最終更新:2026年5月
この記事のポイント
Bambu Lab機種でASA・PA(ナイロン)フィラメントを使う際の最適設定・難所・推奨環境を解説します。ASAは屋外耐候性に優れ反り対策が必要、PAは吸湿性が高く乾燥ボックス必須です。H2C・H2D・X2Dなど高温対応機種とのマッチングもまとめます。
SK本舗 テクニカルシリーズ「Bambu Lab 素材別最適化」
第3回 / 全5回
第1回:PLA|第2回:PETG & ABS|第3回:ASA & PA(本記事)|第4回:TPU|第5回:素材選定フローチャート
※本記事はBambuStudio環境を前提としています。OrcaSlicerをお使いの場合は設定名が異なる場合があります。
PLA・PETGの先へ ― エンジニアリング素材の世界
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第1回(PLA編)と第2回(PETG & ABS編)で、家庭用3Dプリントの基本素材をカバーしました。PLAで「作れる」ことがわかった。PETGやABSで耐熱や靱性を手に入れた。でも、本当に実用部品を作ろうとすると「屋外に置いたら1年で白くなった」「ギアが摩耗して使い物にならない」という壁に当たります。
この第3回では、ASA(屋外の王様)とPA/ナイロン(機械部品の王様)を取り上げます。どちらもABSより一段上のエンジニアリング素材で、印刷難度も上がります。しかし、正しい設定と環境を整えれば、Bambu Labプリンターなら十分に実用レベルの造形が可能です。
記事が長くなりますので、前半をASA、後半をPAとして構成しています。目次から必要な章にジャンプしてください。
ASAの素材特性
ASA(アクリロニトリル・スチレン・アクリレート)は、一言で言えば「ABSの屋外版」です。ABSのブタジエンゴム成分をアクリレートエラストマーに置き換えたもので、ABSの優れた耐熱性・靱性をほぼそのまま保ちながら、UV耐性と耐候性を大幅に向上させています。

数字で見てみましょう:
| 特性 | ASA | ABS(参考) | PETG(参考) |
|---|---|---|---|
| ガラス転移温度(Tg) | ~105℃ | ~105℃ | ~80℃ |
| 荷重たわみ温度(HDT) | 95~100℃ | ~95℃ | ~70℃ |
| 収縮率 | 0.6~0.8% | 0.7~0.8% | 0.3~0.5% |
| UV耐性 | 優秀(屋外3年以上) | 弱い(6ヶ月で劣化) | 中程度(1年程度) |
| 耐候性 | 優秀 | 弱い | 中程度 |
| 耐衝撃性 | 良い | 良い | 良い |
| 印刷時の臭い | あり(換気必須) | あり(換気必須) | 少ない |
※数値はBambu Lab ASAのデータシートおよび一般的な文献値に基づきます。
ASAの最大の強みはUV耐性です。ABSを屋外に置くと、紫外線でブタジエンゴム成分が分解されて3~6ヶ月で表面が黄変・脆化します。ASAのアクリレートエラストマーは紫外線に対して化学的に安定しているため、直射日光に3年以上さらしても有意な劣化が見られません。自動車の外装パーツにASAが採用されている理由です。
耐熱性もABSと同等で、HDT 95~100℃は車のエンジンルーム近傍や、夏場の直射日光下でも十分に耐えるレベルです。PETGの70℃、PLAの55℃と比べると圧倒的に余裕があります。
注意点として、印刷時の臭いはABSと同程度にあります。スチレン系の独特な臭いが発生するため、エンクロージャー付きプリンターで活性炭フィルターを使うか、換気の良い環境で印刷してください。Bambu Labのエンクロージャー付き機種(H2シリーズ、X1C、X1E、P2S、P1S)なら内蔵フィルターで軽減できますが、長時間印刷の場合は窓を開けるか換気扇を回すことを推奨します。
また、ABSと同様に収縮率が0.6~0.8%と高めです。PLAの0.3~0.5%と比べると明らかに反りやすく、エンクロージャーなしでの印刷は実質的に不可能です。ただし、ABSよりはやや反りにくいと感じる方が多く、これはアクリレート成分の影響と考えられています。
ASAバリエーション
Bambu Lab ASA ― Bambu Lab純正のASAフィラメントです。RFIDタグ対応で、AMS/AMS 2 Proにセットすればプロファイルが自動適用されます。カラーバリエーションはBasic PLAほど多くありませんが、ホワイト、ブラック、グレーなど屋外用途で使われやすい定番色が揃っています。

ABSと異なり、Bambu Lab ASAにはMatte版やSilk版のようなバリエーションはありません。屋外用途が主目的の素材なので、機能性重視のシンプルなラインナップです。
サードパーティのASAを使う場合は、BambuStudioの「Generic ASA」プロファイルをベースに、フロー率とK-Valueのキャリブレーションを行ってください。手順はABSとほぼ同じです(第2回のABS編でも解説しました)。
キャリブレーション
ASAのキャリブレーションはABSと同じアプローチです。新しいスプールを使い始める前に、必ず以下の2ステップを実行してください。
1. フロー率キャリブレーション:BambuStudio → Calibration → Flow Rate。9パッチ印刷→最良を選択→微調整5パッチ。ASAはABSと同様に、フロー率のズレが層間密着に直結します。過剰押出だと表面に盛り上がりが出て、過少押出だと層間が弱くなって剥離しやすくなります。
フロー率キャリブレーションの例 ― 最も滑らかなパッチを選択する
2. フローダイナミクス(K-Value):BambuStudio → Calibration → Flow Dynamics。ASAの典型的なK-Valueは0.020~0.030程度で、PLAの0.015~0.020よりやや高めです。コーナーでのブロブやギャップが出る場合はこの値を疑ってください。
順番はフロー率 → K-Valueの順。これはすべての素材で共通です。フロー率が正しくないとK-Valueの結果も信頼できません。
Bambu Lab純正ASAはRFIDでプロファイルが自動適用されますが、それでもフロー率キャリブレーションは色ごとに実行することをおすすめします。色によって微妙にフロー特性が異なるためです。
プリンター別の最適設定
