
3Dプリントで子どもの生活をサポート スペインの大学生たちが作る“やさしい補助器具”
スペイン・マドリードにあるサン・フアン・デ・ディオス・コミージャス大学看護・理学療法学部(EUEF)が、子どもたちの生活を支える新しい3Dプリントプロジェクトを進めています。対象は、障がいのある子どもたち。プロジェクトに参加する理学療法学科の3年生たちが、実際の現場で必要とされている補助器具を、3Dプリンターで一人ひとりに合わせて設計・制作しています。
この取り組みは「サービス・ラーニング(Service-Learning)」と呼ばれる実践的な教育メソッドの一環で、学生たちは単に技術を学ぶだけでなく、当事者への共感や対話、現場との協働を通じて成長していくことが目的です。3Dプリントという柔軟な道具を活用することで、高価な市販品では対応できないようなニーズに対して、もっと身近でリアルな解決策が生まれています。
子どもと家族に寄り添いながら
学生たちは、理学療法士や福祉関係者、そして子ども本人やその家族と密にやりとりをしながら、実際に必要な機能を備えた器具をデザインしています。
たとえば学生のマルセラ・マルシアルさんは、車いすを操作しやすくするために、ある女の子のためのオーダーメイドの手首用スプリント(装具)を設計しました。

別の学生ディエゴ・ルイスさんは、立位保持器に取り付けられる交換式のグリップシステムを開発。さらにラウラ・フェルナンデスさんは、理学療法中に親指の可動域を広げるための補助具を制作するなど、実用的かつ個別性の高い成果が次々と生まれています。
心の変化も、もうひとつの成果
このプロジェクトで得られるのは、物理的なサポートだけではありません。
「自分のことをちゃんと見てもらえている」と感じることが、子ども自身の自信につながり、その成長を見守る家族にとっても大きな励みになっているといいます。
関わった理学療法士たちは、こうした“目に見える変化”が子どもの自己肯定感を育み、ケアをする側の不安もやわらげてくれると語っています。
また、これらの補助器具は無償で提供されるため、経済的な負担が大きい家庭にとっても大きな助けになっています。
優しさとテクノロジーの交差点
このプロジェクトは、3Dプリントが医療や福祉の現場にどう貢献できるかを示す好例であると同時に、人に寄り添い、社会に関わる専門職を育てる教育のあり方そのものを示しています。
誰かの困りごとを“技術”で解決する。
でもそこには、しっかりと“まなざし”と“対話”がある。
そんなやさしいテクノロジーのあり方が、スペインの大学で実践されています。