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YouTuberが独自開発した3Dプリント点字学習ツールを無料配布|3Dプリンターとクリエイティブコモンズが世界を変える
10万円以上する点字学習機器を3Dプリント 数十年前と比較して現在の社会におけるアクセシビリティは格段に向上している。さまざまなハンディキャップ、さまざまなニーズを持つ人々に対応するためにはデバイスの開発が欠かせない。高性能な義肢や義足、視覚や聴覚をサポートする装置など、多くのデバイスが開発され、万人に開かれた社会の実現を支援している。ただ問題もある。それらのデバイスが多くの場合、莫大な費用を必要とするという点だ。たとえば、視覚障害者が文字を識別するためには点字が欠かせない。その点字を学ぶための学習機器は一般に10万円以上する。決してお気軽な値段ではない。あるいは晴眼者で点字を学びたいという人にとっても、学習機器の高さが高い敷居となってしまう可能性もあるだろう。ここに着目したのが3Dプリント系YouTubeチャンネル[3DPRINTY]だ。彼は高価な点字学習機器をどうにか3Dプリント可能なデータとしてコモンズ化できないかと考えた。 一般に点字学習機器はさまざまなシンボルを形成するために押すことができる6つのボタンを備えた一連の文字列で構成されているという。まず[3DPRINTY]がつくった試作品は、この6つのボタンをスプリングによって上下にポップアップすることが可能な簡素な作りだった。 しかし、実際に使用してみたところ、そのデバイスが実用性においてはあまりに面倒であることが発覚。その後、試行錯誤の末にメカニズム全体を再設計、スプリングによるポップアップの案を捨てることで、実用可能な点字学習機器を完成させるに至った。この3Dプリント点字学習機器はモジュール式になっているようで、ユニットを接続することでより長いトレーナーを形成することもできる。そして何より評価すべきは、[3DPRINTY]がクリエイティブ・コモンズ・パブリック・ドメイン・ライセンスの下でデザインをリリースし、誰もがこれらのツールを必要に応じて制作し、またデータを配布できるようにしたということだ。データに対応している3Dプリンターにさえアクセスできれば、点字学習機器の費用を格段に下がる。 クリエイティブ・コモンズと3Dプリンター、この組み合わせを活用すれば世界は確実に変わる。日常の隅々にそのためのアイディアはきっと転がっているはずだ。皆さんも是非[3DPRINTY]に続いて、世界を変えるムーブメントに参画してみてはどうだろうか。
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3Dプリントペンを使って「ものづくり」の幅を広げよう
火付け役は韓国のYouTuber 3Dプリントペンをご存知だろうか。これはペン先の熱によって樹脂を溶かし出すことで立体物を作り出すペンのこと。あたかも絵を描くような感覚で立体物を造形することができることから、一般に3Dペン、3Dプリントペンと呼ばれている。この3Dペンが大きく話題となったきっかけには、韓国のYouTuberである3Dsanago氏の存在がある。彼は、自身で開発した3Dプリントペンを使用して市内の破損した石壁を「修復」する動画を4年前にアップして話題になった。その再生数は1000万回以上。3Dプリント系の動画としても例外的な再生数だ。その実際の動画はこちら。もちろん石を3Dプリントすることはできないので、破損部分にあたかも修復工事中かのようなミニチュアの工事ネットが描出されている。 この動画以来、3Dプリントペンは大きく注目を集め、その他のものつくり系YouTuberにも多く取り上げられてきた。 いずれも見事なテクニックであり、3Dプリントペンの可能性を垣間見せてくれる。 3Dプリントペンは最初は子供向け玩具だった 実は3Dプリントペンは子供向けの知育玩具として開発されたものだった。とりわけ世界で最初の3Dプリントペンとして累計250万本以上を売り上げた「3Doodler」はその筆頭。基本的にはFDM3Dプリントの技術を応用する形で開発されたものだが、その後、光造形3Dプリントペンも登場している。 先述したYouTuberの3Dsango氏の功績は何よりも子供向けの玩具として認識されていた3Dプリントペンを大人のためのものづくりツールとしてあらためて評価させるきっかけを作ったことにある。彼の3Dプリントペンによるクリエイションはその後もとどまることはなく、最近は映画版「クレヨンしんちゃん」に登場する某キャラクターにインスパイアされた顔面像を模ったホームセキュリティカメラのカバーを制作している。 もちろん、普通の3Dプリンターと3Dプリントペンを組み合わせて使うことも可能だ。3Dプリンターで基盤となるオブジェを作り、その上により感覚的な造形を3Dプリントペンで施すことで、ものづくりの幅はまた広がる。3Dプリンターでのものづくりにちょっと変化を加えてみたいというあなた、是非ともこの機会に3Dプリントペンを使ったものづくりにチャレンジしてみてはいかがだろうか?
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音楽を凍結して3Dプリント彫刻に|スウェーデン発の「フローズンミュージックプロジェクト」とは?
