
解体現場のガレキの山に佇む3Dプリント家具「PU」と「YOU」(出典:Yanko Design)
壊した街が、家具になって戻ってくる
都市の再開発で取り壊された建物のコンクリートやレンガ。普通なら産業廃棄物として処分されて終わりです。
でも、もしそのガレキが3Dプリンターで「街の家具」に生まれ変わるとしたら?
中国・広州のデザインスタジオ「Bentu Design」が手がけるプロジェクト「Inorganic Growth(無機的成長)」は、まさにそんな取り組みです。ただのリサイクルではなく、消えた街の記憶を、素材ごと次の時代に残すというアプローチが、世界のデザインメディアで注目を集めています。
Bentu Designとは何者か
Bentu(本土)は2012年に広州で設立されたプロダクトデザインスタジオ。「本土」という名前には「地元の素材でものを作る」という哲学が込められています。建築家・安藤忠雄に影響を受け、コンクリートとリサイクル素材を使った家具制作を一貫して行ってきたスタジオです。
プロジェクト「Inorganic Growth」の全貌
素材:解体現場のガレキそのもの
中国の都市開発では「城中村」と呼ばれる古い住宅エリアが丸ごと取り壊されることがあります。このプロジェクトでは、その解体で出たコンクリート片、赤レンガの瓦礫、モルタルの粉を原材料として使っています。

解体廃棄物の加工プロセス(出典:Yanko Design)
処理工程はかなり本格的です:
- ジョークラッシャーで一次破砕
- インパクトクラッシャーで二次整形
- 多層振動スクリーニングで粒度別に分別
- 微粉末(廃棄物の30〜35%)に機械的・化学的活性化処理を施す
- フライアッシュ、スラグ粉末、シリカフュームなどの産業副産物を配合してセメント系バインダーを生成
- ナノ懸濁液による表面改質で骨材の吸水率を8〜10%から3〜5%に低減、界面遷移帯の強度を40%以上向上
完成した材料の最大85%がリサイクル固形廃棄物。解体現場の近くに処理設備を設置することで、廃棄物全体の92%を材料として利用できるとBentu Designは報告しています。
印刷:デュアルヘッドで「街の色」を再現

チェア「PU」とスツール「YOU」― 解体廃材の色がそのまま残る(出典:Yanko Design)
このプロジェクトの技術的に面白いところは、デュアルプリントヘッドを使った色彩制御です。
2つのヘッドがそれぞれ異なる配合の素材を押し出し、垂直方向に沿ってグラデーションを生み出します。赤みがかったレンガの色、コンクリートのグレー、陶器由来の青や緑――これらは塗装ではなく、元の建物の素材そのものから生まれた色です。

5つのカラーウェイ ― 街ごとに異なる色彩が生まれる(出典:Yanko Design)
さらに、解体前の街を撮影した写真をAIで色彩分析し、その場所特有の色パレットを抽出。家具に反映させることで、「その街らしさ」を持った作品が生まれます。
完成した家具は2種類:
- PU(チェア):715 × 580 × 720mm、重量110kg
- YOU(スツール):580 × 430 × 540mm、重量70kg
(数値はBentu Design公表値)
それぞれ5つのカラーウェイ(墨彩、墨緑、朱赤、茶褐、天青)で展開されています。

3Dプリントの積層痕がそのまま意匠に(出典:Yanko Design)
環境負荷:数字で見る効果
Bentu Designが公表しているデータをまとめます:
- リサイクル率:完成材料の最大85%がリサイクル固形廃棄物
- 廃棄物利用率:解体現場設置時で92%
- 輸送CO₂:現場近くでの処理により約70%削減(Bentu Design発表値)
- 材料使用量:インテリジェントスライシングで平均40%削減
数値はBentu Designの自社発表によるもので、独立した第三者検証は現時点では確認されていません。ただし、建築3Dプリント全般では、デルフト工科大学の研究で最大90%の廃棄物削減が可能とされており、方向性としては整合しています。

「Inorganic Growth」プロジェクト全景(出典:designboom)
建築3Dプリントの世界:Bentuだけじゃない
Bentu Designの事例は家具スケールですが、建築3Dプリントの世界はもっと大きなスケールで動いています。いくつか注目のプロジェクトを紹介します。
ICON × 米軍:3Dプリント兵舎(アメリカ)
テキサス州フォートブリスに、米軍初の3Dプリント兵舎が完成間近です。ICONが6,280万ドル(約94億円)の契約を受注し、10棟の兵舎で560名の兵士を収容。従来工法の約1/5のコストで、6ヶ月で完成させています。10台のVulcanプリンターが現場で稼働し、特殊コンクリートを一層ずつ積み上げています。
ICONは2026年3月に「Titan」プログラムの商用展開も発表。ロボティック建設システムの予約受付を開始しており、2027年初頭の納入を予定しています。
COBOD BOD3:「無限の長さ」を印刷(デンマーク)

