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廃棄物ゼロで3Dプリントされた家具の現代アート「インスタレーション」がアートバーゼルに出展
まだまだ続くアートバブルとアートフェア 現代美術作品が売れている。欧米だけの話ではない。日本でもだ。この長らく続くアートバブルがいつ終わるのかは定かではない。ただ、最近では日本国内でも美術大学を出たばかりの若手作家の中にも作品が飛ぶように売れている作家もいたりする。もちろん、アートの世界においては「売れている」ことが評価軸の全てではない。かねてよりマーケットとクリティーク(批評)は乖離していると言われてきた。つまり、アートの世界で高く評価されている作家の作品が必ずしも「売れている」わけではないということだ。しかし当然、アーティストも作品が売れなければ生活していくことができない。主に現代のアーティストは所属ギャラリーを通して作品を販売するケースが多く、ギャラリーでの個展などがその売買の場となることが多い。一方、美術館などの公共施設においては作品の販売は原則的にはあまりなされることはなく、そのため美術館展示をするほど赤字になるなんて声もあるくらいだ。ところでアートコレクターにとって、作品を品定めするために、各作家のギャラリー個展を巡り歩くのはなかなかに大変な作業だ。時間もかかれば、労力もかかる。それゆえ注目の作家の作品を一堂に集め、展示を行うアートフェアが、アートマーケットにおいては極めて重要な場となる。日本でもこのアートフェアは各地で開催されているが、世界で最も有名な最大級のアートフェアといえばアートバーゼルだろう。アートバーゼルはその名の通り、スイスの都市バーゼルで毎年開催されているアートフェアだ。しかし、アートバーゼルは近年、世界の各都市でも開催されるようになっている。パリ、LA、香港、そして東京でも。来場者はここ数年は毎年10万人規模というから、アートバブルの一端が窺えるというものだ。ところで、ここまでは話の枕である。今回、アートバーゼルに触れたのは、2022年のアートバーゼル・マイアミビーチに出展されたある作品が画期的だったからだ。 アートバーゼルに出展された3Dプリント家具 12月5日に開幕となった第20回アートバーゼル・マイアミビーチは大規模だ。参加ギャラリーは283ギャラリー。日本からも神宮前のNANZUKAや六本木のSCAIなどが参加している。もちろん世界的なギャラリーも軒並み顔を揃えている。ガゴシアンやハウザー&ワース、リッソンギャラリー、ジェフリー・ダイチ。いずれもアート界きっての名門ギャラリーだ。バーゼルの魅力といえば、プログラムの質の高さだ。参加するギャラリー、コレクター共に、バーゼルの審美眼によって見極められている。それゆえ、展示されている作品はいずれも「本物」だ。ここでいう本物とは贋作でないということではなく、時代を超えて価値を持ち続けるだろう作品たちだということだ。そんな今回のアートバーゼルに出展された作品の中で、3Dプリンターを専門とする当ブログ欄にとっても見逃せない作品がある。ウィンウッド地区のソラナエンバシーにおいて展示されているユニークなデザインの3Dプリント家具からなるインスタレーション作品だ。このインスタレーションはEndless Loop: From Waste to Wantedというタイトルの限定コレクション展となっており、12月13日まで開催される。もちろん、インスタレーションを構成している各作品はいずれも購入可能だ。そして、何より注目すべきは、これらの家具が廃棄物ゼロで3Dプリントされているという点だろう。製作したのはオークランドを拠点とする持続可能な家具のデザイン製造会社Model No.。今回はデザインスタジオも関わっており、複数のアーティストとのコラボレーションになっている。もちろん、アートバーゼルは家具フェアではない。これらの家具が出展されたのは、このインスタレーションが家具ビジネスにおける製造慣行によって引き起こされてきた環境への害に対する警鐘という、時代にふさわしいコンセプトを持った「作品」であるからだ。たとえばコラボ作家の一人であるマイク・ハンが制作したのはモノリスの彫刻作品。ハンは、灰を使った CNC彫刻と3Dプリンターを利用して、これを無駄のない彫刻オブジェクトとして作成した。あるいはアリー・サリアーニが制作したのは、幾何学的な形をした立像。伝統的なフライス加工と職人技、さらに3Dプリント技術とを組み合わせることで、廃棄物として残されたものから機能的で美しいオブジェクトを制作することに成功している。 下の動画はナタリー・ルーのもの。今回のインスタレーション Endless Loop: From Waste to Wanted のイメージが美しい映像によって表現されている。 ...
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3Dプリント系TikTokerが急増中!? 注目のアカウントを紹介
最新の情報を収集するならどのSNSがいい? ここ10年で最も変わったことを挙げろと言割れれば、まず思いつくのが3Dプリンターの普及だ。オバマ大統領が3Dプリンターを一般教書演説で取り上げてから早10年、瞬く間に3Dプリンターは一般に普及し、世界同時的にものつくり革命を引き起こした。その技術の進歩速度にも目を見張るものがある。ここ10年で3Dプリント技術がどのように進化を遂げてきたかについては、本ブログ欄の過去記事をいくつか読んでいただければ事足りるはずだ。ところで、もう一つ、ここ10年で大きく変わったことがある。それがSNSの浸透だ。SNS自体は2000年代中頃くらいから徐々に普及はし始めていた。古くはmixiや前略プロフ、あるいはモバゲーなどのソシャゲも2000年代にはすでに浸透していた。ただ、それらはあくまでも趣味の世界の話ではあった。SNSが現実世界に大きく影響を及ぼすようになり、SNS自体が「社会」の主要な一部として考えられるようになったのは、やはりここ10年のことだろう。言うまでもなく、今日、最も新しい情報に触れたいと思ってテレビをつけたり紙の新聞を開いたりする人はいない。情報の最先端はネットにある。そして、その情報がまず最初にアップされることになるのがSNSなのだ。もちろん、SNSにも様々なプラットフォームがある。FaceBookやツイッター、Instagramまでは、中年世代でもなんとかついていけてると思う。ただ、TikTokとなるとどうだろうか。すでに若い人たちにとっては最も馴染みあるSNSになっているらしいということまでは知っていても、なかなか足を踏み入れられずにいるという人も多いのではないだろうか。確かにTikTokは性質上、情報収集にはあまり向かなそうに見える。ツイッターのように文字ベースではないという点も大きい。特に3Dプリント関連情報を収集するためにSNSを用いているような3Dプリンターユーザーにとっては、TikTokはあまり魅力的なSNSではないようにも思える。ところがどっこい、だ。 3DプリントTikTokerの台頭 実はTikTokはすでに3Dプリンターユーザーにとっても無視できないSNSになってきている。 これまで3Dプリンターに関する情報はツイッターやInstagramが主だった。あるいはSNSではないがYouTubeなどはマニュアル動画を検索する上では欠かせないメディアであった。実際、3Dプリンター系ツイッタラーやYouTuberも数多くいる。最新の情報や技術を知りたければ、そうしたインフルエンサーたちが発信する情報に目を配っておけばよかった。だが、ここ最近、TikTok内にも3Dプリント系TikTokerなる人々が増え始めているのだ。彼らは主に自身の3Dプリント作品をSNSに投稿したり、あるいはテクニックをピンポイントで解説することで支持を獲得している。実際、TikTokでハッシュタグ「3dprint」と打ち込んでみると大量の投稿が確認できる。いずれも3Dプリント腕自慢たちによる力作出力作品ばかり。中には今後の出力のヒントになりそうなアイディアも散見される。もちろん、動画投稿SNSであるTikTokならではの魅力もある。3Dプリント情報を紹介してくれる投稿者のキャラクターがまた色とりどりなのだ。 注目の3Dプリント系TikToker たとえば筆者の目に止まったのはこちらのNajoprint.3dさん。 @najoprint.3d ほとんどの投稿が3Dプリント関連なんだが、それ以上にNajoさんの美貌に目を奪われる。フォロワーはすでに32万弱。投稿も非常にこまめだ。スペイン語を理解できないのがただただ悔やまれる。 他にも気になる人はいる。たとえばWf3dprintingさん。 @wf3dprinting アニメやゲームのキャラクタのフィギュアを主に3DプリントしているTikTokerのようだが、いずれも誰もが知ってる有名キャラばかり。そんな馴染みあるキャラクターフィギュアの造形が毎度タイムラプス映像で投稿されている。失敗事例などの紹介もあり、見ているだけで楽しい。もちろん日本人の3Dプリント系TikTokerもいる。たとえばtentenxxx1さんだ。 @tentenxxx1 YouTuberでもある氏のフォロワーは1万人。3Dプリンターの面白ネタやお役立ち情報をリズミカルに紹介してくれていて楽しい。ただ、欧米圏と比較すると3Dプリント系の日本人TikTokerはそんなに多くなさそうだ。おそらく需要はあるはずなのに、これはもったいない。 我こそはという方、是非とも3Dプリント系TikTokerの道に踏み出してみてはいかがだろうか。
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国際的3Dプリントメディアが「家ではなくお金を3Dプリントしよう」と提言。その真意とは?
