単一のインクでマルチカラー出力を可能にする先端技術|色を変えるインク3Dプリントとは何か
紫外線がインクに色を書き込む
マルチカラー3Dプリント技術はここ数年で飛躍的に発達してきているが、とはいえ市場ではいまだモノカラー印刷が主流だ。あるいはモノカラー3Dプリンターを使いながらも、フィラメントやレジンに工夫を凝らすことで、マルチカラーのオブジェクトを出力する試みもさまざまに試されている。
そんな中、ある研究が注目を集めている。その研究とは「単一のインクで複数の色を出力する技術」。すなわち「色を変えるインク3Dプリント」である。
米国のベックマン研究所の研究者のグループによるこの研究、なんでもカメレオンにインスパイアされたものだという。カメレオンといえば、環境に合わせて自在に皮膚の色を変化させる爬虫類界のトリックスター。果たしてどのようにしてカメレオンのような変幻自在な色変化を可能にするというのだろうか。
画像/ Beckman Institute
研究チームが提案している印刷プロセスは、UVアシストインクによって印刷プロセス中に色を変えることができる「直接書き込み」の技術に基づいたものだという。
具体的にはそれは通常のFDM3DプリンターにUVガイドと紫外線の圧力モデレーターを追加することで実現される。このUVガイドは押出機に直接光を放射する。そして、この光が材料が固まる流れに合わせてインクの色を変化させていくのだ。インクは紫外線の濃度に応じて色を変化させる。光造形3Dプリントで用いられている技術とも似ているが、ここでは特別に設計された共重合体が使用されているようだ。
鮮やかな色彩のグラデーションを実現
さて、その結果は以下のように驚くべきものとなっている。
画像/ Beckman Institute
カメレオンが基本色である緑から他の色へと変わっていくように、研究者は1つのインクのみを使用して3D印刷中に連続してより鮮やかな色を作成することができることを示すことに成功。ベックマン先端科学技術研究所の研究者であるYing Diaoによれば、「新しい化学と印刷プロセスを設計することで、構造色をその場で変調して、以前は不可能だった色のグラデーションを作り出すことができる」とのこと。精密なコントロール次第では狙った通りの色彩を設計することだって可能かもしれない。
そしてもう一つ、この研究は持続可能性においても非常に効果的だ。従来、着色は顔料と化学染料で行うのが一般的だったが、そうした生産チェーン全体が単一のインクへと大幅に削減される可能性もあるのだ。これは、生産時間、コスト、材料の節約につながり、環境負荷を大きく下げることが期待されている。
実際、光は無限の数の色を作り出す力を持っている。果たしてこの技術がどのように実用化されていくのか、今後の展開に注目したい。