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福箱2026シリーズ販売のお知らせ
福箱2026シリーズ 2026年のスタートを全力で楽しむ、数量限定の超お得セット。 3Dプリントユーザーのために用途別で用意した【フィラメント】【スタンダードレジン】【水洗いレジン】の3種類の福箱です。 さらに本シリーズでは、一部福箱に3Dプリンター本体が当たるチャンスもご用意。 消耗品だけでなく、大きなサプライズが入っている可能性があります。 初心者からヘビーユーザーまで、開けた瞬間から制作意欲が爆上がりする内容になっています。 フィラメント福箱2026 限定150箱|7,500円(税込) 「とにかく色々なフィラメントを試したい!」という方に向けた、大満足の福箱。 実用造形から趣味造形まで幅広く使えるフィラメントを、ランダムで詰め込みました。 特長 扱いやすさと造形精度のバランスが良いフィラメントを厳選 通常価格を大きく下回る福箱限定価格 初心者から上級者まで使いやすい内容 未発売の新フィラメント製品が先行で入る可能性あり A1 Combo(3Dプリンター本体)が当たる可能性あり こんな方におすすめ フィラメントを日常的に使う方 安定した出力品質を求める方 ※内容・カラーはランダム封入となります。 水洗いレジン福箱2026 限定500箱|10,000円(税込) 後処理の手軽さを重視する方に大人気の水洗いレジンを中心にした福箱。 アルコール不要で洗浄でき、作業環境を選ばないのが最大の魅力です。 特長 水道水で洗えるため後処理が簡単 室内作業・初心者にもやさしい 大容量&高コスパの数量限定セット SATURN4ULTRA16Kなど(3Dプリンター本体)が当たる可能性あり...
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折り紙×3Dプリントが開くデザインの新境地
3Dプリンターで製作された折り紙デザインが注目されている。ヘッダー画像は海外クリエイターのマシュー・リム氏が手掛けたモデルだ。伝統的な折り紙の技術を取り入れ、平面に印刷した部品を折り曲げて立体化している。こうした「3Dプリント折り紙」のアプローチが、今デザインやエンジニアリングの分野でじわじわと注目され始めている。 ここ10年ほど、折り紙(紙を切り込みながら折る「切り紙」を含む)と3Dプリンターの融合は、技術者やデザイナーの間で注目されてきました。紙を折って複雑な形状を生み出す折り紙の原理を、樹脂やプラスチックの3Dプリントに応用すれば、新しい動く構造部品や効率的なパーツ設計が可能になります。折り紙は平らな状態から始めて折ることでかさ高い立体を作るため、この手法を使えば3Dプリントでも、まず平面状に素早く部品を成形し、それを折りたたむことで大きく複雑な形を安価に生み出せるのです。 例えば、NASAでは六角形の折りたたみ構造の「宇宙布」を3Dプリントで実現する試みがあり、他にも折り紙に着想を得たロボットアームや医療デバイスなど、さまざまな研究プロジェクトが登場しています。しかし、デスクトップ型の3Dプリンター愛好家たちのコミュニティでは、折り紙的なアプローチはあまり一般的ではありません。折り紙風の見た目を模倣した造形物は散見されるものの、実際に折り畳める構造としての活用例はごく限られていたのです。 3Dプリント折り紙に挑むマシュー・リム氏 そんな中、折り紙×3Dプリントの可能性を本格的に探求している一人のメイカーが注目を集めています。それがYouTuberとして活動するマシュー・リム氏です。 リム氏は自身のYouTubeチャンネルで、折り紙の折り目パターンを組み込んだ薄いシート状の3Dプリント作品を数多く公開しており、平面から折り上げることで美しいランプやギミック満載のガジェット、さらには立体映像ディスプレイのような独創的モデルまで作り出しています。一見シンプルな形状にも細部まで研究と工夫が凝らされており、その完成度の高さに驚かされます。 しかし、こうした地道で凝った制作は、現代のSNSでバズを狙う手法とは対極にあります。リム氏のYouTube動画は数万~数十万回程度の視聴を集めていますが、派手な企画や大量生産的なコンテンツに比べれば再生数は控えめ。 それでも彼は、自らのペースでじっくりと作品作りに取り組み、独創的なアイデアを形にし続けています。そして、その活動を支えるために活用しているのがPatreon(パトレオン)というクリエイター支援プラットフォームです。リム氏はPatreon上で支援者向けに、自身がデザインした折り紙モデルの3Dデータ一式(STLファイル、CADモデル、プリント設定情報や組み立てガイドなど)を提供しています。だいたい数千円程度の料金で作品ごとのデータパックを購入でき、月額制プランで定期的に新作データを入手することも可能です。このように少数の熱心なファンに支えられながら、自分の好きなニッチ分野を追求するスタイルは、一つの新しいビジネスモデルと言えるかもしれません。 リム氏が最近発表した作品には、双曲放物面を活用した薄膜構造「ハイパーボリック・パラボロイド」や、放射状の折り目でコンパクトに畳める「サテライト・フラッシャー」、格子状の折り目が踊るように動く「ウォーターボム・テセレーション」(水爆弾折り紙のタイルパターン)、ばねのように弾性を持つ「クレスリング・スプリング」などがあります。さらに、伝統的な折り紙の鳥であるパハリータ(スペイン語で“小鳥”を意味するモデル)の3Dプリント版など、ユニークなラインナップが揃っています。これらはいずれも折り紙特有の折り畳み原理を活かしたもので、STLデータからプリント設定、組み立て方まで情報が網羅されており、作り手にとって至れり尽くせりの内容になっています。現状ではこのPatreon経由の活動から大きな収益が出ているわけではないようですが、リム氏の試みは他のクリエイターたちを触発するかもしれません。 実際、海外のテーブルトップゲームやミニチュアフィギュアの世界では、デジタル造形データのサブスクリプション提供によって毎月数千ドル(数十万~数百万円規模)を稼ぐクリエイターも出てきています。しかし折り紙×3Dプリントのように比較的新しく多彩な分野で同じことをするのは簡単ではありません。だからこそ、リム氏のような先駆者の存在が貴重なのです。 折り紙×3Dプリントの未来 リム氏のデザインは、例えば折り畳み式のケースや収納ボックス、携帯しやすいライトやギミック玩具など、様々な製品への応用の可能性も秘めています。伝統的な折り紙の知恵と3Dプリントの技術が交差するところには、まだ誰も開拓していないアイデアの宝庫が広がっていると言えるでしょう。平面にプリントした安価な部品を組み合わせて、必要に応じて形を変えられる大きな構造体を作る――そんな発想は新しいビジネスの種にもなり得ますし、折り紙の原理が難しい工学的課題を解決する鍵になる可能性もあります。 折り紙と3Dプリントという、一見異なる伝統と先端技術の融合が生み出すクリエイティブな潮流。マシュー・リム氏の活動はその序章に過ぎません。この分野がこれからどのように発展し、私たちのデザインやものづくりの常識を変えていくのか――未来への想像がふくらみます。みなさんもぜひ、この新たなデザイン革命の行方に注目してみてください。
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3Dプリンター×レーザー調理でフルコースを実現!コロンビア大学研究チームの挑戦
3Dプリンターで食品を成形し、レーザーで焼き上げてフルコース料理を完成させる――まるでSF映画のような実験が米コロンビア大学で行われました。研究チームは前菜からデザートまで3品揃ったディナーを作り出すことに成功。その料理は見た目も食感も、従来の調理に迫るクオリティだったとのこと。フード3Dプリンティングの最前線を紹介します。 驚きの3Dプリント料理フルコース 今回試みられたのは、3Dプリントとレーザー加熱で調理されたフルコース料理です。使用した食材は日常的に手に入る14種類で、以下の3品が提供されました。 キッシュ風タルト(前菜) – 卵や野菜を使ったタルトで、まるで本物のキッシュのような見た目と味わい。 カリフラワーピザ(メイン) – カリフラワー生地のヘルシーピザで、チーズやソースもしっかり焼かれています。 キーライムパイ(デザート) – ライム風味の爽やかなパイで、表面の焼き色まで再現されています。 どの料理も、一見すると普通にキッチンで作られたかのような仕上がりです。3Dプリンターで材料を細かく積み重ね、その場でレーザー照射によって焼き目や食感をつけることで、フルコースの一皿一皿を完成させたとのことです。 「本物の食感」再現の難しさ フード3Dプリンター自体は以前から存在しますが、「本物の食感」を再現することが大きな課題でした。従来の3Dフードプリンターでは、ペースト状やピューレ状の材料を層状に積み上げて形を作ります。しかし調理工程が難点でした。例えばオーブンで焼こうとすると、食材全体が一様に加熱されてしまい、細かな部分ごとの火の通し加減を調整できません。その結果、見た目や歯ごたえが単調になりがちで、手作りの料理のような食感からは程遠かったのです。 