
3Dプリントのリアル昆虫で「自然界のモノマネ進化」の限界を探る新研究
イギリスのノッティンガム大学の研究チームが、実物大で色までそっくりな昆虫を3Dプリントで作り出し、自然界での「擬態」がどこまで通用するのかを調べるユニークな実験を進めています。工学部のルース・グッドリッジ教授やマーク・イーストさんを中心に、生物学の研究者チームと協力して、リアルな人工の“獲物”を大量に作っています。
この3Dプリント昆虫の面白いところは、本物の虫を再現するだけでなく、形や模様を組み合わせて「もしこんな虫がいたら?」という仮想パターンも作れること。自然界では見られない模様を試すことで、進化の仕組みをより詳しく調べられる、
とのこと。
野生の鳥たちにどこまで騙せる?
研究チームはイギリス・ケンブリッジ近郊のマディングリー・ウッドという森でフィールド実験を行いました。この森は2000年代から野鳥の研究拠点として使われている場所です。2022年10月から2023年2月までの間、学生たちは週に2〜3回現地に通い、森の中に6つの給餌ステーションを設置しました。お皿のフタの上にパターンの異なる3Dプリント昆虫を置いて、野鳥たちがどの虫を食べるかを観察したそうです。

実験ではPITタグやRFIDリーダー、トレイルカメラも駆使して、鳥たちの行動をモニタリング。結果として、鳥は「毒を持つ虫のそっくりさん」を意外としっかり見分ける一方で、少しぐらい似ていなくても騙されてしまうケースもありました。特に模様のコントラストや体のシルエットといった特徴が、モノマネ成功のカギになることが分かってきたそうです。
クモ相手には“動き”が重要
研究は鳥だけにとどまりません。ポルトガルではカニグモを使った別の実験も行われました。ところが、静止した3Dプリント虫にはクモが全く反応せず…。どうやらクモは“見た目”よりも“動き”を頼りに獲物を見分けているよう。そこで研究チームはArduinoを使って虫モデルに動きをつけたところ、クモがちゃんと捕食行動を起こすことが分かりました。相手によってモノマネの要点が全く違うというのは、面白い発見ですね。
3Dプリントだからできる自然界の実験
今回の研究は、擬態の進化がなぜ途中で止まるのか、どこまでの精度が必要なのかといった、自然選択の“限界”を探る手がかりになります。これまで頭の中やシミュレーションでしか考えられなかったことが、3Dプリントのおかげでリアルに野外でテストできる時代になってきました。
今後は鳥やクモだけでなく、いろいろな捕食者で試すことで、どんなモノマネが一番効果的か、どの特徴が重要かをもっと詳しく探れるそう。科学と3Dプリントの組み合わせで、自然界の“だまし合い”の秘密が少しずつ解き明かされつつある。今後の展開に注目です。