
はじめまして、HITOYS(ハイトイズ)の山根といいます。栗8さんよりバトンをいただきました!
HITOYSは小学生の息子と一緒にやっている玩具スタジオで、息子がハマっている遊びを元ネタに、玩具やボードゲームをFDMの3Dプリンターで作成しています。

左上:合体おはじきアクションゲームのハジキッズ。左下:ハジキッズのコレクタブルなデザイン。右:顔がポチポチ押せるフィジェットフィギュアのボッタン。
記事寄稿のネタを考える。~3Dプリンターの出版的活用とは?~
今は夏休み。私も何か自由研究がしたい。そんなことを思っていたところにいただいた寄稿の機会で何か新しいネタをやりたい。3Dプリント×記事で何かないだろうか。
すると3Dプリント×文字で何か新しいものが作れたら、同じ文字媒体である記事に絡めてきっと面白いのでは!?という企画のゴールイメージが湧きました。まだ内容はないけれど、実現できたら面白いはずという想像がついたので方向性をこれに決めます。
方向性も決まったところでAIにも相談します。
「3Dプリンターで書道」というアイデアを出してくれました。ノズルで出力するという行為は、文字を書き順の通りに書くという行為と同じだと。ノズルの吐出量を調整すれば、とめはねはらいの筆圧まで再現できると。うーん、自分にはなかった視点で面白い。

右半分:ノートにごちゃごちゃ書いてアイデアを出します。左半分は植物の植木鉢のデザインを考えていました。
ただそのままアイデアを形にしてみてもできるものは微妙そうである。ノズルの出力が筆順と同じになるという視点は面白いけど、ただ文字を出力しても新しさはありません。(墨汁毛筆ペンプロッター方向も頭をよぎりましたが、まだプリンターを壊したくないので今回はやめておきます)

初期のAI案をそのまま形にした、ただ文字を書き順の通りに出力するだけのアプリのプロト。AIの計算リソースの無駄遣いと言わざるを得ない代物ができました。
世の事例を調べて差別化を考える。
面白いアイデアを思いつくということなら、やはりAIよりまだまだ人に軍配が上がる気がしています。ただ文字を一筆書きするという方向性には可能性を感じます。
しばらく悩みながら、似たような先行事例がないか調べます。最近3Dプリンターで本を印刷するというプロジェクトがあったのを思い出しました。これ自分で思いつきたかったんですよね・・・こういうのをやりたい。
3Dプリンター×本の路線で他にできることはないだろうかと考えているときに、3Dプリンターで出力する最適な文字やフォントってなんだろうか、その文字の媒体は紙にするのか何がいいのだろうかという考えが浮かびました。「3Dプリンターにとって最適な出版形式とは何なのだろう」という問いがあるとすると、まだ答えがない気がします(というか誰も気にしてないかもしれませんが)。
3Dプリンターもだいぶ認知されてきた感じがしますが、未開拓な領域はまだたくさんあると思います。今回のような3Dプリンター×文字印刷という割とニッチなテーマでは提案の余地がありそうだと考えるのです。
文字も紙も一体で出力できるのが3Dプリンターだ!
そうこう考えるうちに、3Dプリンターにとって最も効率よく成立する出版形式とは、
「文字と媒体を一筆書きで一緒に出力すること」なのではないかとイメージが湧きました。ただ紙を塗りつぶすように土台を出力するのはフィラメントの無駄が多く3Dプリンターでやる意味が弱い。ノズル出力される線でミニマムに形成されたものが、文字の書かれた紙らしい振る舞いをしていたら、見た目も新鮮な気になるものになる予感もします。
まだ見ぬものを形にできるエモさ

アプリのプロトを更新してみました。格子状のマス目を紙に代わる土台とし、入力した文字を、格子に接合するようにノズルパスで繋げて出力するものです。


試しに出力できました。視認性は試行錯誤が必要そうですが繊細さがエモい。糸で縫うような造形です。まだ見たことがないものが形になって出てくるこの感覚を味わえるのが3Dプリンターの醍醐味だと思います。
本当は青空を透かして撮ったら良さそうと思ったのですが、あいにくの曇りなので緑の前で透かして見る。この媒体ならではの表現かも。