今回のコロンビア大学のチームは、この「食感のギャップ」を埋めることに挑戦しました。ポイントは調理プロセス自体をデジタル制御すること。印刷と加熱を別々ではなく一体化することで、素材ごと・部位ごとに理想的な調理加減を追求する。そのための鍵となったのがレーザー調理です。 レーザー調理が可能にした精密加熱 研究チームは3Dプリンターにレーザー調理機能を組み込み、印刷しながら同時に加熱する新手法を開発しました。レーザー光の波長や出力を調整することで、印刷した食品の特定部分だけをピンポイントに加熱できます。 例えば、タルトの表面だけを香ばしく焼き色を付けつつ、中は柔らかく仕上げる、といった芸当も可能です。複数の波長のレーザーを使い分けることで層ごとの火の通り具合を精密に制御し、狙った食感(サクサク感やしっとり感など)を実現しました。 レーザー調理の利点は、食品の形を保ったまま部分的に調理できることです。従来のオーブンでは全体が加熱されるため形が崩れたり乾燥しすぎたりする恐れがありますが、レーザーなら狙った部分以外は加熱しないため、見た目の美しさも損ないません。その結果、3Dプリントで細かく造形した料理に、人の手で作ったような質感と風味を与えることができたそうです。 前回はデザート、今回はフルコース 実はこの研究チーム、以前にも7種類の材料を使った3Dプリントのデザート作りに成功しています。2023年にはピーナッツバターやジャムなど7つの食材ペーストを重ねてチーズケーキを再現し、レーザーで焼き目を付けて仕上げる実験を行いました。しかし前回は甘いデザート一品のみ。そこで今回はスケールアップを図り、素材も倍の14種類に増やして前菜・メイン・デザートのフルコースに挑戦したのです。 フルコースを成立させるには、前菜や主菜、デザートそれぞれ異なる食品を調理する必要があります。例えばタルト生地とピザ生地では必要な火加減も異なりますし、デザートではまた別のテクニックが求められます。そうした多様な料理を一度に3Dプリント&調理できたことは、フードテック分野でも画期的な一歩と言えるでしょう。 前回のデザート実験が「材料を積層して形を作る」ことに重点があったのに対し、今回は「どう焼いて美味しくするか」まで踏み込んで達成。大きな進展です。 栄養管理とパーソナライズの可能性 今回の成果は単に珍しいガジェット的な話題にとどまりません。研究チームは、デジタル技術を使った調理が人々の食生活に新たなメリットをもたらすと強調しています。 調理プロセスがデータで管理できるため、何をどれだけ使ったかがすべて記録可能です。言い換えれば、カロリーや栄養素の情報を正確に把握・追跡しやすくなるということです。自分が食べているものの中身がはっきり“見える化”されることで、より意識的な食習慣につなげられるでしょう。 さらに、料理をデータ化してしまえば個々人に合わせたレシピのカスタマイズも容易になります。たとえば糖質制限中の人向けに糖質を抑え高タンパクな材料だけで料理をプリントしたり、アレルギーを持つ人のために特定の成分を除いたメニューを用意したりと、一人ひとりのニーズに合わせた“オーダーメイド食の提供にも役立つはず。開発者のブルティンガー氏も「ソフトウェアと料理を組み合わせることで、信じられないほど個人に合わせた調整が可能になる」と述べており、将来的なパーソナライズ栄養の可能性に言及しています。...
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あのYo-Yo Maも絶賛!カーボン×3Dプリントで生まれた新世代チェロ
木材ではなく3Dプリンターでチェロを作ったら? そんな挑戦が現実となり、世界的チェリストも絶賛する新しいチェロが誕生しました。この3Dプリント製チェロを開発したのは、米国のスタートアップ企業Forte3Dの共同創業者、アルフレッド・グッドリッチさんとイライジャ・リーさんです。 パーツの大部分を3Dプリンターで成形 この革新的なチェロは、カーボンファイバーとポリマー素材を組み合わせて作られています。表板と裏板には平らなカーボンファイバーパネルを使用し、側板やネック、渦巻き部分は3Dプリンターで成形。さらに音響品質を保つため、魂柱や指板、駒といった従来の木製パーツもそのまま残されています。 そもそもの始まりは、グッドリッチさんが高校のオーケストラ指導者としてリーさんを教えていたことから。指導の一環として、3Dプリンターで楽器を作ってみようと声をかけたのがきっかけでした。 木製チェロは高価(通常5千ドル以上)で壊れやすく、温度や湿度にも敏感。こうした課題をテクノロジーで乗り越えようと、彼らは自宅に特注の大型3Dプリンターを設置し、数百回に及ぶ試作を重ねてきたそうです。 アメリカの人気投資番組で出資を獲得 そしてついに、6年の歳月を経て完成したForte3Dのチェロは、アメリカの人気投資番組『シャーク・タンク』に登場。番組内で見事25万ドルの出資を獲得しました。このチェロの音色とデザインは、あのYo-Yo Ma氏やザ・ピアノ・ガイズといった著名音楽家たちからも高評価を受けているそうです。 現在、Forte3Dはチェロだけでなく、バイオリンやビオラの3Dプリント楽器も展開中。特に、予算の限られた学校や音楽を学ぶ子どもたちにも届くよう、手頃で壊れにくい楽器の提供を目指しています。 理念は「音楽は誰でも楽しめるべき」。3Dプリンターが音楽の新時代を切り開く一助となるなら幸いです。
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新しい幾何学モデル「ソフトセル」が魅せた奇跡──宇宙で実施された実験が話題に
2024年に発表された新しいタイプの幾何学モデル「ソフトセル」が、今、宇宙で注目を集めています。角もまっすぐな線も持たないこの不思議なカタチが、国際宇宙ステーション(ISS)で行われた実験で予想を超える驚きの結果を見せました。 この研究は、イギリス・オックスフォード大学とハンガリー・ブダペスト工科経済大学の共同チームが開発したもので、ソフトセルは「空間を埋めることができるのに角がない」という、従来の立体形状とは一線を画す存在。中でも「f2」と呼ばれるバリアントは、まるでシャボン膜がワイヤーフレームに張られたような、曲面で構成されたミニマルサーフェス(最小曲面)を特徴としています。 実験はISSで──重力のない空間が生んだ「見たことのない水の形」 ハンガリーの宇宙計画「HUNOR」は、このf2の形状を活かした構造体をISSへ持ち込み、無重力空間で中に水を満たす実験を提案。これは2024年末のAxiom-4ミッションの一環として実現し、宇宙飛行士・大西卓哉氏やハンガリーのティボール・カプ飛行士らが、軌道上で最終調整を行いました。 その結果は、科学者たちの予想を上回るものでした。地上では重力に邪魔されて不可能な“完璧なカーブ”が、宇宙では水の表面張力だけで自然に形成されたのです。この様子は、ソフトセルが持つ幾何学的な可能性と、美しさを物理的に証明した瞬間とも言えるでしょう。 謎の形はどうやって作られた? 具体的な製造方法は公表されていませんが、これほど複雑な形状を高精度かつ効率的に作るには、3Dプリンティング(積層造形)が有力だと考えられています。実際、ISSでは以前から様々な実験用パーツを3Dプリントで作っており、今回のプロトタイプにも応用された可能性が高いと言われています。 生物から建築まで──ソフトセルがもたらす未来 オックスフォード大学数学研究所は、今回の成果が「生体組織に見られる複雑な構造の理解」だけでなく、「未来の建築やデザインにおける“角のない構造体”の可能性」を示唆すると述べています。四角や三角といった基本形に縛られない新しい空間のデザイン──それが、この小さなソフトセルから始まろうとしています。
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米国で「3Dプリントされたチキン」噂が拡散、キャンベル社が公式否定
