
あの『MAKERS』から10年、バイデン大統領が満を辞して仕掛ける「AMフォワード」プログラムとは?
米国政府が本腰を入れて3Dプリンター業界を支援
「3Dプリンターはものづくりに急激な変化をもたらす可能性がある」
これは2013年にバラク・オバマ米国元大統領が一般教書演説において述べた言葉だ。その前年にはテック系メディア「Wired」の元編集長であるクリス・アンダーソンの著書『MAKERS』がベストセラーに。同書では3Dプリンターが次代の技術の主人公として大きく取り上げられ、日本でもNHK出版が翻訳版をリリースし、たくさんの人に読まれた。
当時はマスメディアでも3Dプリンターの存在が大きく取り上げられていた。いわゆる3Dプリンターブームの到来だ。もちろん、技術自体は1980年代より存在したが、重要な特許の期限が切れ、一般に技術が解放されたことにより、あの頃、3Dプリント技術が一挙に世界に広まったのだった。
あれから間もなく10年が経とうとしている今年、バイデン米国大統領はあらためて米国内の3Dプリント産業の成長をさらに促進することを目的とした「AMフォワードプログラム」を立ち上げた。このプログラムは、米国政府と巨大な多国籍企業が3Dプリントのイニシアチブ、関連中小企業をさまざまな方法でサポートする目的で立てられたものだ。
行われるプログラムは以下の形だ。
①より手頃なコストで3D印刷機器を設置するための小規模メーカーへの資金提供
②メーカーへの技術支援
③3D印刷労働力の構築
④業界標準の設定
つまり、市場、業界全体を活性化し、大幅に底上げすることが目指されている、ということだ。特に①の資金提供は、中小企業が設備をアップグレードするための貸付プログラムとも一体となっており、これは間違いなく製造業の3Dプリント化を推し進めることになるだろう。それに合わせて3Dプリント技術に関するカリキュラムを作成し、技術を使いこなせる労働力の養成も行おうというのだから、米国政府はどうやら本気で3Dプリント業界を盛り上げていくつもりのようである。
なんでも今回の米国政府の方針は、コロナ禍や戦争によるサプライチェーンの危機を背景にしているらしい。物流に依存しすぎない地産地消型の経済を作っていく上で、3Dプリント技術にあらためて注目が集まっているということだろうか。
特にここ数年で注目されているのは、医療用3Dプリント技術への投資が増えていることだ。コロナ禍の影響もあり、過去2年間でこの分野は大幅に成長している。現在、医療3Dプリント技術の市場規模は約106億ドルということだが、バイデン大統領はこの分野に重要なサポートを公式に行っており、予測では2030年までに500億ドルに拡大するのではないかとも言われている。およそ5倍と考えるとものすごい数字だ。
いずれにせよ、業界はいよいよ新しいステップに踏み出そうとしているのかもしれない。次の10年、3Dプリント技術に果たしてどんな展開が待ち受けているのだろうか。今後も注目していきたい。