3Dプリント住宅の世界が盛り上がっている一方で 当ブログ欄でも繰り返し紹介してきたように、現在、3Dプリント住宅が世界中に広がり始めている。すでに3Dプリント建築による住宅街のプロジェクトも複数始動しており、あと10年もすれば、誰もが一般的に3Dプリント住宅を目にする時代になることは間違いなさそうに見える。そんな中、そうした状況に冷や水を浴びせるような話もある。これは世界的3Dプリントメディア「3DPRINT.COM」が先日公開したある記事の話だ。記事のタイトルは「家ではなくお金を3Dプリントしよう」。なんとも扇情的なタイトルだ。記事はまず、3Dプリント住宅のメリットについて伝えている。主なメリットとして挙げられているのが、住宅危機の解決、人件費やコストの削減、建築時間の短縮などだ。確かに先日世界的にも報道されたように、ついに地球人口は80億人を突破してしまった。これだけの数の人口が設備の整った住宅で暮らしていく上では、より安く、より早く、住宅を建築するための技術が不可欠だ。その上で3Dプリント建築はその最も効果的なソリューションとなるだろう。ただ、一方で記事は、3Dプリント住宅のメリットを認めつつも、このように続いていく。「ただし、これらが大きな影響を与えるのは、建築家が3Dプリントされた建物の設計を開始してからなのだ」一体どういうことだろうか。 3Dプリント住宅建築はビジネスとして「おいしくない」 「建物の設計を開始してから」という発言にもあるように、記事で問題にされているのは、建物の設計を開始する前段階の話だ。一般的に、建築に関する規制や、実際に施工に当たる建設会社というのは、きわめてローカルである。つまり、建築に関わる様々なルールは地域ごとに異なり、実際に建築にあたる会社、およびその会社が有している技術のレベルも地域ごとに異なる。したがって「あらゆる設計またはプロジェクトは、開発者やクライアントとの会議と同様に、多くの規制上のトラブルを経験することになる」と記事は指摘するのだ。確かに、実際に3Dプリント建築がスタートすれば、これは大きな価値がある。だが、そのスタートまでに非常に時間がかかってしまう。これは端的にビジネスとしては「あまりおいしく」ない。そこで記事が提案しているのが、住宅以外ですぐに3Dプリント業界に利益をもたらす可能性がある場面でより積極的に3Dプリント建築技術、とりわけセメントを素材とする3Dプリント技術を用いていくというプランだ。記事では具体的に以下のようなリストが紹介されている。通行用バリア、ブロック、装飾品、遮音壁、対テロシールド、タンク トラップ、セキュリティブロック、バンカー、シェルター、セキュリティ ハット、およびその他の安全/防御構造、ボラード、壁やフェンスを支えるポール、部屋の間仕切り、小さな歩道橋、車橋、陸橋、トンネル用の複雑な型枠、厩舎、サイロ、牛/家畜/野生動物用格子、およびその他の農業用小型構造物、トイレを含むトイレ構造物、庭の家、庭とレストランの彫像、噴水、プランター、装飾用の偽の石、 ベンチ、階段と床、浄化槽、パイプ、排水管、サンプ、およびその他の廃棄物管理要素、暗渠、パイプライン、パイプライン サポート コンポーネント、倉庫、車庫、パイロン、フーチング、柱、ファサード、ジョイスト、その他の建築要素、鉄道枕木、護岸、etc。つまり、住宅など建築そのものではなく、建築に付随する各種パーツや部分、また市街におけるインフラストラクチャーに付随するパーツなどだ。記事はこれらのオブジェクトの1立方センチメートルあたりの価値が住宅に比較して高いという点を指摘している。つまり、3Dプリント時間1分あたりで生み出すことができる価値がより大きいということだ。また、住宅と異なり、それらは住宅のように野外でではなく、保護された屋内環境において3Dプリントすることができる。温度や湿度や天気などの変数に左右されない点でも、品質管理がしやすいという点も指摘されている。 潜在的な収益は数十億ドル 実際、3Dプリント技術であれば上記のリストにあるものはほぼ自動で作成できる。 従来なら、これらの作成には数週間がかかっていたところ、3Dプリンターであれば早ければ数時間、長くてもせいぜい数日間で作成が可能なのだ。また、こうしたオブジェクトの在庫を維持するためにかかるコストも削減できる。トレンドの変化や需要に応じて、デザインを迅速に更新することも可能だ。あるいはその場に応じたカスタマイズにも対応しやすい。要するに、すでにある市場のニーズにすぐい応じることが可能なのだ。 記事はこうしたオブジェクトを3Dプリントが請け負っていくことで想定される潜在的な収益は数十億ドルにのぼるだろうとしている。現状ではまだ一部の企業しか、こうした領域への3Dプリント技術の応用を検討していないという。つまり、これは3Dプリント住宅を建設する以上のビジネスチャンスということだ。果たして、記事はこのように締めくくられている。「まとめると、これらの要素を在庫なしで、より速く、より安価に、より少ない材料で製造できるという事実は、競争上の大きな優位性となる。住宅が未来において3Dプリント技術のエキサイティングな分野になる可能性は非常に高い。ただし、そうした“誇大宣伝”は別として、ACで数十億の収益を上げたい場合は、上記の項目に焦点を当てることが、私の考えでは、はるかにすぐに成功するものだろう」
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いよいよNASAが「アルテミス計画」を本格始動へ|3Dプリント部品で打ち上げられたアルテミスⅠロケットの行方
NASAによる今世紀最大のプロジェクト「アルテミス計画」 以前紹介した世界初の3Dプリント月面基地「LINA」の計画をご記憶だろうか。 3Dプリント月面基地「LINA」のデザインをNASAが発表|SF映画のような未来的デザインが話題にhttps://skhonpo.com/blogs/blog/3dlinalina?_pos=1&_sid=c9d2ecef1&_ss=r&fpc=2.1.365.596066bca8c8032d.1688992280000「LINA」は、NASA のフィールドセンターの一つである宇宙建築テクノロジー企業AI SpaceFactory が、ケネディ宇宙センターのエンジニアらと共同開発を行なっている月面基地のプロジェクトだ。今年の初夏にそのデザインがNASAから発表され、まるでSF映画のような近未来的デザインで大いに話題になった。 この「LINA」建設プロジェクトの背景には「アルテミス計画」がある。これは今後10年以内に月の南極に宇宙飛行士を送り込むためのプロジェクトで、「LINA」もまたそのための施設として研究されている。実際の施工においては自律型ロボットを使用する予定で、月の南極部にあるシャックルトンクレーター付近に建設を予定しているという。今回、このアルテミス計画の進展を伝えるニュースが届いた。2022年11月16日、アルテミスⅠロケットが3体のダミーを乗せてテスト飛行を開始したのだ。その後、NASAのオリオン宇宙船は、約63フィートにわたる 4つのソーラーアレイを運びながら月への道を進んでいる。フロリダのケネディ宇宙センターから打ち上げられたアルテミスIは、月と火星への有人探査を可能にするための、ますます複雑化するだろう一連のミッションの最初のものだ。 3Dプリント技術の35%のコストが削減 実はこのアルテミスⅠにも3Dプリント技術が多く用いられている。たとえばロケットが地球の重力から逃れるのに十分なエネルギーを生成するための大量の推進剤を動かす際に、最も高温に対処するように設計された4つのRS-25エンジンには、エンジンの全体的な生産コストを削減する多数の3Dプリントコンポーネントが使用されている。実際、それら3Dプリントコンポーネントを用いることでパフォーマンス、信頼性、安全性を維持しながら、35%のコストが削減される。 画像: NASA/Frank Michaux. この際、主に用いられたのはLPBF方式の金属3Dプリンターだ。LPBF方式とはレザーパウダーベッドフュージョン方式の略。これは素材となる金属粉末を層状に敷き詰め、造形する部分をレーザーや電子ビームにより焼結することを繰り返して部品を造形する方式のことで。他の造形方式と比べて高精度・高密度の造形が可能であることが知られている。一方、その反面、造形速度が遅く、大量生産には不向きであり、そのため今回のようなプロジェクトベースの部品製造に用いられることが多い。また最初の飛行の2分間で推力の75%以上を供給する二つの固体ロケットブースターもまた3Dプリントとコンピューターモデリングに依存している。これらのブースターは2020年にNorthropよりケネディ宇宙センターに出荷されたものだ。 画像:NASA/Kim Shiflett. さて、オリオン宇宙船は21日に月のそばを飛行した後、月面から数マイル離れた非常に安定した軌道へと向かう途中で月面への比較接近を行う予定だ。このアルテミスミッションを通じて、NASAは月面に最初の女性と最初の有色人種を着陸させ、長期的な月滞在への道を開き、宇宙飛行士が火星に向かうための足がかりとして機能させたいとしている。今回の打ち上げは、この10年間で最も話題になった宇宙プログラムの1つの始まりを示す狼煙だ。今後の予定としては、次のロケットであるアルテミスIIの打ち上げミッションが2024年までに実施され、4 人の宇宙飛行士が月を周回することになっている。その成功が確認されたら、いよいよアルテミスIII、有人着陸ミッションへと入っていくとのことだ。
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3Dプリンターと廃品を使って風力発電機を自作する方法|これであなたも自給自足生活?