米国で大手食品メーカーのCampbell’s(キャンベル)社が、思わぬ噂に揺れています。 発端は2025年11月下旬、同社の元幹部社員が秘密裏に録音された会話の中で、同社製スープについて辛辣な発言をしたことです。その元幹部(IT部門の副社長だったMartin Bally氏)は、部下だった元社員との雑談中に、自社の缶スープ製品を侮辱する言葉とともに「スープに入っているチキンは3Dプリンターから出てきたものだ」と語りました。 録音には「うちの製品なんて貧乏人向けのxxxだ。何が入ってるか知った今となっては健康的じゃない。缶スープを見てみろ、バイオエンジニアード(遺伝子組み換えの)肉が入ってるんだ。3Dプリンターから出てきたチキンの一片なんて食べたくない」といった趣旨の暴言が残されていたのです。 この会話は解雇された元社員によって録音・公開され、現地テレビ局の報道をきっかけにインターネット上で瞬く間に拡散しました。特に「3Dプリンターで作られたチキン」というショッキングなフレーズが注目を集め、多くの人々が「キャンベルのスープには人工的なチキンが使われているのではないか?」と憶測し、米国のSNSやニュースで話題となりました。 公式声明「使用しているのは100%リアルな鶏肉」 この騒動を受け、Campbell’s社はすぐに公式声明を発表しました。同社は問題の発言者が実際にBally氏であることを確認した上で、その内容について「事実無根であり非常識だ」と強く非難し、当該人物を既に社内から排除したと明らかにしています。また同社は、自社製品の原料に関する事実を以下のように示し、広まった噂を公式に否定しました。 キャンベルのスープに使用している鶏肉は、長年取引のある米国農務省(USDA)認定の信頼できるサプライヤーから仕入れた100%本物の鶏肉です。抗生物質不使用(No Antibiotics Ever)の基準を満たした鶏肉のみを使用しています。 3Dプリント肉(3Dプリンターで人工的に作られた肉)や培養肉(細胞培養によって作られた肉)など、人工的に作られた肉は一切使用していません。 声明では「当社の食品に対して録音内で述べられたコメントは全くの不正確さに基づくもので、しかも馬鹿げています」として、同社製品の品質と安全性への信頼を呼びかけました。問題の発言を行った人物が食品製造には無関係なIT担当者であったことにも触れ、「当社のスープには昔からリアルな鶏肉を使用しており、我々はその高品質な原材料と商品づくりに誇りを持っている」と強調しています。 なお、米国のキャンベル製品ラベルに表示されている「バイオエンジニアード食品(bioengineered food)」という表記について、同社は「遺伝子組み換え農作物由来の原料を使用していることを示すもので、肉が人工的に作られているという意味ではない」と補足説明しています。今回の件では、この「bioengineered(バイオエンジニアード)」という言葉も誤解を招いた可能性があります。 そもそも3Dプリント肉・培養肉とは? 技術の現状 今回キーワードとなった「3Dプリントされた肉」や「培養肉」とはいったいどのような技術なのでしょうか。培養肉とは、動物の細胞を培養して人工的に増やし、食用の肉を作る技術です(「ラボ培養肉」や「人工肉」とも呼ばれます)。例えば鶏の細胞を取り出してタンク内で増殖させ、屠殺せずに鶏肉を得るという発想で、環境負荷の低減や将来的な食糧問題の解決策として注目されています。 世界ではシンガポールが2020年に世界で初めて培養チキンの販売を承認し、米国でも2023年に規制当局が一部の企業(Upside Foods社やGOOD Meat社)に培養肉の提供を認可しました。ただし、現時点では生産コストが非常に高く、ごく少量が試験的に提供されているに過ぎません。多くはレストランでの限定提供や試食会レベルにとどまり、市販のスーパーや缶詰製品に入るような大規模生産には至っていないのが実情です。 一方、3Dプリント食品とは、3Dプリンター(樹脂や金属の代わりに食品素材を“インク”として用いる特殊なプリンター)で食べ物を成形する技術です。近年、この応用によって代替肉(植物由来の原料や培養細胞のペースト)をステーキのような塊状に「印刷」する試みが進められています。例えば、イスラエルの企業が植物性タンパク質を使った3Dプリント・ステーキを試作したり、スペインのスタートアップが培養細胞を用いて厚みのある肉片を作り出した例があります。こうした3Dプリント肉は確かに実在しますが、まだ研究段階か初期の商業化段階であり、一般に流通しているものではありません。食品としての安全性や味の評価もこれからの課題であり、多くの国では規制の枠組みの中で慎重に少量生産が行われているのが現状です。 要するに、2025年現在、3Dプリンターで作った肉や培養肉が私たちの身近な食品に当たり前に使われている状況にはなく、その技術による製品提供は限定的な実験段階にとどまっています。まして、キャンベルのような大手食品メーカーが日常的に販売する缶スープにこの種の最先端技術の人工肉を紛れ込ませている、といったことは考えにくいと言えるでしょう。 話題になった理由は「新技術への関心と誤解」 ではなぜ、今回のような発言がこれほどまで注目を集めたのでしょうか。その背景には、食品に関する新技術への一般の関心と理解不足があると指摘されています。 3Dプリント肉や培養肉といった言葉は近年メディアで取り上げられ、耳にしたことがある人も増えてきました。しかし具体的にそれが何で、どの程度実用化されているかについては誤解も多く、漠然と「人工的で奇妙なもの」「知らないうちに食卓に紛れ込んでいるかもしれない」という不安を抱く向きもあります。 そんな中で飛び出した「缶スープのチキンは3Dプリント製」という元幹部の暴言は、その都市伝説めいた衝撃的な内容も相まって瞬く間に拡散しました。実際には根拠のない発言でしたが、一部では「大企業が消費者に隠れて人工肉を使っているのではないか」という疑念を呼び起こし、SNS上ではそれを巡って議論や批判が噴出したのです。また、米フロリダ州では培養肉の製造・販売が州法で禁じられていることもあり、この噂を受けて同州司法長官が「事実なら法違反の可能性がある」としてCampbell’s社に対する調査を表明する事態にも発展しました。こうした行政レベルの反応も報じられたことで、さらにニュースとして大きく取り上げられる結果となりました。 専門家は、この出来事について「新しい食品技術が一般に浸透する過程で起こる混乱の一例」とみています。技術そのものは徐々に進歩しているものの、その実態が十分に共有されていないため、断片的な情報や噂が独り歩きしやすい状況です。一度広まった誤情報を完全に払拭するのは容易ではありません。企業にとっては消費者の信頼を守るため、新技術に関する透明性ある情報発信と迅速な対応の重要性が改めて浮き彫りになったと言えるでしょう。 参照リンク ABC News:...
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空中に直接3Dプリント!?サポート材なしで熱硬化レジンを造形する新技術
3Dプリンターで複雑な造形をするとき、サポート材を使うのが一般的です。とくに光造形方式(SLA/DLP)のレジンプリンターでは、液体の樹脂を紫外線で硬化させる際に、出力中のモデルを下から支える支柱(サポート)が必要になります。 このサポート材は造形物が重力で垂れ下がったり変形したりしないよう支える重要な役割を果たします。しかし、出力が終わった後にはサポート材をニッパーなどで一本ずつ切り離し、その跡をヤスリで磨いたり塗装したりする必要があり、後片付けがとても大変です。加えて、樹脂プリントでは造形後にアルコール洗浄で未硬化の樹脂を落とし、さらに追加のUV照射で二次硬化する処理も必要になるなど、後処理工程が煩雑になりがちです。こうした手間は、光造形3Dプリンターのデメリットとしてよく挙げられています。 さらに従来の方法では、熱硬化性( thermoset )レジン素材の3Dプリントも困難でした。熱硬化性レジンとは、エポキシやシリコーンのように加熱や化学反応で硬化し、一度硬化すると再び溶かせない熱硬化性材料のことです。これらは硬化するまで形を保てないため、プリント中に必ず他の構造で支えてやる必要があり、結局サポート材の使用と除去が避けられません。また熱硬化性レジンは硬化に時間がかかることも多く、造形を完了するまでに長時間の待ち時間が発生するケースもあります。つまり、「レジンプリント=サポート材&面倒な後処理はつきもの」という課題があったのです。 レーザーで瞬時硬化!新方式「Direct Ink Writing + レーザー硬化」とは こうした課題を解決すべく、中国の厦門大学(Xiamen University)と米国カリフォルニア大学バークレー校の研究チームが、新しい3Dプリント手法を開発しました。この手法は「ダイレクトインクライティング(Direct Ink Writing, DIW)」という3Dプリント方式にレーザーによるその場硬化(in situレーザー硬化)を組み合わせたものです。研究成果はNature Electronics誌に掲載されており、タイトルは「Laser-assisted direct 3D printing of free-standing thermoset devices(レーザー支援による自由立体熱硬化デバイスの直接3Dプリント)」です。 具体的には、ノズルから押し出した液状の熱硬化性樹脂インクに対し、赤外線レーザー(波長1064nm)を集中的に照射します。レーザー光がインクを瞬時に加熱し、樹脂の架橋反応(硬化反応)を引き起こします。その結果、0.25秒以内という極めて短時間でインクが固まり、糸状に出力された樹脂が空中で自立するのです。 言い換えれば、プリントとほぼ同時に素材が固まってくれるため、造形中にサポートで支える必要がなくなるというわけです。研究チームはこの方法で50マイクロメートル(0.05mm)という微細な解像度の造形も可能であることを示しています。 レーザーによる即時硬化のおかげで、従来は造形中に垂れ下がってしまったような複雑な立体構造も、その場で「空中造形」できます。さらに硬化待ちの時間がほぼゼロになるため、熱硬化性樹脂でも造形時間が従来より大幅に短縮できると報告されています(従来は硬化に数時間~数十時間を要したものが秒単位で完了)。まさに“レーザーを当てながら積層していく3Dプリント”という新発想で、サポート材も後処理も要らない画期的な造形が可能になったのです。 造形中に硬さや導電性まで調整可能に...