大好きなあの曲を彫刻にして永久保存 美しい音楽を聴けば感動する。だが、その感動的体験は形に残るがことがない。音楽には形状がなく、それは音楽の一つの重要な魅力でもあるのだが、もしその美しい音に形があったならばと夢想してしまうことはある。そんな夢想を実現しようというプロジェクトがスウェーデンで行われた。中心となったのはイェヴェレ交響楽団とデザイナーのジュリア・ケルナー、そしてアートキュレーターのアンドレアス・ヴィエルツィガーだ。彼らがそのコラボレーションにおいて行ったのは通称「フローズンミュージックプロジェクト」。その名の通り音楽を一つの形状へと凍結させてしまおうというユニークなプロジェクトだ。そのプロセスは複雑だが、基本的なコンセプトとしては、52人のオーケストラが演奏する3つの楽曲を計算アルゴリズムに入力、そのデータを物理的な3Dデータに翻訳した上で彫刻作品として3Dプリントするというもの。曰く「音の物理的な表現と芸術的ビジョンと技術スキルのバランスのとれた組み合わせ」とのことだ。果たして生み出されたのが以下の3Dプリント彫刻。 画像/JK3D 一見すると抽象的で、どことなく天然鉱物のようでもあるが、なんとも目を離せない奇妙な美しさを称えている。これはボー・リンデの組曲ブローニュの第三楽章を「フローズン」したものとのことで、以下の動画のように音色に合わせてアルゴリズムを通じて一つの形状が作り出されている。 造形デザインの基礎を作ったジュリア・ケルナーはMARVELの映画『ブラックパンサー』の3D衣装をデザインしたことでも知られる、世界でも指折りの人気デザイナーであり、また3Dプリントファッションの次世代ブランドJK3Dのクリエイティブディレクターも務めている。つまり、新時代を彩る先端デザイン界の寵児ということだ。今回のアイディアは、音楽体験をより具体的でリアルなものにすることで、体験をさらに強化するというコンセプトのもとに生まれたという。以下のJK3Dのオフィシャルサイトでは、3つの楽章それぞれの作品が掲載されているが、いずれも個性が際立っている。JK3Dオフィシャルサイトhttps://jk3d.com/pages/frozen-musicこうなると、自分のお気に入りの曲もまた「フローズン」してみたくなるというもの。かつてはレコードやCDのジャケットが音楽の一つの物質的痕跡として機能していたが、現在は音楽鑑賞の中心がストリーム配信に移行し、物理的形状からますます離れていっている。だからこそ、こうした新しい物質化の試みは興味深い。お気に入りのCDの代わりに3Dフローズン彫刻を部屋に飾る日もやってくるかもしれない。
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PLAとTPUを混合したハイブリッドなフィラメント|靱性がほぼ2倍以上にアップ
さまざまなフィラメントにはメリットとデメリットがある 現在、フィラメント素材は以前に比べてかなり多様化している。オーソドックスなABSやPLAのみならず、より多くの種類が登場し、印刷できるモデルの幅を拡張している。その一つがTPUフィラメントだ。このTPUフィラメントはゴム系の素材であり、その高い弾力性、耐衝撃性において知られている。その特性から主にホースやパッキンなどの工業用の部品、スニーカーのアッパーやソールなどの素材として活用されているが、一方でPLAなどと比べると造形が難しく、また定着性の高さから後処理の困難さなどのデメリットもある。いずれのフィラメントにもメリットとデメリットがある。ここでユーザーとして思うことは、それぞれのフィラメント素材のメリットだけを取ることはできないものだろうか、というものだ。 全く異なる特性の二つのフィラメントを混合したら YouTubeチャンネル「CNC KITCHEN」のステファンもまた同じことを思ったようだ。彼はTPUコアを備えたカスタムPLAフィラメントを作成することで、TPUとPLAの美点を兼ね備えた複合フィラメント作りにチャレンジしている。 彼はまず3Dプリンターで特大オブジェを二つのフィラメントで出力して複合フィラメントを作成、その後、、Recreatorを介して実行して1.75 mmにサイズ変更して再成形している。これは特別な機器を用いずにDIYマルチカラーフィラメントを作成するのに役立てられてきた方法だ。果たして、TPUとPLAという全く異なる特性を持った素材がうまく混じり合うことができるのだろうか。以下の画像は赤いTPUコアを持つ白いPLAを使用した3Dプリントの断面図だ。 結果的にこの実験はとても有意義なものとなっている。TPUを混ぜ合わせたことでPLAの靭性はほぼ2倍に向上。プリント全体に格子状にTPUの模様が浮かんでいるのも面白い。皆さんも是非ステファンに続いて未知のフィラメント探求の実践に乗り出してみてはいかがだろうか。
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ルワンダの医療を改革する世界初のワイヤレス3Dスキャナー「Artec Leo」
内戦から30年、いまなお残る医療的課題を改善する3Dプリント技術 凄惨を極めたルワンダ内戦、たった100日間で80万人超が犠牲になったジェノサイドの悲劇から、今年で30年になる。現在、ルワンダは経済的にも「奇跡」と称されるほどの急成長を遂げており、治安もまた比較的に安定しているものの、今なお貧困をはじめとする戦争の傷跡に苦しんでいる人は少なくない。人々の苦しみをテクノロジーによって少しでも癒したい。そのような取り組みの一つが、3Dスキャンハードウェアのオリジナル機器メーカーの1つであるArtec 3Dの試みだ。同社は、ルワンダの医療機器のカスタマイズを中心としたプロジェクトで非政府組織ヒューマニティ&インクルージョン(HI)と提携し、ルワンダのHI衛生兵に世界初のワイヤレス3Dスキャナー「Artec Leo」を提供している。Leoは、ルワンダの医療専門家が患者の腕や脚などをすばやくスキャンし、最終的にカスタム装具と義肢を製造するために必要なデータを作成することを可能にするものだ。特に、HIが取り組もうとしているのは、この3Dスキャナーとアディティブマニュファクチャリング(AM)を使用して、子供の成長と並行して簡単に置き換えることができる義肢や装具を生産することだ。Artec 3Dチームのメンバーは、スキャン方法とデータ処理、またハードウェアのトラブルシューティングに関して、5日間のプロセスで現地スタッフを訓練するためにルワンダに向かった。Artec 3Dによれば、HIのスタッフはLeoが以前に使用していた低コストのデバイスよりもはるかに使いやすいことを認めているとのことだ。 画像/Artec 3Dこのプロジェクトに関するプレスリリースで、Artec 3DのCEO兼社長であるArt Yukhinは以下のように述べている。