ASAはエンクロージャー付きプリンターがほぼ必須です。オープンフレーム機では反りが制御できず、実用的な印刷は困難です。各機種の特性を見ていきましょう。
H2S
H2Dのシングルノズル版です。アクティブチャンバー加熱が65℃まで対応しているため、ASA印刷に理想的な環境を提供します。チャンバーを50~55℃に設定することで、印刷中のパーツ全体が均一に保温され、反りと層間剥離のリスクが大幅に低減します。
H2シリーズのアクティブチャンバー加熱は、ABSやASAの印刷において革命的な違いをもたらします。P1SやX1Cのパッシブ加熱(エンクロージャーを閉めてベッドの余熱で温める方式)と比べ、チャンバー温度の立ち上がりが速く安定しているため、印刷の失敗率が格段に下がります。
ASA推奨設定:ノズル温度250~270℃、ベッド温度90~100℃(テクスチャPEI)、チャンバー温度50~55℃、外壁80~120mm/s、ファン速度30~50%。フラップは閉じた状態にしてください。PLAとは逆で、ASAではチャンバーの熱を逃がさないことが重要です。
H2D / H2D Pro
H2シリーズのデュアルノズル機です。スペックはH2Sと同等で、アクティブチャンバー加熱65℃、ノズル最大350℃に対応しています。ASA印刷時のチャンバー設定もH2Sと同じ50~55℃で問題ありません。
デュアルノズルを活かし、片方をASA、もう片方をサポート材にする構成が便利です。ASAのサポート除去は手間がかかるため、専用サポート材を使うことで後処理が大幅に楽になります。
ASA推奨設定:H2Sと同じ。
H2C
Vortekツールチェンジャー搭載の最上位機です。アクティブチャンバー加熱65℃に対応しており、ASA印刷環境としてはH2S/H2Dと同等に優秀です。
ASAでマルチカラー印刷を行う場面は少ないかもしれませんが、異なるカラーのASAを使い分けたい場合や、ASA+サポート材の組み合わせでツールチェンジを活用するケースでは、パージ廃棄の少なさが光ります。
ASA推奨設定:H2Sと同じ。
P2S
エンクロージャー付きですが、アクティブチャンバー加熱機能はありません。エンクロージャーを閉め切り、ベッドの余熱でパッシブにチャンバー温度を上げる方式です。ベッド90~100℃で印刷すると、チャンバーは45~50℃程度まで上がります。
H2シリーズほど理想的ではありませんが、小~中サイズのパーツであれば十分に印刷可能です。大型パーツ(200mm超)ではコーナーの反りが発生しやすいので、ブリムを広めに設定してください。
ASA推奨設定:ノズル温度250~270℃、ベッド温度90~100℃、エンクロージャー閉め切り、外壁80~100mm/s、ファン速度20~40%。コールドエアインテークは閉じてください。
X1 Carbon
エンクロージャー付きでノズル最大300℃。ASA印刷に必要な温度域は十分にカバーしています。パッシブ加熱でチャンバー45~50℃程度に到達します。
Micro Lidarによる自動キャリブレーションがここでも活躍します。ベッドのレベリングが正確であれば、ASAの第1層定着の安定性が格段に上がります。
ASA推奨設定:P2Sと同じ。ドアは閉めてください。蓋も装着した状態が理想です。
X1E
アクティブチャンバー加熱60℃に対応しており、ASA印刷にはH2シリーズに次いで良い環境です。チャンバーを50~55℃に設定すれば、大型パーツでも安定した印刷が可能です。HEPAフィルターとプレフィルターの搭載で、ASA印刷時の臭いも効果的に抑えられます。
ASA推奨設定:ノズル温度250~270℃、ベッド温度90~100℃、チャンバー温度50~55℃、外壁80~120mm/s、ファン速度30~50%。
X2D(X1 Carbon後継モデル)

X1 Carbonの後継となるデュアルノズル搭載機で、アクティブチャンバー加熱65℃に対応しています。ASA印刷においてはH2シリーズ・X1Eと同等の高温チャンバー環境を提供し、チャンバーを50〜55℃に設定することで大型パーツでも安定した造形が可能です。3段エアフィルター(G3+H12 HEPA+活性炭)でASA印刷時の臭いも効果的に抑えられます。
デュアルノズル構成により、ASAのメインパーツ+サポート材の同時印刷が容易です。複雑な外装パーツの造形にも活用できます。
ASA推奨設定:ノズル温度250〜270℃、ベッド温度90〜100℃、チャンバー温度50〜55℃、外壁80〜120mm/s、ファン速度30〜50%。X2D商品ページ →
P1S
エンクロージャー付きで、P2Sと同様にパッシブ加熱方式です。チャンバーは45~50℃程度に到達します。小~中サイズのASAパーツなら問題なく印刷できますが、大型パーツには注意が必要です。
ASA推奨設定:P2Sと同じ。
A1 / A1 mini ― 非推奨
ASA印刷には推奨しません。オープンフレーム機では、周囲の気温変動がパーツに直接影響します。ASAの収縮率0.6~0.8%はエンクロージャーなしでは制御できず、数cm角のパーツでさえ反りが発生します。「小さいパーツなら大丈夫かも」と試す方がいますが、実際にはまともな印刷は期待できません。
サードパーティのエンクロージャーを後付けする手もありますが、A1のベッドスリンガー方式はエンクロージャーとの相性が悪く(Z方向の振動で蓋が揺れる)、安定した高温チャンバーを維持するのが難しいです。ASAを使いたいなら、P1S以上のエンクロージャー付き機種を選んでください。
プリンター別ASA適性まとめ
| プリンター | ASA適性 | チャンバー加熱 | 備考 |
|---|---|---|---|
| H2S/H2D/H2C | 最適 | アクティブ 65℃ | 大型パーツも安心 |
| X1E | 良好 | アクティブ 60℃ | HEPA搭載で臭い軽減 |
| X1C/P2S/P1S | 可能 | パッシブ ~50℃ | 小~中サイズ向き |
| A1/A1 mini | 非推奨 | なし | 反り必至 |
ベッド定着
ASAのベッド定着はABSと同様のアプローチで対処できます。
推奨プレート:テクスチャPEI(90~100℃)。ASAとテクスチャPEIの相性は非常に良く、適切な温度なら安定した定着が得られます。Cool Plateは使わないでください。ASAに必要なベッド温度(90℃以上)ではCool Plateの定着力が不足します。