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電気で色が変わる3Dプリント!? ドイツ研究チームが導電性インクの開発に成功
3Dプリントした物体の色を後から電気で自在に変えられたら…そんな未来が現実になりつつあります。 ドイツのハイデルベルク大学とシュトゥットガルト大学の研究チームが、電気(酸化還元)によって色が変わる導電性ポリマーインクを開発し、それをDLP(デジタル光処理)方式の3Dプリンターで高解像度造形することに成功しました。 このインクで作った複雑な二次元・三次元構造物の最大の特徴は、プリント後に電気刺激を与えることで色を変化させることができるということ。従来は難しかった材料での3Dプリント技術が拓けたことで、色が変わる新しい電子デバイスへの道が開けています。 酸化還元で色が変わるインクの仕組み 開発された新種のインクには、カルバゾール基と呼ばれる酸化還元に応答する分子構造が含まれています。酸化還元反応とは物質が電子を失う(酸化)と受け取る(還元)反応が対になって同時に起こる化学反応のこと。そのように書くと馴染みがないかもしれませんが、身近なところではカイロなどもこの酸化還元反応を用いた商品です。 この特殊なユニットが色変化の秘密です。それがあるおかげで、印刷されたポリマー鎖は電子を受け渡し(電子を与えたり受け取ったり)できるようになり、ポリマー内部に電気を通すことが可能になります。そして、ポリマーが酸化状態(電子を失った状態)になるか還元状態(電子を得た状態)になるかによって材料の色が変化するんです。 例えば電圧を加えてポリマーを酸化させると色が付き、逆に還元すると色が薄くなる、といった具合。印刷後の物体でもこの色変化機能は失われず、電気刺激によって何度でも可逆的に切り替え可能です。 光で造形、電気で変色 – DLP方式で高精細3Dプリント 新インクのもう一つのポイントは、それを用いた造形プロセスです。 研究チームはこの導電性インクを、光を使う3Dプリント方式であるDLP(デジタル光処理)に適用しました。改めて説明するとDLP方式では、光硬化性の液体インク(樹脂)にデジタルプロジェクターで紫外線パターンを照射し、層ごとに選択的に硬化させて3Dオブジェを作ります。他の積層造形法に比べて高速かつ高精細に複雑な構造を作れるのが特長で、実際に歯科医療(詰め物の製造など)でも使われている技術ですが、これまでは電気を通すポリマー材料をこの方式でプリントするのは難しく、特に光で硬化させつつ電気機能も持たせる材料設計が課題でした。 今回、ハイデルベルク大学(光造形材料の専門)とシュトゥットガルト大学(導電性ポリマーの専門)の研究者がタッグを組み、インクの材料設計とプリント工程を綿密に調整することで、その壁を乗り越えたのです。 図はDLP方式で電気応答する構造物を製造する概念図。左側では液状インクに紫外線を照射してピラミッド形状を積層造形する過程を示し、右側では完成した構造に電圧をかけて酸化還元反応を起こし、色を変化させている様子を示しています。 (画像提供: シュトゥットガルト大学) 試作デモ:ピクセル配列から3Dピラミッドまで 研究チームはこのインクを使って、さまざまなサンプル構造を実際にプリントしてみせました。例えば、細かな二次元のピクセル配列や白黒のチェッカーパターン(市松模様)、そして小さな三次元ピラミッドなどをDLPプリンターで造形しています。 出来上がったそれらの樹脂製オブジェは、当初はほぼ透明でしたが、電気による刺激(酸化)を与えると淡い緑色に着色し、さらに進行させると濃い緑色、最終的にはほぼ黒色に近い状態まで変化しました。印加する電圧の強さや時間によって段階的に色が濃くなっていきます。 こちらは3Dプリントされた小さなピラミッド構造が電気刺激によって色を変える様子を可視化したイメージです。元は透明な樹脂ですが、電圧を加えるとまず淡い緑色に変化し、さらに濃い緑色を経て黒っぽく暗くなっているのが分かります。この色変化は電圧を戻すことで元の透明な状態に戻る可逆な現象で、何度でも繰り返し切り替えることができます。 また、DLP方式を用いることでピクセルごとの細かな制御も可能になっています。今回プリントした構造物では、一つひとつの小さなピクセル(要素)が独立して色変化するようデザインすることもできました。さらに研究者たちは、三次元構造物において高さ方向(奥行き方向)で区分けして色を変えることも視野に入れており、「構造に応じてピクセルレベルで制御できる上に、建物の高さに相当する3次元方向での制御ができる点が特にエキサイティングだ」とコメントしています。ピクセル単位から立体全体まで、自在に色を操れる3Dプリント材料が誕生したと言えるでしょう。 広がる応用可能性 色が自在に変わる導電性の3Dプリント素材は、今後さまざまなスマートデバイスへの応用が期待されています。例えば次のような分野での活用が考えられます。 ソフトロボティクス: 電気刺激で形状や色が変わるアクチュエータ(駆動部)や人工筋肉への応用。印刷したロボットの部品が電圧次第で伸縮・発色し、柔らかいロボットの動きや表情を生み出せます。 スマートディスプレイ: ピクセル単位で色を制御できる表示デバイスへの応用。フレキシブルなスクリーンやサインディスプレイに組み込めば、印刷物でありながら電気信号で模様や文字を自在に変えられる「動く印刷物」が実現できます。 インタラクティブデバイス:...
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実物大のLEGOを3Dプリントで!大人が本気で作った「乗れるバギー」
子どもの頃に遊んだLEGO®のクルマを、大人になった今、自分で“本物サイズ”にして乗ってみたら?――そんな大人の子供心を具現したのが、イギリスのエンジニア、マット・デントンさん。 彼は1981年発売のLEGOテクニック「8845 デューン・バギー」を10.4倍に拡大し、人が乗って実際に走れるバギーを3Dプリントで作り上げました。 ものつくりの初心にたちかえり、なおかつそれをスケールアップさせて実現させようという、壮大かつ個人的なプロジェクトを紹介します。 元ネタは1981年の名作キット 今回のベースになったのは、LEGOの中でも人気の「テクニックシリーズ」の名作セット。オリジナルのバギーは174ピースで、2人乗り風の構造や独立サスペンションなど、本格的な設計が魅力でした。デントンさんはこれを一人乗りに改造し、中心にハンドルを配置することで、実用的な設計に再構成しました。 3Dプリントで“巨大レゴパーツ”を出力 10倍超のサイズにするとなると、各パーツもかなり巨大に。デントンさんは主にPLA素材を使い、1mmノズル・10%の中空構造で造形。合計で約174個の超特大レゴパーツを出力し、そのすべてを組み合わせていく作業は「LEGOとイケア家具を同時に作るような体験」だったとか。 3Dプリンターにはベルト式の大型FDMタイプを使用。非常に長いパーツも継ぎ目なしで出力でき、見た目もLEGOそのものの仕上がりです。 組み上がった車体は重さ102kg! パーツを組み上げたバギーは、全長約2.5メートル、重量はなんと102kg。サスペンションには実際のバネを使い、車体をしっかり支える工夫もされています。ただし重量のせいで調整には苦労が多く、スプリングの交換や取り付け位置の見直しを繰り返すなど、走行前の試行錯誤も続きました。 電動モーターで実際に走行! 完成したバギーには電動モーターを搭載し、後輪を駆動。いわゆる「ベルトドライブ方式」で、スピードは控えめながらちゃんと走れるクルマになっています。初走行ではパワー不足や駆動系の滑りといった問題もありましたが、「子どものおもちゃをここまで本気で作るとこうなる!」という驚きに満ちた出来栄えです。 このプロジェクトは、3Dプリンターがあれば遊びの可能性がどこまでも広がるという好例です。子ども時代の憧れを、大人の技術と情熱でカタチにする。その楽しさとスケール感は、まさに“大人の自由研究”と言えるかもしれません。あなたも3Dプリンターで、夢の乗り物づくりに挑戦してみてはいかがでしょうか? ※本記事で紹介した作品は、私的利用の範囲内で製作されたファンプロジェクトです。LEGO®の製品デザインや名称、ロゴはLEGO Groupの知的財産であり、商用利用や販売、ブランドの無断使用は著作権および商標権の侵害となる可能性があります。製作や公開にあたっては、各社のポリシーや権利に十分ご配慮ください。
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世界初の3Dプリント角膜移植に成功、視力回復に新たな希望
