
3Dプリントが音楽教育を変える──ペンシルベニアの小学校区の挑戦
アメリカ・ペンシルベニア州のある農村部の学区が、子どもたちの音楽教育を大きく変える新しい取り組みを始めています。その鍵となっているのが、3Dプリント技術で作られたバイオリン。経済的な理由でこれまで楽器に触れることが難しかった生徒たちが、低コストで自分の楽器を持てるようになったというこのニュース。楽器製造業界における3Dプリント技術の導入はこれまでも行われてきましたが、こうした教育現場における導入はまだまだ珍しい事例です。
楽器レンタルの壁はいまなお高い
このプロジェクトを立ち上げたのは、コールセンター地区(California Area School District)の教育長であるローラ・ジェイコブ博士とのこと。きっかけは、学区の音楽プログラムに参加するために必要な楽器レンタル費用が、年間数百ドルにものぼることでした。
学区の生徒の7割以上は低所得家庭に属しており、家計に大きな負担を強いる現状がありました。そうした背景のもと、ジェイコブ博士は「もっと持続可能で手頃な解決策」を模索し始めたそうです。
そんな中、ジェイコブ博士はYouTubeで「3Dプリント楽器で演奏する音楽家たち」の動画を発見。すぐに、オープンソースのファイル共有プラットフォームからデジタル設計データを入手して試行錯誤を始めたそうです。
最初はオフィスに置いた2台のプリンターからスタートし、その後は30台以上のプリンターを備えた工房へと発展。試行錯誤の末、演奏に耐える音色を持ち、安定して出力できるデザインを見つけ出しました。

材料費は1本あたりわずか50ドル程度。通常ならレンタルや購入に数百ドルかかることを考えると、その差は歴然。こうして約5年間で200本以上のバイオリンを生徒たちに無償で提供することに成功しました。
3Dプリントバイオリンの影響
ジェイコブ博士は、毎週「3Dバイオリンクラブ」を運営し、生徒たちはバイオリン演奏だけでなく3Dプリント技術そのものを学ぶ機会もつくっているそうです。これは単なる音楽教育にとどまらず、テクノロジーへの理解を深めるきっかけにもなっています。
この取り組みは、単に安価な楽器を提供する以上の意味を持ち、生徒たちの自信や表現の意欲を引き出しています。ジェイコブ博士も「コスト削減以上に、生徒が音楽への情熱を育むことが大切。もしその気持ちが続くなら、それだけで価値がある」と強調しています。

今回の事例は、3Dプリンターが理科実験やプロトタイピングの道具にとどまらず、芸術分野でも創造性や教育機会を広げる手段として活用できるということ、とりわけ音楽教育の世界でも、3Dプリント楽器は「次世代にチャンスを与える楽器」として新しい可能性を切り開きつつあることを示しいています。
音楽教育は幼少期から始めることが重要な教育の一つ。ただ楽器の高価さゆえに一般家庭ではなかなか簡単に始めることができないものが多いという現状もあります。3Dプリント楽器がそうした状況に対し、機会の公平をもたらす一助になれば、とてもいいことです。
今後の展開に期待大です。