もし自給自足生活を望むなら 都会暮らしをしていると、ふと文明的な暮らしに倦んでしまうことがある。便利さ、快適さ、そして欲望を刺激する大量の情報に、時として胃もたれを感じてしまうという人は少なくないだろう。どんなに派手な暮らしも日々繰り返されてしまえば退屈さを逃れられないものだ。いや、そもそもこの不景気に派手な暮らしなんて、そうそうできたものじゃない。雑踏に揉まれながら懸命に働いてみても、その見返りはといえば雀の涙。仕事の休憩時間のレッドブルでさえ値上がり待ったなしの世知辛いご時世だ。胃腸を無情にも締めつけるお金や時間、将来へのプレッシャー。そんな心労の一切から逃れ、自然豊かな地で自給自足の暮らしでものんびりできたら…。そんな夢想をいくら浮かべても、目の前の仕事が減るわけでは残念ながらない。結局、今日も今日とて満員電車に飛び乗り、SNSのタイムラインに流れる必要なのかどうかもよく分からない情報に目を通すエブリデイ。と、なんだか鬱々とした枕になってしまったが、実際のところ、この時代を生きるというのは誰にとっても多かれ少なかれ大変なものだ。そうそう楽して生きる道なんてない。ただ、もし本当にこの暮らしに嫌気がさした時に、そこから逃れるための方法を知っていたなら、少し心の持ちようは変わるんじゃないだろうか。それこそ自給自足の暮らしを本当にするだけの知識を持っていれば、今の仕事でたとえつまづいてしまっても「いざとなったら野生でも生きていけるさ」と鷹揚に構えるだけの余裕が生まれそうなものだ。さて、ここからが本題。仮に賃金労働を最低限に抑えて、ほぼ自給自足の暮らしをしようと思い立った時、まず考えるべきは電力の供給源だろう。いかに自然暮らしと言っても電気一切なしというのはさすがに原始的すぎる。電力といえば、火力、水力、原子力、ソーラーと、その発電方法は様々だが、とりわけ最もナチュラルな発電方法といえば風力発電だろう。実は今、3Dプリンターとスクラップを使って自作された風力発電機がちょっとした話題となっている。 3Dプリンターとスクラップで風力タービンを自作 風力タービンを一人で、しかもゼロから作り出した人物の名前はクリス・ハーバー。農村に暮らしている彼が目をつけたのは3Dプリンターと壊された車の部品だった。彼が作ろうとしたのは三相交流型の風力発電機。この「三相交流」とは、単相と比べて少ない電流で同じ電力を得られるため電気損失が少なく、多くの電気を使う工場などで利用されることが多い電気交流の方法で、名前のとおり、3つの波形が常に流れているので、モーターを起動するときに配線を正しくつなげば、常に同じ方向にモーターを回転させることができる。この基本的なシステムも、もちろんクリスはゼロから作り出した。まず手巻きステーターを2つの磁気ローターの間にしっかりと固定、その上で3Dプリントされた治具によって磁石を所定の位置に固定する。ちなみに治具とは工業製品の製造過程で必要となるパーツ同士を固定させるための器具のこと。この治具製造においては3Dプリターが非常に役立つ。 詳しくは下の動画を見てもらいたいが、使用したのはランドローバーの損傷したホイールのようだ。これが風力タービン全体が風を受けて回転するためのベアリングの基礎を提供している。そこに様々な機械加工部品が加えられることで、自家製の風力タービンができあがっていく。果たして自作した風力タービンはちゃんと発電してくれたのだろうか?どうやらクリスにとって問題となったのは、電力が強すぎることだったようだ。すでに蓄電バッテリーが満タンの場合、作られた電力はどこにいくのか。映像ではその逃がし方も紹介されている。 ところで、実はこのクリス、以前にソーラーフレームや水力発電機も自作している。風が少ないエリアで暮らしたいという人はそちらの動画を参考いただくと良いかもしれない。 さて、これでもういつでも電力に困らず自給自足の暮らしができる…とは、クリスの動画を見る限り、やはりならない。そもそも個人所有にしては立派すぎる工房と、充実した電気工具というアドバンテージがクリスにはある。技術力もすごい。車の壊れたホイールまではなんとか手に入りそうだが、その他は少なくとも筆者には敷居が高いものばかりだ。それに考えてみれば、3Dプリンターやレジンを定期的に購入するくらいの予算は確保しておきたいし、スマホやPCを使わない生活というのも考え難いものがある。ゲームだってしたい。毎日ご飯作るのも面倒だから外食だってしたい。となると、やっぱり自給自足は非現実的なのだろうか。その結論を出すのは、ひとまず目の前に山積している仕事を片付けてからにするとしよう。
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水路のマイクロプラスチックを掃除する3Dプリント魚型ロボット「ギルバート」|データは無料でダウンロード可能
世界を救うための最もかわいい方法 これまでも本ブログ欄で取り上げてきたように、プラスチックによる環境汚染が叫ばれる昨今、合成樹脂を素材とする3Dプリンターにもなんらかの対応が求められている。 廃棄ペットボトルをPETフィラメントに変換するPetalotプロジェクトとは?|今以上に3Dプリンターを気持ちよく使うために https://skhonpo.com/blogs/blog/3dpetalot?_pos=3&_sid=fbddee0ef&_ss=r もちろん、プラスチックという素材そのものが問題なのではない。問題なのはその過剰な消費、そして廃棄されたプラスチックの行方だ。特にいま問題とされているのはマイクロプラスチックだろう。現状でマイクロプラスチックが環境や生態系にどの程度作用するのかはまだ未知数の部分も多いが、少なからず環境に否定的な影響を及ぼしていることはすでに確認されている。そんな中、3Dプリンターで作られたあるユニークなロボットが話題を呼んでいる。そのロボットの名前は「ギルバート」。これは2022年のナチュラルロボティクスコンテストの優勝作品で、設計したのは米国サリー大学の学生エレノア・マッキントッシュ。「世界を救うための最もかわいい方法だ」と絶賛されている。果たして、そのロボットとはどんなロボットだろうか。 プラスチックを吸引する魚型ロボット「ギルバート」 さて、ご覧の通り、ギルバートは魚型のロボットだ。確かに一見したところ、なんともチャーミングである。ただ、このチャーミングな造形だけを理由に優勝を獲得したわけではもちろんない。というのも、今回ギルバートが出品されたコンテスト「ナチュラルロボティクスコンテスト」のテーマが生体模倣ロボットのコンペティションなのだ。実際、コンテストにはカニ型のロボットやクマ型のロボットなど様々な生体模倣ロボットが出品されたという。そんな中、このギルバートが優勝した理由は、その機能性にある。エレノアがギルバートに与えた機能、それは水路に投棄された膨大な量のプラスチックの掃除だ。ギルバートに付属する細かいメッシュが施されたエラは水の濾過のための装置。水路に放たれたギルバードは遊泳しながらエラから廃棄プラスチックを吸引し、それらをお腹の中にためこんでいく。さらに如才がないことに、これらギルバートが水路から抽出したマイクロプラスチックは、その後、リサイクルやサンプリングにも使用できるという。 ギルバートの3Dプリントデータが無料公開 ところで、コンテスト自体は実物ではなくデータによって行われた。つまり、これはアイディアによって審査されるコンテストなのだ。しかし、今回は優勝作品であるギルバートのみ、コンテストを主催している科学者チームによって3Dプリンターによって具現化されることになった。完成されたギルバートは暗闇でも光る仕様になっており、すでに遊泳実験も行われている。これまでも魚型のロボットは海洋生物の研究に使われてきたが、マイクロプラスチックを吸引する魚型ロボットはギルバートが最初だ。 ただ、研究チームによれば、今回3Dプリントされたギルバートはあくまでもプロトタイプとのこと。現在、ヒレの最適化や尾による動力供給システムを開発することでよりギルバードの性能アップを試みているそうだ。ちなみに、このギルバートはオープンソースになっており、GrabCADというサイトより無料でデータをダウンロードすることができる。つまり、3Dプリンターといくつかのガジェットを用意すれば、あなたの家の近くの水路においてもギルバートを使ったマイクロプラスチック掃除ができるということだ(もちろん、それぞれの地区の条例などが許す限りにおいて)。 これは3Dプリンターを使った市民レベルにおける環境問題への取り組みを促すことにもなるだろう。今後プラスチック問題において3Dプリンターが「悪者」扱いされないためには、こうしたユーザーたちの工夫とセンスが欠かせないのかもしれない。
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金属3Dプリンターの民主化に向けて|Meltioの取り組み
