TPU完全ガイド|Bambu Lab最適設定と選び方

📌 現行ラインナップと旧機種について
本記事には、旧機種(X1 Carbon / X1C / P1S / P1P など)の設定例も参考情報として掲載しています。2026年現在、SK本舗で販売中のBambu Lab FDM現行ラインナップは A1 mini / A1 / P2S / X2D / H2S / H2D / H2C および X1E Combo(法人向け)です。これからご購入される方は現行機種をご検討ください。旧機種をお使いの方は本記事の設定例をそのまま参考にしていただけます。

SK本舗 テクニカルシリーズ「Bambu Lab 素材別最適化」

第4回 / 全5回

第1回:PLA|第2回:PETG & ABS|第3回:ASA & PA|第4回:TPU(本記事)|第5回:素材選定フローチャート

※本記事はBambuStudio環境を前提としています。OrcaSlicerをお使いの場合は設定名が異なる場合があります。

TPUは「別の競技」です

PLA、PETG、ABS、ASA、PA ―― これまでのシリーズで紹介してきた素材は、硬さや耐熱性の違いこそあれ、基本的には「硬い素材」という同じカテゴリに属していました。TPUは違います。ゴムのようにしなり、曲がり、伸び、衝撃を吸収する。FDM 3Dプリントの世界で最もユニークな素材であり、同時に最も扱いが難しい素材でもあります。

正直に言います。TPUは忍耐を要求する素材です。PLAの何倍も遅い速度で印刷し、リトラクションの設定に気を配り、ストリンギングと格闘し、場合によってはAMSを外して手動フィードに切り替える必要があります。しかし、その手間をかける価値は十分にあります。スマホケース、バンパー、ガスケット、インソール、ロボットのタイヤ ―― TPUでしか作れないものがたくさんあるからです。

この記事では、TPUの基礎特性からBambu Lab各機種での最適設定、そしてよくあるトラブルの対処法まで、実践的に解説していきます。第1回のPLA編から読んでくださっている方は、設定の考え方がまるで違うことに気づくはずです。それが「別の競技」と書いた理由です。

━━ 知る ━━

TPUの素材特性

TPU(Thermoplastic Polyurethane:熱可塑性ポリウレタン)は、ゴムのような弾性を持ちながら熱で溶かして成形できるエラストマー素材です。一般的なTPUフィラメントのショア硬度は95Aで、これは自動車のタイヤや靴底と同程度の硬さです。

TPU フレキシブル 3Dプリント シューズ
TPUで造形した柔軟なパーツ ― ゴムのような弾性を持つ(画像: Bambu Lab Wiki)

TPUの5つの特性を押さえておきましょう。

1. 柔軟性 ―― これがTPUの存在意義です。曲げても折れず、元の形に戻ります。PLAやABSでは絶対にできない動きです。ショア硬度95Aの場合、手で曲げるとゴム消しのような手触り。85Aになるとさらに柔らかく、シリコンゴムに近い感触になります。

2. 耐摩耗性 ―― TPUは摩耗に対して非常に強いです。繰り返しの屈曲や擦れに耐え、PLAの何倍もの耐摩耗性を持っています。ベルト、タイヤ、グリップなど「擦れる」用途に最適です。

3. 耐油性 ―― 多くの油脂や溶剤に対して良好な耐性を持ちます。自動車部品やガスケットなど、油が付着する環境でも劣化しにくいです。ただし、濃度の高い酸やアルコールには注意が必要です。

4. 反発弾性 ―― 変形した後に素早く元の形に戻る性質です。衝撃吸収パーツやバンパーとして使うと、エネルギーを吸収しつつ形状を保てます。落下衝撃のテストでは、PLAが「割れる」のに対してTPUは「跳ね返る」動きをします。

5. 耐衝撃性 ―― 柔軟性の結果として、衝撃で割れることがほぼありません。スマホケースやドローンのバンパーなど、衝撃保護が目的のパーツに適しています。

TPUの弱点

万能ではありません。弱点もはっきりしています。

耐熱性が低い ―― Tg(ガラス転移温度)は約-40℃で、HDT(荷重たわみ温度)は50〜70℃程度。高温環境での使用には向きません。ただし、PLAのように「溶けて変形する」というよりは「柔らかくなりすぎる」という挙動になります。

印刷が難しい ―― 柔軟なフィラメントをエクストルーダーで押し出すのは、コシのない麺をストローに通すようなもの。バックラッシュ、詰まり、ストリンギングとの闘いは避けられません。

吸湿性がある ―― ポリウレタンは水分を吸いやすい素材です。吸湿するとノズル内で水蒸気が発生し、気泡や表面の荒れの原因になります。

圧縮すると永久変形する場合がある ―― 高負荷で長時間圧縮し続けると、元の形に完全に戻らないことがあります(クリープ現象)。これは全てのエラストマーに共通の課題です。

数値で見るTPU

項目 TPU 95A 参考: PLA 参考: ABS
ショア硬度 95A 80D(硬い) 75D(硬い)
破断伸び 400〜600% 3〜6% 10〜30%
ノズル温度 220〜240℃ 190〜230℃ 240〜270℃
ベッド温度 35〜55℃ 35〜55℃ 90〜110℃
収縮率 0.5〜1.5% 0.3〜0.5% 0.7〜1.1%
密度 1.15〜1.25 g/cm³ 1.24 g/cm³ 1.04 g/cm³

※ 破断伸びの差に注目してください。PLAが5%前後で折れるのに対し、TPUは400〜600%まで伸びます。

TPU vs 他のフレキシブル素材

「フレキシブルフィラメント」と一口に言っても、実はいくつかの種類があります。混同しやすいので整理しておきましょう。

TPU vs TPE

TPE(Thermoplastic Elastomer)は「熱可塑性エラストマー」の総称で、TPUはTPEの一種です。つまり、TPUはTPEというカテゴリの中の具体的な素材名です。他のTPEにはTPO(ポリオレフィン系)やTPS(スチレン系)などがありますが、3Dプリント用フィラメントではTPUが圧倒的に主流です。

フィラメントメーカーが「TPE」と表記している場合、多くはTPUベースか、TPUよりさらに柔らかい配合のエラストマーです。「TPE」表記のフィラメントはTPUより柔らかい(ショア硬度が低い)ことが多く、印刷難易度もさらに上がります。

