最終更新:2026年6月13日
光造形(レジン)の3Dプリントは精密さで高い評価を得ている一方、「失敗した造形物や余ったレジンは一度固めると、もう使い回せない」という使い捨ての側面がずっと課題とされてきました。今回、横浜国立大学の研究グループが発表した新しい光硬化レジンは、その常識を変える可能性のある成果として注目されています。1度の樹脂を10回以上くり返し造形に使えたと報告されているからです。
この研究は、査読付き学術誌『ACS Omega』にオンライン掲載されたもの(2026年2月21日オンライン掲載・DOI: 10.1021/acsomega.5c09643)で、5月に各国の科学メディアがいっせいに取り上げたことで広く知られるようになりました。レジンを日常的に扱うホビーユーザー、歯科・産業の現場、そして材料メーカーまで、光造形に関わる方すべてに関係する話題なんです。
ただ、最初にいちばん大事なことをお伝えしておきます。これは研究段階の成果であって、まだ製品として購入できるものではありません。 SK本舗でもこのレジンの取り扱いはありません。ここでは「いま何が起きていて、将来どんな意味を持ちそうか」を、購入を急がせない形で技術解説としてお届けします。
- 横浜国立大の再利用レジンは「何が新しいのか」を、化学のしくみまでやさしく
- 「10回以上再利用」「従来は1〜3回」という数字の出どころ
- この研究が光造形業界ぜんたいに与えそうな影響
- いまレジンプリンターを使う方・買う方にとって、この研究がどう関わるか
横浜国立大の再利用レジンとは──いま分かっていること
今回の主役は「アントラセン」という化合物です。アントラセンには、光を当てると分子どうしが手をつないで結合する「光二量化」という性質があり、しかもこの結合は加熱するとふたたびほどける(可逆である)という、ちょっと珍しい性質を持っているといいます。
研究チームはこの性質を光造形に応用しました。光を当てて樹脂を固め(造形し)、使い終わった樹脂を150℃で15分ほど加熱して結合をほどくことで、材料をふたたび使える状態へ戻し、もう一度造形に使う――というサイクルを回せたと報告されています。一般的な光造形レジンが一度固まると不可逆なのに対し、ここが根本的に違う点なんです。
技術面で報告されている主なポイントを表にまとめます。数値はいずれも『ACS Omega』掲載論文をもとにした各メディアの報道に基づくもので、確度が分かれる項目は注記しています。
| 項目 | 報告されている内容 | 確度 |
|---|---|---|
| 再利用回数 | 2光子リソグラフィで「少なくとも10回」の再利用に成功 | 高(複数ソース一致) |
| 従来比較 | 従来の再利用可能レジンは一般に1〜3回程度とされる | 高(複数ソース一致) |
| 硬化のしくみ | アントラセンの光二量化(可逆反応)/逐次重合で硬化、光開始剤なし | 高(複数ソース一致) |
| 再利用の方法 | 150℃で15分ほど加熱して光二量化をほどく | 高(複数ソース一致) |
| 対応する造形方式 | 1光子(マイクロステレオリソグラフィ)・2光子リソグラフィの両方を検証 | 高(複数ソース一致) |
| 造形の細かさ | 最小線幅0.61マイクロメートルを実証したとされる | 中〜高(一部メディアが明記) |
| 劣化の度合い | 再加工時の材料劣化は従来の再利用レジンに比べ小さかったとされる | 高(複数ソース一致) |
※「マイクロメートル(µm)」は1mmの1000分の1。0.61µmは髪の毛の太さ(おおよそ70µm前後)の100分の1ほどに当たる細さで、いわゆる「2光子リソグラフィ」と呼ばれる超微細造形の世界の話です。一般的なホビー向け光造形(LCD/MSLA)の解像度とは別の領域である点に注意してください。
なお、論文では再加工をくり返した際の材料劣化の度合いなども報告されているとされますが、弾性率などの具体的な数値は現時点で参照できたソースが限られるため、この記事では数値の断定は避けています。
なぜこの研究が光造形業界全体に影響しそうなのか
光造形が苦手としてきたのは、まさに「一度固めた樹脂は戻せない」という一点でした。失敗した造形物、サポート材、トレイに残った半端な樹脂――これらは基本的に再利用できず、適切に処理して廃棄するのが前提でした。再利用をうたう研究レジンもこれまでありましたが、回数は1〜3回程度にとどまるのが一般的だったとされています。そこへ「10回以上」という数字が出てきたことが、注目を集めている理由なんです。
意味合いを整理すると、おおむね次の3つに分けられます。
固めた樹脂を材料へ戻せれば、廃棄物そのものを減らせる可能性があります。光造形は精密な反面、廃材が出やすい方式だったため、ここに効くのは大きいと読めます。
1本のレジンを何度も使い回せるなら、研究用途や試作の現場では「材料あたりの実質コスト」が下がる可能性があります。ただし、加熱の手間やエネルギーも含めた総合的な評価はこれからの段階だと読めます。
