SK本舗ユーザーのリレーコラム FDM編 #09「印刷して、ねじる。──FDM 3Dプリンターでつくる樹木模型の世界」|林(アーキロイド)

はじめまして。林といいます。HITOYSさん(第8回)よりバトンをいただきました。

アーキロイドという会社で「ケンチCUBE」https://kenchi-cube.com/という、建築を遊ぶボードゲームをつくっています。「ケンチCUBE」はプレイヤー同士でわいわいと話しながら、みんなでひとつの家を組み上げていく協力型のゲームです。

ケンチCUBEの建築ボードゲーム
ケンチCUBEで組み上げた建築模型

このたび、SK本舗さんのリレーコラムを書かせていただくことになりました。テーマは「FDM 3Dプリンターのことならなんでもいい」とのこと。……なんでもいい、が書きたいネタがありすぎて悩ましいやつですね笑

悩んだ末に選んだのは、建築模型の「樹木」をFDMでつくるという話です。あえて平面で印刷して、あとから手でねじって三次元化するという、ちょっと変わったアプローチで実験してみました。

平面印刷からねじって制作した樹木模型

しばしお付き合いくださいませ。

① 猫の手も借りたい建築模型

3Dプリンターは好きだけど建築模型は縁がない、という方も多いと思うので、まずは前提のお話から。

建築模型は、設計した建物を小さく再現した模型のことです。用途は大きく二つあって、ひとつは自分たちで形を検討するためのスタディ模型、もうひとつは施主やコンペに見せるためのプレゼン模型。前者は雑でもいいから早く、後者は時間をかけて美しく、というのが基本です。

素材は、スチレンボード、スチレンペーパー、バルサ、MDF、アクリル、ケント紙あたりが定番。カッターと接着剤、そして果てしない忍耐で組み立てていきます。スケールは1/500から1/30くらいまで幅がありますが、住宅なら1/50や1/100が多いでしょうか。

そして、模型づくりにはとにかく時間がかかります。学生時代に、卒業制作としてケンチCUBEを作っていたときは10人くらいの猫の手(頼れる後輩のみんな、ありがとう)を借りたのもいい思い出です。(現在は、僕一人でひとつひとつ手作業で制作しています…笑)

添景が入ると映える

建物だけの模型は、正直なところ少し寂しい。そこに人や車、そして樹木が加わった瞬間、模型はスケール感を獲得して、急に生き生きとして見えます。この「添景」こそが、模型の完成度を左右する隠れた主役です。

ところが、この樹木がなかなかの難物なんです。

かすみ草と針金・スポンジで制作した樹木模型
【左】かすみ草を縮尺に合わせて長さを整え、根元をしばる。もっともポピュラーなつくり方。
【右】枝をスプレーした針金でつくり、葉っぱは色付きのスポンジで表現したもの。ちょっと豪華なつくり方。

【値段】市販品は地味に高い

鉄道模型用のものが流用できますが、1本あたりのコストが積み上がると、10本、20本と植えるうちに、けっこうな金額になります。

【時間】こだわると時間が消える

かすみ草を切ったり、スポンジを刻んだり、ワイヤーをより合わせたり。楽しいけれど、1本つくるのに数十分かかります。

【デザイン】スケールと樹種が選べない

1/100用は充実していても、1/50や1/30となると選択肢が急に減る。「この敷地はケヤキを植えたいのに」と思っても、売っているのは抽象的な緑の塊だったりします。

そこで、3Dプリンターでかわいい樹木を自作できないかと…

当然そうなりますよね。しかし樹木は、3Dプリンターにとってかなり意地悪な形状です。

細い枝が、空中に向かって、四方八方に伸びている。オーバーハングの塊です。立体のままプリントしようとすると、樹木本体よりサポート材のほうが立派になります。

そこで発想を変えました。

立体で刷るから難しいのなら、平面で刷ってしまえばいい。そして、あとから手でねじって立体にすればいい。
平面で出力した樹木
2Dで出力して…
枝をねじって立体化した樹木
3Dにねじります。

平面なら、サポートはいりません。造形は速く、失敗も少ない。そして刷り上がった”押し花”のような樹木を指でつまんで、枝を一本ずつ、思い思いの方向へひねっていく。それだけで、平面が立体になります。

3Dプリンターの世界では「積層痕をどう消すか」「いかに設計通りに出すか」が語られがちですが、今回はその逆。出力後に手で加える変形までを、あらかじめ設計に織り込むという考え方で手を動かしていきました。

②スタディ

制作するうえで、特に丁寧に行ったスタディを何個か紹介します。

スタディ1:いい樹形とは何か

まずスタディしたのが、そもそもどんな形が「樹木らしく」見えるのか

最初はCAD上で直接つくろうとしました。が、これが難しい…

自然の木の枝は、まっすぐでもなければ、きれいな円弧でもありません。少し曲がって、途中で気が変わったように向きを変えて、先へいくほど頼りなくなる。あの線をCADで再現しようとすると、制御点を置いては直し、置いては直しの繰り返しで、一本の枝に延々と時間が溶けていきます。

よって、手で書くことにしました。

そのうえで、平面で印刷してねじる以上、元の絵は「立体になったときのこと」を織り込んで描かなければいけません。平面で美しい絵が、ねじった瞬間に間延びして見える。逆に、平面ではやや窮屈に見えるくらいの密度が、ねじるとちょうどよくなる。