ショア硬度の理解

TPUの硬さはショア硬度で表されます。これを理解すると、フィラメント選びが格段にラクになります。

ショア硬度 感触の目安 印刷難易度 用途例
95A タイヤ・靴底 中程度(標準) スマホケース、バンパー、タイヤ
85A 消しゴム・柔らかいゴム 高い ガスケット、グリップ、衝撃吸収
70A 輪ゴム 非常に高い 密閉パッキン、超ソフトグリップ
60A以下 シリコンゴム 極めて高い 専用プリンター推奨

※ ショアAスケール。数値が小さいほど柔らかい。Bambu Labプリンターでの実用範囲は85A〜95A。

初めてTPUを使うなら95Aから始めてください。95Aは「フレキシブルの中では一番硬い」ので、エクストルーダーへの負担が少なく、トラブルも比較的少ないです。85Aは95Aでの経験を積んでからチャレンジすることをおすすめします。70A以下は正直、Bambu Labプリンターではかなり厳しいです。

TPUバリエーション

Bambu Lab TPU 95A HF

Bambu Lab純正のTPUフィラメントです。ショア硬度95A、RFID搭載でBambuStudioのプロファイルが自動適用されます。「HF」はHigh Flowの略で、Bambu Labの高流量ホットエンドとの相性を最適化した配合になっています。

純正ならではのメリットとして、キャリブレーションデータがRFIDに格納されているため、フロー率やK-Valueの手動調整が不要です。TPUは特にフロー率の影響が大きい素材なので、このアドバンテージは他の素材以上に大きいです。

推奨温度:ノズル220〜240℃、ベッド35℃(Cool Plate)/ 50〜55℃(テクスチャPEI)。

サードパーティTPU

eSUN、Polymaker、SainSmartなど多くのメーカーがTPUフィラメントを出しています。95A以外にも85Aや70Aなど、Bambu Lab純正にはないショア硬度のバリエーションがあります。

サードパーティTPUを使う場合の注意点:

  • 必ずキャリブレーションを行う ―― RFIDがないので手動設定が必須です。特にフロー率はTPUの仕上がりに直結します
  • 径精度を確認する ―― TPUは柔軟なため、径のバラつきがエクストルーダーでの送り不良に直結します。±0.03mm以内が理想
  • BambuStudioのGeneric TPUプロファイルから始める ―― まずこれをベースに、温度やフロー率を微調整していきます
  • 85A以下は速度をさらに落とす ―― 95Aの設定そのままでは確実にトラブルが起きます

硬度別温度リファレンス

設定 TPU 95A TPU 85A(サードパーティ)
ノズル温度 220〜240℃ 210〜230℃
ベッド温度(Cool Plate) 35℃ 35℃
ベッド温度(テクスチャPEI) 50〜55℃ 45〜50℃
最大外壁速度 30〜40mm/s 15〜25mm/s
体積流量上限 6〜8 mm³/s 3〜5 mm³/s

※ 0.4mmノズル基準。体積流量上限に注目してください。PLAの21mm³/sに対してTPU 95Aは6〜8mm³/s。これがTPU印刷が遅い根本的な理由です。

━━ 準備する ━━

新しいTPUを使う前に ― キャリブレーション

TPUのキャリブレーションは、他の素材以上に重要です。PLAやPETGなら多少フロー率がずれていても「まあ使える」レベルの仕上がりになりますが、TPUでフロー率が合っていないと、ストリンギングだらけか、アンダーエクストルージョンでスカスカか、どちらかの悲惨な結果になります。

TPU フロー率キャリブレーション パッチ

TPUのフロー率キャリブレーション ― 他の素材以上にこの工程が仕上がりを左右します

フロー率 ― TPUの最重要キャリブレーション

BambuStudio → Calibration → Flow Rate。PLAと同じ9パッチ方式ですが、TPUでは特に注意すべき点があります。

TPUは弾性があるため、エクストルーダーの圧力変動がそのまま押出量のバラつきになります。フロー率を適正値に合わせることで、ストリンギングと押出不足の両方を改善できます。純正TPU 95Aの場合、RFIDからの自動設定値が基本的には正確ですが、ロットや保管状態によって微調整が必要な場合があります。

サードパーティTPUの場合は必ずフロー率キャリブレーションを行ってください。最終的にフロー率110〜120%に落ち着くことも珍しくありません。「PLAの感覚だと高すぎない?」と感じるかもしれませんが、TPUではエクストルーダー内のバックラッシュ(遊び)分を補う必要があるので、高めになるのが正常です。

フローダイナミクス(K-Value)

BambuStudio → Calibration → Flow Dynamics。TPUのK-Valueは一般的に低めに出ます。典型値は0.01〜0.02程度で、PLAの0.015〜0.020より低いことが多いです。

これはTPU自体の弾性がダンパーのように働き、圧力変動を吸収するためです。K-Valueキャリブレーションは印刷品質の向上に寄与しますが、フロー率ほどの劇的な効果はありません。まずフロー率を完璧にしてから、K-Valueに取り組んでください。

順番:フロー率 → K-Value。第1回PLA編と同じですが、TPUではこの順番がさらに重要です。

AMS対応状況 ― TPU最大の注意点

ここはTPU使用時に最も混乱しやすいポイントなので、はっきりまとめておきます。

AMS種類 TPU 95A対応 備考
AMS 2 Pro 対応 95Aのみ。85A以下は非推奨
AMS HT 対応 95Aのみ。85A以下は非推奨
AMS(初代) 非推奨 フィーディングトラブル頻発
AMS Lite 非対応 A1/A1 miniではスプールホルダーから手動フィード
AMSなし(ダイレクト) 最も安定 全硬度に対応。迷ったらこれ
TPU フィード出口 エクストルーダー構造図
TPUのフィード経路 ― ダイレクトドライブのエクストルーダー出口構造(画像: Bambu Lab Wiki)

結論から言えば、TPU印刷で最も安定するのはAMSを使わないダイレクトフィードですAMS 2 ProやAMS HTはTPU 95Aに対応していますが、長いチューブ(PTFE管)を通る過程でフィラメントにかかるテンションが増えるため、トラブルの可能性がゼロではありません。

特にA1/A1 miniユーザーの方は注意してください。AMS Liteはフレキシブルフィラメントに非対応です。TPUを使う場合は、AMS Liteを外してスプールホルダーから直接フィードするか、外部スプールホルダーを使ってください。「AMS Liteに入れたらフィラメントが絡まった」というお問い合わせはSK本舗にも実際に届いています。

AMS 2 Pro / AMS HTでTPUを使う場合のコツ:

  • フィーディング速度をスライダーで「低速」側に設定する
  • バッファーチューブ内のフィラメントパスがスムーズか確認する(折れ曲がり注意)
  • リトラクション距離が長くなるため、ストリンギングが増える可能性がある
  • 最初は短いテストプリントで問題がないか確認してから本番に入る

