
「ボリュメトリクス3Dプリントは今後いくつかの市場を制覇するだろう」——世界を変える技術を開発する「xolo」のCEO・Dirk Radzinskiが語る
ボリュメトリクス3Dプリンターの衝撃
先日公開した記事「出力速度は従来型の数百倍!? 世界初のボリュメトリクス3Dプリンター「Xube」」は公開して間もなく読者の皆様から大変多くの反応が寄せられる大反響ぶりを呈した。
果たして、この革命的な技術が今後どのように運用されていくことになるのか。当該記事においては現状で分かっていることから観測しうる可能な未来についての一つの予断をまとめてみたわけだが、実際にこの技術が、具体的にどのような分野において活躍することになるのか、あるいは現状でこの技術が抱えている難点や、今後追求されていくべき問題とはどういうところなのかということについては、正直、筆者の手には余るものであり、記事では明確な言及を避けていた。
そこで今回は、Martin RegehlyとStefan Hechtと共にxolo社を共同設立したCEOであるDirk Radzinskiに、そうした疑問を直接ぶつけてみることにした。急ぎ、メールを送ってみたところ、すぐさまDirkからの気さくな返事が届いた。
「この前の記事では我が社について書いてくれてありがとう」
渦中のボリュメトリクス3Dプリンター「The xube」、そしてボリュメトリクス3Dプリント技術の今後の可能性について、パイオニアに話を訊いた。
ボリュメトリクスは従来の3Dプリンターと何が違うのか
―今日はお話をする機会を与えてくださりありがとうございます。
Dirk Radzinski(以下、Dirk) 信じられないかもしれませんが、私たちはあなたたちがアップした記事に気づいていました。日本から多くの新しいツイッターフォロワーが増え、また多くの問い合わせや予約があったんです。思いがけない関心を寄せていただき、感謝しています。
―それは私たちとしても嬉しい限りです。この最新の技術を私たちも驚きをもって受け止めています。そこで、まずお聞かせください。従来の3Dプリンターと、あなた方のボリュメトリクス3Dプリンターの決定的な違いとは何なんでしょう?
Dirk 3DCADファイルをプリントするための技術や方法には、さまざまなものがあります。しかし、そのほとんどは一層ずつ積み重ねて造形を行なっていくレイヤー・バイ・レイヤー方式をとっていますよね。一方、ボリュメトリクス3Dプリントでは、ビルドルーム全体が事前に素材の充填された容器に入れられています。透明な素材を透過する光が、各ボクセルを直接照射していくことになるんです。
また、材料面でも大きな違いがあります。従来のレイヤー・バイ・レイヤー方式の3Dプリントが非常に液体性の高い材料に適していたのに対し、ボリュメトリクス3Dプリントは粘性の高い材料に適しています。つまり、よりタフな素材によって作ることができるということです。
ボリュメトリクス3Dプリントが直面している幾つかの難点
―なるほど。私たちが驚いたのはまずその造形速度です。今まで何時間もかけてプリントしていたものが、うまくいけば数秒、かかっても数分でプリントできるというのは、控えめに言っても衝撃的でした。ただ、現在はまだ一般化のめどは立っていないようですね。ボリュメトリクス3Dプリンタの開発で直面している困難はどういったところなんでしょう?
Couldn't resist to have our version of #bernie #3Dprinted with #xolography
— xolo (@xolo3D) January 27, 2021
Print time: 1 minute 30 seconds pic.twitter.com/VyTcP1fyYo
Dirk 一般化となるとなかなか難しいですね。ある分野では確実に影響を与えるでしょうが、すべてではありません。ボリュームプリントには、対象物の大きさなどの制限があり、たとえば自動車産業のような大きな対象物をプリントすることはまだできないんです。
というのもボリュメトリクス3Dプリントには物理的な限界がある。そのため、このプリント方式の適切な用途が何かということを深く理解する必要があります。たとえば吸収性の高い液体では、光の透過性に限界が生まれるんです。光が散乱することは避けなければならず、そのためには反射の問題を考慮する必要もあります。
また、開始剤の濃度を低くする必要があるため、グリーンステート(重合反応が完了前の状態)においてはSLA(ステレオソリグラフィー)やDLP(デジタル・ライト・プロセッシング)のようにしっかりとしたものではありません。今後のボリュメトリクス3Dプリントの発展のためには、科学的な努力が必要です。
―今後ますますの研究が期待されるわけですね。では、この技術の進歩によって、私たちの生活はどのように変わると思いますか?
Dirk ボリュメトリクス3Dプリントは、そのユニークな利点により、従来の技術ではできなかった印刷を可能にするいくつかの市場を制覇するでしょう。しかし、他の3Dプリント方法に取って代わるものではありません。私たちは、バイオ3Dプリンティング、光学、歯科用アプリケーションなどの業種においてボリュメトリクス3Dプリント技術の明るい未来があると考えています。印刷速度が速いことで開発サイクルが短縮され、これまで莫大な先行投資が必要で市場参入のチャンスがなかった分野で、中小企業がイノベーションを起こしやすくなるんです。これは特に半導体産業に当てはまると考えています。
Technik-Revolution aus #Berlin: Was im herkömmlichen #3D-Drucker oftmals Stunden dauert, benötigt im neuen Verfahren nur noch wenige Minuten. Gedruckt wird nicht mehr Schicht für Schicht, sondern mit Licht in Flüssigkeit. @xolo3D #xolography @IRISAdlershof @technologiepark pic.twitter.com/LWIeGsQJEm
— rbb Abendschau (@rbbabendschau) February 1, 2021
xolo社、そして3Dプリンターの未来
―いずれも私たちの暮らしにとって重要な分野ですね。xoloの将来的な展望についてはいかがでしょう?
Dirk 私たちは、これをステップバイステップで考えています。まず、ボリュメトリクス3Dプリンターの新しい市場を開拓したいと考えています。その上で最初のプリンターを学術的なお客様に販売し、アプリケーションのさらなる開発や新しいアイデアの導入に役立ててもらおうと考えているます。続いて、産業界にボリュメトリクス3Dプリンターを紹介し、従来のプリンターでは対応できない問題に対する具体的なソリューションを提供したいと考えています。そのようにして、徐々にボリュメトリクス3Dプリンターのシェアを拡大していきたいと考えています。
―なるほど、ユーザーたちの知恵を結集させることで、この新しい技術を進歩させていこうというわけですね。では最後に、Dirkさんは3Dプリンターの未来について、どうお考えですか?
Dirk 現在よりもさらに細分化されていくでしょうね。1台のプリンターーで様々なものを印刷することはできなくなると思います。ただし、未来はデジタルです。デジタルデータをオブジェクトに変換する技術は、今後ますます誰にでも提供されることになっていくと思います。「ビットからアトムへ」の時代を支えるのは3Dプリンティングです。
—どうもありがとうございました。xolo社の今後の展開を楽しみにしています!
xolo社のHP https://www.xolo3d.com/#itsthere