「使いやすさと直感的なインターフェースを備えたArtec Leoのような最先端の技術を活用し、特に遠隔地の医療スタッフが人々にカスタマイズされたソリューションを効率的に提供できるようにすることで、現場に大きな影響を与えることができます。このようなインパクトのある人道的努力のためにテクノロジーが活用されているのを目撃するのは心強いです。HIとの最初のプロジェクトの成功に続いて、私たちは他の地域でこのような有望な経験を再現していきたいと考えています」3Dプリント技術を用いた迅速な製造技術は、今後数年間で医療専門職を真に変革する可能性がある。これは世界中の患者の状況を劇的に改善し、すべての人々が必要な医療装具へアクセスすることを実現させるものでもある。同様にこれは今後の3D医療技術部門における巨大なサプライチェーンの構築の可能性をも示唆している。世界で最も先進的な工業国は、2020年代にサプライチェーンの回復力の取り組みの最前線に立っていますが、ルワンダのような国は、もちろん同様の取り組みをより緊急に必要としている。Artec 3Dの取り組みを応援したい。 Artec 3Dウェブサイト:https://www.artec3d.com/
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重傷のゴリラを3Dプリンターが救う|シンシナティ動物園の挑戦
ゴリラに最適化されたチタン製の3Dプリント装具 個人にカスタマイズされた骨折装具の製造において3Dプリント技術が役立てられていることについてはこれまでも幾度か記事にしてきた。3Dプリント技術はこれらのサポート装具の製造のプロセスを合理化し、これまでにない速度で、かつ使用者に完全に個別化された装具の製造を可能にしている。これは装具を必要としている人々にとって、より性能の優れた装具をより安価で手にすることができるという点において、非常に良い状況を生み出している。ところで、骨折装具を必要としているのは何も人間に限らない。動物もまた何らかの事故や病気によって装具を必要とする場合がある。たとえば先日、アメリカ合衆国オハイオ州のシンシナティ動物園は11歳のグラディスという名前のメスのゴリラにチタン3Dプリント装具を提供することを発表した。目標はゴリラの身体に合わせてより強靭にカスタマイズされたこの装具を、グラディスにとって快適なものとして機能させることだ。 画像引用/https://www.youtube.com/watch?v=XeICOEvbuJ8&t=1sシンシナティ動物園によれば、グラディスは彼女の群れで2人の若いメスとの乱闘によって上腕骨を損傷したという。その治療において彼女には骨折装具が必要であったが、一般的な骨折装具では耐久性に欠け、彼女にはフィットせず、治療プロセスに損害が生じてしまった。こうして動物園は彼女のための装具を製造するため、3Dプリント企業のGE Additiveに協力を要請、今回のプロジェクトが始まったという流れだ。GE Additiveはこのミッションを速やかに遂行した。依頼を受けてから動物園に新しい3Dプリント装具を届けるためにかかった時間はたった1週間ほどであったという。もちろん、ただの装具ではない。ゴリラの体重に合わせて強度を高めたグラディスに最適化したチタン製の骨折装具だ。 画像引用/https://www.youtube.com/watch?v=XeICOEvbuJ8&t=1sどうやら現在のところ、通常の骨折装具よりもはるかに大きな効果を発揮しているようだ。動物園のスタッフたちもまたグラディスが新しく手に入れた3Dプリント装具によってメキメキと回復していることを喜んでいるという。この一連のプロジェクトの模様は以下の動画にまとめられている。3Dプリント装具によってグラディスが完全な回復を迎えることを祈るばかりだ。
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高速連続印刷が可能な二重波長SLA3Dプリント技術「SWOMP」
光造形を刷新するサンディア国立研究所の先端的研究 ステレオリソグラフィ(SLA)による3D印刷が消費者市場で普及して久しい。これらの積層造形技術は、一般に単一のUV光源とFRP樹脂の重合に限定されている。それが意味することは、オブジェクトがレイヤーごとにプリントされ、各レイヤーが前のレイヤーだけでなく、樹脂バットの底にある透明(FEP)フィルムにも付着するということだ。その結果として生じるフィルムからの層の剥離は、印刷プロセスの一時停止を必要とするのみならず、印刷される部分に大きなストレスを与える。このSLAが抱えている壁に関しては、長年にわたっていくつかのソリューションが開発されてきた。その中でも、現在最新のソリューションの一つがサンディア国立研究所が研究しているSWOMP(Selective Dual-Wavelength Olefin Metathesis 3D-Printing)技術だ。やや専門的な話にはなってしまうが、一般的なFRPベースのSLA樹脂とは異なり、SWOMPでは、1970年代から商業化されているリングオープニングメタセシス重合(ROMP)樹脂を使用している。これはこれまでの光造形3Dプリンティングにおいては使用されていなかった。SWOMPではさらにシクロペンタジエン(DCPD)に、光活性オレフィンメタセシス触媒としてHeatMet(HM)を選択している。これにより、重合を選択的に不活性化するために使用できるフォトベースジェネレータ(PBG)が追加され、UV感度が著しく向上するという。 画像引用/サンディア国立研究所分かりやすくまとめると、SWOMPとはこれまでとは技術的にも大きく異なる二重波長の光造形3Dプリント技術であるということだ。理論的にはSWOMPではSLAの難点であったフィルムへの重合樹脂の付着を防ぐだけでなく、既存のFRPベースの単波長SLAよりもはるかに速い印刷速度を持ち、また高速連続印刷も可能になるという。より詳しい内容については以下の論文を参照していただきたい。サンディア国立研究所「Continuous Additive Manufacturing using Olefin Metathesis」https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/advs.202200770どうやら現在サンディア国立研究所はこの技術を開発および商業化するパートナーを探しているそうだ。これはこのような二重波長SLAプリンタがいずれメーカーによって市場に投入される可能性があるということを示している。光造形を刷新するSWOMPの今後の展開に注目したい。
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3Dプリントされたスキンパッドが人間のような触覚のロボットを一般に普及する