2025年10月下旬、ランバン医療センター(Rambam病院)で、世界初となる3Dバイオプリンティング(生体組織を3Dプリンターで作製する技術)による角膜インプラントの移植手術が実施されました。 この患者は治療対象の片目が法的失明の状態でしたが、移植手術により視力が回復し始めているとのこと。今回移植された角膜インプラントは、ドナー(提供者)由来の組織を直接移植するのではなく、ドナーの角膜から取り出した細胞を培養し実験室でプリントして作られた世界初の角膜です。 手術は順調に行われ、術後の経過も良好。担当医師は「実験室で作られた角膜が人に光を取り戻させた歴史的瞬間」であり、「今後ドナー不足で光を失う人がいなくなる未来への希望だ」と述べています。再生医療と視力回復における画期的な瞬間、3Dバイオプリンティングの快挙です。 角膜移植の現状とこの成果がもたらす意義 角膜は黒目を覆う透明な膜で、傷や病気で濁ると視力を失ってしまいます。視力を取り戻すには角膜移植が有効ですが、その提供には深刻なドナー不足があります。現在、全世界で約1,300万人以上が角膜の病気で失明状態にあるとされます。 しかし提供されるドナー角膜の数は需要に対して圧倒的に不足しており、角膜を必要とする患者70人につき1枚程度しか提供できていないとの推計もあります。日本を含め多くの国で角膜提供を待ちながら視力を回復できない患者がいるのが現状です。 今回の3Dプリント角膜は、この状況を大きく変える可能性があります。例えば、健康なドナー1人の角膜から細胞を培養することで、最大300枚もの角膜インプラントを作製できると報告されています。 ドナーから得た「一つの贈り物(角膜)」が何百もの新たな視力のチャンスに生まれ変わ。この技術の医療的・社会的インパクトは絶大です。 まずは「ドナー不足の解消」。一人の提供者から多数の移植片を作れるため、角膜提供者の不足によって治療を受けられない患者を大幅に減らせます。結果として世界規模で失明を防げる患者が飛躍的に増えると期待されています。 あわせて「移植待機期間の短縮」も大事です。将来的には病院がプリント角膜を冷凍保存で常備できるようになり、患者は角膜提供を何年も待つ必要がなくなります。手術のタイミングに合わせて「すぐ使える角膜」を提供できれば、視力を失ったまま長期間過ごす苦しみが減るでしょう。 そして「品質と安全性の向上」にも資するとされています。ドナー角膜は提供者の年齢・健康状態によって質にばらつきがありますが、実験室で均一に製造された角膜なら品質が安定します。また感染症リスクの低減など、安全性の面でもメリットが期待できます。 今回の成功は「角膜が足りないために光を諦めざるを得ない」という状況を変える大きな大きな一歩です。再生医療企業Precise Bio社のCEOは「これは角膜疾患で視力を失った何百万人もの人々にとって希望の転換点だ」とも述べています。視覚障害を持つ患者さんや家族にとって大きな福音となるでしょう。 Precise Bio社の技術と独自性 今回、使用された角膜インプラントは、再生医療スタートアップのPrecise Bio社(本社:米ノースカロライナ州)が独自開発したプラットフォームによって製造されていルトのこと。同社の強みは製造プロセスをすべて自社内で完結している点です。 具体的には、まず少量のドナー角膜から角膜内皮細胞(角膜の内側にある細胞)を分離・培養し、それをコラーゲンなどのバイオインクと混ぜてロボット制御の3Dバイオプリンターで何層にも精密に積層し角膜組織を成形します。プリントされた角膜組織は培養下で所定の強度・透明度が出るまで成熟させた後、特殊な方法で長期保存できるよう冷凍保存されます。この一連の工程を医療グレードの厳格な基準で行うことで、どの移植片も同じ品質に仕上がるようにしています。 完成した角膜インプラントは、手術用の器具にあらかじめ装填された状態で供給され、必要時に解凍してすぐ使用可能。従来の角膜移植と同じ手技で扱えるため、現場の医師にとっても受け入れやすいでしょう。 こうした技術的特徴により、Precise Bio社は世界でも先駆的なバイオプリンティング企業として知られており、共同創業者には再生医療分野の権威アンソニー・アタラ博士(ウェイクフォレスト再生医療研究所所長)も名を連ねています。10年以上にわたる研究開発の結晶として、この角膜プリント技術が実現したのです。 今後の可能性と世界的なバイオプリンティングの展望 今回の移植はまだ治験(臨床試験)の初期段階であり、まずは10~15人規模の患者を対象に安全性や効果を確認しているところです。早ければ2026年にも最初の結果が公表される見込みで、良好な結果が得られれば次の段階へと試験が進みます。実用化までにはさらに大規模な臨床試験や規制当局の承認プロセスが必要ですが、順調にいけば数年以内に患者さんがこの技術の恩恵を受けられる可能性も見えてきいるとのことです。 将来的には、各眼科病院がこのバイオプリント角膜を冷凍ストックとして備蓄し、患者は必要なときにすぐ角膜移植が受けられる世界が実現するかもしれません。実際、研究チームは「患者を手術の日程に合わせてすぐ治療できるようになる」と述べており、角膜提供を長年待つといった事態が過去のものになる展望を示しています。「必要なときに必要な組織をすぐ提供できる」というのは再生医療が長年目指してきた理想であり、この成功はそれに一歩近づいたものです。 さらに、今回の画期的成果は世界のバイオプリンティング分野全体にも大きな弾みを与えると考えられています。3Dプリンターで生体組織を作る研究はここ数年で大きく進展しており、皮膚の一部や軟骨、気管の一部など比較的単純な組織のプリントは既に研究段階から医療応用が始まりつつあります。 しかし角膜のように透明性・強度・機能性が要求される複雑な組織での成功例は他になく、世界初の今回の偉業が際立っています。実際、イスラエルのCollPlant社は植物由来コラーゲンを使ったバイオインクで角膜組織プリントの研究を進めており、アジア(日本)やインドの企業もプリント角膜の足場となる材料開発に取り組んでいます。 米国では大手の3D Systems社やUnited...
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驚きの使い道!蚊の口吻が超精密3Dプリンティングノズルに
3Dプリンターで繊細な造形を行うには、細くて正確なノズルが不可欠です。しかし市販の高精度ノズルは金属やガラス製で高価なうえ、一度使ったら廃棄されることもしばしば。そんな常識を覆す研究が2025年に発表されました。 カナダのマギル大学のチームは、何と「蚊の口吻(こうふん)」を3Dプリンターのノズルとして再利用するという手法を提案しました。蚊といえば厄介な害虫というイメージですが、その細く硬い針は微細な液体を正確に運ぶための理想的な構造を持っているのです。 なぜ蚊の口吻が適しているのか 蚊の口吻の内径は平均20~25マイクロメートルほどで、直径わずか0.02ミリメートルの極細チューブです。形状はまっすぐで均一かつ長さが約2ミリメートルと扱いやすく、人工ノズルに比べて小さな直径でも製造が簡単です。研究チームは、この自然の微小構造を“バイオノズル”として再利用できないか検討しました。高価な金属ノズルや非常に壊れやすいガラスノズルの代替になるかもしれないという発想です。 口吻は見た目に反して意外と頑丈です。内圧約60キロパスカルに耐えられるため、粘り気のあるバイオインクも破損せずに押し出せます。研究では口吻を滅菌した後に切り取り、市販の金属ノズル(30G相当)に接着剤で取り付けてシリンジ式押出機に接続しました。この構造により、3Dプリンターの動きに合わせて微細なパターンを自由に描くことができます。 印刷性能と操作のコツ バイオノズルを使った造形では、インクの種類や流速が重要になります。チームは市販のバイオインク(Cellink StartやPluronic F‑127)を用いてハニカム構造や足場構造を作製し、直径18~28マイクロメートルのフィラメントを安定して出力できることを示しました。印刷後の細胞生存率は約86%と高く、細胞を含む構造物の作製にも適していることが分かりました。 ただし操作には注意も必要です。インクが速く流れ過ぎると口吻がストローのように裂けてしまうほか、ノズル先端でインクが固まると詰まりや破裂の原因になります。実験では、ノズルからの吐出速度とプリンターの移動速度のバランスを慎重に調整することで安定した造形が可能であることが確認されました。さらに圧力試験では平均破裂圧力が約59.7キロパスカルと測定され、設計した圧力範囲内で使用すれば安全に運用できることが示されています。 コストと持続可能性 この“ネクロプリンティング”技術の魅力はコストと環境負荷の低さにもあります。蚊は研究用施設で簡単かつ安価に飼育でき、1匹あたり数セントで育成可能です。口吻1本当たりのノズル製作コストは1ドル未満と推定されています。使い捨て金属ノズルが約80ドルと高価であることを考えると、抜群のコストパフォーマンスです。さらに口吻は生分解性で、冷凍保存すれば1年以上使用可能と報告されており、ガラスノズルのように破損しやすいという欠点もありません。 日常的に使うには寿命や温度範囲に注意が必要で、常温では9日程度で劣化が始まり、低温(20〜30℃前後)での使用が推奨されています。それでも、適切に保管・管理すれば研究室での消耗品として十分実用的と言えるでしょう。 未来への可能性 蚊の口吻をそのままノズルに利用するという発想は、「自然の構造を模倣する」のではなく「自然そのものを活用する」点で革新的です。既にこの手法ではハニカム構造のほか、カエデの葉やワッフル状の細かな3D形状も作製できています。また、薬剤を含んだハイドロゲルを皮膚に微量注入するような医療用途への応用も検討されています。 今後はノズルの温度耐性を高める研究や、より多様なバイオインクとの組み合わせ、常温での長期保存方法の開発などが課題として挙げられています。それでも、極細ノズルを低コストかつ環境に優しく提供するこの技術は、バイオプリンティングやマイクロデバイス製造に大きな可能性をもたらしてくれるでしょう。蚊が「厄介者」から「次世代製造の道具」へとイメージを一新する日が来るかもしれません。 写真:scientific advance
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3Dプリント製Hi-Fiポータブルスピーカー「SignalForm」 – Printed Pulseの挑戦