ブリムを使いましょう。ASAでは小さなパーツでもブリムをつけることをおすすめします。BambuStudioの設定で「Brim width」を5~8mmに設定してください。大型パーツ(150mm超)では10~15mmにすると安心です。底面積が小さいパーツは特に反りやすいので、ブリムなしはリスクが高いです。
ASA印刷時のブリム ― 反り防止の基本対策
第1層の設定:第1層速度は30~50mm/s、第1層のフロー率は100~105%。ABSと同じく、第1層はゆっくり丁寧に印刷することが定着の鍵です。
定着に問題がある場合は、以下を順番に試してください:
- ベッド温度を5℃上げる(最大110℃まで)
- プレートをIPA(イソプロピルアルコール)で脱脂する
- 第1層速度を20mm/sまで落とす
- スティックのりを薄く塗布する(テクスチャPEIの上からでOK)
速度設定
ASAはPLAやPETGほど速度を上げられません。収縮率が高いため、速く印刷するほど内部応力が蓄積して反りや層間剥離のリスクが上がります。「速さよりも安定性」がASA印刷のモットーです。
| パラメータ | 推奨値 | 備考 |
|---|---|---|
| 外壁速度 | 80~120 mm/s | 表面品質と反り防止のバランス |
| 内壁速度 | 120~200 mm/s | 外壁よりは上げてOK |
| インフィル速度 | 150~250 mm/s | 見た目に影響しない部分 |
| 第1層速度 | 30~50 mm/s | 定着最優先 |
| ファン速度 | 30~50% | 冷やしすぎると層間剥離 |
PLA編で「500mm/sに設定しても実際には体積流量の上限で制限される」という話をしましたが、ASAの場合はそもそも速度を上げること自体がリスクです。BambuStudioのプロファイルに従って、体積流量リミットの範囲内で印刷することを強くおすすめします。
ファン速度の注意点:PLAでは100%が基本でしたが、ASAでは30~50%が適切です。冷却が強すぎると層間の融合が不十分になり、急激な冷却で内部応力が溜まって反りの原因になります。ブリッジ部分だけファン速度を上げる設定(BambuStudioの「Bridge fan speed」を70~80%)にするのが理想です。
反り対策
ASAの反りはABSよりやや軽いとはいえ、PLAやPETGとは別次元の問題です。ここではASA特有の反り対策をまとめます。
基本原則:温度差を減らす
反りの根本原因は「温度差による収縮の不均一」です。ベッドに近い底面は高温で膨張した状態で固化し、上部は冷えて収縮する。この差が蓄積して反りになります。
- エンクロージャーを閉める ― 当たり前ですが最も効果的。ドア、蓋、フラップをすべて閉じてください
- チャンバー温度を上げる ― H2シリーズ/X1Eなら50~55℃に設定。P2S/X2D/P1Sはパッシブで最大限温める
- ファン速度を下げる ― 30~50%。ブリッジ以外ではなるべく冷やさない
- ベッド温度を維持する ― 90~100℃を安定させる。印刷終了まで温度を下げないこと
設計面での工夫
角を丸める(フィレット):鋭いコーナーは応力集中点になります。2~3mmのフィレットを付けるだけで反りリスクが大幅に下がります。
ブリムを十分に広く:5~15mm。底面積が小さいパーツでは必須です。
壁厚を均一にする:厚い部分と薄い部分が混在すると、冷却速度の差で内部応力が発生します。
大型パーツは分割を検討:200mmを超えるパーツは、パッシブ加熱のプリンター(X1C/P2S/P1S)では反りリスクが高いです。分割印刷→接着で対処するか、H2シリーズ/X1Eのアクティブ加熱を利用してください。
屋外用途の設計指針
ASAを選ぶ最大の理由は「屋外で使えること」です。しかし、素材が屋外に強いからといって、設計が雑でいいわけではありません。屋外環境特有のストレスに耐える設計のポイントをまとめます。

UV・紫外線対策
ASA自体はUV耐性に優れていますが、色によって劣化速度に差があります。濃い色(黒、濃灰)は熱を吸収しやすく、直射日光下で表面温度が80℃を超えることがあります。ASAのHDTは95~100℃なので変形はしませんが、長期的な熱サイクルの負荷は蓄積します。白やライトグレーの方が熱負荷が少なく、長期耐久性では有利です。
雨・水対策
FDM造形物には微細な層間の隙間があり、長期間水にさらされると毛細管現象で内部に水が浸入します。対策:
- 壁の層数を増やす(4~5層以上)で水の浸入経路を減らす
- インフィル率を上げる(40~60%)で内部の空洞を減らす
- 排水穴を設ける ― 水が溜まる構造は避け、底部に小さな排水穴を設計する
- 防水コーティング(ウレタンクリアコート等)を外面に塗布するとさらに安心
温度変化への対策
屋外では昼夜の温度差が30℃以上になることもあります。この繰り返しの熱膨張・収縮がパーツにストレスを与えます。
- 嵌合部には余裕を持たせる ― 室内用途より0.2~0.3mm多めのクリアランスを設定
- ネジ穴にはインサートを使う ― 直接タッピングすると熱サイクルで緩みやすい。真鍮インサートをはんだごてで圧入するのがベスト
- 接着よりも機械的な留め具を優先 ― ネジ止め、スナップフィット、ケーブルタイなど
風対策
屋外に設置する看板やパネルは風圧を受けます。パーツの印刷方向を考慮して、風圧がかかる方向と層間の方向が一致しないように配置してください。風圧が層を剥がす方向にかかると、長期使用で割れることがあります。
後加工
アセトンベーパースムージング
ABSと同じく、ASAもアセトンで溶けるスチレン系樹脂です。そのためアセトンベーパースムージングが可能です。ただし、ABSと比べると効きにくいです。ABSが5~10分で表面が滑らかになるのに対し、ASAは15~30分かかることが多く、仕上がりもABSほど均一にならない傾向があります。
やり方はABSと同じです。密閉容器の底にアセトンを少量入れ、パーツを浮かせて置き、常温で放置します。加熱は絶対にしないでください(アセトンの引火点は-20℃)。
ASAのベーパースムージングはABSほどの仕上がりは期待できませんが、屋外で使うパーツの表面を滑らかにして水の浸入を減らすには有効な手法です。
塗装
ASAはABSと同様に塗装との相性が良いです。サンディング(180番→320番→600番)→プライマー→塗装の流れです。アクリル塗料、ウレタン塗料ともに良好な密着性が得られます。
