「STL」時代はあと5年で終了? 次世代の3Dデータファイル形式はどれか!?
2020年代に注目すべき3Dデータファイル形式
今回はちょっと3Dデータのファイル形式について話そう。
ファイル形式とは何か。3Dプリンターで何かを出力するときにはまず3Dデータが必要だ。ファイル形式とは、そのデータの種類のことである。一般のデジタル画像における「jpg」などの拡張子を思い浮かべてくれれば良い。
3Dデータの拡張子には様々な種類がある。VRML、AMF、X3D、FBX、IGES、STEP、iges、stl、obj、3ds、wrl、fbx、ply、3MF……枚挙すればキリがないが、ではどの形式を使えば良いのだろうか。それぞれに良い点、悪い点がある。あるいはどんなデータを作成したいかによっても、使うべきファイル形式は変わってくる。
とはいえ、膨大な種類のファイル形式から、それぞれが自由に選ぶというのもあんまりだ。そこで今回は現在、そしてこれから最も注目すべき、4つのファイル形式について紹介しようと思う。
なぜデータ形式が様々あるのか?
そもそも、なぜデータ形式が様々あるのかという点を、少しだけ解説しておきたい。
3DデータにはCADモデルからプリンターへと送られる情報が格納されている。CADというのは、モデリングソフトのことであり、つまり、CADで作った3Dデータの情報を3Dプリンターに送ることで、初めて出力が始まるのだ。
ただ、それらの3Dデータには、すべての種類の情報が保持できているわけではない。たとえば、単一の素材、単一の色で印刷する場合と、複数の素材、複数の色で印刷する場合とでは、情報の種類や量が違う。あるいは、より複雑で精密なミクロレベルまでこだわったデータを作ろうとすれば、情報量だって普通のデータより圧倒的に多くなる。
それぞれのデータ形式には強みと弱みがあり、たとえば単一マテリアルの割と単純な構造のデータを得意としているデータ形式があれば、逆に複数マテリアルの複雑な構造のデータを得意としているデータ形式もあるのだ。
このように書くと「複雑なことができるデータ形式なら、単純なこともできそうなものだけど」と思われるかもしれない。理屈としてはそうなる。ただ、複雑なデータに対応するためには、仕組み自体を複雑化する必要があり、ようするにデータ制作の難易度が全体的にあがってしまったり、あるいはデータ自体が脆くなってしまったりもするのだ。単純だけど制作が簡単で頑丈か、複雑だけど制作が難解で繊細か、ざっくりと言えば、そういう選択になる。
あるいは、いかに優秀なデータ形式であっても、CADソフトウェアにサポートされていないと、結局、使われないし、使いにくいという問題もある。形式に合わせてソフトウェアを買い換える必要があったり、あるいはデータを他の人とやりとりする上でも、あまり普及していないデータ形式の場合、対応が難しいというもんだもある。これも音声データの形式などを思い浮かべてくれれば良いと思う。
そこでここでは、今触れたような普及度、あるいは普及可能性なども加味しつつ、現在、そして近い将来において3Dプリント業界で活躍するだろう4つの形式を紹介したい。
3Dデータ形式のJPEG的存在「STL」
ではまず最も注目すべき4つのファイル形式の1つめから紹介しよう。「STL」だ。
普及度で言えばダントツ1位、3Dデータ形式のJPEG的存在、それが「STL」だ。おそらくSK本舗のユーザーさんの間でも、この「STL」を主に使用しているという方が多いんじゃないだろうか。
なんせ歴史が長い。開発したのはChuck Hullさんという人で、1987年に3Dシステムズで最初の3Dプリンターを開発した、この業界の立役者の一人だ。彼が同時に「STL」という形式を作り、以来、30年間、3Dプリント業界のファイル形式のスタンダードであり続けてる。
しかし、一方で30年という月日で3Dプリンター技術は大いに進歩し、変容している。そうした背景のもと、「STL」限界説というのも、ずっと囁かれ続けている。「STL」の基本的な仕様は初期のままなんだが、一方の3Dプリンターは日増しに進化している。ただ、それにもかかわらず、今日のほとんどの3Dプリンティングにおいては未だ、ソフトウェアにおいて圧倒的なサポートを受けているこの「STL」を使用し続けている。そろそろ切り替え時期じゃないか、というわけだ。
現状、兌換性も高く、使いやすさにおいても優れている。「STL」はテッセレーションと呼ばれるとても単純なアプローチで3Dモデルのジオメトリを保存している。ただ、それは制作を簡易化している反面、ミクロンレベルの精度には対応がしきれない。使いやすさと精密度が、ここではトレードオフの関係になっているわけだ。