Printed Pulseというブランド名で活動するあるメイカーが、3Dプリント製のポータブルスピーカーシステム「SignalForm」を開発したことが話題になっています。 市販の完成品オーディオとは異なり、SignalFormは筐体から内部構造まですべて自作可能で、修理やカスタマイズがしやすいよう設計されており、スマートフォン連携やWi-Fiなどの付加機能に頼らず、純粋に音質と体験にフォーカスしたオープンソースのプロジェクト。3Dプリンターでオーディオ製品を作ることで、クローズドな商用オーディオシステムに代わる新たなアプローチを目指しているとのことです。 ヘッダーの写真は3Dプリントで作られたポータブルスピーカーSignalFormの完成品。本体ケースやスピーカーグリル、ノブ(つまみ)に至るまで3Dプリンタで造形されており、レトロなブームボックス風のデザインに仕上がっています。 Bluetooth対応の近代的な機能を備えつつも、Wi-Fi接続やスマートアプリはあえて搭載しておらず、物理ノブによる直感的な操作に徹していて、シンプルな構成ながら、3Dプリントならではのカスタムデザインと修理のしやすさを両立した意欲作です。 3Dプリント筐体と内部構成 SignalFormは主要部品の多くを3Dプリンタで造形した筐体を持ち、内部には市販のオーディオ用電子部品を組み合わせています。そのハードウェア構成は以下のとおり。 筐体素材: 弊社でもお馴染みのBambu Lab製のPETG HFフィラメントを使用してケース本体を造形。必要に応じて半透明のPETGパネルも組み込み、振動対策としてTPU製アイソレーションマウント(防振マウント)を装備しています。 スピーカーユニット: Dayton Audio社製のDMA105-8型フルレンジドライバーを左右に各1基搭載し、補助として同社ND105型のパッシブラジエーター(受動放射板)を各側面に組み合わせています。 アンプ: Dayton Audio社のBluetooth対応アンプボードKABD-250を内蔵し、左右チャンネルに合計50W級の出力を供給します。 電源: 18650型リチウムイオン充電池を5本直列に使用したカスタムバッテリーボードを搭載し、約21Vの電源電圧でアンプを駆動します。 エンクロージャー構造: スピーカー筐体内部は左右チャンネルそれぞれ約2.8リットルの密閉型エンクロージャーになっており、中央にはアンプやバッテリーなど電子回路を収める区画が設けられています(※中央区画には冷却用の通気チャネルも配置)。 筐体の左右に配置された密閉キャビティにフルレンジドライバーとパッシブラジエーターを組み合わせることで、小型ながら低音域も確保するという設計で、中央の電子部品ベイには冷却用ダクトが設けられており、アンプボードなどから発生する熱を逃がす工夫もなされています。 材料には耐久性と強度に優れたPETG系フィラメントが使われているため、3Dプリント製でも剛性の高い筐体になっています。また、TPU製の柔軟なマウントによりスピーカーユニットの振動が筐体に直接伝わりにくくなっており、不要な共振や音質への悪影響を低減しています。 音響性能と機能 とはいえ、気になるのは実際の音響。なんでもSignalFormはHi-Fiオーディオを目指した本格的な性能と、シンプルな操作性を両立していルトのこと。発表されている主な音響スペックおよび機能は次のとおりです。 音響性能: 再生周波数帯域は約65...
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平面が立体に“変身”!少ないエネルギーで形が変わる新しい3Dプリント技術
宇宙に巨大なアンテナや構造物を持ち込むには、コンパクトに折りたたんで持っていって、現地で展開するのが理想——そんな夢を叶えるかもしれない新技術が、米・イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校で開発されました。 航空宇宙工学の博士課程に在籍するIvan Wuさんと指導教官のJeff Baur教授によって進められたこのプロジェクトでは、「連続炭素繊維」と「省エネ型レジン」を組み合わせることで、平面の2D構造から立体的な3D形状へと“形を変える”構造体を作ることに成功しています。 2Dから3Dへと変換させる鍵は「熱」です。 フロントポリメリゼーションという化学反応 この技術では、まず髪の毛ほどの太さの炭素繊維を束にして3Dプリント。その繊維束を紫外線で軽く硬化させたあと、液体レジンで包み、凍結保存します。 そして必要なときに低エネルギーの熱で加熱すると、「フロントポリメリゼーション(前方重合反応)」という化学反応が起き、想定された3D形状へと変形していきます。 たとえば、らせん状の円柱、ねじれ構造、円錐、鞍型(サドル形状)、放物線型ディッシュなど、5種類の異なる形状を成功させています。 「逆問題」に挑んだ数学モデリング Wuさんがまず直面したのは、「欲しい3D形を作るために、どんな2Dパターンを設計すればいいのか?」という逆算の課題。数学的なモデルを自ら作成し、2Dから3Dへスムーズに変形するための正確なパターンを導き出しました。 このアイデアは、日本の「切り紙(キリガミ)」アートから着想を得たとのこと。切り込みと折りを駆使して新しい形を生み出す日本の技法が、先端宇宙技術と見事にリンクしたかたちです。 伝統的な装飾の中に先端技術を切り開くヒントが眠っていたというのは、今後のイノベーションにおいても示唆的です。 最終用途は“金型”としての応用? 今回の構造体は、宇宙構造物として最終的に使うには剛性がまだ足りないものの、「展開後の形をベースに、もっと頑丈な部品を作るための金型として活用できる」とWuさんは語っています。 この研究はアメリカ空軍研究所の支援を受けて現在も進行中とのこと。論文は『Additive Manufacturing』誌に掲載(DOI: 10.1016/j.addma.2025.104911)されています。
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香りも楽しめるエコな新フィラメント登場 – Kexcelled「K5™ Eco-Aesthetic Series」
3Dプリンターが稼働中にコーヒーや紅茶の香りが漂ってきたら——、そんなこと想像したことさえない方が多いと思います。 視覚だけでなく嗅覚にも訴えるユニークなフィラメント、この「突飛」なアイディアを実際に実現したのが、素材メーカー大手Kexcelled社。 商品名は、「K5™ Eco-Aesthetic Series」。コーヒー・紅茶・竹由来の成分を取り入れたPLAフィラメントで、見た目の美しさだけでなく印刷中に広がる香りまで楽しめる、これまでにない画期的な新型フィラメントを紹介します。 K5™ Eco-Aesthetic Seriesとは? K5™ Eco-Aesthetic Seriesは、持続可能性とデザイン性を兼ね備えたPLA樹脂系の3Dプリンタ用フィラメントのシリーズ。その最大の特徴は、コーヒー豆かすや茶葉残渣、竹繊維といった天然素材の廃棄物を再利用している点です。 各フィラメントにはそれぞれ約10%のリサイクル由来成分が配合されており、それによって原料の一部を置き換えることで資源の循環利用とカーボンフットプリント削減を両立しています。さらにコーヒーと紅茶のフィラメントでは、印刷時にほんのりと自然なアロマが立ち上り、従来の加熱プラスチック特有のにおいとは一味違う癒やしの香りを楽しめるという仕様になっています。 コーヒー由来PLAフィラメント:香ばしいアロマと暖色のトーン PLA Coffeeは、その名の通りコーヒー由来の成分を含むフィラメントです。原料のPLA樹脂に約10%のリサイクルコーヒー豆かすが配合されており、印刷中にはほのかなコーヒーの香りが作業空間に広がる、とのこと。 なお、微細なコーヒー粒子が材料に混ざることで、出力されたオブジェクトの表面には木粉が入ったフィラメントのような繊細な粒子感と暖かなブラウン系の色合いが現れるようです。 カラー展開は3種類で、コーヒーの焙煎度合いになぞらえた「ライトロースト」(淡い浅煎り色)、「ミディアムロースト」(中間的な茶色)、「ダークロースト」(濃い深煎り色)から選べます。コーヒーの風合いと香ばしい香りを併せ持つこのフィラメントは、まさにサステナビリティと創造性の融合。何よりそれを実現しようと考えた開発チームに拍手です。 紅茶由来PLAフィラメント:茶葉の再生と癒やしの香り 一方のPLA Teaは、紅茶の茶葉残さを活用したフィラメント。中国の大手飲料メーカーMaster Kong(康師傅)と提携し、紅茶生産で出る茶葉残渣をPLAに約10%混合したそうです。 そのため印刷時には、ティータイムを思わせる穏やかな紅茶の香りが漂い、出力物の表面には紙や木の繊維を含んだような自然で滑らかな質感が現れます。 カラーは2色展開で、例えば緑茶を連想させる淡いトーンと、紅茶のように深みのあるブラウントーンなど、茶葉由来ならではのナチュラルカラーが用意されています。使われている茶葉成分は廃棄予定だったものを再利用しており、まさに「捨てられる素材に第二の人生を与える」取り組みとなっています。 竹繊維PLAフィラメント:自然な木質感と高い強度 PLA Bambooは、竹由来の繊維を配合したフィラメント。 竹の繊維質を約10%含んだPLA材で、印刷時に特別な香りはありませんが、その組成によって落ち着いた木質調の外観と優れた表面仕上がりを実現するそうです。細かな竹繊維が充填されていることで造形物の強度が増し、実用的なパーツにも適したしっかりとした質感に仕上がります。 カラーは自然な竹色の1色のみですが、素材そのものが持つ淡い生成り色がどんなプリントにも合わせやすく、ナチュラル志向のデザインにマッチするでしょう。 五感に響くプリント体験...