いまだ一般人には手が届かない金属3Dプリンター 金属3Dプリンターは一般に工業用3Dプリンターとして認識されている。金属という重厚な素材を扱う3Dプリンターであるから、ということも一つの理由だが、それ以上に金属3Dプリンター本体、及び関連ソフトウェアの高価さが、一般ユーザーを遠ざけている。出力方式によっても違いはあるが、おおまかな価格帯としては依然として数千万円以上。FDM方式の金属3Dプリンターであれば比較的安価ではあるものの、バインダー除去や焼結を行う費用を考えれば、やはり一般ユーザーには簡単に手が出せるものではない。 知られざる金属3Dプリンターの世界~現状と基礎知識~ https://skhonpo.com/blogs/blog/metal?_pos=1&_sid=0df96b506&_ss=r 実際、3Dプリンターの通販事業を行なっている弊社においても、現状で金属3Dプリンターは取り扱っていない。本来なら様々な素材を用いた3Dプリントの機会がより広い層に提供されるべきではある。しかし、価格帯を考えると難しいのだ。また、高価であるだけでなく、金属3Dプリンターはオペレーションも非常に難しいと言われている。そのため、一般ユーザーどころか中小企業にとっても、その導入は簡単なことではない。専門のオペレーターも一緒に雇用しなければならないとなれば、二の足を踏むのも無理はないだろう。せっかく素晴らしい技術があるのに、そのポテンシャルが発揮されうる場が、ある一部に限られてしまっているというのは、端的にもったいない。果たして、金属3Dプリンターは今後も手の届かない高嶺の花であり続けるしかないのだろうか。 金属3Dプリンターを民主化するために こうした状況を打破し、金属3Dプリンターを民主化したい、つまりより広いユーザーへと開放したい。そうした目標を掲げて研究開発を進めている企業も存在する。たとえば、2019年に設立されたスペインの多国籍レーザー金属堆積メーカーMeltioだ。これまで同社は、安全で信頼性の高い、手頃な価格の金属3Dプリンターの開発に熱心に取り組んできた。とりわけ、同社が目下注力しているのは、高価で操作が難しい金属3Dプリンター用ソフトウェアの改革だ。「金属付加製造は、歴史的に複雑で高価なソフトウェアと関連付けられており、非常に専門的であるため、ごく少数の人々の使用に限定されていたことに注意する必要があります。Meltioでは、新しいソフトウェアの発売により、金属3D印刷を民主化するための学習時間を促進および短縮し、企業内のさまざまなプロファイルでソフトウェアにアクセスして簡単に使用できるようにします」そう語るのはMeltioのCEOであるÁngel Llavero氏だ。 画像:Meltio これまで同社の金属3DプリンターであるMeltio M450のユーザーは、ツールパスを作成するためにサードパーティのFFFスライサーを使用しなければならなかった。これは操作が非常に専門的で、習得するためには非常に時間がかかる。その障壁を突破しようと、同社が行なったのは独自のソフトウェアMeltio Horizonの開発だ。これによって同社は、ユーザーにとってより簡単に、カスタムプリントおよび材料プロファイルと独自の機能を提供することを試みている。この新しいソフトウェアソリューションでは、印刷速度、サポート材料、線幅、層の高さなど、他のFFFソフトウェアで使用される従来のスライスパラメータに加えて、レーザー出力やホットおよびデュアルワイヤ設定などの材料固有のパラメータを提供しているそうだ。操作の説明も充実した形で提供されるため、特別な学習を経ることなく簡単に使用を開始できる形になっているらしい。おそらくは、このソフトウェアの登場によって、導入、運用にかかるオペレーションコストは大幅に下がる。本体の価格革命には至っていないものの、金属3Dプリンターの民主化に向けて一歩前進であることは間違いない。果たして、金属3Dプリンターを一般向けユーザーが気軽に使える日が訪れるのは、まだしばし先のようだ。ただ少しずつ着実に、金属3Dプリンターは私たちの元へと降りてきている。
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従来型と比較して速度は100倍以上、ボリュメトリクス3Dプリント技術「VAM」の現状と今後
原料液の中に突如としてオブジェクトが!未来の3Dプリント技術「VAM」とは? 以前も本ブログ欄で紹介した「ボリュメトリクス3Dプリント」という言葉をご記憶だろうか。 出力速度は従来型の数百倍!? 世界初のボリュメトリクス3Dプリンター「Xube」https://skhonpo.com/blogs/blog/xube?_pos=1&_sid=a3822bb0c&_ss=r あらためて解説すると、ボリュメトリクス3Dプリントとは、これまでの光造形(SLA)や熱溶解積層(FDM)といった方式とは異なるボリュメトリック積層造形(通称VAM)と呼ばれる方式を採用した3Dプリント技術のことだ。このVAMとは、容器に入った液体前駆体の中で、光を用いて物体を素早く固化させる方法のこと。異なる波長の2本の光ビームを交差させて物体全体を固化させることで、オブジェクトを一気に造形する。その技術の何が凄いかといえば、まずその造形速度だろう。少なく見積もって従来の数倍。たとえば、ドイツのベルリンを拠点とするxolo社が昨年発表した世界初となる市販型のボリュメトリクス3Dプリンター「The xube」では従来の3Dプリンターであれば約90分ほどかかる90mmのオブジェクトを、数秒から長くても5分で出力可能だと言われた。同時にこれまで速度とトレードオフにあると考えられてきた精度においても、従来の方式を大幅に上回ると言われている。さらに注目されたのがVAMにおいてはサポート材もビルドプレートも必要としないという点だ。イメージとしては原料液の中に突如としてオブジェクトが現れ、浮き上がってくるような形になる。VAMはしばしば人気SF映画『スター・トレック』に登場するレプリケーターというマシンに喩えられているのだが、まさに近未来の最先端3Dプリント技術なのだ。 Vitro3Dがシード資金調達ラウンドで新たに130 万ドルを調達 そんなVAMではあるが、現状ではまだまだ発達途上。広く一般に普及するところまでには至っていない。そんな中、先日、ボリュメトリクス3Dプリント技術の開発研究を行う米国のVitro3Dが、シード資金調達ラウンドで新たに130 万ドルを調達したというニュースが流れた。これは現在急成長中のボリュメトリック3Dプリンティングの世界において、かなりホットなトピックだ。Vitro3Dは、ボリュメトリクス3Dプリント技術は既存の3Dプリント技術よりも 100 倍高速であると主張している。現在、同社はレジンカートリッジを使用してより大きく、また高解像度で複雑なコンポーネントをプリントすることを目指している。これによりレジンの取り扱いが不要になるとのこと。今後は、利用可能な幅広い材料特性の開発と、最小限の後処理を必要とする部品の製造も同時に行っていくそうだ。同社がまず注力しているのは、一般家庭向けの汎用3Dプリンターではなく、歯科用アライナー(マウスピース)の3Dプリントと、組織工学用の足場の3Dプリントだ。もちろん、これは入り口である。技術の発展とともにその用途は大幅に拡大していくはずだ。 歯科市場向けの部品を3D プリントするために使用される Vitro3Dのプロセスのレンダリング。画像:Vitro3D. ボリュメトリクス3Dプリント技術は多くの可能性を秘めた急成長中の分野であり、ほとんどの場合はまだ研究段階にある。部品全体を一度に3Dプリントすることは極めて論理的だが、果たして現実世界でどのように機能していくかはまだ未知数の部分が多いのだ。しかし専門家たちは、これがSLAなどの既存の技術をやがて追い越していく可能性が非常に高いと考えている。以前、本ブログ欄でも取材させて頂いたボリュメトリクス3Dプリンターを扱うxolo社のCEOであるDirk Radzinski氏によれば、市場開拓はステップバイステップで進んでいくだろうとのことだった。同社はxubeをはじめとするVAM3Dプリンターをすでに開発済みだが、それらは現状で研究目的以外には販売されていない。 「ボリュメトリクス3Dプリントは今後いくつかの市場を制覇するだろう」——世界を変える技術を開発する「xolo」のCEO・Dirk Radzinskiが語るhttps://skhonpo.com/blogs/blog/volumedirk?_pos=2&_sid=a3822bb0c&_ss=r とはいえ、にわかに役者は揃いつつある。おそらく数年内にまた大幅な進展があるだろうことは間違いない。果たして私たちが日常的にVAMでものつくりを行う日は訪れるのだろうか。今後の展開にますます期待したい。
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ハーバード大学が開発した水面張力を用いたナノ3Dプリンター|驚くべきイノベーションだと話題に