3Dプリンター本体は海外メーカーが牽引してきた一方、レジンの基盤化学で国内の大学から成果が出たことは、日本の材料研究の層の厚さを示すものとして受け止められています。
ここで冷静に押さえておきたいのが、対象の造形方式です。今回の研究は1光子・2光子リソグラフィという精密微細加工の領域が中心で、私たちが店頭で扱うような一般的なLCD(MSLA)方式のレジンプリンターにそのまま降りてくる話ではありません。研究チームも、次のステップとして「より大きなシステムへの適用」を課題に挙げているとされ、量産レジンへの応用には時間がかかると見るのが妥当です。
いまレジンを選ぶ人にとって、この研究はどう効くのか
「この再利用レジン、自分のプリンターで使えるの?」という疑問がいちばん気になるところだと思います。正直にお答えすると、現時点では使えません。 くり返しになりますが、これは商品化前の研究段階の成果であり、検証された造形方式も2光子リソグラフィなど超微細加工の領域が中心です。普段SK本舗で扱っているELEGOOやAnycubic、PhrozenといったLCD(MSLA)方式のホビー光造形に、そのまま降りてくる話ではありません。
ですので、いま光造形を楽しんでいる方も、これから始めようとしている方も、機種選びや材料選びの結論はこのニュースで変える必要はないと考えています。手元のレジン運用はこれまで通りで大丈夫です。「再利用レジンが出るまで購入を待とう」というのは、待つ理由としては弱いというのが正直なところで、商品化の時期も現時点では確認できていません。新しい材料化学が論文から店頭の製品まで届くには、たいてい数年単位の時間がかかります。光造形まわりでも、低臭・高靱性・水洗い対応といった特性は、研究での提案から市販レジンへの一般化まで段階を踏んできましたし、フィラメントの世界でもリサイクル素材や植物由来のPLAが「研究の話題」から「普通に買える選択肢」になるまでには相応の時間を要しました。今回の再利用レジンも、研究チームが次の課題として、より大きなシステムへの適用や長期的な安定性の改善を挙げているとされ、量産・商品化までには同じように時間がかかるとみるのが妥当です。
だからこそ、いま「環境に配慮しながら光造形を続けたい」という方には、未来のレジンを待つよりも、実在する機種と材料で工夫を始めるほうがずっと現実的です。たとえば水洗いレジンを選んでIPA(洗浄液)の消費を抑える、洗浄液を使い回す、露光設定を最適化して失敗造形そのものを減らす――こうした足元の運用改善のほうが、いまの廃材削減には確実に効きます。今回の研究は「使い捨てが当たり前」という前提がいつか変わるかもしれない、という大きな方向性を示してくれた話。そのアンテナを立てておきつつ、目の前の一台は実在する選択肢から選ぶ、という二段構えがちょうどいいバランスだと考えています。
将来の再利用レジンを待たなくても、足元の運用でできる工夫はあります。水洗いレジンの活用、IPA(洗浄液)の再利用、露光設定の最適化による失敗削減――どれも今日から始められて、廃材とコストの両方に効きます。「どの光造形プリンターが自分に合う?」「廃材を減らす運用は?」といったご相談は、用途・予算・サポート体制を整理のうえ、SK本舗のLINE公式アカウントへお気軽にどうぞ。光造形を始めるところから、3Dは、ここから。です。
▶ SK本舗 LINE公式アカウントで相談する
配布されている3Dデータを探すなら、まずは 3D Data Japan(3d-data.skhonpo.com) をご覧ください。光造形でそのまま出力できるデータも見つかります。
参考情報(出典)
この記事は以下の一次情報・報道に基づいています。スペック・数値は『ACS Omega』掲載論文(2026年2月21日オンライン掲載・DOI: 10.1021/acsomega.5c09643)を一次として照合し、内容の解釈は各科学メディアの報道を参照しました。
- EurekAlert!(横浜国立大学プレスリリース): https://www.eurekalert.org/news-releases/1128945
- VoxelMatters: 該当記事
- TechXplore: 該当記事
- Mirage News: 該当記事
- Interesting Engineering: 該当記事
- Lab Worldwide: 該当記事
※この研究の責任著者は横浜国立大学 工学研究院の丸尾昭二教授で、共同筆頭著者の一人は同大の特任助教(現在は東京理科大学に所属)とされます(出典:EurekAlert! / Lab Worldwide)。本記事は研究内容の技術解説であり、特定製品の購入を推奨するものではありません。掲載のレジンは2026年6月時点で商品化前の研究段階であり、SK本舗での取り扱いはありません。