プリンター別の最適設定

TPU印刷では、プリンターの押出方式が決定的に重要です。Bambu Labプリンターはすべてダイレクトドライブエクストルーダーを採用しているので、ボーデン式と比べて格段にTPUとの相性が良いです。ただし、機種ごとに気をつけるポイントがあります。

共通のルールとして、TPU印刷時はチャンバー加熱不要です。TPUのTgは非常に低い(約-40℃)ため、ABSやASAのようにチャンバー温度を上げる理由がありません。むしろ、チャンバー温度が高すぎるとエクストルーダー部分でフィラメントが柔らかくなりすぎて送り不良の原因になります。

H2S

Bambu Lab H2S TPU印刷

H2シリーズのシングルノズル機で、340×320×340mmの大型ビルドボリュームを持つ高性能機です。ダイレクトエクストルーダーでTPUとの相性は良好。AMS 2 Pro / AMS HTに対応しているので、TPU 95Aを使う場合はAMS経由でも印刷できます。

外壁速度 30〜40 mm/s
ノズル温度 230℃(純正TPU 95A HF)
ベッド温度 35℃(Cool Plate)/ 50〜55℃(テクスチャPEI)
チャンバー 加熱OFF
ポイント リトラクション0.5〜0.8mm / 20mm/s

H2Sのアクティブチャンバー加熱(最大65℃)は、TPU印刷時はOFFにしてください。フラップが自動で開く設計になっていますが、念のためBambuStudioのプロファイルでチャンバー温度が0℃になっていることを確認しましょう。

TPU推奨設定:外壁30〜40mm/s、インフィル40〜60mm/s、ノズル温度230℃(純正TPU 95A HF)、ベッド温度35℃(Cool Plate)/ 50〜55℃(テクスチャPEI)。チャンバー加熱OFF。リトラクション0.5〜0.8mm / 20mm/s。

H2D / H2D Pro

Bambu Lab H2D TPU印刷

デュアルノズル機です。TPUの場合、デュアルノズルの恩恵は限定的です。TPU同士の色替えは可能ですが、TPUと硬質素材(PLAなど)の組み合わせは温度差やリトラクション設定の違いが大きいため、かなりの調整が必要です。シンプルにシングルノズルモードでTPUだけを使うのが最も安定します。

外壁速度 30〜40 mm/s
ノズル温度 230℃(純正TPU 95A HF)
ベッド温度 35℃(Cool Plate)/ 50〜55℃(テクスチャPEI)
チャンバー 加熱OFF
ポイント シングルノズルモードが最も安定

TPU推奨設定:H2Sと同じ。デュアルノズル使用時は「Flush into Object」でパージをインフィルに流し込むと廃棄を抑えられます。

H2C

Bambu Lab H2C TPU印刷

Vortekツールチェンジャー搭載の最上位機です。TPUをVortekのツールの一つに割り当てることで、硬質素材との組み合わせ印刷も理論的には可能です。ただし、ツール交換時のリトラクション動作がTPUには負担になるため、ツールチェンジの設定に細心の注意が必要です。TPU単色での使用なら固定ノズル側を推奨します。

外壁速度 30〜40 mm/s
ノズル温度 230℃(純正TPU 95A HF)
ベッド温度 35℃(Cool Plate)/ 50〜55℃(テクスチャPEI)
チャンバー 加熱OFF
ポイント TPU単色なら固定ノズル使用がベスト

TPU推奨設定:H2Sと同じ。TPU単色なら固定ノズル使用がベスト。

P2S

Bambu Lab P2S TPU印刷

ミッドレンジ機のP2Sは、PSMSサーボモーター搭載の高性能エクストルーダーを備えており、TPUの押出にも十分な力があります。エンクロージャー付きなので、TPU印刷時はフロントドアを開放してチャンバー温度を抑えてください。

外壁速度 25〜35 mm/s
ノズル温度 225〜235℃
ベッド温度 35℃(Cool Plate)/ 50〜55℃(テクスチャPEI)
チャンバー ドア開放
ポイント AMS 2 Pro対応だがダイレクトフィードの方が安定

AMS 2 Pro対応なので、TPU 95AであればAMS経由での印刷も可能です。ただし、ダイレクトフィードの方が安定性は高いです。

TPU推奨設定:外壁25〜35mm/s、インフィル40〜50mm/s、ノズル温度225〜235℃、ベッド温度35℃(Cool Plate)/ 50〜55℃(テクスチャPEI)。ドア開放。

X1 Carbon

Bambu Lab X1 Carbon TPU印刷

定番機のX1CもTPU印刷に対応しています。Micro Lidarによる自動フローキャリブレーションはTPUでも機能しますが、結果が安定しない場合は手動キャリブレーションに切り替えてください。

外壁速度 25〜35 mm/s
ノズル温度 225〜235℃
ベッド温度 35℃(Cool Plate)/ 50〜55℃(テクスチャPEI)
チャンバー ドア開放
ポイント AMS(初代)非推奨、AMS 2 Proなら95A対応

エンクロージャー付きなので、ドアを開けるか蓋を外してチャンバー温度を抑える点はPLAと同じです。AMS(初代)でのTPU使用は非推奨。AMS 2 Proに接続している場合は95Aに限り対応可能です。

TPU推奨設定:外壁25〜35mm/s、インフィル40〜50mm/s、ノズル温度225〜235℃、ベッド温度35℃(Cool Plate)/ 50〜55℃(テクスチャPEI)。ドア開放。

X1E

外壁速度 25〜35 mm/s
ノズル温度 225〜235℃
ベッド温度 35℃(Cool Plate)/ 50〜55℃(テクスチャPEI)
チャンバー 加熱OFF、ドア開放
ポイント X1Cと同設定。チャンバー加熱は必ずOFF

X1Cのエンタープライズ版です。TPU印刷に関してはX1Cと同じ設定で使えます。アクティブチャンバー加熱は必ずOFFにしてください。HEPAフィルターがあるので密閉環境でも使えますが、TPU印刷時はチャンバーの熱がこもらないようドアを開けるのが確実です。

TPU推奨設定:X1Cと同じ。チャンバー加熱OFF。

X2D(X1 Carbon後継モデル)

Bambu Lab X2D

X1 Carbonの後継となるデュアルノズル搭載機です。TPU印刷時は他の密閉機と同様、チャンバー加熱をOFFにしてください。エクストルーダー部分でTPUが軟化しすぎるのを防ぐため、フラップやドアを開放して庫内温度を抑えることが重要です。

