FDM 3Dプリンターの糸引き(ストリンギング)とは
糸引き(ストリンギング)は、FDM 3Dプリンターで印刷中にノズルが非造形移動(トラベル)する際、溶融したフィラメントが細い糸状に垂れ下がる現象です。完成品の表面品質を低下させ、サポート材の除去時に破損のリスクも高まります。原因はノズル内圧の残留・温度過多・フィラメントの吸湿の3つに集約されます。
解消手順(優先度順)
1. リトラクション(引き戻し)距離・速度の調整
糸引き対策のメインパラメータです。エクストルーダー方式によって出発点が大きく異なります。
- ダイレクト式(Bambu Lab P1S/A1/X2D、Creality K1/K2、Anycubic Kobra 3/S1 等):距離 0.6〜1.5mm、速度 25〜40mm/s
- ボーデン式(Creality Ender 3 系標準ヘッド、Ender 5 系等):距離 4〜6mm、速度 25〜40mm/s
- ロングボーデン(1m超):距離 5〜8mm、速度 25〜35mm/s
距離は0.2mm刻み、速度は10mm/s刻みで調整します。過大なリトラクションはヒートクリープによる詰まりや、フィラメント表面の削れ(grinding)の原因になるため、最小限の値で糸引きが止まる点を探します。
2. ノズル温度を5〜10℃下げる
樹脂が高温すぎるとサラサラになりオジングが増えます。糸引きが残る場合はノズル温度を5℃ずつ下げて切り分けます。PLAであれば 200〜210℃、PETG であれば 220〜230℃ がストリンギング抑制側の温度帯です。
3. フィラメント乾燥
湿気を吸ったフィラメントはリトラクションをどれだけ詰めても糸引きが止まりません。材料ごとの推奨乾燥条件は次のとおりです。
- PETG / TPU:60〜70℃ で 4〜8時間
- PA(ナイロン):70〜90℃ で 6〜12時間(極めて吸湿性が高く、開封直後でも要乾燥)
- PLA:通常乾燥不要だが、糸引きが顕著な場合は 40〜50℃ で 4〜6時間
フィラメント乾燥機(SUNLU FilaDryer 等)の使用、または密閉容器+シリカゲルでの保管が有効です。
4. コースティング(Coasting)・Wipe(拭き取り)
コースティングは押出を一定距離手前で止め、ノズル内残圧で線を引き終える機能。Wipe は最終押出後にノズルを既存壁面でなぞって余分樹脂を拭き取る機能。Cura・PrusaSlicer に標準搭載され、OrcaSlicer・Bambu Studio でも同様の挙動を実現する設定項目が用意されています。
5. 移動速度(トラベル速度)を上げる
非造形移動が遅いとノズルが糸を引きながら移動してしまいます。トラベル速度を150〜300mm/s に上げると糸が物理的に切れやすくなります。
6. Zホップを併用
ノズルが移動する際に0.2〜0.4mm 上昇する機能で、既造形物への接触を回避できます。リトラクションと併用する設計です(単独使用では糸引き解消にはなりません)。
テスト用ストリンギングタワー
2〜4本の柱をトラベル動作でつなぐ専用テストモデル(スライサーのキャリブレーション機能、または Thingiverse / 3D Data Japan でDL可能)を使って、温度・リトラクション距離を変えながら糸引き量を比較するのが最短経路です。
材料選びのポイント
フィラメントの品質も糸引きに影響します。低品質な製品は添加剤が不均一で、流動性が安定しません。信頼できるメーカーの製品を選ぶことが改善への近道です。SK本舗で取り扱う SK GENESIS PLA+ や Bambu Lab 純正フィラメントは、温度・流動性が安定しており初期プロファイルとの整合性が高く、糸引きの切り分けが楽になります。
Tips
スライサーソフトのテスト機能を活用し、小型のキャリブレーション用モデルで各設定値を検証することで、試行錯誤の時間を大幅に短縮できます。Bambu Lab P1S/X2D 等は Pressure Advance がデフォルトで動作しており、初期プロファイルから大きく外す必要はありません。
