SK本舗導入事例 #4 東京医科大学病院 脳神経外科 永井様
【3Dプリンター】ユーザーズボイス
#4「東京医科大学病院 脳神経外科」様
youtube チャンネルより一部抜粋(記事用に一部文言を文語に修正しております) :https://www.youtube.com/watch?v=Ty0h_P-iEfk
取材ご協力:東京医科大学病院 脳神経外科 永井健太様
東京医科大学病院 脳神経外科 永井様
今回は医療現場で活躍する3Dプリンターについて、東京医科大学病院 脳神経外科の永井健太先生にお話を伺いました。
手術に伴う模型を出力することが、実際にどのように役立っているのか、そのメリットや出力の機体やレジンについてご紹介致します。
Chapter1.3Dプリンターの活用
東京医科大学病院 脳神経外科の永井健太と申します。
よろしくお願い致します。
◆3Dプリンターの用途について
SK本舗のプリンターを購入して、現在、手術用の3Dモデルを作成しております。
主に当院で行っている複雑で難しい頭蓋底手術や脳動脈瘤の手術、
脳動静脈奇形などの難しい手術を中心に模型を作っております。
現在の手術というのは基本的にチーム医療で1人で手術をするのではなく、
3~4人のグループで手術をすることが多くなっています。
そのような場合に術前の検討会などを必ず開いて手術に臨むわけなんですけれども、
手術をする時にみんなで情報を共有しながら手術の方法もしくはアプローチなどを決めていくのに非常に有用であったり、当日の手術をやっている最中に画像を見ながら手術をしたりすることもあるんですけれども、
その時に現物をそのまま見ることで、回したりだとか、マウスを使って回したりだとかということが基本、手術中手袋をしているとできないので、本物を直に回して見られるというのは非常に良い点だと思います。
◆実際にモデルを確認できるメリット
開頭手術に関しては、手術する前に実際の術野を目で見てあらかじめ予習ができるんですよね。
実際に手術をするときは、その見た術野が2回目になる、いわゆるデジャヴを見てるような
手術を体験できるので、非常に心強く、オリエンテーションなどをしっかりと見定めて手術ができる、安全に手術を出来るというのが非常にポイントだと思います。
血管内治療に関しましては、血管内治療の先生方というのは基本的に画面の中で戦っていて本物は見えていないんですね。
なので、本物がない所に実際に実物があるというのが、カテーテルの角度を決めたりだとかというところには有用なツールになるんじゃないかというふうに考えております。
[実際の出力物を基に解説をしていただきました]
【症例1】
この症例は、左中大脳動脈瘤20mmの症例となります。
こちらがICA(内頸動脈)の末端から、こちらのACA(前大脳動脈)とMCA(中大脳動脈)の分岐部となっており、M1M2(水平部と島葉動脈群)の分岐部のところでこちらの約20ミリの動脈瘤を観察することができます。
こちらの症例に関しましては術前にチームで検討し、バイパスをどこでつなぐか、クリップはどのようなものを選択するかということを検討するのに非常に有用でありました。
【症例2】
こちらの症例は前床突起部髄膜腫の症例となります。
このように前床突起部のオレンジ色の腫瘍の部分と、
赤色に塗られた中大脳動脈および内頚動脈終末部、前大脳動脈の分岐部から、
腫瘍が後ろに回り込んでいる場所までが非常に鮮明に分かります。
この手術を行う際に前床突起へのアプローチで、どこの骨を削るか、ここの部分の骨の削除範囲や後ろの腫瘍の血管の位置などを術前に検討し、安全に手術を施行することができました。
◆プリンターで出力するまでの工程
患者様を検査した時に得られる医療用データのことをDICOMデータと言います。
そのDICOMデータを3Dプリンターで印刷するためには、STLデータに変換しなければいけなくなります。
そのSTLデータに変換する際に必要になってくるのが、ワークステーションになります。
このワークステーションは各病院によって様々色々入ってると思いますけれども、
当院では富士フイルムのVINCENTというワークステーションで処理しております。
VINCENTでSTLに変換し、3Dプリンターに持っていって印刷をしています。
元々、前の研究で3Dの高精細な画像を作る研究をしていたので、
画像を作ることに関してはそんなに苦労はなかったんですけれども、
作った画像をSTLに変換するにあたって、変換した時に削られちゃう部分が結構あるので、
そこをいかに削らないように欲しいところだけ出てくるようにセットアップするというのは、
やっぱり経験が必要なんだと思います。
Chapter2.Phrozen Sonic XL4K
[永井様にはPhrozen Sonic XL4Kをご使用いただいております]
◆Phrozen Sonic XL4Kを使用している理由
今、様々な機種が出てきているんですけれども、私がSonic XLを使ってる主な理由は
先代のPhrozen Shuffle XLを使っていたというところが大きくなります。
私が始めた2018年頃にはまだ大判の印刷機がほぼない状態で、
Phrozen社から出たXLが一番大判な時代だったのと、
その他に出ていた機種があまりまだ信頼性が高くない時代だったので、
その時代からPhrozen社のものを使用しております。
Phrozen社の一番の魅力は“精度”です。
非常に高精度で印刷ができますので、信頼して使っている次第であります。
◆プリンターを導入して変化した点
家庭用の3Dプリンターが世の中にたくさん出回るようになって、
“自分の所の施設の中ですべてを完結できるようになった”というのが非常に変わった点だと思います。