外壁速度 25〜35 mm/s
ノズル温度 225〜235℃
ベッド温度 35℃(Cool Plate)/ 50〜55℃(テクスチャPEI)
チャンバー 加熱OFF、ドア開放
ポイント デュアルノズルでTPU+PVA水溶性サポートが可能

X2Dのデュアルノズル構成は、TPU造形において大きなメリットをもたらします。メインノズルにTPU、補助ノズルにPVAなどの水溶性サポート材をセットすることで、TPUのサポート除去問題を根本的に解決できます。通常、TPUのサポートは柔軟素材同士が密着して除去が極めて困難ですが、水溶性サポートなら水に浸けるだけで溶解します。複雑な内部構造を持つTPUパーツの造形には最適な環境です。

TPU推奨設定:外壁25〜35mm/s、インフィル40〜50mm/s、ノズル温度225〜235℃、ベッド温度35℃(Cool Plate)/ 50〜55℃(テクスチャPEI)。チャンバー加熱OFF、ドア開放。X2D商品ページ →

P1S

Bambu Lab P1S TPU印刷

エンクロージャー付きエントリーモデルですが、TPU印刷にもしっかり対応しています。速度をしっかり落として、ドアを開放すれば安定した印刷が可能です。AMS(初代)でのTPU使用は避けてください。

外壁速度 20〜30 mm/s
ノズル温度 220〜235℃
ベッド温度 35℃(Cool Plate)/ 50〜55℃(テクスチャPEI)
チャンバー ドア開放
ポイント 速度をしっかり落とせば安定。AMS(初代)は非推奨

TPU推奨設定:外壁20〜30mm/s、インフィル35〜50mm/s、ノズル温度220〜235℃、ベッド温度35℃(Cool Plate)/ 50〜55℃(テクスチャPEI)。ドア開放。

A1

Bambu Lab A1 TPU印刷

オープンフレームのA1は、実はTPU印刷にとても向いています。理由は2つ。まず、エンクロージャーがないのでチャンバー温度が上がらず、エクストルーダー部分でフィラメントが柔らかくなりすぎる心配がない。次に、ダイレクトドライブエクストルーダーなので、フィラメントのパスが短く、TPUのフィーディングが安定します。

外壁速度 25〜35 mm/s
ノズル温度 225〜235℃
ベッド温度 35℃(Cool Plate)/ 55℃(テクスチャPEI)
チャンバー オープンフレーム(加熱なし)
ポイント AMS Lite非対応 ― 手動フィード。オープン環境がTPUに有利

ただし、AMS Liteは非対応です。TPUを使うときはAMS Liteを外して、スプールホルダーからの手動フィードに切り替えてください。AMS 2 ProまたはAMS HTに接続している場合は、95Aに限り使用可能です。

ベッドスリンガー方式のA1は、TPUの低速印刷では振動の影響がほぼゼロなので、むしろ仕上がりの面でも有利です。

TPU推奨設定:外壁25〜35mm/s、インフィル40〜50mm/s、ノズル温度225〜235℃、ベッド温度35℃(Cool Plate)/ 55℃(テクスチャPEI)。AMS Lite非対応 ― 手動フィード。

A1 mini

Bambu Lab A1 mini

A1と同じくオープンフレームのダイレクトドライブで、TPUとの相性は良好です。ビルドボリューム180×180×180mmなので大きなTPUパーツは分割が必要ですが、スマホケースやバンパーパーツのような小物には十分です。

外壁速度 25〜35 mm/s
ノズル温度 225〜235℃
ベッド温度 35℃(Cool Plate)/ 55℃(テクスチャPEI)
チャンバー オープンフレーム(加熱なし)
ポイント A1と同設定。AMS Lite非対応 ― 手動フィード

AMS Liteは非対応。スプールホルダーからの手動フィードで使ってください。

TPU推奨設定:A1と同じ。外壁25〜35mm/s、インフィル40〜50mm/s、ノズル温度225〜235℃、ベッド温度35℃(Cool Plate)/ 55℃(テクスチャPEI)。

プリンター別設定サマリー

プリンター 外壁速度 ノズル温度 AMS対応 特記
H2S/H2D/H2C 30〜40mm/s 230℃ AMS 2 Pro / HT チャンバー加熱OFF
P2S 25〜35mm/s 225〜235℃ AMS 2 Pro ドア開放
X1C/X1E 25〜35mm/s 225〜235℃ AMS 2 Pro ドア開放、チャンバー加熱OFF
P1S 20〜30mm/s 220〜235℃ 非推奨 ドア開放
A1/A1 mini 25〜35mm/s 225〜235℃ AMS Lite非対応 手動フィード推奨

※ すべてTPU 95A、0.4mmノズル基準。85Aの場合は外壁速度をさらに30〜50%落としてください。

ベッド定着 ― 定着しすぎに注意

TPUのベッド定着は、他の素材と少し違う悩みがあります。PLAやPETGでは「定着しない」ことが問題になりますが、TPUでは「定着しすぎて剥がれない」ことの方が厄介です。

TPU ベッド定着 テクスチャPEI Cool Plate

TPUのベッド定着 ― 定着力が強すぎると剥がすときに造形物が伸びたり破れたりする

プレート選択

Cool Plate(35℃) ―― TPU印刷のファーストチョイス。定着力が適度で、冷えた後に剥がしやすい。特に薄いパーツや広い底面を持つパーツでは、Cool Plateの方が安全です。

テクスチャPEI(50〜55℃) ―― 定着力が強い。小さなパーツや接地面積が小さいモデルに向いています。ただし、広い底面のパーツでは定着が強すぎて、剥がすときにTPUが伸びたり破れたりするリスクがあります。

スムースPEI ―― TPUには非推奨。定着が強すぎて剥がせなくなるケースが頻発します。使う場合はPEIリリースエージェント(離型剤)が必須です。

定着のコツ

第1層速度は15〜20mm/s。通常の印刷速度よりもさらに遅くしてください。TPUは柔軟なので、第1層の押し付けが甘いとベッドとの密着が不十分になります。

第1層の高さは0.20mmがおすすめです。PLAと同じ感覚で0.28mmにすると、TPUの場合は密着が弱くなることがあります。

Z オフセットはやや低め(ベッドに近づける方向)に微調整すると安定します。ただし、近づけすぎるとエレファントフットが酷くなるので、テスト印刷しながら調整してください。