水面張力を利用してナノ構造を3Dプリント ハーバード大学のエンジニアと研究チームが開発したあるマシンが話題になっている。そのマシンは水の表面張力を利用して微細な物体をつかんで操作するマシンとのことで、ナノスケールの構造物を製造する上で今後、極めて強力なツールになっていくだろうと目されている。「私たちの研究は、微細構造およびナノ構造の材料を製造するための潜在的に安価な方法を提供します」そう語るのは研究チームの教授であるVinothan Manoharan。「レーザーピンセットのような他のマイクロマニピュレーション方法とは異なり、私たちの機械は簡単に作ることができます。多くの公共図書館で見られるような、水タンクと3D プリンターを使用しています」このマシンは、3Dプリントされたプラスチック製の長方形からなり、昔のスーパーファミコンのカートリッジとほぼ同じ大きさとなっている。デバイスの内部には交差するチャネルが刻まれていて、各水路に広い部分と狭い部分が設けられている。水路の壁は親水性で、水を引き付けるようになっている。 果たして、なぜこのデバイスがナノ構造を3Dプリントするのに役立つのだろうか。その鍵となるのが「水面張力」なのだ。 水流とフロートの運動を使って繊維を編む 研究チームは一連のシミュレーションと実験を通じて、このデバイスを水中に沈め、ミリサイズのプラスチックフロート(浮き具)をチャネルに配置することで、水の表面張力によって壁がフロートを反発することを発見した。フロートが水路の狭い部分にあった場合は、フロートは壁からできるだけ離れて浮くことができる広い部分に移動していく。水路の広い部分に入ると、フロートは中央に閉じ込められ、壁とフロートの間の反発力によって所定の位置に保持される。デバイスが水から持ち上げられると、チャネルの形状が変化するにつれて反発力が変化する。フロートが最初に広い水路にあった場合、水位が下がると狭い水路にいることに気づき、より広い場所を見つけるために左または右に移動する必要がある。 今回、利用したのは、この水流とフロートの運動だ。研究チームはフロートに微細な繊維を取り付けた。そうすることで、水位が変化し、フロートが水路内で左右に移動すると、繊維が互いに絡み合うことになる。かくして、研究チームは一連のチャネルを設計してフロートを編組パターンで動かすことによって、合成素材ケブラーのマイクロメートルスケールの繊維を編むことに成功した。さらに研究チームはこれをナノレベルで行うための機械を構築した。つまり、サイズが10マイクロメートルのコロイド粒子を捕捉して移動できる機械だ。「それで試してみたところ、うまくいきました。表面張力の驚くべき点は、手に収まるほど大きな機械でも、小さな物体をつかむのに十分なほど穏やかな力を生み出すことです」 これらの研究は「毛細管力を使用して微細な物体を操作する3Dプリントマシン」として論文化され、科学雑誌『Nature』に掲載、現在大きな反響を呼んでいる。もちろん、まだ研究途上だ。目下、研究チームは、高周波導体を作ることを目標に、多くのファイバーを同時に操作できるデバイスを設計することを目指している。 水の表面張力が切り開いたナノ3Dプリント技術の新しい可能性。今後の展開に期待だ。
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造形速度は従来の10倍以上!? マルチレジン3Dプリント技術「iCLIP」が登場
現在実用化されている最速の3Dプリンターよりも5〜10倍の造形速度 スタンフォード大学が開発した最新の3Dプリント技術が注目を集めている。その名は「iCLIP」。なんでもこの技術、現在実用化されている最速かつ最高精度の3Dプリンターよりも5~10倍の造形速度をもち、かつ一つの造形物に対して複数種類のレジンを用いることができるというものらしい。たとえば、この記事のトップ写真。これはiCLIPメソッドを使用して作成されたオブジェクトであり、キエフの聖ソフィア大聖堂をモデルにしているのだが、ご覧のようにウクライナの国旗カラーである青と黄色の2色が用いられている。「この新しい技術は、デジタルマニュファクチャリングの新時代の到来を告げる。これまでよりはるかに高速に印刷できるようになるだけではなく、複雑なマルチマテリアルオブジェクトを1つのステップで製造できるようになる」そう語るのはスタンフォード大学のジョセフ・デシモーネ教授だ。5〜10倍の速度というだけでも十分な革新だが、なおかつマルチカラーに対応しているというのだから、これはたしかに夢が膨らむ話である。この「iCLIP」は2015年に同チームが開発した連続液体界面製造法「CLIP」に端を発し、この「CLIP」を大幅に改良したものが今回の「iCLIP」だそうだ。では、「iCLIP」の何が特別なのだろうか。従来の光造形3Dプリンターの場合、マシン下部のレジンプールから造形に必要なレジンを吸引して造形を行うのが一般的である。しかし、この「iCLIP」においてはオブジェクトを上昇させるプラットフォームに設置されたシリンジからも加圧したレジンを同時に供給しているのだ。それによって、造形速度を大幅に速めることに成功し、かつ複数のシリンジを用意することで、1度の造形において複数のレジンを使用することも可能になった。 なんでもジョセフ・デシモーネ教授にヒントを与えたのは、あの名作映画「ターミネーター2」の1シーンだったという。革新のヒントは思わぬところに潜んでいるものだ。現在、チームは「iCLIP」を最適に駆動するためのソフトウェアの構築を検討しているとのこと。それによって複数のレジンの境界を制御し、さらなる高速プリントを実現することが目指されている。果たして、「iCLIP」式の3Dプリンターが市場に登場するのはいつ頃になるのだろうか。
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Cloud Factoryが展開する海外セレブ向けの3Dプリントジュエリー
3Dプリントジュエリーの発展には「エシカル」だけでは足りない? 先日、エストニアを拠点にオンデマンドのジュエリー3Dプリントビジネスを展開するCloud Factoryが新たな事業拡大のおための資金200万ドルを調達したというニュースが発表された。同社はブランドやインフルエンサーと協力としてジュエリーコレクションをデザイン、かつそれをオンデマンドで3Dプリントするスタートアップとして知られている。また同社は同時にNFT事業にも参入しており、メタバースを視野に入れた全く新しい事業展開を考えている。「私たちはメタバースの時代に生きることに本当に興奮している。有力なブランドや有名人のために、フィジカルな製品と絶妙なジュエリーのNFTの両方を生産することで、古い伝統のある産業をこのゲームに持ち込むことができる」そう語るのは同社CEOのタヴィ・キカスだ。とにかく話題には事欠かない。同社はまた「世界初の廃棄物ゼロのジュエリー工場を設立する」など、多くの興味深い主張を同時に行なっており、実際、彼らが3Dメタルプリントに用いるのはリサイクルされた持続可能な貴金属のみであるらしい。さらにオンデマンド生産により無駄な製造を控えることで環境問題にも取り組んでいきたいとしている。 ジュエリーを製造する以上、エシカルであるだけではダメだ。そこには華やかさと洗練が欠かせない。そのためにも同社は世界中のブランドやセレブ達の支援を獲得している。宣伝においてはSNSを上手に利用し、また3Dプリンティングならではのスピード感によって、アパレル業界の基本であるSSとAWの2シーズンにとらわれることなく、コレクションも素早く変更されていく予定だ。 同社の目標は、「ダイレクトメタル3Dプリントを使用して、費用対効果が高く、かつ持続可能な方法で、ファインジュエリーをスケーラブルに製造する世界初の企業」になること。果たして、Cloud Factoryはジュエリー業界にどんな旋風を巻き起こすことになるのだろうか。 Cloud Factoory https://www.cloudfactory.jewelry/
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「狼瘡」の治療を前進させる3Dプリントデバイスをミネソタ大学が開発
