のサンゴ礁は完全に消滅してしまうとも言われている。そしてそれは人間が現在のように快適に暮らすことのできる地球環境の終焉をも意味しているのだ。 3Dプリンターを駆使して過酷な環境でも生存可能な新種のサンゴを こうした状況をどうにか変えなければならない。そのためにも現在、世界中の研究者たちがサンゴ礁の再生のための研究を続けている。しかし、どうすればいいのか。注目を集めているのが新種のサンゴをラボで育てて、海洋に新たなホロビオントを形成するという方法だ。 たとえば、米国海洋大気協会(NOAA)の科学者たちは、Formlabsの3Dプリンターを使用して、海洋の変化する条件によりよく耐えることができるような回復力を備えた新種のサンゴを育成している。NOAAのチームは革新的な方法を利用して、野生のサンゴを調査し、制御されたラボ環境で特定の条件を再現、それによって新種のサンゴを育成し、それらを海に放つことで多くの生物たちが住まう「海の生息地」を回復しようとしている。 これは野生生物の保護のために彼らの生息地である森林を再生するというのと同じ発想だ。先述したようにサンゴはプランクトンや魚を始めとするその他の海洋生物にとっての貴重な生息地である。新種のサンゴとはつまり、こうした多くの海洋生物たちから失われた「家」を、あらためて建設する試みだと言えるだろう。 実際にNOAAが行なっているのは、より極端な海洋環境で繁栄するサンゴの特徴を特定するために、火山噴火口の近くなど、より酸性化した海で現在繁栄しているサンゴを探査し、彼らの特性をサンプリングすることで、現在の海水温においても生存可能なサンゴを育成することだ。その際、探査や育成に使用する多くのマシンのパーツは3Dプリント製だという。これらのパーツは過酷な海洋条件に耐える防水部品でなければならず、通常の製造方法だととても費用がかかってしまうというが、3Dプリンターを用いることでおよそ1/5程度まで費用を抑えることができるそうだ。 画像:NOAA/AOML また、NOAAの他にも注目すべき研究は多い。たとえばカリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD) のナノ工学科の海洋生物学者Daniel Wangpraseurtによって行われている研究では、より直接的に3Dプリンターが活躍している。彼らはバイオプリンティング技術を使用し、バイオニック3Dプリントされたサンゴを開発している。これらの3Dプリントサンゴもまた海洋生物たちの新たな「家」つくりを目指されて行われているものだ。 Daniel Wangpraseurtによってバイオニック3Dプリントされたサンゴ サンゴ礁を再生して孫世代においても人類が生存することのできる地球環境を もちろん、これはそれほど簡単なことではない。様々な研究チームの努力にも関わらず、まだ将来についての希望的観測を行えるほどの大きな状況の改善は見られておらず、世界中のサンゴ礁(並びにホロビオント)は減少の一途を辿っている。 繰り返すようにこれは決して他人事ではなく、サンゴ礁の命運は、私たちが暮らす世界において生じている「気候変動」の行く末にも直接関わる問題であって、「ああ、サンゴがなくなっちゃうのか」なんて悠長に構えていられる問題ではないことを忘れてはならない。今後、私たちがサンゴ礁を再生し、私たちの孫世代においても人類が生存することのできる地球環境を維持することができるかは、3Dプリント技術にかかっているのかもしれない。
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複雑な形状の氷を3Dプリントして鋳型をつくる「アイスキャスティング」法とは? 溶解でも焼結でもない「氷結」という新たな発想
溶解でも焼結でもなく「氷結」 3Dプリントの素材は数多ある。樹脂、金属、樹木、あるいは繊維や食品、さらには細胞まで、3Dプリンターにかかればなんでも造形素材として用いることができる。そんな中、意表をつくような素材を使ってこれまでにない複雑な微細構造を造形する新しい方法が開発された。気になるその素材とは、他でもない「氷」だ。今回、3Dプリントされた氷を使用して複雑な微細構造を造形する技術を開発したのはカーネギーメロン大学の研究チーム。なんでもこの技術の成熟によって、医学や生物工学、さらには商品製造や芸術制作における多くの進歩が達成される可能性があるとのことだ。彼らの研究している方法いついては科学ジャーナルメディアである「Advanced Science」に詳述されている。基本的には水をインクとして押し出すインクジェットプリンターを使用し、それらの水が直接氷となって、さらにその氷を樹脂が包み込むという形らしい。樹脂に閉じ込められた氷はやがて溶け出して水となり、それらが取り除かれることで、氷が立っていた経路のみが残るという形だ。 プリンターは水滴を温度制御されたプラットフォーム(-3℃)に落とすことで即座に凍らせていく。水が素材として変幻自在な流体性を持つことは言わずもがな。今回の研究発表においてはこの特性を利用する形で、螺旋型やタコなど、滑らかな流線を持つ構造を連続的に印刷して見せている。 何より特筆すべきは、氷が自然に溶けるため、鋳造後に内部構造を簡単に除去できるという点だろう。これはアクセサリーやジュエリー制作におけるロストワックス(鋳型製造)を行う上で、非常に大きな利点になる。なおかつ水の特性を利用すれば、今までであれば困難だった微細な構造も実現することができる。現状ではまだ開発過程とのことだが、この「アイスキャスティング」が一般に実装された場合、様々なものつくりの現場で大いに役立っていくだろうことは間違いない。熱で樹脂を溶かすでも、粉末を焼結するでもなく、水を氷結させるというのが新しい3Dプリントのモードということか。年々猛暑化する世界においてなんとも涼しげな話だ。今後の発展に期待したい。