剥がすときの注意

必ずベッドが完全に冷えてから剥がしてください。温かいうちに無理に剥がすと、TPUが伸びて変形したり、薄い部分が破れたりします。Cool Plateなら室温まで、テクスチャPEIなら35℃以下まで待つのが安全です。

それでも剥がしにくい場合は、冷凍庫に5分入れるという裏技があります。急冷すると収縮差で自然に剥がれやすくなります。プレートごと冷凍庫に入れてOKです。

どうしてもスムースPEIを使いたい場合や、定着力が強すぎる場合は、PEIリリースエージェントを薄く塗ってください。マジックリン(ガラス用)を薄く塗って乾かす方法でも代用できます。

━━ 印刷する ━━

速度設定 ― TPU成功の鍵

はっきり言います。TPU印刷の成否は速度で決まります。どんなに温度やフロー率を完璧に設定しても、速度が速すぎればすべて台無しです。PLAで200mm/sに慣れている方には苦行に感じるかもしれませんが、TPUは「ゆっくり丁寧に」が鉄則です。

TPU 外部スプール H2D トップマウント
H2D/H2Sでのトップスプールマウント ― TPU印刷時の推奨セットアップ(画像: Bambu Lab Wiki)

なぜ速度を落とす必要があるのか

TPUフィラメントは柔軟なため、エクストルーダーのギアとノズルの間で「圧縮」されます。速度を上げると、この圧縮が追いつかずにフィラメントが座屈(バックリング)して送り不良を起こします。また、溶融したTPUは粘度が高く、ノズルからの押し出しにも時間がかかります。体積流量の上限が6〜8mm³/s(PLAの約1/3)というのは、物理的な限界です。

推奨速度設定(TPU 95A / 0.4mmノズル)

パラメータ 推奨値(95A) 参考: 85A 備考
外壁 20〜40mm/s 10〜20mm/s 仕上がり重視なら20mm/s
内壁 30〜50mm/s 15〜30mm/s 外壁より速くてOK
インフィル 40〜60mm/s 20〜40mm/s 見た目に影響しないので速めでも可
トラベル 100〜150mm/s 80〜120mm/s 速すぎるとストリンギング悪化
第1層 15〜20mm/s 10〜15mm/s 定着の安定に直結
リトラクション距離 0.5〜1.0mm 0.3〜0.8mm PLAより短く。長いと詰まる
リトラクション速度 20mm/s 15mm/s 速すぎるとフィラメント座屈

トラベル速度に要注意

トラベル(ノズルが押出せずに移動する動作)の速度は意外な落とし穴です。PLAでは300mm/s以上にしても問題ありませんが、TPUでは100〜150mm/sに抑える必要があります。

理由はストリンギングです。トラベル速度が速すぎると、ノズル内の溶融TPUが慣性で引きずられて糸を引きます。かといって遅すぎると印刷時間が膨大になります。100〜150mm/sはそのバランスポイントです。

リトラクション ― TPU最大の難所

リトラクション設定はTPU印刷で最も調整が難しいパラメータです。硬い素材なら「距離を伸ばせばストリンギングが減る」というシンプルなロジックですが、TPUではリトラクション距離を伸ばしすぎるとフィラメントがエクストルーダー内で詰まります

Bambu Labプリンターはダイレクトドライブなので、リトラクション距離は0.5〜1.0mmで十分です。PLAのデフォルト(0.8mm程度)から大きく変える必要はありません。むしろ、2.0mm以上に設定するのは絶対にNGです。エクストルーダーのギアとホットエンドの間でフィラメントが座屈して、最悪の場合分解清掃が必要になります。

リトラクション速度は20mm/sが目安です。速すぎるとフィラメントが変形し、遅すぎるとリトラクション動作の効果がなくなります。

「ストリンギングゼロ」は諦める

正直に言いますが、TPUでストリンギングを完全にゼロにするのはほぼ不可能です。溶融したTPUは粘度が高く、ノズルを移動させると必ず糸を引きます。目指すべきは「ゼロ」ではなく「許容範囲に収める」ことです。

後処理(ヒートガンで軽くあぶる、ハサミでカット)で対応できるレベルに抑えられれば十分です。ストリンギングを追い求めて温度を下げすぎると、今度は層間接着が悪化します。

インフィルパターンと密度 ― 柔軟性をデザインする

TPUのインフィル設定は、他の素材とは根本的に目的が異なります。PLAやABSでは「強度と印刷時間のバランス」でインフィル密度を決めますが、TPUではインフィル密度が造形物の柔軟性を直接決めるのです。

密度と柔軟性の関係

インフィル密度 柔軟性 感触の目安 用途例
10% 超ソフト スポンジのように潰れる クッション、パッド
20% スタンダード ゴム消しのような弾力 スマホケース、グリップ
40% セミリジッド 硬めのゴム タイヤ、バンパー
60% ファーム かなり硬い弾性体 構造部品、ベルト
100% 最大強度 ほぼ硬質プラスチック ガスケット、シール

まずは20%のGyroidでテスト印刷することを強くおすすめします。そこから、もっと柔らかくしたければ密度を下げ、硬くしたければ上げる。この「触って確かめる」プロセスがTPUの醍醐味でもあります。

パターンの選択

Gyroid ― 最推奨。TPUのインフィルパターンにはGyroidが圧倒的におすすめです。理由は3つ。全方向に均等な柔軟性が出ること。圧縮時に「つぶれる」のではなく「しなる」動きになること。そして印刷の安定性が高いこと。PLAでもGyroidを推奨しましたが(第1回参照)、TPUでのGyroidはさらに本領を発揮します。

Grid ―― 特定の方向に対する圧縮強度を上げたい場合に。ただしGridは方向性があるので、全方向の柔軟性が必要ならGyroidの方が適しています。

Concentric ―― シール・ガスケットなど、円形の断面を持つパーツに向いています。同心円状のパターンが力の分散に有効です。

避けるべきパターン:Lightning(TPUでは上面の支持が不十分になりやすい)、Rectilinear(方向性が強すぎて柔軟性にムラが出る)。

壁数で硬さを調整する

インフィル密度だけでなく、壁数(Wall Loops)もTPUの硬さに大きく影響します。壁を3層→5層に増やすだけで、同じインフィル密度でもかなり硬く感じます。特にスマホケースのような薄いパーツでは、壁数が実質的な硬さを決めるパラメータになります。

柔らかくしたい → 壁2〜3層 + インフィル10〜15%。硬めにしたい → 壁4〜6層 + インフィル30〜40%。このように壁数とインフィルの組み合わせで、非常に広い範囲の硬さを調整できます。

