米国が3Dプリントワクチンパッチを開発|mRNAワクチンパッチの商用化研究も進み、免疫応答は最大50倍とも
注射針嫌いでも接種しやすいワクチン
現在、COVID-19のワクチン接種が世界各国で進められている。
日本も今では50%以上が2度の接種を終えており、すでに先行接種していた米国の接種率を上回ったことが大きく報道されていた。
今回ここではワクチンの効果や今後の運用などについての話をしたいわけではない。その代わり、ワクチン接種に関して、多くの人が感じているだろう、ある思いにフォーカスしてみたい。
それは他でもない「注射が嫌だ」という、誰しもが一度は抱いたことがあるあの感情だ。
実際、インフルエンザにせよ、コロナにせよ、実はワクチン打ちたいけど注射が嫌すぎて躊躇している、という方も少なからずいると思う。中には先端恐怖症で、細い針先を向けられただけでパニックに陥ってしまう、という方もいるだろう。
これは何も日本だけの話ではない。注射針に対する苦手意識は万国共通のものであり、だからこそ長年、ある研究が進められてきた。
そう、ワクチンパッチの開発である。
そして、まさに2021年9月27日、米国の研究チームが新型コロナウイルスのワクチンパッチを開発したというのだ。
ワクチンパッチとマイクロニードル
そもそもワクチンパッチとは何か。
その言葉の通り、パッチを皮膚に貼ることによって、皮膚の内側へと吸収されるタイプのワクチンのことだ。
もとより、これは経皮吸収治療システムとして、皮膚に貼る薬物投与法として開発されたものだ。内服薬のように消化器官や肝臓などに負担をかけず、注射剤のように針の侵入に伴う痛みがなく薬剤を投与できることから、患者の不安や負担を和らげることができるとされてきた。
構造としては、一般にマイクロニードル法という方法が用いられる。長さが数百ミクロンの微細針の表面または内部に薬剤を含有させて皮膚に刺し、薬剤が皮膚中で溶解することにより、薬剤が体内に導入されるという形だ。
この技術がワクチンに転用されたのがワクチンパッチである。そして何を隠そう、次いつはこのワクチンパッチの製造にも3Dプリンターが大きく役立てられているのだ。
新型コロナウイルスのワクチンパッチ
先に触れたように、9月27日、米国において新型コロナウイルスのワクチンパッチが開発されたとの報が届いた。
画像:ノースカロライナ大学チャペルヒル校
開発したのは米ノースカロライナ大学とスタンフォード大学の共同研究チーム。研究チームによれば、今回開発されたのは新型コロナやインフルエンザ、さらには肝炎などの様々なワクチンに合わせてカスタマイズできるマイクロニードルパッチ。そのマイクロニードルパッチの製造技術が、外でもない3Dプリント技術なのだ。
研究チームが使用したのは、CLIP印刷と呼ばれるテクノロジー。これは迅速なエンジニアリンググレードの部品出力の可能にする独自形式のデジタル光処理3Dプリント技術だ。
画像:ノースカロライナ大学チャペルヒル校
ところで、3Dプリントワクチンにはどのようなメリットがあるのだろう。
まず、これによってワクチン注射の場合に必要とされた、膨大な管理コストが低減されることになるという。注射器の場合、注射前に冷蔵庫や冷凍庫からワクチン採取を行う必要があり、訓練を受けた専門家がその管理に当たっていた。しかし、ワクチンパッチの場合は特別な取り扱いを必要とせず、自己管理が可能らしい。
そして、もう一つ、経皮吸収治療システムがそうであったように、患者の心身への負担の低減もあげられる。注射嫌いのためにワクチンを忌避していた方にとっては、ワクチンパッチの導入は接種のきっかけになる可能性もある。実際に、針に比べても痛みがないといわれ、さらには自己投与だってできるという。病院や接種会場まで行くのが億劫という方にとっても、これならば郵送などで行える可能性だってあるかもしれない。
注射針に比較して最大50倍の免疫応答
さらにもうひとつ驚くべきことがある。ワクチンパッチの効果だ。
なんでもワクチンパッチでのワクチン投与は従来の注射針の投与と比較して最大50倍の免疫応答を引き起こすことができるという。つまり、効果も覿面なのだ。これにより従来のワクチンよりも少ない容量を適用することが可能になるかもしれないとさえ言われている。
研究チームいわく「この技術の開発において、私たちは、痛みや不安のない方法で、低用量で、ワクチンのさらに迅速な世界的開発の基盤を築くことを望んでいます」とのこと。
現在、研究チームはファイザーやモデルナのようなmRNAワクチンをワクチンチップにするための商用化研究に入っているとのこと。各国でブースター接種の検討が進められている中、追加接種にこの3Dプリントワクチンパッチが使用される日はそう遠くないかもしれない。