普通のPLAフィラメントで出力していますが、刷ってみると柔らかく繊細で、ある意味紙っぽい要素も備えていました。
繰り返し検証、そして痛い目を見る
ここで一度出力の仕組みに簡単に触れます。
通常の3Dプリントでは、3Dモデルをスライサーに渡すと、スライサーが機種に合わせたG-code(ノズルの移動経路・速度・温度などの指示書)を生成してくれます。ところが今回のような、壁も充填もない1本の線をこの順番でこう引いてほしい、という指定はスライサーではできません。そこでアプリからG-codeを直接生成しています。(編み構造で造形したりするあれと同じですね)
ここで問題になるのがBambu Lab機です。Bambuのプリンターは素のG-codeをそのまま受け付けるのではなく、メタデータや改ざんチェック(MD5)を含む.gcode.3mf形式を前提にしていて、さらに印刷開始時のレベリングやノズル清掃といった開始・終了の手順が機種や構成ごとに細かく作り込まれています。
これを自前で再現するのは危険なので、今回は通常通りスライスしたデータの中身を差し替える方式にしました。まずBambu Studioで適当な小さいモデルを一度スライスしてテンプレートの.gcode.3mfを作り、その純正のスタート/エンド処理はそっくり残したまま、造形本体の部分だけを自作のパスに差し替えます。


Bambu Studioからエクスポートした.3mfファイルを、アプリにアップロードした状態で文字モデルを書き出すことができます。
つまりが中身の造形だけが文字と紙になっている、という寸法です。ただしこの方式は、テンプレートに焼き込まれた「スライスした瞬間のプリンター構成」を引き継ぐことになります。
実は最近Bambu LabのX2Dを新調したのですが、これはデュアルノズル機なのです。そこに落とし穴がありました。
何度か出したり修正したりを繰り返している内に、どうやらテンプレートに用いた.3mfファイルが想定していたノズルと、3Dプリンター側で使うノズルが気付かずに入れ替わったようで(フィラメントトラックスイッチを積んでいるので、フィラメント節約に都合の良いノズルに変えてくれたりするのです)、しかも直前のノズルオフセットキャリブレーションを怠った結果、位置関係がずれたまま印刷してしまい、モロにビルドプレートを擦ってしまいました・・・ガーン・・・

がっつり傷が入っています・・・今回の様にG-codeを直接作成するプロジェクトはこういう危険がつきもので、最悪プリンターを破壊します。これは自己責任です・・・。
くじけず完成 ~ノズル出版~
ビルドプレートに傷が入ったり、文字の可読性が今一つだったりで記事を書く心が折れそうですが、生々しい試行錯誤のプロセスとしてやりきることにします。
可読性については考えた結果、無理に書き順通り一筆書きにすることはやめ、文字を囲っている格子に文字を寄せて、そこと接触させることで余計な接続線を生まないようにしました。

そして出来上がったのがこちらです。ずいぶん読みやすくはなったのではないでしょうか。ついでにカタカナ、漢字、英数字にも対応させていますが、文字によっては部位が外れやすいのでひらがな推奨です。ノズルで書いて版を作るので、ノズル出版と名付けます。

まだ残る課題を一つあげるとすれば、ビルドプレートからはがす作業が繊細過ぎて手間なことです。紙の印刷に負けない手軽さを目指したかったですが、それには敵いません。

文字の細かい部品が外れてしまうことも。接合パスを増やせば丈夫になるのですが、可読性が落ちてしまうのが難点です。
使い道を考えていると、家族からは風景写真に詩を載せるとエモさが生きるのではないかとアイデアをもらい、藤原良経の夏の夜を詠った短歌をチョイスしました。なんかいい感じですね。

紙の印刷物にはないワイヤーフレームな媒体になっているため、風景に溶け込んだ感じで文字を読んでもらうことができます。
3Dプリンターで出版を目指した結果、ちょっとエモい新しい文字媒体を生み出せたのではないでしょうか。
この後は可読性を高めたまま、ビルドプレートから取り外しのしやすい、壊れにくい形状の専用フォントも作ってみたいと考えています。ただ記事執筆の期間内に間に合わせることができなかったので、今回はここまでです。

ここまで読んでいただきありがとうございました。同じように出力を試してみたい方は、下記からお試しいただけます。
https://nozzlepress.gadeta.dev/
それでは楽しいFDM 3Dプリンターライフを!!
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《SK本舗ユーザーのリレーコラムFDM編》