ノズルサイズの選び方

TPU印刷に使うノズルサイズは0.4mmが最適解です。第1回PLA編では「0.6mmが過小評価されている」と書きましたが、TPUでは話が変わります。

0.4mm ― 推奨

バランスが最も良い。ディテールと印刷安定性の両立ができます。BambuStudioのTPUプロファイルも0.4mmを前提に作られているので、設定の手間も最小限です。

0.2mm ― 非推奨

詰まりのリスクが極めて高いです。TPUは粘度が高いため、0.2mmの狭い経路を安定して通過させるのが非常に難しい。押出速度をさらに落とす必要があり、印刷時間が現実的でなくなります。ミニチュアのフレキシブルパーツを作りたい場合でも、0.4mmノズル + 0.12mm積層で対応する方が確実です。

0.6mm ― 条件付きで使える

太いラインになるため仕上がりは粗くなりますが、押出の安定性は上がります。大型のバンパーやガスケットなど、表面品質よりも印刷の確実性が重要なパーツには使えます。レイヤー高さ0.24〜0.32mmとの組み合わせで、印刷時間を短縮できます。

0.8mm ― 機能パーツ専用

表面品質は完全に犠牲になりますが、大型タイヤや厚いバンパーなど「見た目不問・機能重視」のパーツなら選択肢に入ります。ただし体積流量の上限が変わらないので、速度のメリットは限定的です。

サポート材 ― できるだけ使わない

TPU印刷ではサポート材を最小限にするのが大原則です。理由は明確。TPUのサポートは除去が非常に困難だからです。

PLAのサポートはペリッと剥がせますが、TPUのサポートはTPU素材そのものなので、柔軟な素材同士がガッチリ密着します。無理に剥がすとパーツ表面が荒れたり、薄い部分が破れたりします。

サポートを避けるための設計戦略

  • 45度ルールを厳守する ― オーバーハング角度を45度以内に設計する。TPUは粘度が高いので、PLAのように60度までは頑張れません
  • モデルの向きを工夫する ― BambuStudioの「Auto Orient」はサポート最小化を優先しますが、TPUの場合は手動で向きを決めた方が良い結果が出ることが多い
  • 分割印刷を検討する ― 複雑な形状は2〜3パーツに分割して印刷し、後で接着する方がトータルで品質が高くなる
  • ブリッジで代用する ― 短い橋渡し(10mm程度まで)ならサポートなしでも成功する可能性があります。ブリッジ速度を15mm/sに落とし、ファン100%で試してみてください

どうしてもサポートが必要な場合

サポートが避けられない場合は、以下の設定で被害を最小限にします。

  • ツリーサポートを使う(標準サポートより接触面積が小さい)
  • サポートインターフェース層を1層にする(デフォルトの2〜3層から減らす)
  • Z距離を0.2〜0.3mm(通常より広め)に設定する
  • XY距離を0.5mm以上確保する
  • サポート密度を15〜20%に下げる

H2DやH2Cのデュアルノズル/マルチノズル、またはX2Dのデュアルノズルをお持ちの方は、PVAなどの水溶性サポート材をサポートに使うことで、除去の問題を根本的に解決できます。X2Dはメインノズル+補助ノズルの構成で、補助ノズルにサポート材を常時セットしておけるため運用が非常にスムーズです。ただし、TPUとPVAの温度設定が異なるため、プロファイルの調整は必要です。

━━ 仕上げる ━━

後加工

TPUの後加工は、PLAやABSとはアプローチが全く異なります。柔軟な素材なので、サンディングやヤスリがけが「効きにくい」という特性があります。

ストリンギングの処理

TPU印刷で最も多い後処理は、ストリンギング(糸引き)の除去です。

  • ハサミ ― 太い糸はハサミで根元からカット。最もシンプルで確実
  • カッターナイフ ― 精密な部分は小型のカッターで整形。ただしTPUは柔軟なので、硬い素材ほどきれいに切れません
  • ヒートガン(低温) ― 150〜180℃の温風を短時間当てると、細い糸が溶けて消えます。当てすぎると造形物が変形するので、必ず短い距離からテストしてください。ドライヤーでも代用可能ですが、効果は弱いです

接着

TPU同士、またはTPUと他素材の接着にはCA(シアノアクリレート)瞬間接着剤 + アクセラレーターが最強の組み合わせです。

手順:接着面をIPAで脱脂 → CA接着剤を薄く塗布 → パーツを合わせる → アクセラレータースプレーを吹き付ける → 数秒で硬化。アクセラレーターがないと硬化が遅く、TPUの弾性でパーツが動いてしまうので、アクセラレーターは必須と考えてください。

エポキシ接着剤も使えますが、TPUの柔軟性に追随できない(硬化後に曲げると剥がれる)ことがあるので、フレキシブル用エポキシを選ぶか、CA接着剤を優先してください。

サンディング

TPUのサンディングは正直言って効率が悪いです。柔軟な素材に対して研磨しようとすると、表面が「逃げる」ので力が伝わりません。どうしても行う場合は、400番以上の細かい番手で軽く水研ぎする程度にとどめてください。粗い番手で強く削ると表面が毛羽立ちます。

塗装

TPUへの塗装は密着が難しいです。PLAのようにサーフェイサー→アクリル塗料の手順では、曲げたときに塗膜が割れて剥がれます。柔軟性のある塗料(ウレタン系塗料、ゴム用塗料)を使うか、染料(アルコール系マーカーなど)で着色する方が実用的です。

━━ 困ったときに ━━

トラブルシューティング

TPUは他のどの素材よりもトラブルが起きやすいです。ここでは頻度の高い問題を順番に取り上げます。

ストリンギング(糸引き)

TPUの宿命とも言えるトラブルです。溶融したTPUは粘度が高く、ノズルが移動するたびに糸を引きます。

対策の優先順位

  1. 温度を5℃下げる ― 最も効果的。220℃で印刷しているなら215℃を試す。ただし下げすぎると層間接着が悪化するので、5℃ずつ慎重に
  2. トラベル速度を調整する ― 速すぎても遅すぎてもダメ。100〜150mm/sの範囲で試す
  3. リトラクション距離を0.1mmずつ調整する ― 0.5mmから始めて、0.8mmくらいまで試す。1.0mmを超えても改善しない場合は距離の問題ではない
  4. リトラクション速度を微調整する ― 15〜25mm/sの範囲
  5. フィラメントを乾燥する ― 吸湿したTPUはストリンギングが悪化する

