世界に40羽しか残っていない鳥を3Dプリンターが絶滅から救う
本物そっくりの3Dプリント卵で親鳥まで騙す
3Dプリンターの活用可能性は無限大だ。いまや多くの産業分野において欠かせない存在となっている3Dプリント技術だが、その汎用可能性は産業分野にとどまらない。たとえばアートなどのクリエイションにおいても3Dプリンターは大活躍しているし、日々の工作をはじめとする趣味のものづくりにおいてもますます存在感を増している。
そんな中、3Dプリンターを使って現在世界で40羽しか残っていない絶滅寸前の希少種の救出しようというプロジェクトが現在行われている。
その鳥とはニュージーランドに生息しているタラ・イティと呼ばれる鳥だ。
タラ・イティの親子(画像/DOC)
現在、ニュージーランドに残っているタラ・イティの繁殖ペアはたった9ペアのみ。いまや風前の灯火という勢いで減少しており種の存続が危ぶまれている。
タラ・イティは主に木々の生えていない沿岸部に生息し、また地面に巣を作るという習性を持つ。このため、せっかく繁殖ペアが卵を産んでも、卵や小鳥の段階で猫やハリネズミなどの小動物に簡単に捕食されてしまうらしいのだ。
これまでもタラ・イティを守るために捕食者となる動物を捕獲し、巣を保護するプログラムなどが行われてきたようだが、それも限界がある。卵そのものを保護するなんらかの方法が必要だった。
そこで、ニュージーランドの保全省であるDOCはタラ・イティの巣から卵を確保し、保護するという取り組みを始めた。その代わりにタラ・イティの巣には偽物の卵を入れる。そうしないと親鳥たちは保育の意思を失ってしまい、やがて卵を戻し、その卵が孵化した際に保育をしない可能性が高いからだ。
最初は手作りの卵でこれを行っていたそうだが、近年、DOCはさらなる資金を得て、よりリアルな卵作りに取り掛かることになる。プロのデザイナーやイラストレーターらのサポートも受け、サイズ、色、質感、形状、重量、さらにはUV耐性を含めて本物の卵となんら変わらないレプリカ卵を3Dプリントしたのだ。
3Dプリントシタレプリカ卵(画像/DOC)
果たして、巣の中の本物の卵とそのレプリカ卵を入れ替えてみると、親鳥は交換されたことも全く気付かずに変わらずにレプリカ卵を保育し続けたという。かくして前シーズンは14羽のひよこが誕生。これは記録的な数値であるという。
今後、タラ・イティが無事に個体数を伸ばしていくことができるかどうかは、いましばしの観察が必要とはいえ、これは3Dプリンターの使用方法として実に素晴らしい取り組みだ。こうした例がもっと増えてくれることを期待したい。