欧州に議論を巻き起こしている3Dプリント安楽死ポッド「サルコ」|命の基準を判断するのはAIか
3Dプリンターが「安らかな死」を出力する
現在、欧州である「乗り物」が話題になっているのをご存知だろうか。
その流線型の美しいフォルムはどことなくスポーツカーを連想させる。しかし、この「乗り物」は決して走ったりはしない。まして友達と楽しくドライブに行くために使うだなんてことは到底できない。この乗り物に乗り込んだが最後、ほとんどの確率でその人が再び地に足をつけることはない。行く先はただ一つ、そう、死後の世界だ。
その乗り物は通称「安楽死ポッド」と呼ばれている。要するに自死カプセルだ。正式名称はサルコ。同装置を開発したのは「死ぬ権利」推進団体エグジット・インターナショナルで、現在、自殺幇助が法的に認められているスイスにおいて実用化が期待されているところらしい。
安楽死ポッド「サルコ」
このサルコに乗るとどうなるのだろうか。いわく、このポッドは内側からのみ操作が可能であるという。乗り込んだユーザーの操作によってポッド内は低酸素状態となり、やがてユーザーは意識を失う。最終的には死に至る窒素ガスが放出され、ユーザーの生は終わりを迎えるという仕組みだ。
同時代の別の国で、このようなポッドの販売が現実に開発されているということに対して、日本人としては驚きを禁じ得ない。だが、スイスでは以前から死ぬ権利が尊重されていた。たとえば2020年の1年間だけでも、スイスでは権利団体による幇助の元に1300人が自死している。これはサルコによるものではなく、医師が処方した薬液を患者本人が体内に取り込むことで行われたものだ。
果たして、こうした自死と、その幇助をめぐっては、さまざまな道義的、哲学的な見解があることだろう。死を自ら選ぶなんて、さらにその死を手助けするなんて言語道断だ、と考える人もいるかもしれない。あるいは死が避けるべきネガティブなものでしかないのだとすれば、生物はみなネガティブな運命を背負った存在ということになるのであり、この生を肯定的に生きるために自死の選択は尊重されるべきだろう、と考える人もいることだろう。
別にここで答えを出す必要はない。ただ、事実としてスイスではすでに死は権利として認められているというだけだ。
さて、このサルコ、実は3Dプリンターによって作られたものだという。作成者はフィリップ・ニッチケ、デザイナーはアレクサンダー・バニンクという人物で、バニングは現在、このサルコの3Dデータと設計図を50歳以上の希望者に対して提供する計画を考えているという。これはヨーロッパではスイス以外のほとんどの国で自殺幇助が認められておらず、マシンを直接提供したり、マシンを共に製造したりした場合、法に問われてしまうからだ。
果たして、サルコクロは世界にどのように受け入れられ、用いられるのだろうか。
なんでも作成者のフィリップ・ニッチケは、サルコにアクセスするためのテストをAIによって行うことを考えているらしい。その人物が死ぬ準備ができているかどうか、命の判断を行うのはもう人間の仕事ではないのかもしれない。