屋外用途で塗装する場合は、UV対応のクリアコートを最終層に塗布してください。ASA自体はUV耐性がありますが、塗料がUVで劣化するとせっかくの塗装が剥げます。
接着
ASA同士の接着にはアセトン溶接が最強です。接着面にアセトンを薄く塗り、30秒待ってから圧着。分子レベルで融合するため、接着剤よりも強力な接合が得られます。異素材との接着にはエポキシがおすすめです。
研磨
ASAの研磨はABSと同様の手順で可能です。120番→240番→400番→600番(水研ぎ)。ABSと同程度の仕上がりが得られます。
トラブルシューティング(ASA)
反り・コーナーの持ち上がり
ASAで最も多いトラブルです。上の「反り対策」セクションを参照してください。要約すると:エンクロージャー閉め切り→チャンバー温度上げ→ベッド90~100℃→ブリム広め→ファン下げ。この5つを全部やっても反る場合は、パーツが大きすぎるか、設計にシャープなコーナーが多すぎます。
層間剥離
層と層が密着せず、手で剥がれてしまう現象です。原因はほぼ以下のどれかです:
- ノズル温度が低い ― 250℃から始めて、5℃ずつ上げてテスト。270℃まで上げてOK
- ファン速度が高すぎる ― 30~50%に下げる。ブリッジ以外はファンOFFでもいい
- チャンバー温度が低い ― パッシブ加熱のプリンターでは印刷開始前に10分間ベッドを予熱してチャンバーを温める
- 印刷速度が速すぎる ― 外壁速度を80mm/sまで落とす
表面の白化(ストレスマーク)
曲げたり力を加えたりすると、表面が白っぽく変色する現象です。これはASA(およびABS)のスチレン成分に特有の「クレイジング」と呼ばれる現象で、微細なひび割れが光を散乱させて白く見えます。
対策:パーツの設計段階で応力集中を避ける(シャープなコーナーにフィレット)。印刷の向きを、力がかかる方向が層に対して平行になるように配置する。印刷後に無理な力を加えない(特にサポート除去時)。
臭いの対処
ASAの臭いはABSと同程度で、スチレンモノマーの独特な刺激臭があります。以下の対策を組み合わせてください:
- エンクロージャー付きプリンターの活性炭フィルターを使用する
- 印刷中は窓を開けるか換気扇を回す
- プリンターを密閉した部屋に置かない(寝室はNG)
- X1EのHEPA+G3プレフィルターは臭い対策にも最も効果的
保管(ASA)
ASAはPETGやABSと同程度の吸湿性があります。PLAほど神経質になる必要はありませんが、適切な保管をしないと印刷品質が低下します。
保管条件:密閉容器+乾燥剤(シリカゲル50g以上)。湿度計を入れて30%以下を維持。未開封で1~2年、適切に保管すれば開封後も6ヶ月~1年は問題なく使えます。
吸湿のサイン:押出時のパチパチ音、表面のブツブツ、糸引きの増加。PLAと同じサインです。
乾燥温度:80℃で4~6時間。ASAのTgは105℃なので、80℃では変形しません。フィラメントドライヤーが80℃に対応していない場合は70℃で8時間。AMS 2 Proの乾燥機能(最大55℃)でも効果はありますが、十分な乾燥には時間がかかります。
ASAの用途例
ASAの真価が発揮されるのは、屋外環境で長期間使うパーツです。
屋外看板・サインプレート
店舗の看板、住所表示プレート、案内サイン。白やライトグレーのASAなら直射日光で3年以上持ちます。マルチカラー印刷で文字や図柄を入れることもできます。壁厚は3~4mm、インフィル40%以上で十分な強度が出ます。
ガーデニング用品
プランターのラベル、散水ノズルのアダプター、花壇の縁取り、苗ポットホルダー。雨ざらしでもOKなのがASAの強みです。PLA製のガーデニング用品が3ヶ月でボロボロになった経験がある方は、ASAに切り替えると驚くほど長持ちします。
車の外装パーツ
サイドミラーカバー、ナンバープレートフレーム、ルーフラックのクリップ、アンテナベース。ASAは自動車業界で実際に外装パーツに使われている素材です。HDT 95~100℃は真夏の直射日光下でも変形しません。ただし、走行中の振動を受ける部品はインフィル50%以上、壁5層以上を推奨します。
屋外電子機器筐体
防犯カメラのマウント、センサーの筐体、屋外Wi-Fiルーターのケース、ソーラーパネルの取付ブラケット。排水穴の設計と防水コーティングを組み合わせれば、数年間屋外で使える筐体が作れます。電子部品の発熱に対してもASAのHDTなら十分な余裕があります。
スポーツ・アウトドア用品
自転車のボトルケージアダプター、釣り竿のホルダー、キャンプギアのカスタムパーツ。UV耐性と耐衝撃性の両方を持つASAは、アウトドア環境に最適です。
PA素材特性
PA(ポリアミド、通称ナイロン)は、FDM素材の中でも最も「エンジニアリング寄り」の素材です。PLAやPETGが「作ってみる」素材だとすれば、PAは「使い倒す」ための素材。その靱性、耐摩耗性、耐薬品性は他の汎用素材を圧倒します。

ただし、その代償として吸湿性という最大の弱点を抱えています。PAは空気中の水分を積極的に吸収する素材で、保管・乾燥・印刷環境のすべてに注意が必要です。「PAの印刷が難しい」と言われるのは、温度設定の問題ではなく、ほとんどが水分管理の問題です。
| 特性 | PA6-CF | PA6-GF | PA612-CF | ABS(参考) |
|---|---|---|---|---|
| ガラス転移温度(Tg) | ~50℃ | ~50℃ | ~45℃ | ~105℃ |
| 荷重たわみ温度(HDT) | ~180℃ | ~160℃ | ~140℃ | ~95℃ |
| 靱性(衝撃強度) | 非常に高い | 高い | 非常に高い | 高い |
| 耐摩耗性 | 非常に高い | 高い | 非常に高い | 中程度 |
| 耐薬品性 | 優秀 | 優秀 | 優秀 | 中程度 |
| 吸湿性 | 高い(最大の課題) | 高い | やや低い | 低い |
| ノズル温度 | 280~300℃ | 270~290℃ | 270~290℃ | 240~270℃ |
| 硬化鋼ノズル | 必須 | 必須 | 必須 | 不要 |
※HDTはカーボンファイバー/グラスファイバー充填によって大幅に向上しています。未充填PAのHDTはもっと低いです。
PAの特性で特筆すべき点を詳しく見ましょう。
