
19世紀の数学モデルが3Dプリントで蘇る ― イリノイ大学の学生たちが歴史的教材を現代に再現
米国イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(University of Illinois Urbana-Champaign)で、学生たちが数学の古典的モデルを3Dプリントで蘇らせるプロジェクトを進めています。この取り組みを主導しているのは、イリノイ・マスマティクス・ラボ(Illinois Mathematics Lab)とシャンペーン・アーバナ・コミュニティ・ファブラボ(CU Community Fab Lab)。学部生たちは、1800年代から大学に残る貴重な数学モデルの一部をFDM方式の3Dプリンタで再現しました。
このモデルコレクションは、石膏や木材、段ボール、金属などで作られた複雑な定理や曲面の可視化模型で、総数400点に及びます。中にはドイツから輸入されたものも含まれ、世界でも最大級の数学模型コレクションのひとつとされています。イリノイ大学数学部の司書サラ・パーク氏は「これらは学科の宝物です。学生や研究者にとって他に代えがたい教育的価値があります」とコメント。注目が
集まっています。
学生たちが一つひとつをデジタル化
プロジェクトのきっかけは、大学の数学部があるオルトゲルト・ホール(Altgeld Hall)の改修工事だったそう。この機会に保管されていたオリジナル模型が取り出され、学生たちは歴史的なコレクションを間近で観察し、記録し、3D化するチャンスを得ました。
学生たちは Mathematica やスライサーソフトを活用して3Dデータを作成し、CU Community Fab Labでプラスチックフィラメントを使って最適な設定でプリント。代表的な作品には、円錐曲線の証明に使われる「ダンデラン球(Dandelin sphere)」や「クマー曲面(Kummer surface)」、糸を張って作る直線生成曲面などが含まれます。さらに、各模型に付ける解説も学生が自ら作成し、ドイツ語のオリジナル文献から数式を学び直すという貴重な体験になったそうです。

3Dプリントだからできる新しい学び方
新しく作られた数学模型は、地元の中学校や高校を含む地域の教育アウトリーチ活動でも活用される予定とのこと。オリジナルの模型は石膏などで作られているため壊れやすい一方で、プラスチックで再現したものは耐久性が高く、実際に手に取って触りながら学べるのが大きな魅力です。デジタル教材やシミュレーションでは得られない“立体で理解する”体験が、数学をより身近にしてくれるかもしれません。
オリジナルの歴史的模型は引き続き大学の保存サービスが大切に保管を続けており、並行して高解像度写真や解説、3Dモデルのデータを誰でも使える形で公開するデジタルアーカイブの整備も進められています。教育者や研究者は、これらのデータを無償でダウンロードできる予定です。
歴史を未来につなぐ学生たちの挑戦
学生たちの手で蘇った数学模型は、貴重な学術遺産を守りながら、地域の子どもたちや次世代の研究者が気軽に触れられる“生きた教材”として役立っていきます。
古くて壊れやすいものを最新の技術で引き継ぐこの試みは、数学を愛するすべての人にとって小さな宝物になるかもしれません。
参照記事
https://mathmodels.illinois.edu/cgi-bin/cview?SITEID=4