皮膚の炎症と紫外線の相関関係 狼瘡と呼ばれる皮膚疾患がある。正式名称はエリテマトーデス(紅斑性狼瘡)。免疫の異常による自己免疫疾患で世界に約500万人の患者がいるとされている。全身または皮膚に炎症が起こってしまう病気で、その発疹が狼に噛まれた痕のような赤い斑状であることから、狼瘡と名付けられた。同時に発熱、全身に及ぶ倦怠感などの症状、腎臓、肺、中枢神経などの内臓にもさまざまな症状が現れることもあることから指定難病とされており、一般の治療にあたってはステロイドが用いられている。もうひとつ、狼瘡の目立った症状に日光過敏症がある。皮膚を紫外線に暴露した後に、露光部位に紅斑、水疱、あるいは熱が出ることがある。これは狼瘡の症状を悪化させることになり、当事者としても非常に苦痛を伴う。それゆえ日光過敏症を発症している狼瘡患者は、日中の外出に大変気を使うことになる。こうした患者さんへの治療を促進するためにミネソタ大学の研究者が3Dプリントされた光感知デバイスを作成したことを先日発表した。このデバイスでは、狼瘡の症状と光感受性を関連づけるデータを収集し、世界中の医師たちが狼瘡を適切に治療するのに役立てることが目指されている。 3Dプリント紫外可視光検出器によるデータ集積 発端となったのはミネソタ大学医学部の皮膚科医であるデイヴィッド・ピアーソンだ。 彼は臨床の場において日光が狼瘡を悪化させる問題に向き合ってきた。しかし、日光と狼瘡には相関関係があるということはこれまでも分かっていたものの、各患者それぞれが日光によってどのような影響を受けるのかを予測することは困難だった。そこで、ピアーソンはその相関関係をよりよく理解するために、ウェアラブル医療機器の開発者であるマイケル・マカルパインと共同でこのデバイスの開発に着手した。 今回、作成された3Dプリント紫外可視光検出器は、1日中連続して皮膚に装着することができる。それによって患者が曝されているUV露出を監視し、かつその露出を患者の症状に関連付け、それらのデータを集積していく。マカルパインはこの制作にあたり、3Dプリントされた発光デバイスを用いた。それらを修正し、受光デバイスに変換することで、本デバイスを制作した。なお、臨床試験もまもなく開始される予定だという。 3Dプリント技術と医療機器は非常に相性がいい。今回のデバイスも、3Dプリント作成であればこそ、患者に合わせてパーソナライズされたデバイスを印刷することが可能になる。確かにこれは「小さな一歩」に過ぎないかもしれないが、この「小さな一歩」の集積によってしか医療は進歩しない。この研究が狼瘡患者の苦しみを少しでも取り除く日が来ることを願っている。
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まるで巣作りする蜂のよう? ドローンの群れで3Dプリントする実験が話題に
無数のドローン蜂が巨大建築を3Dプリントする近未来 今、3Dプリント技術に関する一つの実験が話題になっている。この実験の目的はサイズの制約のない3Dプリントマシンを探求すること。通常、出力オブジェクトのサイズは、マシンフレームそのもののサイズに依存する。しかし研究チームは、ある方法を用いれば、ほぼ上限なしにどこまでも出力することができるはずだと考えた。 その方法とはドローンを用いる方法だ。 アイディアそのものはシンプルだ。素材の押出機を取り付けたドローンが飛行しながら素材を押し出していく。もちろんドローンである以上、高度は自在にコントロールが可能。これによって、マシンフレームという概念を超えた超高度の出力物のプリントが可能になるというわけだ。しかし、当然ながら問題もある。ドローンには飛行中わずかにドリフトする傾向があることだ。正確さを求められる3Dプリントにおいてこれは問題だ。チームが思いついた解決策は、ドローンの下部にぶらさがっているデルタボットキャリアにエフェクターを取り付け、これにより測定された動きを補正し、位置誤差の大部分をキャンセルするというものだった。果たして念願のドローン3Dプリンティング実験は複数のドローンの編隊飛行によって実現された。今回は2機。最初のドローンはスキャナーとして機能し、印刷面とすでに完了した印刷を測定する。すると2番目のドローンが近づいて1つのレイヤーを配置する。すると、また場所を入れ替えて、という流れを構造が完成するまで繰り返していく形だ。 チームの目標は、大規模で複雑な形状の構造を任意の表面に印刷できるようにすることだという。そのためには、ドローンの群れを使用して、それぞれが必要な材料を堆積させていく必要がある。それはちょうど虫の、特に蜂の巣作りのようだ。実際、実験の映像を見てみると、まさに新種の羽虫が巣を作っているように見える。研究チームもまた蜂の巣作りを参考に研究を進めたらしい。 遠くない将来、無数のドローン蜂の群れが大規模建築を3Dプリントしている光景を街中で見かける日が来るのかもしれない……と思うと、ちょっとゾッとしたりもする。
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廃棄ペットボトルをPETフィラメントに変換するPetalotプロジェクトとは?|今以上に3Dプリンターを気持ちよく使うために
プラスチックの一人あたり消費量において日本は世界第二位 3Dプリント技術の浸透は既存のサプライチェーンを見直し、また製造業における原材料の無駄遣いを減らすことを可能にするといわれている。これは製造業がもたらす環境負荷を減らすための取り組みに大いに資するとされているポイントだ。ただし、その一方で環境問題への取り組みという観点においては、3Dプリント技術には大きな弱点もある。それは3Dプリンターが3Dプリントを行う際の主要な原材料の一つであるプラスチックの問題だ。プラスチックによる海洋汚染は深刻である。通常の素材と異なり、プラスチックはそう簡単に自然分解されない。一般的にその分解には450年の月日を要するとされており、それゆえ海洋に廃棄されたプラスチックはかなりの長期間、海中を彷徨い続けることになる。さらに、その分解の過程においては有害なマイクロプラスチックも発生する。とりわけ2014年の調査によれば日本は国民一人あたりのプラスチックの消費量、廃棄量が米国に次いで世界で2番目に多いと言われる。これはちょっと他人事では済まされない問題なのだ。 とはいえ、プラスチックという素材それ自体に罪はない。プラスチックは人間がかつて発明してきた様々なものの中でも非常に優れた発明品の一つだ。私たちが享受している現代的な暮らしは、プラスチックなしでは決して実現しなかった。だから、これは0か100かの議論ではない。重要なことは、プラスチックの増えすぎてしまった総消費量を減らすこと、そして、そのためのリサイクル方法の確立だ。 ペットボトルからフィラメントを|Petalotの試み そうした背景を受け、3Dプリントの世界においても、現在、プラスチックを上手にリサイクルするためのプロジェクトを実践する人たちも現れている。たとえばPetalotと呼ばれるプロジェクトもその一つだ。このプロジェクトでは、プラスチックの総消費量の中でも単独で15%近くを占める使用済みペットボトルを3Dプリント用のフィラメントへとリサイクルするためのツールを提供している。 画像/Petalot Petalotがそのリサイクルにいて用いている方法は通常の3Dプリント用フィラメントを製造する方法とほとんど変わらない。一般的にフィラメントは溶融プラスチックをダイスと呼ばれる開口部から押し出し、それを冷却してスプールに巻き取ることによって作られる。Petalotの場合は、古い3Dプリンターのホッドエンドを改造した金型の両サイドにペットボトルカッターとフィラメントワインダーを配置し、それによってペットボトルを螺旋状のストリップにカット。その先端が3Dプリンターのホットエンドを介してスプールに巻き取られることで3Dプリント用フィラメントとしてリサイクルされる。 画像/Petalot こうして作られたPET素材のフィラメントは弊社でも扱いのあるCreality Ender3で使用することができるという。ただ、PET素材はフィラメントとしては反りやすいという特質もあり扱いが難しい部類の材料でもある。ただ、一方で剛性の高いオブジェクトを出力できるという利点もあり、適切に使用すれば十分に使える素材となる。開発者はこのPetalotの製造方法をオープンにしている。基本的には古い3DプリンターやPCのハードウェア、木製パレットなどの素材があれば自作することができるようだが、それなりに手間がかかるという点は否めない。これはあくまでも3Dプリンターユーザーの立場からプラスチック問題にアプローチするための一つの実践例であり、より多くの人がリサイクルフィラメントを当たり前に使用するようになるためには、さらなる試行錯誤が必要だろう。 画像/Petalot いずれにしても、せっかくの素晴らしいテクノロジーなのだ。今以上に気持ちよく3Dプリンターを使うことができるようになるのなら、それに越したことはない。プラスチックをただの憎まれ役にしないためにも、さらなる技術の発展を願うばかりだ。 Petalotのtiktok https://www.tiktok.com/@function.3d/video/7136244219143933190?is_from_webapp=v1&item_id=7136244219143933190
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世界初のゼロネットエネルギー3Dプリント住宅が登場|高騰する電気代、圧迫される家計に希望の光が?