Tgは低いがHDTは非常に高い ― これはPA特有の面白い性質です。Tg(ガラス転移温度)は約50℃と低く、PLAと大差ありません。しかし、PAは結晶性ポリマーであるため、Tg以上でもすぐに変形するわけではなく、特にカーボンファイバーやグラスファイバーで強化されたPA(PA6-CF、PA6-GF)はHDT 160~180℃という驚異的な耐熱性を発揮します。
靱性と耐摩耗性 ― PAは「割れない」素材です。PLAは硬いが脆く、落としたら割れます。PAは衝撃を吸収してしなります。ギア、ベアリング、スライダーなど、繰り返しの摩擦や衝撃にさらされる機械部品にPAが選ばれる理由です。
耐薬品性 ― オイル、グリース、ガソリン、多くの溶剤に対して優れた耐性を持ちます。産業環境や自動車部品で重宝される理由の一つです。
吸湿性 ― 最大の課題 ― PA6は24時間で2.5~3%の水分を吸収します。これは他のFDM素材と比べて桁違いに多い値です。吸湿したPAをそのまま印刷すると、ノズル内で水分が蒸発して泡が発生し、表面が荒れ、層間密着が低下します。PA印刷の成功の8割は水分管理で決まると言っても過言ではありません。
PAバリエーション
PA6-CF(カーボンファイバー入りPA6) ― Bambu Lab PAラインナップの主力です。PA6にカーボンファイバーを充填することで、剛性・耐熱性・寸法安定性がさらに向上しています。HDTは約180℃。硬化鋼ノズルが必須です。カーボンファイバーは真鍮ノズルを数十グラムで摩耗させます。PLA-CFの項でも説明しましたが、PA-CFではさらに高温で押出するため摩耗が速いです。
反りはPA系素材の中で最も大きく、エンクロージャーとチャンバー加熱がほぼ必須です。その代わり、完成パーツの性能は金属部品の代替になりうるレベルです。
PA6-GF(グラスファイバー入りPA6) ― カーボンファイバーの代わりにグラスファイバーを使用。PA6-CFほどの剛性はありませんが、十分な強度と耐熱性(HDT ~160℃)を持ち、コストがやや低いのがメリットです。硬化鋼ノズルが必須(グラスファイバーも研磨性あり)。カーボンファイバー入りよりも表面が滑らかに仕上がる傾向があります。
PA612-CF(カーボンファイバー入りPA612) ― PA6系と比べて吸湿性が大幅に低いのが最大の特長です。PA6が2.5~3%の吸水率に対し、PA612は0.5~1%程度。乾燥の手間が減り、保管も楽です。HDTは約140℃で、PA6-CFより若干低いですが、多くの用途で十分な性能です。「PAを使いたいけど吸湿管理が面倒」という方には、PA612-CFが最もバランスの良い選択肢です。
Support for PA ― PA専用のサポート材です。PA印刷時のサポートは通常のPLAサポートでは定着しないため、専用材が必要です。印刷後に手で剥がせる設計になっており、PA-CFの複雑な形状の印刷には欠かせません。AMS HTでの使用が推奨されています。
キャリブレーション(PA)
PAのキャリブレーションには一つ重要な前提があります。必ず乾燥済みのフィラメントでキャリブレーションしてください。吸湿したPAでフロー率を調整しても、乾燥後にフロー特性が変わってしまいます。
乾燥手順(キャリブレーション前):70~80℃で6~8時間。フィラメントドライヤーまたはオーブン(食品用と共用しないこと)で行います。乾燥直後にキャリブレーションを開始し、印刷中もスプールが吸湿しないよう乾燥ボックスからフィードするのが理想です。
1. フロー率キャリブレーション:手順はPLAやASAと同じです。BambuStudio → Calibration → Flow Rate。PA-CFはフロー率のズレが層間密着と表面品質に顕著に影響するため、丁寧に調整してください。
2. フローダイナミクス(K-Value):PA系素材のK-Valueは一般的に0.020~0.040の範囲です。カーボンファイバー入りの素材はK-Valueが高めに出る傾向があります。
PA-CFは高温(280~300℃)で印刷するため、キャリブレーション中もノズルの温度が安定するまで十分な予熱時間を取ってください。BambuStudioの自動予熱を使うか、手動でノズルを290℃に加熱して3~5分待ってから開始すると安定します。
プリンター別の最適設定(PA)
PA系素材は最も要求が厳しいFDM素材の一つです。高いノズル温度(280~300℃)、高いチャンバー温度(55~65℃)、そして硬化鋼ノズルが必要で、すべてのBambu Labプリンターで快適に使えるわけではありません。
H2S / H2D / H2C ― 理想的な環境
H2シリーズはPA印刷に最も適した環境を提供します。ノズル最大350℃、アクティブチャンバー加熱65℃。PA6-CFの推奨チャンバー温度55~65℃を余裕でカバーします。
AMS HTに対応しているのも大きなメリットです。AMS HTは高温素材の保管・フィード用に設計されており、PA-CFスプールの吸湿をフィード中も最小限に抑えます。通常のAMS 2 ProでもPA-CFのフィードは可能ですが、長時間の印刷ではAMS HT推奨です。
PA6-CF推奨設定:ノズル温度280~300℃(BambuStudioプロファイルに従う)、ベッド温度90~100℃(テクスチャPEI)、チャンバー温度55~65℃、外壁60~100mm/s、ファン速度20~40%。硬化鋼ノズル必須。
PA6-GF / PA612-CF推奨設定:ノズル温度270~290℃、ベッド温度90~100℃、チャンバー温度50~60℃、外壁60~100mm/s。硬化鋼ノズル必須。
X1E ― 対応可能
アクティブチャンバー加熱60℃に対応。PA6-CFの推奨チャンバー温度55~65℃の下限はカバーできます。ノズル最大320℃もPA6-CFの280~300℃を十分にカバー。X1シリーズの中では唯一PA-CFを安定して印刷できるモデルです。
PA6-CF推奨設定:ノズル温度280~300℃、ベッド温度90~100℃、チャンバー温度55~60℃、外壁60~100mm/s。
X2D ― X1 Carbon後継、PA系に最適
アクティブチャンバー加熱65℃、ノズル最大300℃を搭載。PA6-CFの推奨チャンバー温度55〜65℃を十分にカバーし、H2シリーズに匹敵するPA印刷環境を提供します。X1 Carbonではパッシブ加熱の限界で大型PA-CFパーツに不安がありましたが、X2Dではその制約が解消されています。