COBOD BOD3 ― 地上レールシステムでY軸方向の制限がない(出典:COBOD)
デンマークのCOBODが2024年に発表したBOD3は、地上レールシステムによりY軸方向の制限がないという革新的な構造。理論上、どれだけ長い建物でも印刷可能です。印刷速度は壁面で約50〜70m²/h(速度はBOD2世代で最大1,000mm/sのプリントヘッド移動速度が公表されています)、素材の99%が現地調達可能なコンクリートで、アンゴラ、インドネシア、バーレーンですでに稼働しています。

BOD3による建設現場の空撮 ― 複数の建物を連続印刷(出典:COBOD)
日本でも始まった:3Dプリント住宅

Lib Earth House(熊本県山鹿市)― 日本初の土を主材料とする3Dプリント住宅(出典:designboom)
日本でも建築3Dプリントが本格化しています。
Lib Work × WASP × Arup:熊本県山鹿市に、日本初の「土」を主材料とする3Dプリント住宅(100㎡)を建設。セメント不使用で、約65%の土と砂に消石灰と天然繊維を配合。従来比で約22,500kgのCO₂を削減(通常の約半分)。2040年までに10,000棟の建設を目標としています。

土の質感がそのまま壁面に ― 3Dプリントの積層が有機的な表情を生む(出典:designboom)
Kizuki × COBOD:日本初の2階建て3Dプリント住宅(50㎡)を完成。日本の厳しい耐震基準をクリアした初の事例です。
パリ五輪の橋(フランス)
2024年パリオリンピックに合わせて、XtreeEコンソーシアムが40メートルの歩行者用橋を3Dプリントで建設。従来工法比で60%のコンクリート削減を達成しています。
コンクリート3Dプリント vs デスクトップFDM:何が同じで、何が違う?
「3Dプリント」と聞くと身近に感じますが、建築用とデスクトップFDMではスケールが全く違います。
| デスクトップFDM | 建築用3Dプリント | |
|---|---|---|
| 造形サイズ | ~340mm(H2S) | ~50m(COBOD BOD2) |
| 素材 | PLA/PETG/ABS等 | コンクリート/土/ジオポリマー |
| 硬化方式 | 熱冷却 | 化学反応(水和) |
| 速度 | ~1,000mm/s | ~1,000mm/s(COBOD) |
| 装置 | デスクトップ筐体 | ガントリー/ロボットアーム |
| 価格 | 数万〜数十万円 | 数千万〜数億円 |
原理は同じ「層を積む」ですが、スケールは100倍以上。面白いのは、印刷速度だけは意外と近い数字になっていることです。COBOD BOD3の最大速度1,000mm/sは、Bambu Lab H2Sと同じ。もちろん一層のサイズが全く違いますが、速度の追求という点では同じ方向を見ています。
家庭用FDMでも「リサイクル」はできる
「建築スケールの話は壮大だけど、自分のプリンターで何かできることはある?」
実はあります。リサイクル素材を使ったフィラメントが、ここ数年で急速に充実してきています。
リサイクルフィラメントの主な選択肢
- rPLA(リサイクルPLA):産業廃棄物のPLAを再ペレット化したフィラメント。通常のPLAとほぼ同じ設定で印刷でき、強度も遜色なし。CO₂排出量はバージンPLA比で約50〜60%削減。Filamentive、Spectrumなどが展開しており、Bambu Lab AMS対応品もあります。
- rPETG(リサイクルPETG):消費者プラスチック廃棄物から作られたPETG。PETGの耐薬品性と靭性はそのまま。GreenGate3D、Reflowなどが製造。
- 海洋プラスチック由来:Fishy Filaments(英)は廃棄漁網から、Solaris + Creamelt(タイ)は東南アジアで回収した海洋プラスチックからフィラメントを製造(出典:VoxelMatters / tide.earth)。「海のゴミが作品になる」というストーリー性も魅力です。
Bambu Lab純正のリサイクルフィラメントはまだありませんが、サードパーティのAMS対応リサイクルフィラメントは増えています。通常のフィラメントと同じプロファイルで使えるので、環境配慮の一歩としてぜひ試してみてください。
「消えた街」を残すというデザイン
Bentu Designのプロジェクトの本質は、技術でもリサイクルでもありません。
都市の再開発では、建物が壊され、そこにあった記憶も一緒に消えていきます。しかしこのプロジェクトでは、素材を再利用し、色や質感を残し、公共空間に家具として戻すことで、「消えた街の痕跡を未来に残す」という役割を持たせています。
一見すると普通のベンチやスツールですが、その中にはかつてそこにあった街の一部がそのまま使われている。PLAやPETGのフィラメントとは次元が違う話ですが、3Dプリントが「ものを作る技術」から「記憶を残す技術」へと拡張されている。この視点の転換こそが、Bentu Designの面白さだと思います。
参考リンク
- designboom - 3D printed street furniture recycles concrete and brick waste
- Yanko Design - Bentu Just Built Furniture From Cities That No Longer Exist
- VoxelMatters - Urban village demolition waste turned into 3D printed street furniture
- COBOD - BOD3 Launch
- ICON Titan Program
- designboom - Lib Work 3D printed earth house Japan
大型の3Dプリントに挑戦してみませんか?
SK本舗では、家具サイズの造形も可能なFDM方式3Dプリンターを取り揃えています。Bambu Lab・Creality等の正規代理店として、安心のサポートをお届けします。