電気代が高すぎる! そんな悩みを解決するかもしれない3Dプリント住宅 ゼロネットエネルギーという言葉をご存知だろうか。これは一年間における一次エネルギーの収支がプラスマイナスでゼロになる状態を指す言葉で、主に住宅やビルなどの建物に対して用いられる言葉だ。一般に建物内では人が活動しているため、エネルギー消費量をゼロにすることはできない。しかし、快適な室内環境を整えるためのエネルギーを建物内において創エネし、一方でこれまでの無駄を減らして省エネすることで、実質的な収支ゼロを実現することが、このゼロネットエネルギーの骨子だ。実は先日、3Dプリント建築においては初となるゼロネットエネルギー住宅が誕生した。建築を手がけたのは3Dプリント建築業界の雄であるMighty Buildingsで、建設地はアメリカは南カリフォルニア。なんでも従来のゼロネットエネルギー住宅を超える野心的な試みがなされたらしい。 エネルギーを相殺する以上に多く生成する Mighty Buildingsが今回示したのはカーボンニュートラルという概念のその先だ。この新建築においては、ライフサイクルの過程や建設プロセスにおいて消費されるエネルギーを単に相殺するのではなく、それよりも多くのエネルギーがそこで生成されるように設計されている。 これを実現させたのは、サプライチェーンへの依存と、材料の廃棄物を必要最小限に抑え、なおかつ住宅が建てられた後に再生可能エネルギー源を利用することによって達成される。今回の建築には住宅の屋根にソーラーパネルが組み込まれ、かつソーラーストレージ用のバッテリーを装備している。デザインも洗練されている。フラットな長方体は自然豊かな南カリフォルニアの自然に溶け込んでおり、まさに新時代の住宅といった感がある。なお、Mighty Buildingsは今後、このゼロネットエネルギー住宅をキット化して南カリフォルニアだけで40以上の3Dプリント住宅を建築していくことを計画しているようだ。 エネルギー価格が高騰を続けている今日、ゼロネットエネルギー住宅への関心は、特に欧米で一層高まってきている。環境問題云々は一旦棚にあげるとしても、光熱費の高騰は単純に家計を圧迫する問題だ。3Dプリント建築技術の発達がこの問題のソリューションを生み出す日もそう遠くないかもしれない。
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実物大のティラノサウルスの頭骨をVRスカルプトして3Dプリントした男性が話題に|使用したのはCrealityのCR-10Max
出力にかかった時間は3070時間以上! 家庭用3Dプリンターの限界に挑む 今、Redditであるひとつの投稿が注目を集めていいる。その投稿には、ある男性が巨大な恐竜の頭骨を掲げてにんまりと満足げな笑みを浮かべている画像も添えられている。この本物と見紛うばかりの精巧な恐竜の頭骨、なんとこの男性が個人的にモデリングして3Dプリントしたティラノサウルスの等身大の頭骨なのだ。 この男性(@Topgunsi)によれば、この頭骨の3Dプリントにあたって使用した出力時間は3070時間以上、使用したフィラメントの総量は97kg以上だという。気が遠くなるような時間と質量。その重労働を担ったのは、SK本舗でも取り扱いのある3DプリンターメーカーCrealityのCR-10Maxだ。 画像はCrealityのCR30。非常に高性能なFDM家庭用3Dプリンターだ。CR-10Maxはもちろん家庭用3Dプリンターであり、その価格も極めてお手頃。いわば誰にでも手が届くレベルの3Dプリンターであるわけだが、それでこれだけの巨大オブジェをこの精度で作り上げたというのだから、なんとも夢のある話だ。@Topgunsiによれば、今回、彼はVRスカルプトによってティラノサウルスの頭骨の3Dデータを作ったそうだ。以前にも記事にしたことがある通り、VRスカルプトとはVRヘッドセットを装着し、VR空間の中であたかも本当に彫刻作品を制作するように3Dデータを作り上げていく最新の手法。使用アプリはShapelabs VRというメッシュスカルプティングアプリ。有機的なモデルの造形に強い人気アプリだ。 VRモデリングの魅力と難点──近い将来、VRモデリングがスタンダードに?https://skhonpo.com/blogs/blog/vrmodeling?_pos=1&_sid=2f8e346e9&_ss=r @Topgunsiはこの手法にのめりこんで以来、様々な恐竜や先史時代の生き物の骨格をバーチャル空間で造形し、恐竜骨格の仮想ミュージアムを構築してきた。そして今年に入り、地元であるニュージーランドで本物のティラノサウルスの骨格標本を鑑賞する機会を経て、現在は自身が作ったティラノサウルス骨格モデルの全体を等身大で3Dプリントするという、壮大な計画に着手している(計画の進捗は常にRedditにて公開されている)。 ただし、実は恐竜の骨格の3Dプリント自体は珍しいことではない。すでにスミソニアン博物館は独自でスキャニングしたティラノサウルスとトリケラトプスの3Dモデルを一般に無料公開しており、もし恐竜を3Dプリントしたいだけなら、誰にでもその門戸は開かれている。つまり今回注目すべき点は、やはり一般人がVRスカルプトによって複雑な骨格データを作りあげ、それを家庭用3Dプリンターで等身大サイズにおいて出力するという力技を達成した点にこそあ流のだ。それはまた同時に、時間と根気さえあれば誰にでも挑戦できるということをも意味している。 果たして、@Topgunsiの無謀な挑戦は今後どんな展開を見せるのだろうか。さしずめ現代版「シュヴァルの理想宮」。続報を待つことにしよう。
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あの有名キャラクターが自分の顔に!? FormlabsとHasbroの新しいフィギュアシリーズ《SELFIE SERIES》が提供する「究極の消費者体験」
フィギュアとコスプレの融合? 3Dプリンターの登場によって最も大きな影響を受けている業界のひとつにフィギュア業界がある。すでにフィギュア業界において3Dプリンターがなくてはならないものになっているということについては論を待たない。フィギュアを3Dプリンターで自作するというのはもちろん、3Dプリンターを製造過程に取り入れることによってメーカーのフィギュアに関してもユーザーのカスタマイズ可能性は格段に増した。そんな中、FormlabsとHasbroの提携によるアクションフィギュアシリーズが新しい展開を見せようとしている。同シリーズではこれまでも様々なカスタマイズに開かれたアクションフィギュアを発表してきたが、今回発表された新シリーズ「SELFIE SERIES」においては、なんでも人気のアクションフィギュアの顔面をユーザー自身の顔を模したモデルにカスタマイズすることができるらしい。 ラインナップも充実している。マジック・ザ・ギャザリングやトランスフォーマーなどこれまで同シリーズで展開してきた人気コンテンツに加え、マーベルシリーズやゴーストバスターズ、スターウォーズなども加わり、それら人気コンテンツのキャラクターフィギュアに自分の顔をあてがうことができるようになっているそうだ。 これはなんともオタク心をくすぐる話ではないだろうか。好きなキャラクターを所有する喜びを満たしつつ、さらにそのキャラクターに自分がなりきるという変身願望まで満たしてくれるこの新企画は、ある意味でフィギュアとコスプレの融合とも言えるだろう。開発者たちにとってもこの機能追加は念願だったようで、Hasbroのデザイン、開発、イノベーション担当プレジデントであるブライアン・チャップマンもまた次のように述べている。「パーソナライズされた製品を求めるファンの要望を真に理解するために広範な調査を行い、チームはその夢を実現するために素晴らしい仕事をしました. この独自技術の革新は本当に目覚ましいものです。ファンたちがコレクションに自分自身のフィギュアを追加する日がくるのが待ちきれません」。 約80ドルで手に入る「究極の消費者体験」 果たしてこの「究極の消費者体験」はいかにして行われるのだろうか。その手順はとてもシンプルだ。まずユーザーが自分自身の顔を、3Dスキャナー、あるいはスマートフォンなどのアプリによって、様々な角度からスキャン。その後、そのデータをiOSやAndroidデバイスで利用可能なHasbroの公式アプリ「Hasbro Pulse」にアップロード。あとはお好みのフィギュアを選択して注文したら完了だ。もちろんスキャンされた自分の顔をカスタマイズすることも可能だ。肌の色や髪の色、あるいはヒゲを追加してみたりと、希望の形に近づけていくこともできる。 これらの注文がHasbro独自のFormlabs印刷工場へと届けられると、ユーザーがアップロードしたデータにそってヘッド部分が印刷されることになる。そして、そのヘッドに大量生産された様々なキャラクターのアクションフィギュアのボディが接続された上、ユーザーの自宅へと送り届けられるというわけだ。注文からお届けまでの期間は早ければ数週間以内とのこと。また完全にそれぞれにオリジナルなカスタマイズが施されるにも関わらず、価格も約80ドル程度。これは実に良心的と言っていい価格設定だろう。 自分向けはもちろん、友人へのプレゼントとしても絶対に喜ばれる「SELFIE SERIES」。今のところ残念ながら公式ではアジアへの配送は行っていないようだ。この記事を読んで興味を持ったという人は、是非ともSNSなどで販路拡大を希望する声をあげてみてほしい。
