SK本舗ユーザーのリレーコラム #01「Phrozen Shuffleで模型鉄」(ナガイケンタ)
SK本舗ユーザーの皆様によるリレーコラムシリーズ第一弾は、模型鉄の達人・ナガイケンタさんです。「Phrozen Shuffle XL」を使用した鉄道模型つくりの工程、その試行錯誤の軌跡について書いていただきました!
1.Phrozen Shuffleとの出会い
元々仲間内で鉄道模型(Nゲージ 1/150スケール)の床下機器などを外注の3D printサービスへ依頼し作っては即売会などで細々と分布しておりました。始めて1年半ほどが経過したころにSK本舗さんのD7の存在を知りました。
インターネットで検索をかけても鉄道模型のDesktop printerでの作例は見当たらず、出来るかどうか全く見当が付きませんでした。そんな中でSK本舗さんより新型の高性能Printer「Phrozen Shuffle」が発売されるのでどうですかとDMを頂き購入を検討することにしました。ただD7の倍の値段でかなり躊躇しましたが、本業でも使う予定があったため購入に踏み切りました。
NormalかXLかどちらにしようか悩みましたが、Nゲージの車体が130mmということと、元々設計していたCADの最小単位が0.1mm程度であったのでXLを2018年11月に購入いたしました。
2.車体が形になるまで
誰もやったことないのとHow to本があるわけでもないので完全に手探りでの開始となりました。とりあえず自前で持っていたデータを出力させたところ小さなリベットがかなり緻密に表現されたので「これは行ける!」と確信をもつようになりました。
写真1 初出力の車体。失敗しているがPhrozen Shuffleのポテンシャルは充分に感じ取れた。
色々試作し車体設計で必要なこととして
① サッシは最低0.4mmないと歪む
② 厚みは窓回りの薄いところは0.4mm、その他は0.8mm程度
③ 上部に横向きの梁を通して強度を上げる
これを守ることで、とりあえず箱になった車輌が出力できるようになりました。
3.落下事故続出
購入後2か月が経過したころから造形中の落下が続出するようになりました。原因を追究し、自分なりに色々試したところ、以下のことをやったら落下事故はゼロになりました。
① 毎回#180位のヤスリでサンディングし、そのあとクレンザーで水洗いする。
② ベースの設定のレイヤーを倍に設定、レイヤー厚を半分、照射時間を倍にする。
①に関しては長期に使用しているとプラットフォーム表面にレジンの薄い皮膜みたいなものが形成されてしまいベースの固着が悪くなるためと思われます(写真2・3)。サンディングすると細かいレジンの粉が出てきます。この粉をクレンザーで洗い流すときれいな表面になります。
②に関してはベースレイヤをより強固に固着させるためパラメーターの設定を変更したところ上手くいくようになりました。
写真2 サンディング後にクレンザーで洗浄中。
写真3 レジンが洗浄されグレーの汚れとして出てくる。
4.出力方向の決定
最初は横向きでボディー下をプラットフォーム側に設定していましたが造形後の反りやボディー下面の処理の煩雑さから採用を見送りました。また斜めに造形物を設定することも考えましたが、ボディー表面にサポートが付いてしまいディテールの破損などに繋がってしまうため採用しませんでした。
プリンタの特性でプラットフォーム側の面は表面張力の影響でどうしても歪んでしまいます。鉄道模型は6面体ですべての面を綺麗に造形しなければならず色々試行錯誤した結果が垂直に出力する方法でした。プラットフォーム側の車端部は歪んでしまうため妻面のみ別パーツ化し、後からはめ込む方法としました。この方法が今のところ最も綺麗に造形できております。
また1回の造形時間は20m級車輌で12時間(ピッチ0.05mm)程かかりますが、プラットフォームに1回で12両くらい並べることが出来るので生産性の向上にも寄与しております。