自分の施設の中で作ることができると、非常に速いスピードで迅速に作ることが可能になりますので、それは非常に大きいメリットだと思います。
更に、緊急手術、緊急の脳卒中の患者様などがいらっしゃった時に
非常に早く、かつ精密に迅速に作れるというのは、非常に大きなメリットだと思います。
◆救命救急での活用について
動脈瘤手術など、くも膜下出血などで緊急手術を必要とする場合、非常に少ない情報量で
手術に臨まなければならないことが多々あるかと思います。
そういう時に3Dモデルがあると、これ(現物)を見ながら治療することが可能になりますので、少ない情報量の中からでも非常に有益な情報を引き出すことが可能になると考えております。
◆印刷速度の重要性
うちの場合は患者様が救命救急センターに運ばれてきまして、最初のCTを取るまでの間が
入室してからおよそ15分から20分の間で、最初のCTが撮られます。
そこから治療方針を検討している間に、印刷の方にまわしまして、1時間程度で印刷が仕上がります。
なので基本的に手術もしくは血管内治療に突入する2時間までの間で仕上げなければならなくなるので、これぐらい迅速に印刷できるプリンターが必要になってきます。
最初に使っていたPhrozen Shuffle XLからPhrozen Sonicに乗り換えた時に、
非常にLEDの出力が上がったことでスピードが格段に早くなって、先ほどから言っている1時間以内での印刷がかなりスムーズにできるようになったので、Phrozen Sonic 導入というのは非常に画期的な、革命的なことでした。
更に、大きい頭蓋骨モデルなんかもSonicを導入することで、
今までは10時間以上かかっていたものが6時間程度でできるようになったので、
非常に効率よく作ることができるようになりました。
◆プリンター導入前と現在
外注の場合は大体期間が2週間程度必要になり、コストも大きい頭蓋骨のモデルになると
3万から6万円かかっていたところが、Phrozen Sonicを導入したことで
制作期間はわずか6時間程度、それからコストも大体3千円から5千円ぐらいの間で
作れるようになったので全然今までよりも多くの症例で使うことができるようになりました。
Chapter3.レジンについて
◆SK水洗いレジンについて
初期に使っていたレジンは、Wanhao製のレッドレジンを使っておりました。
こちらに関しても造形の精度等には問題はないんですけれども、
やはり造形後の洗浄をIPAで行わなきゃいけない、非常に色々めんどくさい点があり、
かつ、IPAの廃液方法なども問題になっていました。
そこで水洗いレジンが登場してくれたことで、作った後の処理のスピードが格段に早くなったことと、メンテナンスがいらなくなったことで非常に手軽さが増した感じはありました。
◆SK高靭性水洗いレジンについて
高靭性水洗いレジンに関しましては非常に反応性が早いので、さらなる時間短縮が可能になってます。
今まで水洗いのノーマルの方のレジンだと、1層が大体1秒から2秒ぐらい必要だった硬化時間が約0.8秒で可能になりましたので、更なる時間短縮が望めるようになり、非常に役立っております。
ただやっぱり硬化時間がすごく短いので、本当に短く設定してあげないと結構太っちゃうんですよね、パーツが。
普段だったら、こんなに短くていいわけがない、と思ってるような時間で固まってしまうので
結構調整は何度もやりました。
◆フレキシブルレジンについて
フレキシブルレジンを今ちょっと使おうと思ってるのは、中空のモデルを作って実際にコイルが詰められたりとか、クリップで動脈瘤が潰せるようなモデルを今作ろうとは計画してます。
(他のレジンでは)中空化できないんですよ、中空化しても中が透けて見えないので。
クリアレジンにすれば、というのもあるんですけど、それでもやっぱり弾力性がないので、
その辺はちょっと難しいかなと。
ただ全例それやるわけにはいかないので、例えばすごく難しい手術の前段階でのシュミレーションとか、あと教育でトレーニング用の血管とか動脈瘤モデルを例えば実際の今日やった患者さんのトレーニングモデルを作って、上の先生がやってたものを下の先生がトレーニングモデルで研鑽して、しかも上の先生がやった成功例というのがそのすぐ前の手術で横で見てるわけなので非常に効果的なトレーニングが積めるんじゃないかなというのは今後計画はしています。
◆使用しているレジンの色
主なレジンはグレーのレジンを使っております。
手術場の無影灯で白だとかえって反射で眩しく見えてしまうことがあるので、
グレーの方が落ち着いて観察することができると思います。
このように作られたグレーのモデルを塗料で着色して検討に臨んでおります。
これを研修医などのレジデントの先生が行うことで、
手術前の学習能力を飛躍的に向上させることができるので、
このような塗装は主に下の先生がやるほうが学習効率が上がることもあって、
非常に便利になっております。
◆今後のレジンに期待すること
今後レジンに期待することとしましては、滅菌に耐えられるレジンが欲しいです。
滅菌をかけることで、かなり熱がかかるんですけれども、それに耐えてかつ
“滅菌がしっかりされている保証が付いてるレジン”、これが望まれます。
◆導入を検討している方にメッセージをお願いします
手術の模型に関しては脳動脈瘤や脳神経外科領域にとどまらず、
形成外科もしくは整形外科などの脊椎もしくは骨頭蓋骨などの模型を作るのに非常に有用で
実際に作った経験もあります。
非常に値段は安価ではありますけれども、できてくるものの精度は非常に高く、手術に非常に耐えうる有用なものができております。
是非ご使用をご検討ください。
よろしくお願い致します。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
ご協力いただき有難うございました。