SK本舗公開:2026年6月13日 | 技術解説
これまで「大きな業務用の機械でやるもの」だったジュエリーのロストワックス鋳造に、設置スペースを抑えた選択肢が加わろうとしています。Flashforge(フラッシュフォージ)が2026年5月28日、米ラスベガスの宝飾見本市「JCK Las Vegas 2026」に合わせて、ワックス3Dプリンター WJ51C を発表しました(発表日:2026年5月28日、GlobeNewswire のプレスリリースおよび 3DPrint.com の報道による)。
関係するのは、指輪やペンダントなどの原型を手作業や外注に頼ってきたジュエリー工房・宝飾メーカー・歯科技工系の現場です。樹脂や金属のプリンターはこの数年でどんどん身近になりましたが、鋳造用のワックス(ろう)原型をプリンターで直接つくる領域は、価格と設置スペースの壁が高く、小型化が遅れていた分野なんですね。
なぜこれが業界全体で話題なのか。Flashforge は WJ51C を「世界初の卓上ワックス3Dプリンター」と打ち出しています。ただし後述のとおり、この「世界初」は同社プレスリリース由来の表現で、卓上クラスのワックス機そのものは先行各社にも存在します。価格帯も決して安くはありません。それでも、産業用の MJP(インクジェット式)ワックス機が、より小さな筐体で手元に置けるようになりつつあるという点で、鋳造原型づくりの選択肢を広げるニュースとして読む価値があります。
ワックス3Dプリントとロストワックス鋳造の「今」
ロストワックス鋳造は、まずワックス(ろう)で原型をつくり、それを石膏などで包んで焼き、溶けて流れ出たワックスの空洞に金属を流し込む、という古くからの金属加工の手法です。ジュエリーや小さな金属パーツづくりの定番で、「原型の精度がそのまま製品の精度になる」工程だといえます。仕組みの基礎はロストワックス鋳造の用語解説も参考にしてみてください。
WJ51C は、この原型づくりを担うプリンターです。発表資料によると、ヘッドから材料を噴射して積層する MultiJet Printing(MJP)方式を採用し、最小15μm(マイクロメートル)という薄い層で造形します。指輪の爪や透かし模様のような細部を、手彫りに近い精度で表現できる見込みです。
公表されているおもなスペックを整理すると、次のとおりです。数値はいずれも GlobeNewswire のプレスリリース、Flashforge 公式サイト、海外専門メディア 3DPrint.com で確認できた範囲のものです。
| 項目 | 公表値 |
|---|---|
| 造形方式 | MultiJet Printing(MJP) |
| 造形サイズ | 235 × 138 × 100 mm |
| 最小積層ピッチ | 15μm |
| 解像度 | 最大 2900 × 2900 × 1700 DPI |
| 寸法精度 | ±0.04mm / 20mm |
| ワックス利用率 | 57%超 |
| 月産能力(公表) | 赤ワックス原型で3〜4kg |
| 材料ブロック | パートワックス72g/サポートワックス180g |
| 本体サイズ・重量 | 865 × 510 × 654 mm/約115kg |
出典:GlobeNewswire(2026年5月28日 Flashforge プレスリリース)/Flashforge 公式サイト/3DPrint.com(2026年5月)。本体重量はメーカー公式資料では明記がなく、3DPrint.com の報道による値です。価格は後述のとおりメーカー希望小売価格が未公表です。
ひとつ注意したいのが、「卓上」という言葉の受け取り方です。造形サイズこそ卓上クラスですが、本体は約115kgあり(3DPrint.com の報道による)、気軽に持ち運べる重さではありません。従来の大型産業用ワックス機と比べて小型化された、というのが実態に近い表現だと読めます。下の写真は、その大きさの違いをメーカーが示したものです。
なぜこれが業界全体に影響するのか
3Dプリンターのこの数年は、「高価で大きい業務機」が「手の届く卓上機」に降りてくる流れの連続でした。FDM(熱溶解積層)でも光造形(レジン)でも、まず研究室や工場にあった技術が、価格と設置性の壁を越えて個人や小規模事業者に広がっていったわけですね。WJ51C のニュースも、その文脈で語られがちです。ただ、ワックス鋳造の領域では事情がやや異なるので、冷静に押さえておきたい点があります。
