
3Dプリンターの“悪用”が子どもたちの未来を奪う? ― カナダで起きた偽造事件
3Dプリンターは、ものづくりの民主化を進める夢の技術。誰でも手軽に部品や模型、アート作品を作れる時代が訪れ、教育や産業にも大きな恩恵をもたらしています。
しかしその一方で、その“便利さ”は、時に悪用されてしまうこともあります。
2025年9月、カナダ・ブリティッシュコロンビア州で行われた大規模バーベキューフェスティバル「Ribfest(リブフェスト)」で、3Dプリンターを使った偽トークン(模造チケット)事件が発生しました。そして、その影響を受けたのは、他でもない地域の子どもたちでした。
「子どものための寄付」が狙われた
毎年開催されるというRibfestは、カナダ各地のバーベキューチームが集まり、3日間にわたって料理と音楽、地域の交流を楽しむ人気イベント。最大の目的は「地域の子どもたちを支援するチャリティ」。来場者はフードやドリンク用のトークンを購入し、その売上が学校支援やスポーツ、家庭への援助に充てられています。
これまでの開催で集まった寄付金は約200万ドル(約3億円)。すごい額です。しかし、今年はそんな善意の輪が悪意ある一部の行動によって汚されてしまいました。
3Dプリントされた“偽トークン”
警察と主催者によると、今年のRibfestにおいて本物そっくりの偽トークンが3Dプリンターで作られ、会場で使用されていたことが判明したんです。不正に使用されたのは約2000ドル(約30万円)相当。当然、損失を被るのは本来子どもたちへ渡るはずだった資金です。
問題は、偽造されたトークンが非常に精巧だったことでした。外観やサイズまで本物と見分けがつかず、会場スタッフも気づかないまま交換・使用されていました。警察は現在も犯人の特定を進めており、情報提供には500ドルの懸賞金がかけられています。
「犯罪」としての重さ
カナダでは、たとえ“公式の通貨”でなくても、金銭的価値を持つものを偽造して利益を得れば「詐欺罪」として処罰されます。日本においても、日本でも、「公式の通貨」でなくても“金銭的な価値を持つもの”を偽造して使えば、刑法上の詐欺罪や私文書偽造罪などに問われる可能性があり、つまり、今回のケースはれっきとした犯罪行為です。
「子どものためのチャリティイベントでこんなことが起きるとは非常に残念だ」と、地元警察はコメント。地域住民のショックは大きく、SNSで拡散された事件の投稿には多くの非難の声が寄せられました。結果的に、損失額の約5倍にあたる約1万ドルの寄付が新たに集まったのは、せめてもの救いです。
3Dプリンターが“犯罪の道具”になる時代
3Dプリンターはここ10年で急速に普及し、価格も大幅に下がりました。それに伴い、犯罪への悪用も増加しています。代表例は「3Dプリント銃」で、世界各国で摘発が相次いでいますが、最近では偽造ナンバープレートや電子タバコ部品など、より日常的な物品の偽造にも使われています。
今回のトークン事件は大規模な組織犯罪ではありません。しかし、「少量・高精度の偽物を、誰でも自宅で作れる」という点で、3Dプリンターが持つ“影の顔”を象徴する事例と言えるでしょう。
このような事件を防ぐためには、コミュニティ全体での意識向上が欠かせません。
例えば今回のようなケースを防ぐ上では、今後イベントや団体側は、トークンやチケットに偽造防止策(特殊な形状や刻印、QRコードなど)を導入する必要があるかもしれません。
あるいは利用者や市民も、「安易なコピー品を作ることの危険性」を認識し、“使う側”の倫理を持つ必要があるとも言えます。教育現場でも、3Dプリンターの技術と同時に「法と倫理」についても指導していく動きが出てくるかもしれません。
「便利さ」と「危うさ」は表裏一体
3Dプリンターは、未来のものづくりを支える素晴らしい技術です。しかしその力は、使う人次第で“凶器”にも“希望”にもなるという現実を、私たちは忘れてはいけません。
今回の事件は、「たった数千円の悪ふざけ」が子どもたちの支援を奪うという現実を突きつけました。技術の進化が進む今だからこそ、私たちはその「影の側面」にもしっかりと目を向け、賢く安全に付き合っていく必要があるのではないでしょうか。
Image courtesy of Victoria Police