プラットフォームの対側は最も解像度が高く造形される面となります(Phrozen Shuffle は水平方向に比べ垂直方向のみ解像度が高いため)。色々試した結果ですが、車端部が平面でサッシがないものに関しては一体成型を勧めますが、前面窓に0.4mm程度のサッシや流線形、湘南型のものに関しては別パーツでの造形の方が綺麗に造形できます。0.4mm程度のサッシは垂直方向で造形した際に垂直方向に引っ張られて層状にばらけたり歪んでしまいます。また流線形や湘南型は45度での造形の方が積層痕が少なく作成時の下地処理が簡便になります。妻面に関しては90度での造形で問題なく出来ております。
写真4 水平方向の出力、1回で3両程度が限界で造形後の車体の反りや、エッジが甘くなるなど課題が多かった。またサポートが大きいためレジンの消費量も多かった。
写真5・6・7 垂直造形に変更。造形時間は増加したが、サポートの減少、1回の生産量の増加、反りやエッジの問題の解決など多くの問題が解決した。以後この方法がメインとなった。
写真8 妻面の作成。平面であれば垂直方向で問題なく造形可能である。写真のようにパンタグラフ周囲の配管も表現可能である。
写真9 湘南型などの流線形前面はこのように45度傾けて造形すると積層痕が少なくなり後々の表面処理が容易になる。
写真10 平面の前面は一体成型で造形可能である。Phrozen Shuffleの最大解像度を生かして手すりまで造形できる。
5.サポートの付け方
サポートは可能な限り太いものを多くつけた方が水平方向への層状のめくれが少なくなり造形不良を予防できます。四隅を中心に1mm間隔くらいで付けています。また屋根側はプラットフォーム側のみ必要になるのでそちら側は3本、それを支えるため後方に1本付けたホウキ型にしております。プラットフォームの対側の妻面の裏もめくれるポイントですので付けております。またAuto機能は使用せず1本ずつマニュアル操作で付けております。
ソフトウェアに関してですが、初期はChi Tu Boxを使用しておりましたが、SK本舗より発売しているFormware 3Dが非常に優秀なため最近ではこちらを使用しております。前者に比べサポートの付け方が非常にフレキシブルであり自分で狙ったところに綺麗に付けることが出来ます。
写真11・12 なるべく多くつけた方が安定出力につながるが、切断が煩雑になるのでその辺を考慮しながら付けていく。屋根側はホウキ状に設計した。
写真13 メインサポートの設定
写真14・15 底部は妻面裏側のめくれ防止で入れる。少ないとこのように層状のめくれが生じる。
6.車体の補強
色々と試行錯誤しましたが現在は屋根側に横方向の梁を3本と妻面の部分に2本、床板の支持も兼ねた側面内側のチャンネル材と窓枠周辺の縦方向の補強を入れています。最大の注意点は横方向の梁を入れた部分が膨らんでしまうので梁周辺を厚めに作る必要があります。下面は入れたこともありましたが上記の膨張現象が認められることと無くても造形に支障を来さないため現在は入れていません。
写真16・17 上部は横方向の梁3本、妻面側は妻面の窓に被らない程度で2本、客室扉の横に縦方向の補強。下部は床板を支える構造体を兼ねたチャンネル材。
写真18 Lの部分を多く取らないと下のように急に幅が元に戻るため段差が生じる。
7.造形時の注意
造形で失敗を極力減少させるために以下のことをしています。
① レイヤーの1列目がちゃんとベースになっているかを確認。
② 全レイヤーを一通り流して見てノイズが入っていないかをチェック。
③ 1回の造形で高さの違うパーツを混ぜない。
1は時折ベースからサポートが飛び出していることがあり、ベースレイヤの1層目がプラットフォームに接着しなくなってしまい脱落します。
2はPCから本体に転送した際にノイズが混入し造形中にそのレイヤーで造形が中断されてしまいます。ノイズが確認されたらもう一回転送からやり直しです。
