あの世界的経済誌が3Dプリント技術の今後を分析|あらゆる社会的ニーズを3Dプリンターが満たしていく
「3Dプリンター元年」からまもなく10年
2022年は3Dプリンターの可能性を世界に知らしめたベストセラー書籍『MAKERS』(クリス・アンダーソン著)の出版からちょうど10年目の節目に当たる。
『MAKERS』(クリス・アンダーソン著/NHK出版)
『MAKERS』が出版された翌年の2013年にはオバマ元米国大統領が一般教書演説にて「3Dプリンターがアメリカの製造業を変える」と宣言し、テレビやメディアでも3Dプリンターが大きく取り上げられるようになった。大手家電量販店で3Dプリンターの実機が置かれるようになったのもこの頃だ。そうした状況を受けて「3Dプリンター元年」なんて言葉も生まれた。
その後の3Dプリンター業界の発展と普及については、これまでも本欄で様々に取り上げてきたところだ。活用の幅は日増しに拡張しており、また技術の精度も向上の一途を辿っている。
とはいえ、全てが順風満帆かと言えばそんなこともない。一方ではさらなる発展のために越えていかなければならない課題や障壁も見えてきており、10年前に夢想していたほどには3Dプリント業界は発展していないと感じている人もいることだろう。
確かに、一般人で3Dプリンターを自宅に常備している人はまだ割合的に多くない。社会生活そのものを一新すると言われた3Dプリンター革命はいまだ局所的な段階にあり、真の特異点には達していないというのが大筋の見立てだ。まだ道半ば、今後に期待がかかる。
3Dプリントテクノロジーの40年史──全ての始まりは小玉秀男の「ラピッドプロトタイピング」だった
では、次の10年で3Dプリント業界はどこまで発展していくのだろうか。
2020年代以降の3Dプリントテクノロジーの可能性について、先日、世界的な経済誌である『Forbes』が非常に面白い記事をポストしていた。今、世界で注目すべき先端技術を牽引するフォーブステクノロジーカウンシルのメンバーたちが今後3Dプリントテクノロジーによって満たされていくであろう社会的ニーズについて語ったというのだ。ここで少しその記事を覗いてみよう。
10 Exciting Applications Of 3D Printing That Could Revolutionize Industry And Society(Forbes)
3Dプリンターが満たす10の社会的ニーズ
さて、気になる当該記事では3Dプリント技術が今後満たしていくだろう10個の社会的ニーズが挙げられている。
順番に紹介していくと、⑴義肢や人間の臓器、⑵生物学的インプラント、⑶医薬品、⑷緊急時対応インフラストラクチャー、⑸地球以外の惑星における住宅建設、⑹オンデマンドの衣料品製造、⑺製品のカスタムフィット化、⑻各種教材、⑼バイオミートなどの代替フード、⑽家庭用品の交換部品、などだ。
いずれも本欄でこれまでに紹介したことがあるテーマだが、今後、それらがますます発展していく可能性が高いということだろう。
中でも注目したいのは「製品のカスタムフィット化」だ。衣類、家具、生活用品、あらゆるジャンルにおいて、カスタムフィット製品に革命が起こると記事は伝えている。たとえば使用者の頭に合わせてカスタムフィットされたヘルメット、安全性を最大限に向上させたチャイルドシートなど、今までは規格が決まってしまっていた製品が、消費個人に最適化した形で提供することを3Dプリンターが可能にするという。
あるいは「各種教材」なども興味深い。学生の創造性を刺激する教材として3Dプリンターの存在感が今後ますます上がっていくことになるというのだ。たとえば地理の授業であれば3D地形モデルをプリントして地理を物理的に学んだり、生物モデルをプリントすることで科学を学んだりといったことが記事では想定されている。
2021年版・子供向け3Dプリンター3選|教育、遊戯、創作に最適なマシンはどれか
夢のある話としては「地球以外の惑星における住宅建設」だろう。3Dプリント建築技術は惑星間の旅行、探査、あるいは移住の上では欠かすことができない技術になる。記事では伝えられていないが、現在、宇宙で問題になっているスペースデブリ(宇宙ゴミ)を除去する上でも、3Dプリント技術が活躍していくだろうことは以前にも記事で紹介した通りだ。
宇宙ゴミの衝突が国際問題に発展する!? スペースデブリを追跡するPrivateerSpaceの3Dプリント人工衛星
いずれにしても、世界のテックリーダーたちは3Dプリント技術の今後の発展に大いに期待し、かつその実現を見据えているようだ。この業界の未来は明るい。今後も本欄では注目すべき最先端情報を逐一お届けしていこうと思うので、ご愛読いただけたら幸いだ。