
飲み物を“プリント”する時代が到来 |「Print a Drink」がつくる未来のカクテル
3Dプリンターで家を建てたり、人工臓器をつくったり──そんな話題にはもう驚かない、という人も多いと思います。でも、「カクテルを3Dプリントする」と言われたらどうでしょうか?
「Print a Drink」は、そんな常識を覆すユニークなスタートアップ。創業者のベンジャミン・グライメル氏がたった一人で立ち上げ、今や世界中のイベントや展示会で注目を集めています。
飲み物が“造形”される驚きのアイデア
すべての始まりは、オーストリア・リンツの大学でのある授業だったそうです。
「ロボットと食べ物を組み合わせて何か面白いことをやれ」という課題から生まれたのが、「液体を“造形”する」という前代未聞のアイデア。酢と油など“混ざらない液体”の性質を利用した実験から始まり、やがて「飲み物の中に3Dパターンを描く」というコンセプトに進化していったといいます。
それが今では、企業イベントから国際展示会まで引っ張りだこの人気サービスに。グライメル氏は「今でも会社は自分一人。顧客対応もレシピ開発もロボットプログラミングも、グラス洗いまですべて自分でやっている」と語っています。まさに“ワンマン”スタートアップ。その全ては最初の突拍子もないアイディアから始まったのでした。
ロボットが「カクテルの中に3Dアート」を描く仕組み
Print a Drinkの心臓部は、独自設計のロボットアームとプリントヘッド。
飲み物の中にマイクロリットル単位でオイルの微小な滴を打ち出し、それが液体中で3Dピクセルのように浮かび上がる、という機序です。
最初は水溶性のシロップなどで試したそうですが、極性の問題で失敗。試行錯誤の末に最終的に行き着いたのは、食用オイル。これが表面張力によって液体中で球状になり、まるで宙に浮かぶ立体パターンのようなアートを生み出すんです。レモンオイルやナッツオイルなどを使えば、香りや味わいの演出もできるそう。つまり、視覚も嗅覚も味覚も満足させる次世代カクテルなんです。
技術的な挑戦の数々
もちろん、「飲み物をプリントする」というのは口で言うほど簡単ではなく、主に以下の点がハードルになったそうです。
- 吐出の精度:1滴200ミリ秒以内でオイルを正確に出す必要がある
- ナノリットル単位の制御:余計な液漏れは“失敗作”の原因に
- 食品安全性:飲料用なので素材選びにも細心の注意が必要
初期のプロトタイプは改造したラボ用ピペットだったそうですが、現在のプリントヘッドは医療用マイクロバルブを採用した完全自社設計。数百のパーツが3Dプリンターで試作され、形状も“液体の乱流”が起きにくいよう最適化されています。
世界中のイベントで話題に
現在、Print a Drinkはイベント専用サービスとして展開されています。依頼主は大手IT企業やイベント代理店などで、依頼が来るたびに世界各地で“液体アート”が披露されています。
「ほとんど宣伝はしていません。毎回、会場で撮影された動画がSNSで拡散され、それが次の仕事につながっていくんです」とグライメル氏。リピート率も高く、企業イベントの“目玉演出”としての地位を確立しつつあります。
今後は、単発イベントだけでなく常設インスタレーションとしての展開も視野に入れているそうです。テーマパークのバーや高級ホテルのラウンジなど、「体験型の演出」として設置できれば、まさに“未来のドリンク文化”が生まれるかもしれません。
アジアからの引き合いもあるそうですが、今は物流やコストの問題で実現には至っていないとのこと。とはいえ、グライメル氏の情熱と技術力を考えると、それも時間の問題でしょう。日本で3Dプリントカクテルを楽しめる日も近い?
Print a Drink https://www.printadrink.com