さまざまなロボットシステムに簡単にカスタマイズ可能な3Dプリントスキンパッド ロボットに人間のような触覚を装備する。そのための費用対効果の高いソリューションを発表して話題を呼んでいるのはイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の研究チームだ。彼らが3Dプリント技術の力を活用して開発した革新的なソフトスキンパッドは、ロボットに穏やかなタッチを行うことを可能にするのみならず、機械的な圧力センサーとしても機能し、ロボット工学の分野における新しい可能性を示唆している。伝統的に、ロボット用の触覚センサーは複雑なメカニズムからなり、それゆに極めて高価だ。そのため広範囲での活用が難しく、なかなか一般化してこなかった。しかし、キム・ジュヒョン教授が率いる研究チームは、既製の3Dプリンターを使用して機能的で耐久性のある代替品を安価に生産できることを実証することで、これらの障壁を打ち破ろうとしている。キム教授によれば「この3Dプリントソフトスキンパッドは、さまざまなロボットシステムに簡単にカスタマイズできる」とのこと。一般にロボットハードウェアは大きな力を持つため、人間と直接対話したり接触する場合には、その安全性に深く留意する必要がある。その点、今回チームが開発した3Dプリントソフトスキンパッドはマシンの安全におけるコンプライアンスを満たし、かつ触覚センシングにも使用できる。3Dプリントされた柔らかな肌が次世代のロボットの新たな皮膚として注目されているのだ。 先端技術を今まで以上に安価で提供するために この柔らかな肌、つまりスキンパッドは、高度な素材と最先端のデザインの組み合わせにより、その機能を実現している。チームは一般的に入手可能な「Raise3D E2 3Dプリンター」を使用し、熱可塑性ウレタンを素材にこのパッドを3Dプリントしている。特徴は中空のインフィルセクションを包み込む柔らかい外層だ。圧縮によってパッド内の空気圧が変化し、接続された圧力センサーにより、振動、タッチの強さ、圧力の検出が可能になる。 3Dプリント技術はこうした先端技術を今まで以上に安価で提供するために大いに役立つ。たとえばキム教授は「病院で柔らかい肌をもつロボットを使用したい場合について想像してみてください」と例を出している。「そのためには定期的に消毒する必要があるか、皮膚を定期的に交換する必要があります。いずれにせよ、莫大なコストがかかる。しかし、3Dプリントは非常にスケーラブルなプロセスであるため、交換可能な部品を安価に作成し、ロボット本体のオンとオフに簡単にスナップできるんです」。すでに開発されているにもかかわらず、またそれが人々にとって有用なものであることがわかっているにもかかわらず。コストの問題によって一般に普及していない最新技術は多くある。製造プロセスにおける3Dプリンターの活用は、そうした技術のコスト面での敷居を下げ、プロセスを合理化することに大いに資する。ひいてはそれは私たちの暮らしをより良くすることにつながる。3Dプリント技術とロボット工学の更なる発展に期待したい。
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3Dプリンターでオリジナルカセットテープを作ろう
先端技術であのレトロなガジェットをリメイク 10年ほど前から世界的にじわじわと人気を集めているレトロなガジェットの一つに「カセットテープ」がある。とりわけ日本製のカセットテープは人気が高く、ネットオークションなどを覗くと80年代のカセットテープが数万円で取引されていたりもする。もちろん、現在はカセットテープはもはや大企業によって生産されることのない時代遅れのメディアではある。ただ、その独特の音質や見た目の可愛さ、時代と共にテープが劣化していくという儚さも含めて、カセットテープにはストリーミング配信にはない「味」がある。そんなカセットテープに目をつけたのが、3Dプリント系YouTuberのクリス・ボルゲだ。彼はオンライン上で見つけたオープンソースのカセットのモデルを使って、3Dプリントカセットを制作することに挑戦。結果、大成功を収めた。 画像引用/https://www.youtube.com/watch?v=o0a3_SLwcNM&t=202s とはいえ、オープンソースのモデルは3Dプリント用に最適化されてはいなく、そのためクリスはそれをカスタマイズしなければならなかった。まずクリスはデータを複数のコンポーネントに分割して出力し、後で接着剤で組み立てることにした。その後、クリスはマインクラフトのアートワークでカセットシェルのカスタマイズに着手。マインクラフトのアートワークは精度が高く、総レイヤーの高さの1/10の高さでモデルに焼き込むことができ、マルチカラー印刷においても、どのセクションをどのフィラメントで印刷すべきかを簡単に指定できる。 画像引用/https://www.youtube.com/watch?v=o0a3_SLwcNM&t=202sかくしてカラフルな独自デザイのカセットが完成。もちろんテープも巻き入れ済みだ。 画像引用/https://www.youtube.com/watch?v=o0a3_SLwcNM&t=202s 以下の動画ではその実際の工程が紹介されている。皆さんも是非オリジナル3Dプリントカセットテープ作りに挑戦してみてはどうだろうか。
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医療ケアを刷新する3Dプリント技術の最先端がイタリアで公開
WASPが示した医療3Dプリント技術の現在形 現在、イタリアのボローニャで開催中(4.17~4.19)のヘルスケアに関する博覧会「Exposanita2024」であるブースが注目を集めているという。それは産業用3Dプリンターを専門に扱い、建設からエネルギー開発に至る様々なプロジェクトを手掛ける企業WASPのブース。同社はまた医療分野での3Dプリンティング技術の活用においても高い専門的知識を有している。WASPのブースでは医療3Dプリンターの最先端に関する6つのケーススタディが紹介されているという。とりわけ訪問者の注目を集めているのは、患者に完全にパーソナライズされたシリコンプロテーゼによる造られる3Dプリント義足だ。 画像/WASP複雑な形状と構造を作成するために特別に設計されたDelta WASP 4070 PROとDelta WASP 2040プリンターを活用することで、同社はプラスチックPLAとTPUを使用してフットモデルを作成。これは日常的に装着してもかなり快適な作りになっているようであり、これまでにない患者のケアを可能にするものとして高く評価されている。他にもWASPのブースでは、問題のある領域から重量を分散し、背骨の負荷を軽減することによって胛骨と背骨をサポートするように設計された反重力ブレースや、患者の快適さとサポートを優先するオーダーメイドの整形外科用シートなど、3Dプリント技術がヘルスケアにおいていかにポテンシャルを秘めているかが様々に紹介されている。 画像/WASP 画像/WASPブースではこうした先端アプリケーションのみならず、WASPの主要な産業用3DプリンターであるWASP 4070 FXとWASP 60100 HDPの出力実演も行われているようだ。共に、医療用途向けに特別に設計された3Dプリント技術の最前線を体現するマシンである。これらの技術はいずれもある病気の治療に関して根本的な革新をもたらすものではなく、治療プロセスにおける患者のケアの向上を可能にするものだ。人々の取り除きがたい痛みを少し緩和するための技術として、3Dプリント技術があらためて注目を浴びている。
