
ガラスや卵の殻も印刷できる?ペースト押出型3Dプリントの可能性を探る
3Dプリントといえばプラスチックフィラメントが主流ですが、最新の研究ではガラスや卵殻など、思いもよらない素材がペースト(スラリー)として3Dプリントできる可能性が示されています。たとえばニューメキシコ大学の研究チーム(Hand and Machine)は、ペースト押出技術を使って装飾や生分解容器を作る実験に成功しています。
ガラスのプリント:スラリー+焼成でオブジェに
まず、研究者たちはガラス粉(glass frit)をメチルセルロースとキサンタンガムという流動性を調整するバインダーと混合し、水でスラリー化しました。このようなせん断薄化性をもつペーストは、押出時にはスムーズに流れますが、表面では形状保持力もあるため、積層造形に適しています。
気泡除去のため真空処理も行い、造形後は約750℃のキルンで焼成してバインダーを焼き飛ばし、粉を焼結させます。焼成による収縮はあるものの、その性質をコントロール可能で、装飾品や小物などの造形で十分な精度が得られています。またカスタムスライサーを専用に開発し、押出開始・停止の遅延を補正する道筋(ツールパス)設計で材料漏れを防いだり、壁厚を一定に保つ設定などによりプリント失敗を最小限に抑えています。
卵殻スラリーの活用:植木鉢が生分解可能素材に
同様の手法で、卵殻を粉砕して粉末化したものを、同じバインダーと水で混合してペーストを作成。乾燥後は追加処理なしで生分解可能な植木鉢など生活用品を造形することに成功しました。自然に還る素材としてエコな可能性を示しています。
Robocasting(ロボキャスティング)という広がり
このようなペースト押出型3Dプリントはロボキャスティング(robocasting)とも呼ばれ、セラミック系材料の印刷や工業応用に使われてきた手法です。せん断薄化性のあるインク(ペースト)をノズルから押し出す形で積層し、乾燥後に焼成したり固化させることで形状を保持します。繊維強化セラミックス、金属スラリー、生体材料など多様な素材が可能で、形状・材料特性・作業環境に応じた幅広い応用が期待されています。
実験から教えられること:課題と可能性
ガラスや卵殻を使ったプリントはまだ研究段階ですが、素材の選択肢を広げる意味で非常に象徴的です。特に焼成を伴う素材では、収縮や形状保持の設計精度、スライサーの最適化、乾燥や焼成の工程制御など、FDMやSLAにはない課題があります。その一方で、得られる素材の質感、美しさ、生分解性、火や熱に強い構造など、これまでにない「造形表現」が可能になります。
日常のDIYから芸術、建築、環境保全まで、素材と技術の境界を越えて、3Dプリントの未来はさらに広がっています。今後の応用事例や新素材の登場に、ぜひご注目ください。
参照論文
https://dl.acm.org/doi/abs/10.1145/3706598.3714031
https://dl.acm.org/doi/10.1145/3706598.3714290