デュアルノズル構成により、PA-CF+PVAサポートの組み合わせで複雑な構造のエンジニアリングパーツも造形可能です。硬化鋼ノズルへの交換も工具不要で簡単に行えます(0.2/0.4/0.6/0.8mm対応)。
PA6-CF推奨設定:ノズル温度280〜300℃、ベッド温度90〜100℃、チャンバー温度55〜65℃、外壁60〜100mm/s。硬化鋼ノズル必須。X2D商品ページ →
X1C / P2S ― 条件付きで可能
ノズル温度は300℃(X1C)/ 300℃(P2S)まで対応するため、温度域は問題ありません。しかし、チャンバー温度がパッシブ加熱のみ(最大~50℃)のため、PA6-CFの推奨チャンバー温度55~65℃に届かない場合があります。
PA612-CFやPA6-GFなら推奨チャンバー温度50~60℃の下限でも対応可能ですが、PA6-CFは反りリスクが高くなります。小~中サイズのパーツに限定し、ブリムを広めに設定してください。大型パーツは避けた方が無難です。
PA6-GF / PA612-CF推奨設定:ノズル温度270~290℃、ベッド温度90~100℃、エンクロージャー閉め切り、外壁60~80mm/s。
P1S ― 制限あり
ノズル最大300℃は対応範囲内ですが、チャンバー加熱がパッシブのみで、X1C/P2Sと同様の制約があります。PA612-CFの小型パーツなら可能ですが、PA6-CFは推奨しません。
A1 / A1 mini ― 非対応
PA系素材はA1/A1 miniでは印刷できません。エンクロージャーがないため、PA印刷に必要なチャンバー温度が確保できません。また、PA-CFの反りはASA以上に激しく、オープンフレームでは第1層から剥がれてしまいます。
重要:PA-CFには硬化鋼ノズルが必須
PA-CF、PA-GFのいずれも、カーボンファイバーまたはグラスファイバーがノズルを激しく摩耗させます。真鍮ノズルでは10~50g程度の印刷でノズル径が広がり、押出量が狂い始めます。
Bambu Labの硬化鋼ノズル(Hardened Steel Nozzle)は標準で0.4mmが用意されています。PA-CFを日常的に使う方は、0.4mmと0.6mmの硬化鋼ノズルを常備しておくことをおすすめします。0.6mmノズルはPA-CFの印刷を40~60%速くでき、カーボンファイバーの詰まりリスクも低減します。
プリンター別PA適性まとめ
| プリンター | PA6-CF | PA6-GF | PA612-CF | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| H2S/H2D/H2C | 最適 | 最適 | 最適 | アクティブ65℃+AMS HT |
| X1E | 良好 | 良好 | 良好 | アクティブ60℃ |
| X1C/P2S | リスクあり | 可能 | 可能 | 小~中サイズ限定 |
| P1S | 非推奨 | 条件付き | 条件付き | 小型パーツのみ |
| A1/A1 mini | 非対応 | 非対応 | 非対応 | エンクロージャーなし |
ベッド定着(PA)
PA系素材のベッド定着はASA以上に難しい場合があります。PAは収縮率が高く、またベッドとの接着力がASAやABSほど強くないためです。
推奨プレート:テクスチャPEI(90~100℃)。ASAと同じくテクスチャPEIが最も安定しますが、PA単体ではテクスチャPEIへの定着力がやや弱いため、スティックのりの併用を強く推奨します。のりを薄く均一に塗り、乾かしてから印刷してください。
高温プレート(Bambu Labの「Engineering Plate」や「High Temperature Plate」)をお持ちの場合は、そちらの方がPA系素材との相性が良いです。
ブリムは必須。PA-CFの反りはASA以上です。ブリム幅8~15mmを推奨します。底面積が小さいパーツでは、ブリムに加えてラフト(土台)の使用も検討してください。
第1層設定:速度20~40mm/s、フロー率100~110%。PA-CFは第1層の定着が全体の成否を決めます。第1層だけは時間をかけてください。
乾燥の徹底 ― PA印刷の最重要ポイント
この章がPA編で最も重要です。PA印刷の成功の8割は乾燥で決まります。設定が完璧でも、フィラメントが湿っていれば印刷は失敗します。
なぜPAはこんなに吸湿するのか
PA(ナイロン)はアミド結合(-NH-CO-)を持つポリマーで、この結合部分が水分子を引き寄せます。PA6は24時間で最大2.5~3%の水分を吸収し、飽和状態では8~9%にもなります。比較すると、PLAの吸水率は0.5~1%、ABSは0.2~0.5%程度です。PAの吸湿性は文字通り桁違いです。

吸湿がもたらす問題
- 表面の泡・ブツブツ ― ノズル内で水分が蒸発し、気泡が形成される。押し出されたフィラメントの表面にブツブツが出る
- パチパチ音 ― 水蒸気がノズルから噴き出す音。これが聞こえたら確実に吸湿しています
- 層間密着の低下 ― 水蒸気が層間に微細な気泡を作り、接着面積が減少する
- 糸引き・垂れ ― 水分がフィラメントの粘度を変え、リトラクション後の垂れが増える
- 寸法精度の低下 ― 水蒸気による押出量の不安定さが寸法に影響する
乾燥の手順
| 素材 | 乾燥温度 | 乾燥時間 | 備考 |
|---|---|---|---|
| PA6-CF | 70~80℃ | 6~8時間 | 完全に飽和していると12時間必要 |
| PA6-GF | 70~80℃ | 6~8時間 | PA6-CFと同等 |
| PA612-CF | 70~80℃ | 4~6時間 | 吸湿量が少ない分、短時間で乾燥可能 |
印刷中の乾燥維持
ここが多くの方が見落とすポイントです。乾燥直後に印刷を開始しても、印刷中にスプールが再び吸湿するのです。特に湿度の高い日本の梅雨~夏場は、数時間の印刷中にPAが十分な水分を吸収して品質が低下します。
対策として以下をおすすめします:
- AMS HTを使用する ― Bambu Lab AMS HTは高温素材向けに設計されており、保管・フィード中のスプールの吸湿を抑えます。PA系素材を日常的に使うなら、AMS HTは投資に値する周辺機器です
- 乾燥ボックスからフィードする ― AMS HTがない場合、フィラメントドライヤー(乾燥ボックス型)にスプールを入れたまま、フィラメントだけを引き出してプリンターに送ります。印刷中も常に乾燥状態を維持できます