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ボリュメトリク3Dプリント技術は新たな段階へ|最新研究により高精度の重合制御とマルチマテリアル造形が可能に
ボリュメトリクス3Dプリントが近未来の技術と言われる理由 以前より紹介してきた近未来の3Dプリント技術「ボリュメトリクス3Dプリント」技術に関して、現在、UNSWシドニーのボイヤーラボの化学工学部の研究者とカリフォルニア大学サンディエゴ校のチームのコラボレーションによる研究が注目を集めている。そもそも、ボリュメトリクス3Dプリントとはなんだろうか。光造形(SLA)や熱溶解積層(FDM)といったこれまでの方式に対し、ボリュメトリクス3Dプリントにおいて採用されているのはボリュメトリック積層造形(通称VAM)と呼ばれる方式だ。平たくいえば、この方式は容器に入った液体前駆体の中で、光を用いて物体を素早く固化させるというもの。以下はその開発された当時の動画である。 この技術が開発されたのは2020年、ブランデンブルク応用科学大学の物理学者マーティン・レゲリーらによって。レゲリーらの研究チームは最大で25µmの特徴解像度と55mm3/sの固化速度で3D固体物体の印刷を可能にする改良型VAM技術を開発し、『Nature』(2020年12月24/31日号)でその成果を報告。この技術では、異なる波長の2本の光ビームを交差させて物体全体を固化させることから、交差を意味する「x」とギリシャ語で「全体」を意味する「holos」を組み合わせて「xolography」と名付けられた。この「xolography」、そしてVAMの何がすごいのかといえば、何よりもまず、その造形速度だと言われている。いわく、この方式であれば高解像度3D印刷がわずか数秒で可能になる。報告によれば従来の3Dプリンターが90mmのオブジェクトを出力するのに約90分ほどかかるのに対し、「xolography」においては数秒から長くても5分で出力可能。そして、これまで速度とトレードオフの関係にあった出力精度においても、従来の方式を大幅に上回ると目されている。これがボリュメトリクス3Dプリントが近未来の3Dプリント技術だと言われている理由だ。 「xolography」が到達した新たな段階 さて、今回、UNSWシドニーのボイヤーラボの化学工学部の研究者とカリフォルニア大学サンディエゴ校のチームが行ったのは、RAFTと呼ばれるプロセスを利用することで、この「xolography」技術を用いた製造プロセスの制御と精度を大幅に向上させるための研究だ。このRAFTとは「可逆的な付加断片化連鎖移動」の略であり、これについてはかなり専門的な話になってしまう。興味のある方は以下の論文を参照してほしい。RAFTについて(Beyond Traditional RAFT: Alternative Activation of Thiocarbonylthio Compounds for Controlled Polymerization)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/advs.201500394結果から言うと、研究チームは今回の研究によって「xolography」は新たな段階に到達した。先述したように、Xolographyでは、モノマーのタンク内で交差する異なる波長の複数の光ビームによって造形を行うのだが、その際の重合プロセスを正確に制御することがこれまでは困難だった。今回の研究ではその制御に成功、さらに複数の素材を用いた連続印刷の可能性も切り開いた。 画像引用/https://onlinelibrary.wiley.com/doi/pdf/10.1002/admt.202400162 ただし、ボリュメトリク3Dプリント技術、そしてXolographyが産業レベルで活用されるようになるためには、いまだいくつかハードルはある。それはサイズの制限と、材料コストの問題だ。ただ、サポート材を必要とせず(つまり事後処理を必要とせず)、高い精度と速度を誇るこの技術は、適した用途において用いた際に多大なベネフィットをもたらすものだ。また、今回の研究でも示されたマルチマテリアル造形は、これまでにはなかったマイクロ流体部品や工業製造用部品などの新しい部品の開発へと繋がる可能性も指摘されている。一般への普及にはまだ時間が掛かりそうだが、この夢のような技術が今後どのように発展していくのか、目が離せない。
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世界に40羽しか残っていない鳥を3Dプリンターが絶滅から救う
本物そっくりの3Dプリント卵で親鳥まで騙す 3Dプリンターの活用可能性は無限大だ。いまや多くの産業分野において欠かせない存在となっている3Dプリント技術だが、その汎用可能性は産業分野にとどまらない。たとえばアートなどのクリエイションにおいても3Dプリンターは大活躍しているし、日々の工作をはじめとする趣味のものづくりにおいてもますます存在感を増している。そんな中、3Dプリンターを使って現在世界で40羽しか残っていない絶滅寸前の希少種の救出しようというプロジェクトが現在行われている。その鳥とはニュージーランドに生息しているタラ・イティと呼ばれる鳥だ。 タラ・イティの親子(画像/DOC) 現在、ニュージーランドに残っているタラ・イティの繁殖ペアはたった9ペアのみ。いまや風前の灯火という勢いで減少しており種の存続が危ぶまれている。タラ・イティは主に木々の生えていない沿岸部に生息し、また地面に巣を作るという習性を持つ。このため、せっかく繁殖ペアが卵を産んでも、卵や小鳥の段階で猫やハリネズミなどの小動物に簡単に捕食されてしまうらしいのだ。これまでもタラ・イティを守るために捕食者となる動物を捕獲し、巣を保護するプログラムなどが行われてきたようだが、それも限界がある。卵そのものを保護するなんらかの方法が必要だった。そこで、ニュージーランドの保全省であるDOCはタラ・イティの巣から卵を確保し、保護するという取り組みを始めた。