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韓国KAIST、室温で赤外線センサーを3Dプリントする新技術を開発
韓国のKAIST(韓国科学技術院)を中心とする研究チームが、室温で超小型の赤外線センサーを3Dプリントする世界初の技術を発表しました。 赤外線センサーは自動運転車のLiDAR(ライダー)やスマートフォンの3D顔認証、ウェアラブルのヘルスケア機器など、次世代エレクトロニクスの要となるデバイスです。従来の製造には高温の工程が必要でしたが、新技術ではそれが不要となり、わずか10μm未満(人の髪の毛の約10分の1)の微細なセンサーを自在な形状で作製できます。 技術の革新性: 高温工程なしで微細センサーを実現 半導体センサー製造では通常、高温で材料を焼き固める工程(アニールなど)が不可欠です。しかしKAISTのチームは、ナノ粒子インクの表面分子を入れ替える「リガンド交換」という手法によって、高温の熱処理をせずに済む3Dプリント技術を開発しました。これにより室温でも高い性能を発揮する微細な赤外線センサーを直接プリントできます。出来上がったセンサーのサイズは髪の毛の太さの10分の1以下で、かつてなかった極小を実現しています。 3Dプリントで金属・半導体・絶縁体を一体製造 今回の技術では、赤外線センサーを構成する金属・半導体・絶縁体という異なる材料を、液状のナノ結晶インクとして用い、単一の3Dプリンターで層状に積み上げて造形します。従来は素材ごとに別工程が必要でしたが、この方法なら一度のプリントでセンサー素子全体をまとめて作り上げることが可能です。 金属インクで電極を形成し、半導体インクで赤外線を電気信号に変換する層を積み、絶縁体インクで保護膜や支持構造を作る、といった具合に一体製造できるイメージです。これによりセンサーの形状やサイズを自由にカスタマイズでき、柔軟なデザインや微細構造のパターン形成が実現します。 ウェアラブルからIoTまで: 超小型センサーが拓く可能性 この技術で製造できる赤外線センサーは極めて小型であり、その応用範囲も広がります。赤外線センサーは自動運転車のLiDARやスマートフォンの顔認証、ウェアラブル健康モニターなど幅広い分野で使われており、こうしたデバイスではセンサーの小型・軽量化や柔軟な形状設計が進むことで更なる進化が期待されています。超小型化によってメガネや衣服といった身近なウェアラブルへの組み込みが容易になり、小型IoT機器にも搭載しやすくなるでしょう。ロボットの視覚センサーも軽量・小型化され、性能向上に寄与すると期待されます。 省エネ製造で環境負荷を低減 高温プロセスが不要になったことは、環境面でも大きなメリットです。従来の半導体製造では高温炉を長時間稼働させるなど莫大なエネルギーを要しましたが、新手法では室温で製造できるため消費エネルギーを大幅に削減できます。その結果、生産コストの低減にもつながり、赤外線センサー産業の持続可能な発展に貢献し得ると期待されています。また、必要な部分だけを積層造形する3Dプリント方式のため、無駄な材料廃棄が少なく環境に優しい点もメリットです。 今後の発展可能性 今回の成果は赤外線センサーだけでなく、電子機器製造全般に新たな可能性を示すものです。3Dプリントによって従来は平坦な基板上でしか作れなかった自由な形状のセンサーが実現し、従来にない革新的なフォームファクタの製品開発につながると期待されています。今後はさらに解像度を上げてより微小なデバイスに応用したり、他種のセンサーや電子部品のプリント製造へと展開したりすることも考えられるでしょう。省エネで柔軟なこうした製造技術は、将来的にIoTデバイスなど幅広い分野で電子機器の作り方を刷新する可能性を秘めています。
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3Dプリンターで造られた移動式建築「Desert Ark」が内モンゴルの砂漠に登場
中国の建築スタジオdesignRESERVEが、内モンゴル自治区テンゲル砂漠において3Dプリント建築プロジェクト「Desert Ark(デザート・アーク)」を完成させました。 この小さなシェルター群は乾燥した砂漠地帯で植林活動を行うボランティアのために設計されたもので、砂漠という過酷な環境下でも活用できる休憩・生活空間を提供するものとのこと。なお、Desert Arkは中国初の砂漠環境における3Dプリントコンクリート建築でもあり、極限環境での建築の可能性を示す象徴的なプロジェクトとなっています。 3Dプリント技術で生まれた砂漠のシェルター Desert Arkの各モジュールは3Dプリント技術によって製造されています。素材にはセメントと砂の混合物が用いられ、ロボットアームで材料を層状に積み上げる手法でユニットを成形。砂漠の過酷な気候条件では現地での印刷は困難なため、印刷(造形)工程は専用工場で行われています。 こうして工場で完成したモジュールを現地に輸送し、現地組み立てはわずか2日間で完了。モジュール群はジョイントで連結されており、必要に応じて移動・再配置が可能な設計になっています。まさに3Dプリント技術とプレハブ工法を組み合わせた、機動性の高い砂漠シェルターと言えるでしょう。 9つのユニットから成るモジュール建築 Desert Arkのテラスと、それに面して配置されたシャワーユニット(手前)とキッチンユニット(奥)。Desert Arkは9つの独立したモジュール(寝室、リビングルーム、キッチン、トイレ、シャワー室など)で構成されており、合計の延べ床面積は約150㎡に達します。 各ユニットはそれぞれ用途が分けられており、中央の共有テラス(中庭)を囲むように配置されています。テラスを介してすべてのモジュールがつながるレイアウトにより、強風や砂嵐から内部空間を守りつつ、居住者同士の交流も可能にしています。 過酷な砂漠環境に耐える設計 砂漠という過酷な環境に対応するための工夫も随所に凝らされています。外壁は波打つような縞状(層状)のデザインになっており、これは強烈な砂漠の風にも耐えやすくするため。また壁体内部には断熱のための空洞が設けられており、断熱材を充填することで内部を快適な温度に保てるようになっています。その結果、-30℃の極寒から+45℃の猛暑まで耐えられる高い断熱性能が実現しました。 現地での設置に際しては、深い基礎工事を必要としない点も特徴です。モジュールは砂の上に直接設置でき、地面への固定を最小限に抑えつつ安定した構造を実現しています。必要に応じてユニットごとに移設・再配置が容易にできるため、砂漠での植林作業の進捗に合わせて拠点の場所を動かすことも可能です。テラス上には開閉式のオーニング(日除け)も取り付けられ、強い日差しを遮ったり開放したりできるようになっています。 さらに各ユニットには太陽光パネルが搭載されており、外部電源に頼らず必要な電力をまかなえるオフグリッド仕様となっています。砂漠という電気や水が得がたい土地でも、自給自足で快適性を維持できるよう工夫されています。 植林ボランティアの拠点、未来への展開 現在、このDesert Arkは内モンゴルの砂漠地帯で植林活動に携わるボランティアたちの休憩・生活拠点として活用されているとのこと。日中の過酷な作業後に涼を取ったり、夜間の宿泊を可能にすることで、ボランティアの安全と活動効率を支えています。 建設を手がけたdesignRESERVEは、将来的にはこのモジュール建築を砂漠のような過酷な環境下や遠隔地での恒久的な住居として展開できる可能性も示唆。今後さらに幅広い用途で活躍することが期待できそうです。 Alll Photo: Rangers of Edge-locking Forest, Huaer...