- 密閉容器+乾燥剤でフィード ― 簡易版として、大型の密閉容器にスプールとシリカゲルを入れ、容器に穴を開けてフィラメントを通す方法もあります
SK本舗ではフィラメントドライヤーも取り扱っていますので、PA系素材に本格的に取り組む方はぜひご検討ください。
速度設定(PA)
PA系素材は層間密着を最優先する速度設定が重要です。ASAよりもさらに慎重なアプローチが求められます。
| パラメータ | PA6-CF | PA6-GF / PA612-CF | 備考 |
|---|---|---|---|
| 外壁速度 | 60~80 mm/s | 60~100 mm/s | 遅めが安全 |
| 内壁速度 | 100~150 mm/s | 100~180 mm/s | |
| インフィル速度 | 100~200 mm/s | 120~200 mm/s | |
| 第1層速度 | 20~40 mm/s | 20~40 mm/s | 定着最優先 |
| ファン速度 | 20~40% | 20~40% | 層間密着重視で弱め |
なぜ遅めが安全なのか:PA系素材は高温で押出されるため、各層が冷却して次の層と十分に融合するための時間が必要です。速度を上げすぎると、前の層が完全に固化する前に次の層が積まれてしまい、パーツ全体が「ぐにゃっと」変形するリスクがあります。特にカーボンファイバー入りのPA-CFは、繊維の配向が速度に影響されるため、外壁は60~80mm/sに抑えるのが安全です。
BambuStudioの「Max volumetric speed」をPA-CFで12~15mm³/sに設定しておくと、速度設定を高くしてもソフトウェアが自動的に押出量を制限してくれます。
サポート材
PA-CFの複雑な形状を印刷する場合、サポート材の選択が非常に重要です。
Support for PA
Bambu LabのSupport for PAはPA系素材専用に設計されたサポート材です。PA-CFとの境界面で適度な密着を保ちつつ、印刷後に手で剥がせる設計になっています。
設定のコツ:
- サポート材のノズル温度はBambuStudioプロファイルに従ってください(自動設定されます)
- Support/Interface と Object の間隔を0.15~0.20mmに設定
- デュアルノズル機(H2D)なら、片方をPA-CF、もう片方をSupport for PAに設定するのが最も効率的です
- シングルノズル機ではAMSで色替え印刷のようにサポート材を切り替えます
ツリーサポート
PA-CF同素材でのツリーサポートも使えますが、サポートの除去がPLAのように簡単にはいきません。PA-CFは靱性が高いため、サポートが「パキッ」と折れずに「びよーん」と伸びます。ニッパーとラジオペンチが必要です。
Support for PAを使える環境なら、そちらを優先してください。除去の手間が全く違います。
サポートなしの設計
可能であれば、サポートが不要な設計にするのが最善です。PA-CFのサポート除去は手間がかかるため、パーツを分割して後から接着する方が結果的に早いこともあります。オーバーハング角度は50°程度までならサポートなしでいける場合が多いです。

後加工(PA)
研磨
PA-CFの研磨は非常に困難です。カーボンファイバーが表面に露出しているため、通常のサンドペーパーではなかなか削れません。また、研磨するとカーボンファイバーの断面が露出して「白っぽい粉」が出ます。この粉は吸入しないよう、必ずマスクを着用してください。
PA6-GF(グラスファイバー入り)も同様に研磨は困難ですが、PA-CFよりはやや削りやすいです。
どうしても表面を滑らかにしたい場合は、研磨よりもエポキシコーティング(XTC-3D等)を塗布して表面を埋める方が効率的です。
接着
PA同士の接着にはCA瞬間接着剤(シアノアクリレート系)が最も推奨されます。PA系素材とCA接着剤の相性は非常に良く、強固な接合が得られます。接着面を240番程度で軽く粗してから塗布すると、さらに密着が良くなります。
エポキシ接着剤も使えますが、硬化時間が長いのが難点です。構造的な接合(荷重がかかる部分)にはエポキシの方が安心です。
注意:PA-CFはアセトンで溶けません。ABSやASAのようなアセトン溶接はPAには使えません。
穴あけ・タッピング
PA-CFは通常のドリルで穴あけ可能ですが、カーボンファイバーがドリルビットを摩耗させるため、超硬ドリルの使用を推奨します。タッピング(ネジ切り)もPAの靱性のおかげで、PLAのように割れることなくきれいに切れます。真鍮インサートの圧入も問題なく可能です。
トラブルシューティング(PA)
表面の泡・ブツブツ
原因はほぼ100%吸湿です。フィラメントを70~80℃で6~8時間乾燥してください。これだけで解決するケースが大半です。乾燥しても改善しない場合は、乾燥温度が低すぎるか乾燥時間が短い可能性があります。12時間乾燥を試してみてください。
パチパチ音
これも吸湿のサインです。ノズル内で水分が蒸発している音です。上記と同じく乾燥で解決します。「パチパチ音がする=今すぐ印刷を中止して乾燥」と覚えてください。
反り
PA-CFの反りはASA以上に深刻な場合があります。対策はASA編の反り対策に準じますが、以下のPA固有のポイントを追加してください:
- チャンバー温度を55~65℃に上げる ― H2シリーズ/X1Eが圧倒的に有利
- ブリム幅を10~15mmに設定
- のりを使用する ― テクスチャPEI+のりの組み合わせが最も安定
- 印刷速度を落とす ― 内部応力の蓄積を減らす
- ファン速度を最小限にする ― 20~30%
ノズル詰まり
PA-CFはカーボンファイバーがノズルに詰まることがあります。特に0.4mmノズルで長時間印刷する場合に発生しやすいです。
対策:
- 0.6mmノズルを使う ― カーボンファイバーの通過性が大幅に改善する
- 印刷温度を確認する ― 温度が低すぎるとフィラメントの流動性が下がり詰まりやすくなる。PA6-CFは280℃以上推奨
- コールドプルで清掃する ― ノズルを一度加熱してからフィラメントを引き抜くことで、詰まった残留物を除去する
- リトラクションを短くする ― 1.0mm以下に設定。長いリトラクションはカーボンファイバーの詰まりの原因になる
層間剥離
PA系素材の層間剥離は、ABSやASAよりもフィラメントの吸湿が原因であるケースが多いです。まず乾燥を疑い、それでも改善しない場合は以下を確認してください:
- ノズル温度を5℃上げる(PA6-CFなら290~300℃を試す)
- ファン速度を20%以下に下げる
- 外壁速度を60mm/sまで落とす
- チャンバー温度が十分か確認する(55℃以上が理想)
保管(PA)
PA系素材はFDMフィラメントの中で最も吸湿しやすい素材です。保管には細心の注意が必要です。
理想的な保管方法:
- 密閉容器(真空容器がベスト)+乾燥剤(シリカゲル100g以上)
- 湿度計を容器内に設置し、20%以下を維持
- 開封後は使用しないときは常に密閉容器に戻す
- 梅雨~夏場(湿度60%以上)は特に注意。室内でも数時間で吸湿が始まる
乾燥条件まとめ:
| 素材 | 乾燥温度 | 乾燥時間 | 保管目安 |
|---|---|---|---|
| PA6-CF / PA6-GF | 70~80℃ | 6~8時間 | 密閉容器で3~6ヶ月 |
| PA612-CF | 70~80℃ | 4~6時間 | 密閉容器で6ヶ月~1年 |
PA612-CFの優位性:保管の手間を重視するなら、PA612-CFが圧倒的に楽です。吸水率がPA6の1/3~1/5程度なので、密閉容器+乾燥剤での保管で十分実用的な状態を維持できます。「PAを使いたいけど管理が面倒」という方は、PA612-CFから始めることを強くおすすめします。
PAの用途例
PAの真価が発揮されるのは、繰り返しの摩擦・衝撃・荷重にさらされる機械部品です。
ギア・ベアリング・スライダー
PAが最も得意とする用途です。ナイロンは自己潤滑性があり、金属ギアと噛み合わせても相手を傷めにくい特性があります。PA6-CFのカーボンファイバーが剛性を加え、長期使用でも摩耗が少ない高性能ギアが作れます。テスト用のプロトタイプとしてだけでなく、最終製品として使えるレベルです。

ヒンジ・スナップフィット
PAの靱性は「曲げても折れない」性質をもたらします。PLAで同じヒンジを作ると数回の開閉で割れますが、PA-CFなら数千回の開閉に耐えます。スナップフィット(弾性変形で嵌合する構造)もPAの独壇場です。電子機器のケースの爪、バッテリーカバーのロック機構など、繰り返し開閉される部品に最適です。
産業用治具・固定具
工場の生産ラインで使う固定治具、組立ガイド、検査ゲージ。PA-CFの剛性と耐摩耗性は、アルミニウム治具の代替として十分な性能を持ちます。金属切削加工で1週間かかる治具が、3Dプリントなら数時間で手に入ります。コスト面でも圧倒的に有利です。

自動車・バイクの機能部品
エンジンルーム内のケーブルクリップ、配管の固定具、ダクトのアダプター。PA-CFのHDTは160〜180℃で、エンジンルームの温度にも耐えます。耐油性・耐薬品性も優れているため、オイルやクーラントにさらされる環境でも問題ありません。

ドローン・ロボットのフレーム部品
PA-CFは軽量でありながら高剛性で、ドローンのアームやロボットのリンク機構に使われています。カーボンファイバーの高い剛性が振動を抑え、精密な動作を要求される部品に向いています。
スポーツ用品の補修パーツ
スキーのバインディング部品、自転車のディレイラーハンガー、登山用品のバックルなど。PAの靱性と耐衝撃性が活きる用途です。ただし、人命に関わる部品(クライミングのカラビナ等)には絶対に使わないでください。3Dプリント部品は射出成形品と同等の信頼性を保証できません。
ASA vs PA 比較表
ASAとPA、どちらを選ぶべきか迷う方のために、特性を並べて比較します。
| 項目 | ASA | PA(PA6-CF) |
|---|---|---|
| 主な強み | UV耐性・耐候性 | 靱性・耐摩耗性 |
| 代表的な用途 | 屋外パーツ全般 | 機械部品・産業用治具 |
| HDT | 95~100℃ | ~180℃(CF入り) |
| UV耐性 | 優秀 | 中程度 |
| 耐摩耗性 | 中程度 | 非常に高い |
| 吸湿性 | 中程度 | 高い(最大の課題) |
| 印刷難度 | 中~やや高い | 高い |
| ノズル温度 | 250~270℃ | 280~300℃ |
| 硬化鋼ノズル | 不要 | 必須 |
| エンクロージャー | ほぼ必須 | 必須 |
| 臭い | あり(ABS同等) | 少ない |
| アセトン処理 | 可能(ABSより効きにくい) | 不可 |
| 保管の手間 | 中程度 | 高い(密閉+乾燥必須) |
判断基準はシンプルです:
- 屋外で使う → ASA
- 摩擦・衝撃・高温にさらされる機械部品 → PA
- 屋外+機械的負荷の両方 → ASAで十分な場合が多い。PA-CFのUV耐性は中程度なので、屋外長期使用にはASAの方が安心
- PA-CFの管理が面倒 → PA612-CF(吸湿性が低く扱いやすい)
温度リファレンス表
本記事で紹介した全素材の温度設定を一覧にまとめます。印刷時のクイックリファレンスとしてお使いください。
| 構成 | ASA | PA6-CF | PA6-GF | PA612-CF |
|---|---|---|---|---|
| ノズル温度 | 250~270℃ | 280~300℃ | 270~290℃ | 270~290℃ |
| ベッド温度 | 90~100℃ | 90~100℃ | 90~100℃ | 90~100℃ |
| チャンバー温度 | 50~55℃ | 55~65℃ | 50~60℃ | 50~60℃ |
| 硬化鋼ノズル | 不要 | 必須 | 必須 | 必須 |
| 乾燥温度 | 80℃ / 4~6h | 70~80℃ / 6~8h | 70~80℃ / 6~8h | 70~80℃ / 4~6h |
| ファン速度 | 30~50% | 20~40% | 20~40% | 20~40% |
| 外壁速度 | 80~120 mm/s | 60~80 mm/s | 60~100 mm/s | 60~100 mm/s |
| ブリム推奨 | 5~15mm | 8~15mm | 8~15mm | 8~15mm |
※すべてテクスチャPEIプレート使用時の値です。PA系素材にはのりの併用を推奨します。
SK本舗オリジナルフィラメントのご紹介
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▶ 第3回:ASA & PA完全攻略ガイド(本記事)
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