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3Dプリント自動車が当たり前の時代は目前!? 過去数年間の事例をピックアップ
とどまることを知らない自動車産業の3Dプリント化 自動車製造業界において3Dプリンターがなくてはならない存在になって久しい。いまや、業界を代表するほとんどのメーカーは、自社の自動車の部品の一部から大部分を3Dプリンターに頼っている。多くのメーカーは、自動車の部分に応じて使用する3Dプリンターを使い分けている。たとえばプラスチック部品であればFDM、金属部品であればSLMといった具合に。なぜ自動車業界が3Dプリント技術を積極的に導入しているのか。まずコストの削減があるだろう。3Dプリンターを用いれば、最小限のコストで必要な部品を必要なだけ製造することが可能になる。たとえば、これまでであればコスト高であった少量生産も3Dプリント技術を用いれば比較的に容易になる。あるいは自動車のフレームの造形などに関しては3Dプリント技術を用いればこそ可能となるフォルムも存在することだろう。おそらくこの先10年で自動車業界の3Dプリント化がさらに推し進められることになることは間違いない。果たしてどんな3Dプリント自動車が先数年で登場することになるのだろうか。それについてを想像するために、ここでは過去数年間で製造された3Dプリント自動車の中から、特に注目すべき5台の自動車を紹介したい。 1.デヴィッド・ボウイへのオマージュカー これは2019年にあるフェスティバルで発表され、初のフルスケールの3Dプリント自動車として話題となった一台だ。日本人の自動車デザイナーである山本拓実が作成し、イスラエルに拠点を置く3Dプリント企業であるMassivit3Dによって製造されたこの自動車は、同時にあのデヴィッド・ボウイへと捧げられたオマージュカーでもあった。大判3Dプリントを活かしたこのフォルムは、まさに3Dプリンターの本領発揮ともいうべき流線の美しさを備えている。実際いこれを公道で走らせるとなると、やや目立ちすぎるし車高も低すぎる気がするが、3Dプリント自動車の夢を感じさせてくれるという点では触れずにはいられない。 2.夢見る親子によるランボルギーニ・アヴェンダドール 実はこの車については以前にも記事で紹介したことがある。 3Dプリンターでランボルギーニを一般人が自作!? さらにはプリントしたボディを取り替え可能な未来型自動車も登場 この車は米国コロラド州のレーザー技術メーカー、KMLabsの最高科学責任者であるスターリング・バッカス氏とその12歳の息子によって作られた、ランボルギーニ・アヴェンダドールだ。なんでも、この親子、レーシングゲームの「Forza Horaizon3」をプレイしたことを機にランボルギーニに一目惚れしてしまったのだとか。その後、親子二人は仕事終わりの1時間を使い、息子と地道な作業を続けた結果、およそ1年4ヶ月で、ランボルギーニの外装を作り出すに至ったという。予算はおよそ2万ドル。普通に買えば数千万円かかると思うと、かなりお得(?)だ。いずれにせよ、3Dプリント技術の根幹にはこうしたDIY精神の存在が欠かせない。皆さんにも是非とも挑戦してみてほしいところだ。 3.幻のクラシックカー「ラストン・ホーンズビー」 3Dプリント技術の強みは、すでに製造ラインが止まってしまった製品のパーツも出力が可能な点にある。たとえばクラシックカー。中でもこのラストン・ホーンズビーは、製造時期がわずか5年、加えてもとより少量しか生産されていなかった幻の車だ。もちろんマニアなオーナーは存在した。しかし、100年前の車である。各部にガタがきているのは当然だった。しかし、スペアパーツはもはや存在しない。そこを補ったのがSiemens UKだった。Siemens UKは試行錯誤の末、、SLMテクノロジーによって2016年にパーツを正確に再現することに成功。かくして、幻のクラシックカーがここに再び蘇った。つまり、なにも新しいモデルを3Dプリントするばかりが能ではないということ。次にその眠りから目覚める幻のクラシックカーは一体どれだろうか。 4.150以上の部品が3Dプリンターで作られたシンガポール発の電気自動車 シンガポールの南洋理工大学の学生によって2015年に製造されたNanyang Venture VIIIは、アウターシェル、グリル、ドアクラッチなど150以上のパーツが3Dプリント製の電気自動車だ。そもそも大型オブジェクトを製造する際の3Dプリント技術の可能性の実証を目的に取り組まれたプロジェクトといいうこともあり、可能な限り3Dプリンターで出力することが試みられた。個々の顧客のニーズに合わせて上部ボディまたは運転席をカスタマイズできるマイクロカーコンセプトが採用されているのも注目点。3Dプリンターを用いる利点はそのカスタマイズしやすさにあるのだ。遠くない将来、世界の道路は色とりどりのカスタマイズ3Dプリントカーで埋め尽くされるようになるかもしれない。 5.いまやイタリアでは一般的!? 3Dプリント電気自動車「YoYo」 最後はすでに一般販売され、イタリアでは各都市で普通に見かけるという3Dプリント電気自動車Xev「YoYo」だ。そのボディは3Dプリンターで成形されており、長さ2500mm、幅1500mm、高さ1575mm、総重量が750kgで、軽自動車クラスのL7セグメントに分類されるコンパクトな自動車となっている。2人乗りという制約はあるものの、小回りのいいサイズ感で都市の交通には最適。デザインの自由度も高く、また部品点数が少ないため、低コストで製造できる点も現代的だろう。バッテリーは交換式で価格も100万円前後とお手頃、さらに安全性も抜群とのことだ。すでにイタリアでは普及しており、カーシェアリングにも導入されているという点で、その将来性も感じさせてくれる。今後どんどんとこうした3Dプリント自動車が登場してくることは間違いない。日本のメーカーの飛躍を期待したい。
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