世界が注目するイタリアの3Dプリント企業「WASP」の挑戦 「世界を救うために私たちは3Dプリントから始めるんです」
「私たちはメーカーであると同時に夢想家です」
現在、3Dプリント技術の開発と革新に関しては世界中の企業がしのぎを削りあう、群雄割拠の状況にある。3Dプリント先進国として最新技術の開発を続けるアメリカ、安価で高性能な3Dプリンターを多く開発提供している中国、技術を改良しディティールにおける改良を行う日本、そして環境に配慮しながら3Dプリント技術のエシカルな利用のための開発に意欲的なヨーロッパ。
中でも近年、注目の3Dプリント企業がある。イタリアのWASPだ。
生土と米の加工廃棄物で3Dプリントしたゼロインパクトハウスや、ドバイにオープンしたディオールのコンセプトショップの3Dプリンティングなどを手掛け、国際的な注目を集め続けているこの企業は、いまやヨーロッパで最も有名な3Dプリント企業の一つにまで成長している。超高性能なハイエンドマシンの開発のみならず、そうした技術の利用方法においても驚くべき利用の仕方においても業界を牽引するWASPは、技術とアイディアの両面においてまさに独創的と言うべき活動を行なっていると言えるだろう。
画像:Mohamed Somji / Dior / WASP
「私たちはメーカーであると同時に夢想家です。この世界を救うために私たちは3Dプリントから始めるんです」
これはWASPのホームページに掲げられたWASPの企業精神を示した言葉だ。特に建築部門で比類なき活動を行う彼らのマニフェストには「健康的で美しく、人間規模の家を、ゼロに近いコストでプリントすること」が彼らの夢であると書かれている。
実際、これまで彼らは周辺地域で見つかった材料を使用することで、限りなくコストをかけない地産地消型の3Dプリント建築の出力に挑戦してきた。その上で粘土の家を作るための3Dプリンターの構築も行っている。どうやら「世界を救う」というのはハッタリではないようで、WASPが目指しているのは3Dプリント技術を駆使した住宅建築革命のようだ。
2015年には、家を建てるための高さの12mの巨大なプリンターBigDeltaを開発。翌年にはMaker Economy Starter Kitをリリースし、3Dプリント専用の大規模なモバイルテクノロジーパークを形成する巨大な建設システムを発表。さらに2018年には、住宅を丸々印刷できる3DプリンターCraneWASPもリリースと、その勢いは止まらない。
画像: Bigdelta / WASP
WASPのCEOであるマッシモ・モレッティは次のように語っている。
「自分たちが世界を救うことができると考えるなんて狂ったことですよね? でも、私たちはそのために働くのに十分なくらい狂っているんです」
地元で採れた粘土で建物を出力する「CraneWASP」
さて、そんなWASPが2021年11月にドイツで開催されたFormnext2021において発表した革新的な7台のマシンが話題となっている。それらのマシンはそれぞれ異なる産業部門に向けて開発されたものであり、いずれにおいても持続可能性がテーマとして通底している。
WASP開発のロボットアーム、最新のFDMマシンである「3MT HDペレット」、テクノポリマーを巨大サイズで印刷する「4070」シリーズ3機など、展示されたマシンはいずれも会場の注目を集めていたというが、やはりWASPの主力製品としてひときわの目を引いていたのは、工業用粘土を素材とする建設用3Dプリンター「CraneWASP」だ。
画像:WASPのロボットアーム
この「CraneWASP」はこれまでに様々な建築を出力してきた。世界的にも大きく話題を呼んだ天然素材を用いた住宅モジュール「GAIA」、環境への影響を最低限にまで抑え込んだ「TECLA」住宅、最近ではドバイに建設したDiorのコンセプトストア。いずれも粘土をベースに地産地消型で出力、建築されている。
どうやらイベント会場には、土と天然素材を用いて「CraneWASP」で印刷されたTECLA壁の見本も展示されたようだ。すでにWASPはTECLA壁を持つ円形の住宅をイタリアのマッサロンバルダ地域で実際に出力している。業界内でも現在最もエキサイティングなプロジェクトであると話題だ。
画像:TECLA3Dプリントハウス/WASP
食品、住宅、健康、エネルギー、芸術、文化など、WASPの射程は広大だ。果たして、イタリアの先端企業が今後どんな展開を見せるのか。今後も注目していきたい。