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レゴを象徴するクラシックなアヒルのおもちゃを3Dプリンターでリメイク
不朽の名作玩具「レゴブロック」 レゴブロックが子供のおもちゃの代名詞的存在になって久しい。考えてみればすごい話だ。世界では日々、様々な技術が開発され、また様々な商品が新たに製造されている。そんな流動する世界で、一世紀近くも同じおもちゃが、それも世界中で愛され続けているなんて、ほぼ奇跡に等しいだろう。そんなレゴブロックの発祥地であるデンマークのビルンにあるレゴハウスで、先日、世界中のレゴファンを集めてあるイベントが開催された。Adult fun of legoと名付けられているこのイベントは、実は毎年開催されている。大人になって以降もレゴに魅せられてやまないレゴマニアたちが集まり、レゴハウスに集い、レゴブロックで遊び、また対話するためのイベントだ。今回、そのイベントで限定のミニフィギュアを購入した人たちに、あるユニークなプレゼントが贈呈された。一見、それは単純な作りのアヒルの置き物のように見える。実はこれ、1935年にレゴの創設者であるオーレ・カーク・クリスチャンセンの息子ゴッドフレッド・カーク・クリスチャンセンがワークショップを手伝い始めて以来、レゴ社のシンボルともなってきた木製のアヒルのおもちゃの再現なのだ。 レゴの象徴でもあった木製のアヒルのおもちゃ 3Dプリント技術が老舗玩具メーカーを変革する すでに1960年に製造が終了しているそのアヒルのリメイクは、2020年にすでに行われていた。その際、製造の鍵となったのは3Dプリンターだ。レゴパーツをメインの部品としつつ、それが従来のモデル通り口をパクパクさせて動く機能を備えるためのアクセサリーが3Dプリンターによって出力されたのである。 2022年の今回プレゼントとして作られたのは、組み立て式ではないミニフィグのアヒル。ファンたちはこのサプライズに大興奮の様子で、新しいレゴを予感させるマイルストーンになると噂している。 実はレゴは3Dプリンターにずっと関心を寄せてきており、社内にはAMのチームも組まれている。果たして、今後、伝統と革新がいかに融合していくことになるのだろうか。次の1世紀も変わらずレゴが愛され続けることになるかは、案外、3Dプリンターに掛かっているかもしれない。
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3Dプリント可能なオープンソースのVRヘッドセットが2023年にPrusaよりダウンロード開始
ユーザーが独自にカスタマイズ可能なヘッドセット あのPrusaがオープンソースの3Dプリント可能なVRヘッドセットを作成した。今回、PrusaがコラボレートしたのはVRgineersとソーシャアルアプリの開発で知られるSomnium Space。この新しいVRヘッドセットの名前はSomnium VR ONEとなる予定で、2023年初頭にはPrusaのPrintables.comよりダウンロードできるようになるという。開発の背景にあったのは、VR空間でのカスタマイズが、今日のVR業界にとって優先事項であるという意識だ。ユーザーが購入したハードウェアを完全に自分のものとし、いつでもカスタマイズ、あるいは修理や強化をできる環境を提供するためには、ヘッドセットのパーツの3Dモデルが公開され、一般に利用可能である必要がある。Somnium SpaceのCEOによれば「これはメタバースの自由である」とのことだ。 確かに一般にVRヘッドセットを購入した場合、ユーザーにできることは、説明書通りにそれらを使用することぐらいである。しかし、あらかじめオープンソースに設定されているSomnium VR ONEの場合、ユーザーは独自にヘッドセットをカスタマイズし、またそのためのパーツをダウンロードして3Dプリントすることができるようになる。 2023年に完成版がプラハで発表か 現在、Somnium VR ONEのプロトタイプはすでに作成済みとのことだが、実際に公開されるヘッドセットはまだ製造中の段階にあるという。最終バージョンは2023年頭にプラハで開催される予定のイベントSomnium Connectで発表される予定らしい。 実際の流れとしては、まずPrusaはヘッドセットのプラスチック部品の3Dモデルを配布することになる。これは3Dプリンターで誰もが3Dプリントすることができる。そこにオンライン販売される電子機器と独自のレンズを組み立てることで、Somnium VR ONEとなる。 もちろん、自分で組み立てることが面倒だという方のために、完全に組み立てられたSomnium VR ONEを購入するオプションも用意されるらしい。この場合でも後になってカスタマイズしたければ、独自にカスタマイズが可能な仕様になっている。これまで特に精密電子機器は基本的に「完成品」として販売されるのが常だった。よほどの専門的な知識でもない限り、ユーザーが購入した電子機器を独自に改良するということは考えづらかった。しかし、3Dプリント技術によってその状況が変わりつつある。もはや商品は「完成品」ではないのだ。それは常にプロセスの状態に置かれ、さらなる改良を待ち受けながら存在することとなる。Somnium VR ONEがその旗印となるかもしれない。いずれにせよ、2023年の発表が楽しみだ。
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イタリアのロイヤルガーデンに巨大鯨が出現|金属3Dプリントのクリエイティブな可能性
伝統的な緑のガーデンに海の巨大生物が? イタリアの都市トリノのロイヤルガーデンに巨大鯨が登場して話題となっている。ロイヤルガーデンは16世紀以来、トリノ市民を楽しませてきたクラシックな広場。北イタリアらしいのどかな雰囲気を堪能できる、観光客にも人気のスポットだ。そのロイヤルガーデンで現在行われているのが「Animals at Court」展。広大な庭園に様々な生物を模った彫刻が展示されている。その中でもひときわ目立っているのが、件の巨大鯨像だ。制作したのは、スタジオC&Cのパオロ・アルベルテッリとマリアグラツィア・アバルド。今回、彼らはこの鯨のパスデータをデザイン、さらにそのデータをMX3Dのワイヤーアーク積層造形 (WAAM) 金属3Dプリンターによって出力することで、伝統的な陸の広場に海の主を出現させたという。 金属3Dプリンターが「ものづくリ」を革新する まず驚くべきはその重さだ。この鯨の彫刻は約880キロの重量とされている。あたかも地面が海面であるかのように地中から飛び出しているヒレは、通りすがるものたちを驚かさずにはおかないだろう。 制作者によれば、今回、鯨を制作したきっかけとして、ダイビング中にザトウクジラを目撃したという経験があったという。深海で見た鯨はあたかも金属のように重厚だったという。今回はそのインスピレーションに基づき、実際に金属を用いて大地の鯨を制作したというわけだ。大胆極まりない地上の鯨は、言うまでもなく3Dプリント技術なしには実現しなかった。ブロンズの鋳造は従来とてつもない手間がかかる作業であり、不可能ではないものの、アーティストが巨大作品を生みだすために利用するにはコストがかかりすぎる手法でもあった。 あるいは彫刻といえば、これまではあくまでも手作業によって作られるものというイメージも強かった。しかし、今回のケースで明らかなように、すでに彫刻制作はいわゆる彫刻技術を持たない人々にも開かれようとしている。金属3Dプリンターはいまだ発展途上の分野だ。これまで主に工業用に用いられてきたが、実はこうしたアートの文脈においても様々な活用方法がある。実際ここ数年でそうした事例は格段に増えてきている。おそらく、今後もその活用範囲は拡張していく一方だろう。たとえば経済アナリストたちは、金属3Dプリントの市場規模は2026年までに800億円以上の規模になるだろうと推測している。いよいよ本格的な金属3Dプリント時代が始まるということだろうか。次なるニュースを楽しみに待つとしよう。 関連記事 3Dプリンターは芸術の新時代を切り拓くか? ポストデジタル時代の最先端アート 注目すべき3Dプリンターアートを厳選紹介── オラファー・エリアソンからろくでなし子まで 3Dプリントされた人工の森が「光合成」を起こす|ドバイ国際博覧会で話題のスペインパビリオン
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