人体のスペアパーツを3Dプリントする時代に|小耳症患者を救う「AuriNovo」の挑戦
個人に合わせて新しいカスタムボディパーツを3Dプリント
人体の修復に関しての大きな問題。それはスペアパーツを入手するのが難しいということだ。いかに医学が発達した現代においても、膝関節や新しい肺をすぐに購入するということは不可能だからだ。
その際、医師と外科医が提示するオプションとしては、ドナーからの移植というものがある。しかし、これらは常に不足しており、さらに患者の体に拒絶されてしまうリスクもある。
では個人に合わせて新しいカスタムボディパーツを3Dプリントすることができればどうだろう。おそらく、多くの問題を解決することができるようになる。この可能性に関して、3DBio Therapeuticsによって開発された新しい人工内耳が、新しい一歩を踏み出そうとしている。
バイオ3Dプリントされた自分の耳
その新しい3Dプリント・インプラントは「AuriNovo」と名付けられた。これは「新しい耳」という意味を持つ言葉で、主に小耳症と呼ばれる、耳の先天異常を補うように設計されている。小耳症は耳の先天異常のうち変形が一番強いものと言われ、耳の形が完全にできあがらなかったため、耳が通常よりも小さいものを呼ぶ。世界的にみて地域差のデータはなく、頻度は、およそ1ー2万人に1人の割合だと推定されている。
現在の治療法は、患者の肋骨から軟骨のサンプルを採取し、それを手作業によって典型的な耳の形に似せ、移植するという方法が一般的だ。これは、患者自身の細胞から作られているため、拒絶の可能性が低い状態で移植することができる。あるいは、インプラントを合成材料から作り、皮膚の下に配置するという方法もある。
AuriNovoが採用しているのも基本的にはこの方法だが、AuriNovoは従来の方法とは異なり、肋骨から大量の軟骨を採取する必要はないという。代わりに、先駆的な手術によって、患者の既存の耳の構造から生検としてわずか0.5グラムの軟骨を採取する。そこから、軟骨細胞と呼ばれる特殊な細胞を分離し、その後、独自の栄養溶液で培養され、数十億個に増殖させていく。
患者のサンプルから成長した軟骨細胞は、コラーゲンベースの「バイオインク」と組み合わされる。こうして得られた混合物が、生物学的構造を作成するために特別に構築された3Dプリンターによって新たな耳として造形されるというわけだ。
インクとプリンターはどちらも、合併症や患者の体からの拒絶の可能性を減らすために、すべてを無菌状態に保つように特別に設計されているという。さらに、耳にはサポート用の特別な生分解性オーバーシェルが与えられ、冷蔵で出荷され、到着後すぐに、印刷された構造が患者の皮膚の下に埋め込まれる。オーバーシェルは、時間の経過とともに体に吸収され、印刷された軟骨構造のみが残ることになるのだ。
「AuriNovo」が見据えるカスタムボディパーツの未来
これが「AuriNovo」の3Dプリントに関しての一連の流れだが、これはまだ初期の段階であり、現在、11人の患者を対象とした臨床試験が進行中だという。ただし、見通しは良好で、結果として得られる構造は、生体適合性のある材料と、患者自身から成長した細胞でできているため、拒絶反応の恐れはない。さらに、インプラントは生体材料でできているため、柔軟性を維持し、通常の人間の耳の質感を長期間維持することができるとも言われている。
外耳の構造は比較的単純であり、複雑な生化学、静脈、または神経を伴わずに、主に単一の材料で作られているという利点がある。したがって、耳の再建は、新しい体のパーツを最初から作成するという試みにおいて、出発点的な位置付けになると言われている。
このプロジェクトの成果は、より機械的な複雑さを伴う部位の交換に取り組む科学者にとっても大きな示唆に富むものになるはずだ。長期的な目標としては、腎臓や肝臓などの臓器全体を3Dプリントすることが含まれている。もちろん課題もまだ多く残されてはいるが、AudiNovoは、カスタムボディパーツをオンデマンドで3Dプリントできる新しい未来への確かな第一歩であることは間違いない。