3は高さの極端に異なるパーツを同時に出力すると短い方のパーツが終わった高さで長い方のパーツに線が入ってしまいました。パラメーター設定はベースレイヤ以外は特に操作しておらず、照射時間8秒、レイヤーは普段は0.05mm、床下機器や前面など繊細なパーツは0.03mmで設定しております。造形後は可及的に回収した方がプラットフォームとベースレイヤの癒着が弱く綺麗に剥がすことが出来ます。1日以上経過すると癒着が強固になり造形物を破損するリスクが上がりますので注意してください。
8.造形後の処理
造形後はベースから外したのちにイソプロピルアルコール(IPA)で2回に分けて洗浄しております。1層目で大方の残存レジンを洗い流し、2層目で1層目で付着した汚れたIPAを“ゆすぐ”作業をしております。ゆすぎを疎かにするといつまでも造形物がベトつくため使用できなくなりますのでしっかり洗浄してください。最近はパーツ点数が多いときなどに超音波洗浄機を使用することもあります。
洗浄後に細いサッシなどが写真のように歪むことが多々あります。このような時は次の工程であるポストキュアの前に半日~1日室内に放置しておくと自然と治ります。歪みが治ったらポストキュアを開始してください。
ポストキュアは色々試しましたが紫外線LEDが最もよく硬化した感触を受けましたので写真のような“窯”をこしらえました。テープLEDは某大手通販サイトで簡単に手に入ります。大体3時間程度硬化させております。
写真19 IPAでの洗浄、タッパに全体がつかる程度までIPAを入れて洗浄する。
写真20 超音波洗浄機での洗浄、直接IPAを入れられないためタッパ越しに洗浄した。
写真21・22 上の写真のように出力後にサッシが歪んでしまっている場合は洗浄後に半日程度室内に放置しておくと下の写真のように修正される。
9.組み立て時の諸注意
レジンによってまちまちですが、基本的にプライマーが下地に必要になります。自分はガイアノーツ社製のガイアマルチプライマーを使用しております。その上からサフェーサーや塗料は普通に使用することが出来ます。一つだけ注意することがあり、プライマーの乾燥時間がかなり長い(大体1日程度)ので普段のプラモデル感覚で作業を進めると塗膜の剥離やひび割れなどを起こします。
パーツの接着は瞬間接着剤を使用、溶剤式(タミヤセメントなど)は接着できません。パテはWaveのモリモリやタミヤのラッカーパテが普通に使用できます。切削性も普通のABS樹脂に比べ若干柔らかく良好でした。
写真23 左からDMM3Dプリント製、TOMITEC製、Phrozen Shuffle製
作りこめば完成品をも凌駕する作品が作成可能である。
写真25 西武351系、車体のリベット(0.2mm)までシャープに表現可能である。床下機器もPhrozen Shuffleで造形したものである。
写真26 床下機器のメッシュまで再現可能である。
10.最後に
多くの失敗をしてここまで漕ぎつけました。最初は苦労の連続かと思いますがこの記事が皆様の一助になれば幸いです。使いこなすことが出来ればかなり強力な鉄道模型制作ツールになると思います。是非チャレンジしてみてください!
写真27 筆者の失敗作箱、これだけの失敗をしています。地道に諦めずに続けることが重要と思っています。
永井さんが使用しているPhrozen Shuffle XLの進化版 Sonic 4K XLはこちら↓
次回はForet Johさん(twitter: @gallery_jo)のジュエリー制作コラムとなります。お楽しみに!
著者名:ナガイケンタ
幼少期を車両基地に面した環境で育ち鉄道への沼にハマっていく。
2005年ごろより鉄道模型サークル関急車輌へ加入し主に子ども向けの運転会に多数従事。
2017年よりより日本Nゲージモデラー協会(JNMA)フェスティバルにて3Dプリントパーツの分布を開始、2019年に本邦初と思われるphrozenshuffle製車両キットの分布を開始する予定である。
Twitterアカウント→@Kenta12767787
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