ドイツ大手メディアが発表した2021年以降に主流となる3Dファイル形式——「STL」の牙城は本当に崩れるのか

ドイツ大手メディアが発表した2021年以降に主流となる3Dファイル形式——「STL」の牙城は本当に崩れるのか

 

独メディアが考える2021年に最も一般的な3Dファイル

 

3Dプリント用3Dデータのファイル形式に関して、今後、注目度の高いファイル形式についてをまとめて記事にしたことがある。

 

「STL」時代はあと5年で終了? 次世代の3Dデータファイル形式はどれか!?

https://skhonpo.com/blogs/blog/3dstl



実は今回、そのファイル形式をめぐって、ドイツ大手3DプリントメディアであるALL3DPが「2021年の最も一般的な3Dファイル形式」と題する記事をリリースした。

世界的にも影響力の高いメディアの記事である。今後の3Dファイル形式の趨勢にも大きな影響を及ぼすはずだ。

そこで今回はALL3DPの記事を覗きつつ、今後の3Dファイル形式の行方についてまとめてみたい。

 

 

「STL」の覇権はいつまで続く?

 

まず、ALL3DPが今一般的な3Dファイル形式として最初に挙げているのは、皆さんお馴染みの「STL」だ。この「STL」についてはもはや説明不要だろう。おそらく、世界で最も一般的な3Dファイル形式であり、画像形式で例えるなら「jpg」に相当する。

1987年に3Dプリンターの開発者の一人でもあるチャックハルによって設立された会社3Dシステムズによって発明された「STL」は以来、大きなアップデートもないままに、ファイル形式界の覇権を握り続けている。

実はすでに「STL」には大きな欠陥がいくつも認められている。それにもかかわらず、使用され続けているのは、ひとえに浸透率の高さと使いやすさだろう。精密度などにおいては新しい形式に完全に劣るものの、いまだ使われているのは、その二点に尽きる。

しかし、その覇権もフルカラー化と同時に終わると言われている。STLはカラーデータを保存できないからだ。ALL3DPも「より現代的な形式がユーザーの間で注目を集めるにつれ、将来的には時代遅れになる可能性が高い」とまとめている。

 

「OBJ」の可能性と難点

 

つづいて取り上げられているのは「OBJ」だ。

「STL」ほどではないにせよ、すでに定番のファイル形式と言って差し支えない。強みとしては、まず「STL」では保存できない、色などの表面データを「OBJ」ならば保存できるということだ。

もちろん、同じような属性を持った形式を持った拡張子は他にも存在する。その中で、「OBJ」が目立っているとすれば、オープンソースライセンスと、シンプルさという二つのだろう。

オープンソースにしたことでCADメーカーが取り入れやすく、ライバルだった形式に対して、その点で差をつけている。また、その性能の高さから、航空宇宙産業や自動車産業ではすでに広く使用されている。

一方、欠点としてはデータの複雑さだろう。そのため、OBJファイルは壊れた時、修復がかなり厄介なのだ。しかし、これも時間の問題で、より浸透率が高まれば、そうした場合のサポート体制も高まっていく。今から慣れておいて損はない注目のファイル形式である。

 

「STL2.0」とも称される「AMF」、しかし

 

3つ目に取り上げられているのは「AMF」だ。こちらは通称「STL2.0」と呼ばれている。

「AMF」はそもそもの開発目的が「STL」の欠点に対処するというところからスタートしていた。処理速度の遅さ、エラーの多さ、カラーやマテリアル情報が保存できない点、などなど、こうした「STL」の諸問題を全て解決することを目的に発表された形式が「AMF」だった。

実際に全ての技術的な面で「STL」よりも優れていて、まさに「STL」の大規模アップデート版と言って差し支えない。

しかし、問題もある。展開に失敗したのだ。ALL3DPにも「AMF委員会は重要なポイントを定義するのに少し急いでいて、3D印刷業界の主要なメーカーやサービスプロバイダーと十分に協議していなかった」と書かれているように、普及すべきタイミングでうまく普及できず、いわば覇権獲得の機を逃したままにいなっているのだ。

そうこうしているうちにライバル形式が登場し、そのライバルの性能の高さゆえ現在ではちょっと影が薄い。ALL3DPも「(AMFは)不確実な未来に直面している」と、やや辛辣。取り急ぎここでは「3Dファイル界のハンカチ王子」と名付けておこうと思う。

 

次世代ファイル形式の急先鋒「3MF」

 

4つ目に挙げられていたのは「3MF」だ。ALL3DPによれば、この「3MF」こそが「潜在的な新標準」になるとのこと。いわば、2021年以降に最注目の3Dファイル形式、というわけだ。

確かに「3MF」はあらゆる点で優れていいる。まず、この「3MF」を開発したのは、何を隠そう、あのマイクロソフトである。

「3MF」は「AMF」とは異なり、その開発を少数の専門家に委ねるのではなく、業界のビッグネームたちをごそっと巻き込んで、大きなコンソーシアムを設立する形で行った。その結果、業界の関心は一気に「3MF」に向かっていくことになった。

開発段階で3Dプリント業界の主要業界を巻き込んでいた、というのは宣伝の面でも大きい。当然、採用されるスピードも早く、現状ではまだ十分には広がってないが時間の問題だと言えるだろう。そしてもちろん、トップ技術者たちが開発したものだから、性能も優れてる。

つまり、確かに現状ではこの「3MF」が一馬身抜けてる感じはあるのだ。

ALL3DPも「強力な業界の支援を受けたオープンスタンダード」とし、あらゆる点を高く評価している。だが、欠点も同時に指摘している。特に「単純なアプリケーションには複雑すぎると見なされる」という点は、今後、エントリーレベルのCADプログラムによる採用を遅らせる可能性があり、「3MF」普及の大きな障壁となるかもしれない。

 

 

STL時代はやがて終わる、しかしその時期は?

 

大きく取り上げられていた3Dファイル形式は以上の4形式だったが、ALL3DPでは他にもいくつかのファイル形式が紹介されていた。「X3D」「Unity」「PLY」「STEP」「IIGES」などだ。いずれも非常に優れた形式であることは間違いなく、特定の専門市場ではすでにい使用されているものもあるが、一般化という点に関しては、先に挙げた4点にはかなわない。

なお、ALL3DPは重要な指摘もしている。多くのコメンテーターたちが「STLの死」を予測している中で、しかし、その予測は「時期尚早かもしれない」というのだ。

その理由はフルカラー化の進展の遅さと、スライサーがSTLファイル形式エラーの処理に優れているという二点。この二点の理由から、まだしばらくは「STL」支配が続くのではないか、としている。

ただ、それもあくまで時期の問題だ。将来のどこかのタイミングで、「STL」が「3MF」に取って代わられる可能性をALL3DPは否定していない。

ちなみに、ALL3DPの見解としては、ツールパスファイル形式は今までもこれからも「Gコード」で安定の模様だ。

皆さんもこれらの情報を参考に、是非、次世代を見据えた上で、より快適なファイル形式を選択していただけたなら幸いだ。