あともう一つ、「STL」には大きな問題がある。今後、3Dプリント業界ではおそらくマルチカラー化が進行していくと予測されているが、「STL」形式においてはこの色情報を保存することができない。つまり、単色プリントにしか対応してないのだ。
とはいえ、この先5年くらいはまだ「STL」のシェアは大きなものであり続けるだろうとも予測されてる。その後はちょっと厳しいのではないか、というのが大方の見立てだ。
すると気になるのは、次世代の3Dデータ形式の王者はどれなのか、ということ。以下ではその可能性を秘めた3つの形式を紹介したい。
色情報も素材情報も保存可能な「OBJ」
次の時代の覇権的拡張子の候補として、まず注目したいのは「OBJ」だ。
この「OBJ」が「STL」に対してもつ強み、それはなんといっても複数の色や素材を使用したデータを保存できるということだろう。
先述したように、今後、3Dプリント業界のマルチマテリアル化、マルチカラー化が進んでいくことは間違いない。「OBJ」はそうした変化に対応しているのだ。ただ、同じような属性を持った形式を持った拡張子は他にも存在する。その中で、「OBJ」が目立っているのはオープンソースライセンスと、シンプルさの二つだ。
このオープンソースという点がポイントで、オープンソースにしたことでCADメーカーが取り入れやすく、ライバルだったFBXやCOLLADAといった形式に対して、「OBJ」はその点で差をつけている。また、またその性能の高さから、航空宇宙産業や自動車産業ではすでに広く使用されている。
しかし、欠点もある。やはり「STL」に比べるとデータ自体がかなり複雑なのだ。壊れたOBJファイルを修復すると問題が発生しやすく、修復や編集のためのオンラインツールも少ない。現状ではやはりサポートしているCADも足りていないため、使うためにはプラグインを使用する必要があったりと、手間も多い。
もちろん今後どうなるかはわからない。そして「OBJ」にはまだとてつもないライバルたちがいる。以下ではそのライバルたちを紹介する。
「STL2.0」と呼ばれた「AMF」の美点と難点
次なる覇権候補の二つ目は「AMF」だ。2011年に導入されたデータ形式で、当時は「STL2.0」なんて呼ばれてもいた。
「AMF」はそもそもの開発目的が「STL」の欠点に対処するというところからスタートしていた。処理速度の遅さ、エラーの多さ、カラーやマテリアル情報が保存できない点、などなど、こうした「STL」の諸問題を全て解決することを目的に発表された形式が「AMF」だった。
実際に全ての技術的な面で「STL」よりも優れていて、まさに「STL」の大規模アップデート版と言って差し支えない。
こう書くと次の覇権は「AMF」で決まりだと思われるかもしれない。なぜなら、色や素材もカバーしてて、他の面でも「STL」より優秀なのだから。しかし、「AMF」の失敗は、その性能じゃなく、展開にあった。技術的には優れているのだが、2011年のタイミングでは、まだマルチカラーやマルチ素材の必要性も薄く、「STL」で十分という雰囲気が強かった。それゆえ、各種ソフトウェアは「AMF」の採用に消極的だった。結果、これだけのハイクオリティな形式にもかかわらず、普及率に関して出遅れてしまったのだ。
なら今から導入すればいいじゃないか。そう思ってしまうが、ここに第三の次世代覇権候補が登場するんだ。その名も「3MF」だ。
マイクロソフトの最終兵器「3MF」
この「3MF」を開発したのは、何を隠そう、あのマイクロソフトである。
「3MF」は「AMF」とは異なり、その開発を少数の専門家に委ねるのではなく、業界のビッグネームたちをごそっと巻き込んで、大きなコンソーシアムを設立する形で行った。その結果、業界の関心は一気に「3MF」に向かっていくことになった。
開発段階で3Dプリント業界の主要業界を巻き込んでいた、というのは宣伝の面でも大きい。当然、採用されるスピードも早く、現状ではまだ十分には広がってないが時間の問題だと言えるだろう。そしてもちろん、トップ技術者たちが開発したものだから、性能も優れてる。
正直なところ、現状ではこの「3MF」が一馬身抜けてる感じはある。ただ、マイクロソフト社には権利問題などで悪い噂も多く、今後どうなるかは果たしてわからない。
要約すると、「STL」帝国があと5年ほどでおそらく崩壊して、「OBJ」「AMF」「3MF」の三國時代による戦国の世がやってくるということ。あるいは小さなダークホース的拡張子はまだまだ存在する。
皆さんももしかしたら早めに脱「STL」の準備を進めておいた方がいいのかもしれない。