ボリュメトリク3Dプリント技術は新たな段階へ|最新研究により高精度の重合制御とマルチマテリアル造形が可能に
ボリュメトリクス3Dプリントが近未来の技術と言われる理由
以前より紹介してきた近未来の3Dプリント技術「ボリュメトリクス3Dプリント」技術に関して、現在、UNSWシドニーのボイヤーラボの化学工学部の研究者とカリフォルニア大学サンディエゴ校のチームのコラボレーションによる研究が注目を集めている。
そもそも、ボリュメトリクス3Dプリントとはなんだろうか。
光造形(SLA)や熱溶解積層(FDM)といったこれまでの方式に対し、ボリュメトリクス3Dプリントにおいて採用されているのはボリュメトリック積層造形(通称VAM)と呼ばれる方式だ。平たくいえば、この方式は容器に入った液体前駆体の中で、光を用いて物体を素早く固化させるというもの。以下はその開発された当時の動画である。
この技術が開発されたのは2020年、ブランデンブルク応用科学大学の物理学者マーティン・レゲリーらによって。レゲリーらの研究チームは最大で25µmの特徴解像度と55mm3/sの固化速度で3D固体物体の印刷を可能にする改良型VAM技術を開発し、『Nature』(2020年12月24/31日号)でその成果を報告。この技術では、異なる波長の2本の光ビームを交差させて物体全体を固化させることから、交差を意味する「x」とギリシャ語で「全体」を意味する「holos」を組み合わせて「xolography」と名付けられた。
この「xolography」、そしてVAMの何がすごいのかといえば、何よりもまず、その造形速度だと言われている。いわく、この方式であれば高解像度3D印刷がわずか数秒で可能になる。報告によれば従来の3Dプリンターが90mmのオブジェクトを出力するのに約90分ほどかかるのに対し、「xolography」においては数秒から長くても5分で出力可能。そして、これまで速度とトレードオフの関係にあった出力精度においても、従来の方式を大幅に上回ると目されている。これがボリュメトリクス3Dプリントが近未来の3Dプリント技術だと言われている理由だ。
「xolography」が到達した新たな段階
さて、今回、UNSWシドニーのボイヤーラボの化学工学部の研究者とカリフォルニア大学サンディエゴ校のチームが行ったのは、RAFTと呼ばれるプロセスを利用することで、この「xolography」技術を用いた製造プロセスの制御と精度を大幅に向上させるための研究だ。このRAFTとは「可逆的な付加断片化連鎖移動」の略であり、これについてはかなり専門的な話になってしまう。興味のある方は以下の論文を参照してほしい。
RAFTについて(Beyond Traditional RAFT: Alternative Activation of Thiocarbonylthio Compounds for Controlled Polymerization)
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/advs.201500394
結果から言うと、研究チームは今回の研究によって「xolography」は新たな段階に到達した。先述したように、Xolographyでは、モノマーのタンク内で交差する異なる波長の複数の光ビームによって造形を行うのだが、その際の重合プロセスを正確に制御することがこれまでは困難だった。今回の研究ではその制御に成功、さらに複数の素材を用いた連続印刷の可能性も切り開いた。
画像引用/https://onlinelibrary.wiley.com/doi/pdf/10.1002/admt.202400162
ただし、ボリュメトリク3Dプリント技術、そしてXolographyが産業レベルで活用されるようになるためには、いまだいくつかハードルはある。それはサイズの制限と、材料コストの問題だ。ただ、サポート材を必要とせず(つまり事後処理を必要とせず)、高い精度と速度を誇るこの技術は、適した用途において用いた際に多大なベネフィットをもたらすものだ。また、今回の研究でも示されたマルチマテリアル造形は、これまでにはなかったマイクロ流体部品や工業製造用部品などの新しい部品の開発へと繋がる可能性も指摘されている。
一般への普及にはまだ時間が掛かりそうだが、この夢のような技術が今後どのように発展していくのか、目が離せない。