その代わりにタラ・イティの巣には偽物の卵を入れる。そうしないと親鳥たちは保育の意思を失ってしまい、やがて卵を戻し、その卵が孵化した際に保育をしない可能性が高いからだ。最初は手作りの卵でこれを行っていたそうだが、近年、DOCはさらなる資金を得て、よりリアルな卵作りに取り掛かることになる。プロのデザイナーやイラストレーターらのサポートも受け、サイズ、色、質感、形状、重量、さらにはUV耐性を含めて本物の卵となんら変わらないレプリカ卵を3Dプリントしたのだ。 3Dプリントシタレプリカ卵(画像/DOC) 果たして、巣の中の本物の卵とそのレプリカ卵を入れ替えてみると、親鳥は交換されたことも全く気付かずに変わらずにレプリカ卵を保育し続けたという。かくして前シーズンは14羽のひよこが誕生。これは記録的な数値であるという。今後、タラ・イティが無事に個体数を伸ばしていくことができるかどうかは、いましばしの観察が必要とはいえ、これは3Dプリンターの使用方法として実に素晴らしい取り組みだ。こうした例がもっと増えてくれることを期待したい。
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「LATTE3D」は3Dモデル生成ツールの最終兵器となるか|その機能を3Dアニメの自動生成へと拡張中
生成時間わずか数秒、ChatGPTを使用した先端の自動生成技術 昨年よりリリースラッシュとなっていてた3Dモデル生成ツール。ほんの1年前は生成に最低でも1時間はかかったであろうレベルの3Dモデルが現在では数分、数十秒へと短縮され、さらにその精度やクオリティも向上の一途を辿っている。そうした3Dデータ生成モデルの中でも現在の最先端というべきはおそらくNVIDIAが最近開発を発表した「LATTE3D」だろう。これはテキストベースの3Dモデル生成ツールであり、テキスト入力後から3Dモデルが生成されるまでの時間はほんの数秒。同社によれば「コーヒーを淹れるよりも速い」とのことだ。しかもLATTE3Dはそのテキストに対応する3D形状のオプションを複数同時に生成してくれる。ゲーム開発やデザイン、ロボット工学などあらゆる分野において新たな可能性を吹き込むものとなっている。 ありがたいことにLATTE3Dの場合、最初のモデルが生成されたら、そこからわずか数分で最高の品質へと最適化することができる。そしてそのデータをユーザーは他の兌換性のあるソフトウェアやプラットフォームに瞬時にエクスポートすることもできる。入力するテキストの解釈にはChatGPTの助けを借りている。これによって複雑な注文に対してもニュアンスまで汲んだ高い解像度で理解することが可能となっており、アプリケーションの汎用性を高めている。 画像/LATTE3Dより ChatGPTのテキスト理解力の高さに関してはご存じの方も多いだろう。あの理解力でこちらのテキストを解釈し、そこから3Dモデルを生成してくれるというのは、想像するだけでも凄い。ただ残念ながらLATTE3Dは現在開発中であり、商業化はされていない。研究者たちは今後この技術を3Dアニメーションの生成などの分野に拡張していく予定だという。あるいはテキストベースで3Dアニメを作成できる日もそう遠くはないのかもしれない。
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もう後処理はいらない? 積層痕を「効果的に隠す」ための2つの裏技
逆転の発想でにっくき積層痕を克服 出力したオブジェクトに美しさを求める3Dプリンターユーザーにとって積層痕の存在はとても厄介だ。これまでもさまざまな積層痕対策が編み出されてきたが、とはいえ現在に至るまで後処理を省略できるほどの対策案は寡聞にして知らない。そんなにっくき積層痕を「効果的に隠す」方法を編み出した人物がいる。本欄でも幾度か取り上げてきた3Dプリンター系YouTuberの[Slant 3D]だ。 画像/[Slant 3D] 果たして、[Slant 3D]の編み出した方法とはどんなものなのか。まず一つ目は、「外装に何らかのテクスチャを貼る」というものだ。言うなれば、木を隠すなら森の中に。この方法では、パーツの表面をモデリングするという形も可能だし、スライサーソフトで印刷物の外装を変更し、幾何学模様などのテクスチャを追加するという形も可能だ。確かにこれだと積層痕は目立たない。なんだかうまく丸め込まれている感もなくはないが、出力したいオブジェクトの種類によっては便利な方法ではないだろうか。もう一つは、出力の際のオブジェクトの向きを変えることだ。たとえばキューブ状のオブジェを出力する場合、平面を底につけて出力した場合、どうしても積層痕が目立ってしまう。ただ、以下の画像のような向きで出力すると、積層痕はグッと目立ちづらくなる。また部品の取り外しも遥かに簡単になるため、利点が多い。 画像/[Slant 3D] [Slant 3D]によれば、これらの二つの方法を組み合わせると、より一層、積層痕は目立たなくなるという。もちろん、これらの方法はあらゆるケースで使えるものではないが、このようなアイディアを一つずつ提案していくことは素晴らしいことだ。以下の動画でその詳細を見ることができるので、是非とも字幕をつけてご覧になってみてほしい。
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世界初、韓国カトリック大学が他人の幹細胞から3Dバイオプリントした気管の移植手術に成功
3Dバイオプリンティング技術が引き起こす医療革命 医療の現場で3Dプリント技術が新たな達成を果たした。今回、その大きな一歩を踏み出したのは韓国カトリック大学の研究チーム。彼らが成功させたのは、他人の成体幹細胞を使用してカスタマイズされたバイオ3Dプリント人工気管の移植手術だ。チームを率いるのは耳鼻咽喉科のキム・ソンウォン教授。今回の手術の患者となったのは甲状腺がんの手術を受けたのちに気管の一部を失っていた50代の女性だ。手術が行われたのは昨年の8月。その後、半年にわたる術後の観察期間を経て、今回の発表に至ったという。他人の成体幹細胞から実際の3D細胞をプリントすることで開発した人工臓器の移植は実に世界初である。キム教授は今回の移植の成功に触れて「患者にカスタマイズされた3Dバイオプリント人工臓器移植のための商業化技術の開発の基礎を築き、将来的にはさまざまな難治性疾患のための高度なバイオ医薬品の開発プロセスにおいて重要な役割を果たすだろう」と述べており、これが3Dバイオ医療にとって重要なマイルストーンであることを強調している。 画像/韓国カトリック大学 今回、韓国カトリック大学と共同して3Dバイオプリンティング技術において重要な役割を果たしたのは3Dバイオプリンティング技術と再生医療の先駆的な研究で知られるT&Rバイオファブだ。生体適合性材料とその構造作成に関する専門知識は、人工気管の開発と外科的移植の成功に欠かすことができなかった。そのほか、メアリー病院をはじめとするさまざまな医療機関がこのプロジェクトの成功を支えた。呼吸器系において不可欠な部位である気管は、首と胸をつなぐ管状の構造であり、空気の流入と流出、気管支からの分泌物の排出を可能にする。甲状腺がん、頭頸部がん、先天性異常、外傷など、さまざまな理由で損傷する可能性があり、今回の成功はそうした損傷によって苦しんでいる人にとって希望となることは間違いない。