まず「世界初」という表現です。Flashforge は WJ51C を「世界初の卓上ワックス3Dプリンター」と発表していますが、これは同社プレスリリース由来のメッセージです。実際には、卓上クラスのワックス機はすでに他社からも提供されてきました。下の表に、第三者情報で確認できた先行機を整理します。
| メーカー / 機種 | 位置づけ | 参考価格(第三者情報) |
|---|---|---|
| Flashforge WJ51C | 2026年5月発表の新型・MJP方式 | メーカー希望小売価格は未公表。海外メディアは分割払い例(月768USD・60回)から本体総額を約35,000USD前後と報じています(出典:3DPrint.com)。再販業者は見積制での提供とみられます。 |
| 3D Systems ProJet MJP 2500W Plus | 既存のワックス対応機(2026年より前から流通) | 非公表(見積制) |
| Solidscape Muse | 宝飾向けの卓上ワックス機(先行) | 9,990 USD(出典:Solidscape 公式。上位機 Muse+ は11,990 USD) |
出典:3DPrint.com、3D Systems 公式、Solidscape 公式(いずれも2026年時点の情報)。各社とも税抜・税込の区分が明示されていないため、表記どおりの参考値として扱ってください。WJ51C の約35,000USDは分割払い例からの逆算で、メーカー公式の確定価格ではありません。
ここが大事なところです。報じられた分割払い例から逆算すると、WJ51C の本体総額は約35,000 USD 前後とみられます。一方で先行機の Solidscape Muse は9,990 USD です。つまり WJ51C は「価格をいちばん下げた卓上機」ではなく、むしろ産業用 MJP の精度を、従来より小さな筐体に収めた機械だと読むのが正確です。「世界初」も、ある狭い意味(たとえば特定のサイズ・構成で初など)では成立しても、卓上ワックス機そのものが世界で初めて登場したという広い意味では慎重に読むのが妥当だといえます。
では何が業界にとっての注目点なのか。ひとつは、量産規模の大きいメーカーである Flashforge がこのカテゴリーに本格参入したこと自体です。専業メーカー中心だった卓上ワックス機の市場に新しいプレイヤーが入れば、機種の選択肢や供給の厚みが増していく可能性があります。もうひとつは材料の使い方です。公表された「ワックス利用率57%超」は、サポート材を含めた材料のうち実際に原型になる割合が高めに設計されていることを示すとみられます。鋳造の現場では材料コストとサポート除去の手間が地味に効いてくるので、この数字が現場で再現されるなら運用面のメリットになりそうですね。
では、これは「誰のための機械」なのか
まず正直にお伝えしておくと、WJ51C は2026年5月に海外で発表されたばかりで、SK本舗での取り扱いや日本国内での流通は、現時点では確認できていません。SK本舗は Flashforge の正規代理店ですが、本機が国内に入ってくるかどうかは未確認です。この記事は、あくまで海外発表を受けた読み物としてお届けしています。
そのうえで「誰のための機械か」を整理すると、はっきりしています。これは、指輪やペンダントの原型を手作業や外注に頼ってきたジュエリー工房・宝飾メーカー、あるいは歯科技工系の現場が、鋳造原型を自前でつくれるようにするためのプリンターです。本体は約115kg、価格帯も産業機クラスとみられます(いずれも本文前半で触れたとおり)。趣味で気軽に1台、という性格のものではなく、原型づくりを内製化して回転を上げたい事業者向けの選択肢だと読むのが自然です。
逆にいえば、「3Dプリントをこれから始めたい」「鋳造そのものに初めて触れる」という段階の方にとっては、WJ51C はまだ遠い機械です。レジン機が個人作家の道具にまで降りてきたような低価格化が、ワックス領域で同じように起きるかどうかは、現時点では分かりません。価格帯が産業機クラスにとどまる以上、しばらくは「精度と生産性で選ぶプロ向けの機械」という位置づけが続く可能性があります。
当面の現実解は、光造形+キャスタブルレジン