やり方は、二段構えでした。

第一段階:樹形のパターンを出す

手描きで検討した樹形のパターン

まずは方向を決めずに、できるだけ違う樹形を並べて描く。横に大きく張り出したもの、扇のように広がるもの、細く上へ伸びるもの、小ぶりなもの。

眺めていたら、曲線的で細く上に伸びていく、かつ分岐も比較的少ない右下あたりの樹形が、美しく見えました。

第二段階:選んだ樹形の密度を検討する

枝の密度を検討した樹形のスケッチ

作りたい樹形が大まかに決まったら、次はその樹形を基準に描き直していきます。画像だとほぼ違いがわからないのですが枝を増やしたり減らしたりしています。

スタディ2:フィラメントを選ぶ

1.樹木の色選び

樹木の色を検討したフィラメント
この辺りのカラーでスタディしました

フィラメントの色の組み合わせについては、幹と葉の色を何通りか刷って並べて、美しいと感じたものを選びます。ここは主観ですので、それぞれが好きな色の組み合わせを採用すればいいかなと思います。

2.ねじれる素材、ねじれない素材

ねじると折れたPLA Woodの枝
pla woodは折れた…

それではねじっていきましょう。

まずは、木質の樹木を木の質感で、というのでPLA Woodを試してみましたが、ねじってみるとポッキリ。次に、 PLA BasicPLA マットをねじってみると、ねばるねばる。とてもねじりやすかったです。

木粉入りのPLA Woodが折れやすかったのは、おそらく充填材が入っているぶん、樹脂としての粘りが落ちているためだと思われます。だとすれば、ラメ入りやカーボン入りなど、何かを混ぜたフィラメントは同じ傾向を示す可能性が高いですかね。ねじる前提でつくるなら、混ぜ物のない素直な材料を選ぶというのが、いいと思います。(ただの仮説ではありますが…)

スタディ3:それぞれのスケールで

建築模型は縮尺の世界です。まず、実物の寸法から押さえます。

住宅の庭に植わっているような樹木は、高さ6mほど、幹の径は2〜15cmほど。ごく標準的な庭木のサイズです。これを模型のスケールに落とすと、こうなります。

幹の太さとノズルの太さ

1/100と1/50の樹木模型の比較
左1/100、右1/50の縮尺

【1/50】高さ12cm、幹太さ0.4〜3mm。 この太さなら、標準的な0.4mmノズルでぴったり出せます。

【1/100】高さ6cm、幹太さ0.2〜1.5mm ここで話が変わります。0.4mmノズルでは幅が過剰です。

つまり1/100の樹木をつくるなら、0.2mmノズルが必要になる。同じ樹木をつくるのに、スケールが変わるだけでノズルから見直さなければなりませんでした。

そして0.2mmノズルであっても、細い枝は線を1本引いたらもう終わりという世界です。一筆書きです。

ちなみに、この細さの枝はスライサーが素直に扱ってくれません。何も考えずに投げると、細く描いたはずの線が太らされたり、逆に消えてしまったりする。樹形を手で書いている分、そのあたりの折り合いをつけるのは、なかなか手強い工程です…!

スタディ4:どうねじるか

最後は、ねじり方。はじめは直感でねじっていましたが、ねじるスタディを重ねるたびに美しく見えるコツが見えてきました。

1. 二股に分かれたところを、さけるチーズを割くようにねじる。

二股の枝を前後に開く様子

平面のままだと、二股の枝は同じ面の上で並んでいます。これを、割くように前後へ開く。この「開く」動作が、平面を立体に変える一番の要です。分岐を上から順に開いていくと、樹木がだんだん奥行きを持ちはじめます。

2. 折り目をつけず、できるだけ曲線的にねじる。

指の曲面に沿わせて枝を曲げる様子

一点で「クイッ」と曲げると、そこだけ角が立って、いかにも折り曲げた感じになります。

そこで、指の曲面に押し当てるように曲げていきます。指の腹のカーブに枝を沿わせて、ゆっくりじわっと。なだらかな曲線を意識します。

また、ねじる前のモデリングの段階で2点設計しました。1点目、葉のほうをわずかに厚くしています。葉が枝から少しだけ浮き上がるので、ねじったときに立体的に見えやすいです。2点目、断面をなるべく正方形に近づけること。平たい断面だと、曲げやすい方向とそうでない方向ができてしまい、ねじったときに枝が思わぬ向きへ逃げていきます。正方形に近ければ、どちらへも素直に曲がってくれる。枝の幅と厚みは、揃えておくのがおすすめです。

③完成

手に持った完成した樹木模型
色の組み合わせが異なる樹木模型
枝葉が重なる完成した樹木模型
建築模型に配置した樹木

同じデータから出力しても、ねじり方や色の組み合わせ次第で一本ずつ表情が変わります。

おわりに

思い返せば、この話の出発点は「時間がかかる樹木の模型を、大量に作りたい」という願いでした。それを解決するために3Dプリンターへ来たはずなのに、樹形をいっぱい描き、印刷してねじっては折り、ノズルを替え、また印刷し…。結局、果てしなく時間がかかりました。

近道を探していたら、別の遠回りに出ていた、というだけの話かもしれません。

でも、たぶんそういうものなのだと思います。いいものをつくろうとすれば、どの道を通っても結局それなりの時間がかかる。3Dプリンターは単に時間を消してくれる機械ではありません。手を動かし、出力し、また手を動かして出力してを何度も繰り返して、ようやくいいものがつくられるのだと思います。これからも3Dプリンターと仲良くものづくりしていきましょう。(強引な締めだな…笑)

ここまで読んでくださりありがとうございました!

皆さんもぜひ、盛大にねじってみてください。

アーキロイド(デジタル技術を駆使した建築設計事務所です..!)

https://archiroid.co.jp/

ケンチCUBE(建築ボードゲームです)

https://kenchi-cube.com/

《SK本舗ユーザーのリレーコラムFDM編》