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光造形3Dプリントの弱点である「脆さ」を克服する鍵は「熱」にある|精密で、速く、頑丈な、次世代の光造形3Dプリンターへ向かって
レジン3Dプリントの最後の欠点を改善する驚きの実験 レジンを用いた光造形3Dプリントの弱点として語られがちなことの一つにその造形物の相対的な脆さがある。もちろん、光造形はその精密さ、造形速度などにおいて、他の造形方式を凌ぐ利点を備えているわけだが、この脆さという弱点を嫌って、光造形を選ばないという人もいるのではないかと思う。果たして光造形方式にとって、造形物の相対的な脆さは決して克服できない宿痾なのだろうか。実はここに関して、3DプリントYouTuber「CNC KITCHEN」が画期的な研究を示している。あるいはこの研究によって、「光造形=脆い」というイメージが払拭されるかもしれない。一般的に知られているように光造形においてはUVライトのもと、回転する硬化ステーションにオブジェクトを置くことによって、造形=硬化を行う。ここで重要だとされているのは、UV、つまり光だが、実はそこには熱要素も関係しているようなのだ。このことを実証するために、動画ではUV硬化プロセス中の温度の影響をテストすべく、テスト部品をUVランプと一緒にオーブンに入れている。その結果、高温度を加えながら硬化したオブジェクトが、そうではないオブジェクトに対して、引張強度が大幅に向上することが分かったのだ。以下はその実験のグラフである。80度と26度の環境変化によって、引張強度が明らかに変化しているのが分かるはずだ。 画像/CNC KITCHEN どうやら熱を加えることで衝撃強度の方は多少低下する可能性があるようだが、引張強度の大幅な向上と比較すると、その低下はわずかだ。これは光造形3Dプリント特有の脆さを改善しうる可能性を示す実験結果であると言える。もちろん、まだ実験データは限られている。実験対象となるレジンの種類を増やし、より精密な検証が行われる必要もあるだろう。ただ、光造形3Dプリントの最大の弱点が克服されうる一筋の可能性は示された。精密で、速く、頑丈な、次世代の光造形3Dプリンターが開発される日も、そう遠くはないかもしれない。
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月のレゴリスを模したフィラメントで自宅に宇宙空間を3Dプリント
玄武岩ムーンダストフィラメントで月面のレゴリスを再現 3Dプリンターが私たちの暮らしを未来へと運んでくれる。そんな3Dプリンターの初期衝動を思い出させてくれるニュースが届いた。なんでも夜空に浮かぶ月の塵、通称レゴリスをモデルにしたフィラメントがこの度登場するというのだ。このムーンダストフィラメントを開発したのは、アストロポート・スペース・テクノロジーとヴァーチャル・ファウンダリーという二つの企業。ヴァーチャル・ファウンダリーは元々フィラメントの製造会社。一方のアストロポート・スペース・テクノロジーは宇宙ベースの建設を専門とする建築会社だ。すでにNASAは月面における3Dプリント技術の使用可能性について研究を進めてきた。その際に注目されたのが月の塵であるレゴリス。3Dプリント素材を月から採取することで、より効率的な月面基地建設を可能にしようというわけだ。残念ながら本物の月のレゴリスを自宅で広く使用できるようにすることは現状難しい。ただ、二社が開発した玄武岩ムーンダストフィラメントは、レゴリスの代用となるべく、レゴリスの構成を完全に模倣した設計となっている。 ムーンダストフィラメントで印刷されたオブジェクト。(画像/The Virtual Foundry) その構成素はシリコン、鉄、マグネシウム、カリウム、アルミニウム、チタン、カルシウム。その全てをPLAで結合したこのフィラメントには一つの特徴があり、それは完全に焼結が可能であるということ。焼結炉を通すことで、このフィラメントで印刷されたオブジェクトは純粋な玄武岩に変換される。月のレゴリスとはこの玄武岩の上に宇宙線が当たることで、砂状に変換されたものだ。果たして、この素材を地球上で使う意義とはなんだろうか。現在、宇宙における3Dプリンティング技術開発の課題は、微小重力環境に適応したFDMプリンタを開発することにある。すでに多くのハードルがクリアされており、実際に2台の3Dプリンターが宇宙に向かっている。次なる課題は、この素材で一体どのようなものが3Dプリント可能であるかということだろう。 ムーンダストフィラメントで印刷された惑星生息地モデル。(画像/The Virtual Foundry) その上でも地球のユーザーたちが玄武岩ムーンダストフィラメントを使用し、それぞれの発想によってさまざまな3Dプリントに挑戦すること、そしてその成果が集積されていくことは、今後の宇宙空間における3Dプリントの可能性を押し広げることに繋がるかもしれないのだ。とにかく、興味がある方はまず試してみてほしい。玄武岩ムーンダストフィラメントはすでにヴァーチャル・ファウンダリーのウェブサイトにおいてオンライン販売されている。月面開発の未来にコミットしてみませんか? https://shop.thevirtualfoundry.com/en-mx/products/basalt-filamet?variant=43866121666805
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3Dプリントしたマウンテンバイクで北極海を探検|アレックス・ベリーニの過酷な挑戦