上記をすべて試してもストリンギングが残る場合は、後処理で対応してください。ヒートガンやハサミでの処理は前章で解説しました。

エクストルーダー内でのフィラメント詰まり

TPUの柔軟さが裏目に出るトラブルです。エクストルーダーのギアとホットエンドの間でフィラメントが座屈(折れ曲がり)して、送れなくなります。

TPU 外部スプールホルダー AMS非対応時
外部スプールホルダーの使用例 ― AMS非対応時はこの方法で給紙(画像: Bambu Lab Wiki)

原因と対策

エクストルーダーのテンション(ギア圧)が高すぎる ―― これが最も多い原因です。PLAでは問題ないテンションでも、柔軟なTPUには強すぎることがあります。BambuStudioのフィラメント設定で、エクストルーダーの圧力を下げてみてください。ギアの食い込みでフィラメントが変形し、それが詰まりの原因になっていることが多いです。

印刷速度が速すぎる ―― エクストルーダーが送り出す速度にノズルの溶融が追いつかないと、フィラメント内に圧力が溜まり、逃げ場を失ったフィラメントがギア付近で座屈します。速度を落としてください。

リトラクション距離が長すぎる ―― 引き戻しと送り出しの繰り返しで、フィラメントが同じ箇所で何度も変形し、最終的に送れなくなります。リトラクション距離を0.5mm以下にしてみてください。

詰まった場合の対処:まずフィラメントをアンロードしてみてください。アンロードできない場合は、ノズル温度を240℃まで上げてから、フィラメントを手動でゆっくり押し込んでみます。それでもダメならコールドプル(ノズルを160℃まで冷やしてから引き抜く)を試してください。最悪の場合はホットエンドの分解清掃が必要になります。

アンダーエクストルージョン(押出不足)

印刷物に隙間やスカスカの部分がある場合、押出不足の可能性があります。

対策

フロー率を上げる ―― TPUではフロー率110〜120%が適正値になることがあります。PLAの感覚だと「高すぎる」と感じますが、TPUのエクストルーダー内でのバックラッシュ(遊び)を補うために必要です。5%ずつ上げてテストしてください。

速度を落とす ―― 体積流量の上限を超えている可能性があります。外壁速度を10mm/s下げてみてください。

温度を5℃上げる ―― 溶融不足でフローが安定しないケースがあります。

フィラメント径を確認する ―― ノギスでフィラメントの径を数か所測定してみてください。1.75mm±0.03mmの範囲から外れている場合は、フィラメント設定の径を実測値に合わせると改善することがあります。

ベッドから剥がれない

前述の通り、TPUは定着が強すぎることがあります。特にテクスチャPEIやスムースPEI使用時に頻発します。

対策

完全に冷えるまで待つ ―― これが最も重要。焦って温かいうちに剥がすと、TPUが伸びて変形します。室温まで完全に冷えてから、スクレーパーをゆっくり差し込んでください。

冷凍庫に入れる ―― プレートごと冷凍庫に5〜10分入れると、収縮差で剥がしやすくなります。

PEIリリースエージェントを使う ―― 次回以降の予防策として、マジックリン(ガラス用)を薄く塗って乾かしてから印刷すると、定着力を適度に弱められます。

Cool Plateに切り替える ―― テクスチャPEIで問題が頻発するなら、Cool Plateを使った方がTPUには向いています。

柔らかすぎる / 硬すぎる

仕上がりの硬さが期待と違う場合、印刷をやり直す前に以下を検討してください。

柔らかすぎる場合:

  • インフィル密度を10〜20%上げる
  • 壁数を1〜2層増やす
  • トップ/ボトム層を1層増やす
  • それでも足りなければ、より高硬度のフィラメント(85A→95A、もしくはTPU 98Aや64D)を検討

硬すぎる場合:

  • インフィル密度を下げる(10%まで落としてもOK)
  • 壁数を2層まで減らす
  • インフィルパターンをGyroidに変更する(GridやRectilinearより柔軟になる)
  • それでも硬ければ、より低硬度のフィラメント(95A→85A)を検討

冷却ファンの設定

TPU印刷での冷却ファンは、100%が基本です。TPUはTgが非常に低い(約-40℃)ため、通常の印刷温度域で「冷やしすぎ」になることはまずありません。ファンを絞る必要があるのは、ブリッジ性能を微調整する場合くらいです。

━━ もっと使いこなす ━━

保管とフィラメントの寿命

TPU(ポリウレタン)は吸湿性のある素材です。PLAやPETGと同じく、湿気を吸うと印刷品質が低下します。具体的には、ノズル内で水蒸気が発生し、押出時にパチパチ音がする、表面に気泡や荒れが出る、ストリンギングが増悪するといった症状が現れます。

乾燥

TPUの乾燥は50〜55℃で4〜6時間が推奨です。PLAの乾燥温度(45〜55℃)より若干低めにしてください。TPUは柔軟なため、高温でスプールが変形しやすいです。

TPU フィラメント ドライボックス 乾燥保管
ドライボックスでのTPU保管 ― 湿気対策は印刷品質に直結(画像: Bambu Lab Wiki)

AMS 2 Proの乾燥機能を使う場合は、50℃×6時間が安全な設定です。フィラメントドライヤーを使う場合は、温度設定が正確かどうか別の温度計で確認することをおすすめします(安価なドライヤーは表示温度と実温度が10℃以上ずれていることがあります)。

保管

基本はPLAと同じ密閉容器+シリカゲルです。以下のポイントを押さえてください。

  • 密閉容器にシリカゲル50g以上を入れる
  • 100均の小型湿度計で庫内湿度を20%以下に保つ
  • シリカゲルの色が変わったらオーブン120℃で2時間再生
  • 未開封なら1〜2年は品質を維持できる
  • 開封後は密閉容器に保管して3〜6ヶ月以内に使い切るのが理想

TPUの劣化サイン:押出時のパチパチ音(最も分かりやすい)。ストリンギングの増加。表面の気泡。フロー率がキャリブレーション時と合わなくなる。これらの症状が出たら、まず乾燥を試してください。

TPUで何を作る? ― 用途別アイデア集

TPUならではの「柔軟・耐摩耗・衝撃吸収」という特性を活かした用途を紹介します。PLAやABSでは絶対に作れないものばかりです。

TPU 3Dプリント サンプル 柔軟パーツ
TPUで造形した柔軟パーツの例 ― 複雑な形状でもしなやかに曲がる(画像: Bambu Lab Wiki)