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LiDARとは? 3Dプリントやスキャニングの精度と効率を革新する技術に迫る
LiDAR(ライダー)という技術をご存知でしょうか? LiDARはレーザーパルスを使って対象物との距離を測定し、3Dモデルを再構築するリモートセンシング技術のこと。主に、レーザースキャナー、LiDARセンサー、そして取得データを処理するプロセッサから構成されています。 特定の波長のレーザー光を照射することで、LiDARは毎秒数百万回もの光パルスを対象表面に送信します。これらの光が反射すると、センサーがその情報を受信し、「点群」として記録します。この点群が、スキャンによって取得されたデータの3次元的な座標情報(XYZ)を表しています。 プロセッサは、光パルスが対象に到達して戻ってくるまでの時間(ToF:Time of Flight)を測定し、そのデータとレーザーの発射角度を使って、1点ずつ3D座標を計算します。こうして、高密度かつ高精度な点群データが生成され、対象物や空間を非常に詳細に3Dで再現できるのです。 フォトグラメトリとはどう違う? LiDARとフォトグラメトリは、いずれも物体や場所を三次元的に記録・マッピングするという点で共通していますが、そのアプローチは異なります。 フォトグラメトリは、異なる角度から撮影した2D画像をもとに3Dモデルを生成する手法で、画像内の2D情報から3次元的な形状を再構成します。これに対してLiDARは、レーザーを使って環境をスキャンし、点群を直接取得することで3Dモデルを作成します。この点で、LiDARは構造化ライト型3Dスキャナーに近い技術です。 フォトグラメトリはカメラと自然光を使用しますが、光の反射や透明素材など、条件によっては精度が落ちることがあります。また、画像の解像度や撮影角度の数によって、最終的なモデルの品質が左右されるという弱点もあります。 一方、LiDARは照明条件に依存せず、複雑な形状の表面でも高い精度でスキャンできるのが強みです。特に夜間や視界が悪い状況でも機能するのが特徴です。コスト面では、フォトグラメトリの方がカメラを用いる分、初期費用が抑えられます。ただし、取得したデータの処理には手間がかかるため、正確性という点ではLiDARに軍配が上がります。 LiDARスキャナーの種類と用途 LiDARスキャナーは大きく2つに分類されます。 地上型(TLS):固定式または車両などに搭載する移動式があり、建物や遺跡などの高精度な記録に使われます。ロボット掃除機などに搭載されている回転式のLiDARもこの一種です。 航空型(ALS):航空機やドローンに搭載され、空中から地形や地表の高低差などを測定します。Google Earthの地図情報もこの手法で得られたデータを活用しています。 日常の応用例としては、ロボット掃除機の部屋マッピング、自動運転車の障害物検知、iPhoneでのAR表現強化などがあります。また、Polycamなどのアプリを用いれば、iPhoneやiPadを使って室内の3Dスキャンを簡単に行うことも可能です。 3DプリンターやスキャナーへのLiDARの活用 現時点では、ほとんどの3DプリンターにはLiDARは標準搭載されていませんが、一部の機種で革新的な活用が始まっています。 例えばCrealityの「K1 MAX」は、プリントベッド上の異常を検出するためにLiDARを使用しています。これにより初層だけでなくその後のレイヤーの品質もリアルタイムでチェックでき、安定した造形が可能になります。Bambu LabのX1シリーズでは、LiDARが押出圧やフロー率の制御に活用されています。 これらの先進モデルは、カスタムプロジェクトや産業用途での応用も視野に入れられており、価格はK1 MAXで約700ユーロ、Bambu Lab X1シリーズでは1000ユーロを超える場合もあります。 LiDARスキャナーとしては、FJD...
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BYU、創立150周年を記念して“米粒サイズの神殿”を3Dプリント!
米ユタ州にあるブリガム・ヤング大学(BYU)は、モルモン教(末日聖徒イエス・キリスト教会)の教育機関の中核を担う大学として知られています。 そんなBYUが今年、創立150周年(セスキセンテニアル)という節目を迎え、この記念すべき年を祝うために、大学のエンジニアたちはちょっとユニークな方法を選びました。 それは――超小型の「3Dプリント神殿」の出力――。 米粒より小さい“神殿のミニチュア” このプロジェクトを率いたのは、BYU工学部(Ira A. Fulton College of Engineering)の電気・コンピューター工学教授 グレッグ・ノーディン(Greg Nordin)。 彼はもともと、ナノファブリケーション(微細加工)やマイクロ流体デバイス、MEMS、ラボ・オン・チップといった極小世界の技術を専門としています。 しかし今回は、その研究スキルをまったく違う“ミクロな対象物”に応用しました。 ノーディン教授と学生の カラム・ギャロウェイ(Callum Galloway) は、全米各地にあるLDS神殿のうち、サンディエゴ神殿、ワシントンD.C.神殿、セントジョージ神殿、プロボ・シティセンター神殿、ソルトレーク神殿など、150の神殿をマイクロスケールで再現。 各モデルは12mm×19mmのチップ上に収まっており、長さはなんと米粒よりも短いとのこと。 光で“神殿”を作る3Dプリント技術 このマイクロ神殿の制作には、「フォトポリメリゼーション(光重合)」と呼ばれる技術が使われました。 これは、UV光を当てることで液体樹脂中の分子を結合させ、光で層を積み重ねて立体を作る3Dプリント方式(DLPやSLAにも使われる手法)です。 使用された素材はカーボン骨格ベースの樹脂で、150の神殿すべてをこのプロセスで出力しました。 ノーディン教授はこう語っています。 「この神殿たちは1000年は持たないかもしれませんが、私たちの技術なら、もっと長持ちする素材も使えるはずです。いずれ挑戦してみたいですね。」 150の神殿、それぞれ異なるデザイン...
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3Dプリントで“できる”を増やす――カナダの小さな工房が生んだ大きな一歩
カナダ西部サスカチュワン州のウォーマンという街で、一人のメイカーが3Dプリント技術を使って障がいのある人の生活を支える道具づくりに取り組んでいます。 その人の名前は ニコラス・ヴォーゲン(Nicolas Vaagen)。 2020年に交通事故で大きなけがを負ったことをきっかけに、彼は「自分と同じように困っている人たちの力になりたい」と、日常生活を少しでも楽にする“支援ツール”の開発を始めました。 “個人の挑戦”から“地域のプロジェクト”へ なんでもこの活動、最初は自分のための試みだったそうですが、今では地域ぐるみのイノベーションと共生のプロジェクトへと発展しています。 ヴォーゲンは手頃な3Dプリンターとオープンソースの設計データを活用し、一人ひとりの身体の特徴や使い方に合わせてオーダーメイドの支援具を製作しています。 作品の中には、爪切りを固定して片手でも使えるようにしたスタンドや、ゲームコントローラーを操作しやすくするアタッチメントなど、生活のちょっとした不便を解消する実用的で温かみのあるアイデアが並びます。 デジタルファブリケーションの力で、「誰かの暮らしを変える小さなデザイン」が生まれているというのは、掛け値なしに素晴らしいことです。 “Makers Making Change”との協働で広がる支援の輪 ヴォーゲンは現在、Neil Squire Societyが運営する「Makers Making Change」というプログラムに参加しています。 この仕組みは、支援ツールを必要とする人と、それを作るボランティア・メイカーをつなぐコミュニティ活動です。 3Dプリンティングの柔軟さを活かし、サイズ・形・持ちやすさを一人ひとりに合わせて微調整。 金型も量産ラインもいらないため、低コストで迅速な製作が可能です。 結果として、必要としている人に“ぴったり”の道具をすぐに届けることができるように。誰かが始めた小さなアクションが徐々に大きくなっていく。これこそ草の根のDIYですね。 小さな工房から生まれる大きな変化 ヴォーゲンのワークショップは小規模ながら、「新しいものづくりが福祉を変える」ことを実証する場になっています。 最近では、関節炎の人でも使いやすいドアハンドルアダプターや、指先の力が弱い人がカードを持ちやすくする軽量スタンドといったプロダクトを開発。...
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3Dプリントが“視力回復”を変える? スイス発・透明な人工角膜プロジェクト
スイスの研究機関 Empa とチューリッヒ大学、チューリッヒ獣医病院、そしてオランダのラドバウド大学による研究チームが、3Dプリント技術を使って透明で生体適合性のある人工角膜を開発しています。 この人工角膜は、ドナー提供に頼らずに損傷した角膜を恒久的に修復できるよう設計されており、世界中で視覚障害に悩む何百万人もの人々に新たな希望をもたらす可能性があります。 角膜不足という現実 角膜は厚さわずか500〜600マイクロメートルほどの、とても薄い組織で、目のいちばん外側で“保護シールド”のような役割を果たしています。 しかし、感染やケガ、生まれつきの異常などで損傷すると、部分的あるいは完全に視力を失うことがあります。 現在、世界で行われている角膜移植は年間およそ10万件ほど。 ドナー組織が圧倒的に足りず、多くの患者が治療を受けられないのが現状です。 コラーゲン×ヒアルロン酸の“自己接着型”人工角膜 この課題に対して、スイスのチームが開発しているのが自己接着型の人工角膜です。 素材はコラーゲンとヒアルロン酸を組み合わせたハイドロゲルで、3Dエクストルージョン・バイオプリンティングという方式で造形されます。 この方法では、患者ごとに形やカーブを正確に調整できるため、まさに“オーダーメイドの角膜”が作れるというわけです。 ハイドロゲルには、目を保護するための適度な強度を持たせつつ、透明性をしっかりキープできるように工夫がされています。 さらに注目なのは、人工角膜の表面に人の幹細胞を培養できる点。 これにより、単なる人工物ではなく、実際の角膜組織の再生をサポートする“生きたインプラント”として機能します。 しかもこの角膜は自己接着タイプなので、通常の移植のような縫合が不要。その結果、感染・瘢痕・炎症といった術後トラブルのリスクも大幅に減らせます。 「ドナーに頼らない」角膜治療の未来へ Empaのバイオインターフェース研究室のマルクス・ロットマー博士はこう話しています。 「このアプローチが実現すれば、ドナー組織に依存せずに角膜治療を普及させることができます。」 3Dプリントと幹細胞技術を組み合わせることで、研究チームは患者一人ひとりに合わせた“永久型の角膜インプラント”を目指しています。 医療の精密化に3Dプリントが貢献 このプロジェクトは、3Dプリントが精密医療(Precision Medicine)にもたらす可能性を示しています。 患者ごとに最適化されたインプラントを作ることで、これまでの移植よりも安全・安定・そして手に届きやすい角膜治療が実現するかもしれません。 ...
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