3Dプリントバイクで向かう1800kmの旅 3Dプリント技術を用いた高性能自転車がさまざまな場面で活躍している。2024年のオリンピックでは3Dプリントバイクが大活躍するだろうとも言われており、今後の発展に期待がかかる。そんな中、ある人物が注目を集めている。その人物とは探検家のアレックス・ベリーニ。彼は3Dプリント技術によってカスタマイズされたマウンテンバイクを使用して、アラスカ、グリーンランド、北極海などの極地を探索するという、ユニークな冒険を試みている。ベリーニは20年にわたり過酷な条件下での探検を実践してきた人物。今回「Eyes on Ice」と名付けられたこのプロジェクトでは、イタリアを出発地に、約3年をかけて極北の探検が行われる予定だ。 Alex Bellini/Alaska 2024 激しい極地における探検である。当然、その「足」となるマウンテンバイクは最高の性能を誇るものでなければならない。今回使用されているバイクはベリーニの体格に完全にフィットするように3Dプリントカスタマイズされたもので、このバイクでおよそ1800kmを横断することになる。 先端技術を用いたIMPACTフレーム フレームは30%の炭素繊維で剛性を豊富にしたリサイクルポリカーボネートペレットをRAM(ロボット積層造形)3Dプリントによって製造したIMPACTフレームであり、環境活動家としてのベリーニらしい素材のサステナビリティに対するこだわりを受けて、フランシスコ・マルティンス・カラベッタが率いるeXginering/Gimac/X-engineeringチームによってゼロから設計および製造された。 Alex Bellini/Alaska 2024ベリーニもまた「これは単なる探索旅行ではありません。Eyes on Iceでは、極地の生態系の理解、普及、保護に積極的な役割を果たしたいと考えています。私たちの歴史と未来は氷と密接に結びついている」と語っており、今回のプロジェクトの重要性を強調している。3Dプリントバイクはミラノ大学の-40℃の気候室でのテストされ、すでに極地へと向かってベリーニと共に出発している。過酷な探検を最後までサポートすることができるのか、注目だ。 Alex Bellini/Alaska 2024
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単一のインクでマルチカラー出力を可能にする先端技術|色を変えるインク3Dプリントとは何か
紫外線がインクに色を書き込む マルチカラー3Dプリント技術はここ数年で飛躍的に発達してきているが、とはいえ市場ではいまだモノカラー印刷が主流だ。あるいはモノカラー3Dプリンターを使いながらも、フィラメントやレジンに工夫を凝らすことで、マルチカラーのオブジェクトを出力する試みもさまざまに試されている。そんな中、ある研究が注目を集めている。その研究とは「単一のインクで複数の色を出力する技術」。すなわち「色を変えるインク3Dプリント」である。米国のベックマン研究所の研究者のグループによるこの研究、なんでもカメレオンにインスパイアされたものだという。カメレオンといえば、環境に合わせて自在に皮膚の色を変化させる爬虫類界のトリックスター。果たしてどのようにしてカメレオンのような変幻自在な色変化を可能にするというのだろうか。 画像/ Beckman Institute研究チームが提案している印刷プロセスは、UVアシストインクによって印刷プロセス中に色を変えることができる「直接書き込み」の技術に基づいたものだという。具体的にはそれは通常のFDM3DプリンターにUVガイドと紫外線の圧力モデレーターを追加することで実現される。このUVガイドは押出機に直接光を放射する。そして、この光が材料が固まる流れに合わせてインクの色を変化させていくのだ。インクは紫外線の濃度に応じて色を変化させる。光造形3Dプリントで用いられている技術とも似ているが、ここでは特別に設計された共重合体が使用されているようだ。 鮮やかな色彩のグラデーションを実現 さて、その結果は以下のように驚くべきものとなっている。 画像/ Beckman Institute カメレオンが基本色である緑から他の色へと変わっていくように、研究者は1つのインクのみを使用して3D印刷中に連続してより鮮やかな色を作成することができることを示すことに成功。ベックマン先端科学技術研究所の研究者であるYing Diaoによれば、「新しい化学と印刷プロセスを設計することで、構造色をその場で変調して、以前は不可能だった色のグラデーションを作り出すことができる」とのこと。精密なコントロール次第では狙った通りの色彩を設計することだって可能かもしれない。そしてもう一つ、この研究は持続可能性においても非常に効果的だ。従来、着色は顔料と化学染料で行うのが一般的だったが、そうした生産チェーン全体が単一のインクへと大幅に削減される可能性もあるのだ。これは、生産時間、コスト、材料の節約につながり、環境負荷を大きく下げることが期待されている。実際、光は無限の数の色を作り出す力を持っている。果たしてこの技術がどのように実用化されていくのか、今後の展開に注目したい。
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3Dプリントしたオブジェクトをいかに発光させるか
持続的にオブジェを発光させるためのカギは放射性トリチウム 3Dプリンターで光るオブジェを出力したいと思ったなら、今では蓄光、夜光系のフィラメントを使用するのが一般的な方法だ。しかし、これらのフィラメントを使用したことがある方ならお気づきの通り、その発光力は長期的には持続しない。多くの場合、その光はすぐに失われ、また蓄光を必要とする。すると、やはりオブジェクトを安定した状態で、かつ恒常的に発光させるということは難しいのだろうか。実は現在、3Dプリント系YouTuber[Ogrinz Labs]が発光オブジェのオルタナティブを追い求め発見したある方法が話題になっている.彼が発見した方法は、放射性トリチウムを使用する方法だ。 https://www.youtube.com/watch?v=V39_vHKj7dA&t=1s放射性トリチウムは夜間における視認性を上げるために時計などによく使用される物質で、いわゆる夜光慮料として用いられている。放射性物質と聞くと怖さを感じてしまうかもしれないが、β線を放出するトリチウムの半減期は約12年と短い上に、紙一枚で防げる程度で放射エネルギーも弱く危険は少ない。基本的には安全な物質ということだ。今回、[Ogrinz Labs]が制作したのは彼が「ナイトブロッサム」と呼ぶ光る花のオブジェクトだ。 https://www.youtube.com/watch?v=V39_vHKj7dA&t=1s 方法はまず一般的に販売されているトリチウム管を購入、それを透明なフィラメントで出力したオブジェで包み込む。そこに顔料とクリアコートを塗布することで光の拡散力をあげている。ここで注意すべき点は放射性トリチウム管は偽物も多く出回っているということのようだ。見分ける上ではトリチウム管を明るい光に晒してみるといいという。もし光に晒して発光力が増しているようだったら、それは偽物。本来、トリチウム管は蓄光しないからだ。時計などに使用されているということからも分かるように、その発光性はかなり持続する。光るオブジェを作りたいという方、ぜひとも[Ogrinz Labs]の実践を参考にしてみてほしい。
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