3Dプリントしたのにレイヤー同士が剥がれてしまう「層間剥離」を防ぐためには
層間剥離は3Dプリンティングにおける造形の成功に大きな影響を及ぼす厄介な問題。これはプリントの層同士がしっかりと結合せず、造形物が剥離してしまう現象です。この問題は、FDM(熱溶解積層方式)、SLA(光造形方式)の両方の3Dプリンターで発生しますが、それぞれに特有の原因があります。ここででは、FDMとSLAプリンターにおける層間剥離の原因を解説し、効果的な対策について詳しく見ていきたいと思います。
FDMプリンターにおける層間剥離
1. FDMの層間剥離の原因
FDMプリンターでは、熱で溶かしたフィラメントを一層ずつ積み上げて造形しますが、温度管理の不十分さや機械的な要因により、層間剥離が発生します。
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温度管理の不備
フィラメントが適切な温度で押し出されないと、層同士が十分に結合しません。特に、ノズル温度やベッド温度が低すぎると、フィラメントが冷えすぎて新たな層がしっかり接着しないことがあります。 -
冷却が早すぎる
冷却ファンの設定が強すぎる場合や、造形物が急速に冷却される環境でプリントが行われると、フィラメントが適切に溶けて他の層と結合する前に冷え固まってしまいます。 -
不適切なフィラメント選択
フィラメントの素材や種類によって、層間剥離のリスクは異なります。例えば、ABSは冷却速度が速いと割れやすい傾向があります。また、湿気を吸収しやすいフィラメント(ナイロンなど)は、湿った状態で使用すると結合力が弱くなります。 -
造形速度の影響
造形速度が速すぎると、フィラメントが十分に圧着せず、層間の結合が弱くなることがあります。逆に、遅すぎるとフィラメントが冷えすぎて剥離が起こることもあります。
2. FDMプリンターにおける有効な対策
FDMプリンターで層間剥離を防ぐためには、以下の対策が有効です。
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適切なノズル温度の設定
各フィラメントに適したノズル温度を維持することが重要です。例えば、PLAは180~220°C、ABSは220~250°Cの範囲が一般的ですが、フィラメントの種類やメーカーによって推奨温度は異なるため、正確な設定が求められます。 -
ベッド温度の調整
フィラメントによっては、ベッドを加熱することで造形物の底部がしっかりと固定され、層間剥離のリスクが減少します。ABSやナイロンの場合、90°C~110°Cのベッド温度が推奨されます。 -
冷却ファンの適切な使用
冷却ファンは、PLAのような低温で造形するフィラメントには有効ですが、ABSやナイロンでは冷却を遅くする方が良い結果を得られます。冷却ファンの速度を調整し、フィラメントが冷えすぎないようにすることで、層間の結合力が向上します。 -
フィラメントの乾燥と保存
フィラメントが湿気を吸収していると、層間の結合が弱くなります。特にナイロンやPETGなど吸湿性の高いフィラメントは、使用前にしっかり乾燥させることが重要です。また、フィラメントは密閉容器や乾燥ボックスで保管することで湿気を防ぎます。 -
造形速度の調整
造形速度を適切に調整することも効果的です。フィラメントの種類や造形の複雑さに応じて、速度を最適化することで層間剥離を防ぎます。一般的には、細かいディテールや強度を求める場合は、低速でのプリントが推奨されます。
SLAプリンターにおける層間剥離
1. SLAの層間剥離の原因
SLAプリンターでは、光で硬化させたレジンを層ごとに積み重ねて造形しますが、硬化不良や過度の力が加わることで層間剥離が発生することがあります。
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光照射の不十分さ
レジンを硬化させるための光照射が不十分な場合、各層がしっかりと硬化せず、次の層との結合が弱くなります。特に、光源の強度が不足していると、層が部分的にしか硬化せず、剥離が発生します。 -
過度な剥離力
SLAプリンターでは、造形中にモデルをベッドから剥がす力が加わります。この力が強すぎると、層間に負荷がかかり、特にモデルが大きい場合や、サポート構造が不十分な場合に剥離が発生しやすくなります。 -
レジンの種類
レジンの種類や品質も層間剥離に影響を与えます。硬度が高すぎるレジンや、粘度が高く均一に広がりにくいレジンは、層間の接着が弱くなる傾向があります。 -
不適切な設計
特に薄い層や支持力が不足している構造は、プリント中の力に耐えられず、剥離しやすくなります。
2. SLAプリンターにおける有効な対策
SLAプリンターでの層間剥離を防ぐためには、次の対策が有効です。
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適切な光照射の設定
光源の強度や露光時間を適切に設定することで、各層が十分に硬化し、しっかりと結合します。レジンの種類やプリンターによって最適な設定は異なるため、実験的に最適な条件を見つけることが必要です。 -
剥離力の軽減
剥離力を軽減するために、造形物の向きを工夫したり、サポート構造を強化することが有効です。造形物を適切な角度で配置し、サポートを適切に配置することで、剥離力が均等に分散されます。 -
レジンの選択
層間剥離を防ぐためには、使用するレジンの粘度や硬化性を考慮することも重要です。特に、柔軟性のあるレジンや高品質な工業用レジンを使用することで、層間の結合力を高めることができます。 -
造形物の設計の工夫
造形物の設計段階で、過度に薄い層や弱い部分を避けることも重要です。特に高い負荷がかかる部分については、適切なサポートや厚みを持たせることで、層間剥離を防ぐことができます。
共通の対策としては適切な材料の選択と使用方法の最適化
層間剥離は、3Dプリントにおける一般的な問題であり、FDMとSLAの両方で発生しますが、それぞれの原因と対策は異なります。FDMプリンターでは、主に温度管理や冷却速度の調整が重要です。一方、SLAプリンターでは、光照射の強度と時間、剥離力の軽減が鍵となります。以下、その違いを図にまとめてみました。
FDMプリンター |
SLAプリンター |
適切な温度管理が必要。ノズル温度やベッド温度を調整して、層間の結合を強化。 |
光照射時間や光源強度の最適化が重要。光が均等に照射されることで、層間の結合が強まる。 |
冷却ファンの設定を調整して、冷却を遅くし、フィラメントがしっかり接着する時間を確保。 |
造形物の向きやサポート構造を工夫して、剥離力を軽減。大きなモデルでは特に重要。 |
フィラメントの湿度管理が重要。特にナイロンやPETGなど、吸湿性のあるフィラメントは乾燥させてから使用。 |
レジンの粘度と品質を管理。高品質なレジンを使用することで、層間の剥離を防ぐ。 |
適切な造形速度を維持。速度が速すぎると接着不良が発生しやすくなるため、バランスを取ることが重要。 |
後硬化を行い、造形物全体をしっかりと硬化させることで、層間の強度を向上。 |
両方のプリンターでの共通の対策としては、適切な材料の選択と使用方法の最適化です。高品質なフィラメントやレジンを使用し、環境に合わせた最適な設定をすることで、層間剥離を効果的に防ぐことができます。さらに、造形物の向きや設計段階での工夫、後処理の重要性も見逃せません。
層間剥離は厄介な問題ですが、ここで紹介した対策を実践し、高精度で安定した3Dプリントを目指してください!
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