スマホケース・保護カバー

TPUの定番用途です。自分のスマホにぴったりサイズのケースが作れます。インフィル20〜30%、壁3〜4層で、市販のTPUケースと同等の柔軟性と衝撃吸収性が出ます。Printablesで「iPhone case TPU」や「Galaxy case」と検索すれば、すぐに使えるモデルが見つかります。

カメラやタブレットの保護カバー、イヤホンケースのカバーなど、市販品では見つからないデバイス用のケースを作れるのが3Dプリントならではの強みです。

バンパー・衝撃吸収パーツ

ドローンのランディングギアバンパー、ロボットの衝突保護、電子機器の角保護。TPUの衝撃吸収性能を直接活かす用途です。インフィル30〜50%のGyroidで、衝撃エネルギーを内部構造で分散吸収させます。

ドローン用途では、墜落時にフレームを保護するバンパーとして広く使われています。PLAバンパーは衝撃で割れますが、TPUバンパーは変形して衝撃を吸収し、元の形に戻ります。

グリップ・ハンドル

工具のグリップカバー、自転車のハンドルグリップ、ゲームコントローラーの滑り止めカバー。TPUの耐摩耗性と弾力性を活かす用途です。手に馴染む形状を自分でデザインできるのは3Dプリントならでは。インフィル40〜60%で適度な硬さのグリップが作れます。

シール・ガスケット

防水ケースのパッキン、配管のガスケット、カスタム機器のシール材。TPUの弾性と耐油性を活かす用途です。インフィル100%が推奨。隙間があると密閉性が保てません。壁数も5層以上が安全です。

ただし、高圧や高温のシール用途には3Dプリント品は不向きです。低圧の水密シールや防塵パッキン程度であれば実用になります。

シューズインソール・パッド

足の形に合わせたカスタムインソールは、TPUの魅力的な用途の一つです。3Dスキャンデータから足型に合わせたインソールを設計し、インフィル密度で硬さを調整できます。アーチサポートの高さや踵のクッション性を自由に設計できるのは、市販品にはない大きなメリットです。

インフィル15〜25%のGyroidで適度なクッション性が出ます。かかと部分だけ密度を上げたい場合は、BambuStudioのModifier機能で部分的にインフィルを変更できます。

ベルト・バンド

腕時計のバンド、カメラストラップのパーツ、ケーブルバンド。TPUの耐摩耗性と柔軟性が直接活きる用途です。薄い(1〜2mm厚)パーツでも、TPUなら割れずにしなります。壁2層+インフィル20%で柔らかいバンド、壁4層+インフィル40%でしっかりしたバンドが作れます。

ロボット用タイヤ・ソフトパーツ

ホビーロボットや教育用ロボットのタイヤは、TPUの代表的な用途です。路面へのグリップ力が高く、段差での衝撃を吸収します。インフィル30〜50%で適度な硬さのタイヤが作れます。PLAのホイールにTPUのタイヤを被せる「ハイブリッド」設計も人気です。

ソフトグリッパー(柔軟なロボットハンド)もTPUの注目用途です。研究機関やメイカーコミュニティで活用が広がっています。

医療・リハビリ用装具

重要:医療用途でのTPU造形物の使用は、必ず医療専門家の指導のもとで行ってください。3Dプリント品は医療機器としての認証を取得しておらず、本記事の情報は一般的な技術情報の提供を目的としたものです。患者の安全に関わる用途では、必ず適切な資格を持つ専門家に相談してください。

上記の注意点を踏まえた上で、TPUはリハビリ用の補装具やスプリントの試作に使われることがあります。患者の身体形状に合わせたカスタムフィットが可能で、硬質プラスチックでは実現できない「柔軟に支える」という機能を持たせられます。

手首のスプリント、足底サポート、指のスプリントなど、プロトタイピングや適合確認の用途で活用されています。最終製品としての使用には医療機器としての適切な審査・認証が必要です。

TPUが向かないケース

何でもTPUで作れるわけではありません。以下の用途にはTPUは不向きです。

精密な寸法精度が必要なもの ―― TPUは柔軟なため、PLAほどの寸法精度は出ません。嵌合部品やネジ穴など、±0.1mmの精度が要求される用途にはPLAやPETGを使ってください。

高温環境で使うもの ―― TPUのHDTは50〜70℃程度。車内や熱源の近くでは柔らかくなりすぎます。耐熱性が必要な柔軟パーツには、シリコーンモールド(TPUで型を作りシリコーンを流す)などの代替手段を検討してください。

荷重を支える構造部品 ―― TPUは柔軟であるがゆえに、棚受けやブラケットのような荷重を支える部品には不向きです。変形して機能を果たせません。PLAやPETG、ABSを使ってください(第1回・第2回参照)。

食品に触れるもの ―― PLAと同じ理由で、TPUも食品接触用途には推奨しません(第1回PLA編で詳しく解説しています)。

SK本舗フィラメントのご紹介

SK本舗ではBambu Lab純正フィラメントに加え、サードパーティTPUフィラメントも取り扱っています。Bambu Labプリンターでの動作検証済みです。

Bambu Lab TPU 95A HF

本記事で紹介してきた純正TPUフィラメントです。RFID搭載で設定の手間が最小限。初めてTPUを使う方には、まずこれから始めることをおすすめします。BambuStudioのプロファイルが自動適用されるので、キャリブレーションの調整幅も小さくて済みます。

SK本舗オリジナルフィラメント

SK本舗ではPLA+「GENESIS」をはじめとしたオリジナルフィラメントを展開しています。GENESISは¥2,475(税込)/kgで、定期購入なら¥1,238(税込)/kgと純正の約半額。PLAの日常使いにおすすめです(第1回PLA編で詳しく解説しています)。

TPUで柔軟パーツの枠組みを作り、PLAやPETGで硬質パーツを作って組み合わせる ―― そんな「マルチマテリアル設計」に取り組む際は、ぜひSK本舗の幅広いフィラメントラインナップを活用してください。

GENESIS PLA+ 1kg ¥2,475(税込)4色SET ¥8,500(税込)定期購入 ¥1,238(税込)/kg

kexcelled3d フィラメントシリーズ

ご質問やフィードバックは、SK本舗お問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。

📚 Bambu Lab 素材別最適化シリーズ

第1回:PLA完全攻略ガイド

第2回:PETG & ABS完全攻略ガイド

第3回:ASA & PA完全攻略ガイド

▶ 第4回:TPU完全攻略ガイド(本記事)

第5回:素材選定フローチャート

【この記事で紹介した商品をチェック】

SK本舗は国内最大級の3Dプリンター専門店です。Bambu Lab・Elegoo・Anycubic等の正規代理店として、安心のサポートをお届けします。