では、鋳造原型を自分の手元でつくってみたい場合、いま何から始めればいいのか。国内流通が未確認の WJ51C を待つより、入手しやすい光造形(レジン)機とキャスタブルレジンで原型ワークフローを磨いておくのが現実的です。
ジュエリーや小物の原型づくりでは、これまで光造形の卓上機が大きな役割を担ってきました。SK本舗で扱う機種でいえば、ELEGOO の Mars / Saturn シリーズ、Phrozen の Sonic シリーズ、Anycubic の Photon シリーズなどが、キャスタブル(鋳造用)レジンで原型を出す定番です。レジン機は安価で試作の回転が速く、まず形を詰めるのに向いています。ここで「データを用意し、出力し、鋳造に渡す」という一連の流れを確立しておけば、仮に将来ワックス機を導入する局面が来ても、移行はずっと滑らかになる見込みです。
WJ51C のようなワックス機が示すのは、鋳造用ワックスを直接出力して焼き飛ばし(バーンアウト)の相性を高めるという、より鋳造工程に寄せた設計です。レジンとワックスは「安く速く試す」「鋳造になじむ原型を仕上げる」という役割の違いがあり、本来は対立ではなく併用で効いてきます。だからこそ、いま動けるレジン機で工程の土台を固めておくことが、そのまま次の一歩の準備になるわけですね。
すでに外注の鋳造で十分回っているなら、急いで内製化に走る必要はありません。その場合はまず設計(CAD・3Dモデリング)の内製から始めると、自分の工房に本当に必要な機械が何なのか、輪郭が自然と見えてきます。
「鋳造原型を内製したいけれど、レジン機とワックス機のどちらから入ればいいか分からない」――そんなときは、用途・予算・サポート体制を整理のうえ、SK本舗の公式LINEから気軽にご相談ください。光造形機やキャスタブルレジンの組み合わせを含めて、現場に合った入口を一緒に考えられます。なお、造形データを探したり配布したりする入口としては、まず 3D Data Japan(3d-data.skhonpo.com) をのぞいてみてください。設計の手前にあるデータ集めから、ものづくりは始められます。
まとめ ― 「卓上で鋳造原型」は始まりの合図
Flashforge WJ51C は、ジュエリーの鋳造原型づくりという、これまで小型化が遅れていた領域に踏み込んだプリンターです。「世界初」という表現はメーカー発表由来で割り引いて見る必要があり、価格も産業機クラスとみられますが、量産メーカーがこのカテゴリーに本格参入したという意味で、ものづくりの選択肢を広げる一歩になる可能性があります。
まずは手の届くところから始めるのが、いつの時代も近道です。鋳造に興味があるなら、光造形機とキャスタブルレジンで原型を出すところから試してみると、自分の工房に本当に必要な機械が見えてきます。「3Dは、ここから。」――最初の一歩の相談先として、SK本舗を使ってみてください。
Flashforge の取り扱い製品はFlashforge ブランドページからご覧いただけます。最新の在庫やラインナップは各商品ページでご確認ください。
ちなみに、レーザー加工機まわりでは xTool が近日取扱開始(Coming Soon) の予定です。続報をお待ちください。
参考情報(出典)
- Flashforge プレスリリース(2026年5月28日, GlobeNewswire):Flashforge Unveils the World's First Desktop Wax 3D Printer WJ51C at JCK 2026
- Flashforge 公式(WJ51C 製品ページ):WJ51C Desktop Wax 3D Printer
- 3DPrint.com(2026年5月):Flashforge Unleashes Wax 3D Printer
- The Manila Times(GlobeNewswire 転載):記事リンク
- 先行機の参考:3D Systems ProJet MJP 2500W Plus / Solidscape Muse
本記事の数値・固有名詞は上記一次・二次ソースで確認した範囲のものです。「世界初」はメーカープレスリリース由来の表現であること、価格はメーカー希望小売価格が未公表で本文の約35,000USDは海外メディアの分割払い例からの逆算値であること、国内流通は現時点で未確認であることを明記しています。
