金属とプラスチックを同時に造形できる3Dプリント技術を早稲田大学が開発
プラスチックと金属からなる製品を出力するには?
3Dプリンターで使用することができる素材といえば、まず思いつくのがプラスチックだろう。熱溶解式で用いられるフィラメントも、光造形式で用いられるレジンも、名前こそ異なるが共に樹脂、つまりプラスチックのことだ。
あるいは最近では金属も注目されている。これまでは主に工業的に用いられてきた金属3Dプリンターだったが、現在、技術の進歩とともに低価格化が進んでおり、金属は一般の3Dプリンターユーザーにとっても馴染みのある素材となりつつある。先日、記事にもまとめたように、金属のほか、砂やシリカを素材とする粉末造形方式という出力方式も存在する。
3Dプリンター第三の方式「粉末造形方式」とは何か? その5つの分類と特徴について
当然、使用できる素材が増えればつくることができる対象の幅も広がるのだが、一方で私たちが普段使用している製品の中には、プラスチックだけでできているわけでも、金属だけでできているわけでもないものが多い。そう、実は多くの製品においてはプラスチックと金属の両方が同時に使用されているのである。
すると、どちらか一方の素材しか使えない従来の3Dプリンターの場合、少なくとも一発で完成品を出力することは極めて困難となる。プラスチック、金属、それぞれの3Dプリンターで部品を出力し、その後それらを組み合わせるというプロセスは、控えめに言っても大変な手間だ。
2020年の8月、早稲田大学の研究チームがそうした3Dプリンターの煩わしい状況を一変させる技術を開発したことを発表した。研究チームが「ハイブリッド3Dプリンタ造形技術」と呼ぶその技術とは、他でもない「プラスチックと金属を同時に3Dプリント造形する技術」のことだ。
ハイブリッド3Dプリンタ造形技術とは何か
さて、この「ハイブリッド3Dプリンタ造形技術」とはいかなるものだろうか。
そもそも、これまでプラスチックと金属を同時に出力することができなかったのは、それらの素材ではそれぞれ溶け出す融点が大幅に異なることがその理由だった。それゆえ同じマシン内でプラスチックと金属という二つの素材を扱うことはできないとされてきたのだ。
この難問を、早稲田大学の研究チームは「めっき技術」と「3Dプリンタ技術」を組み合わせた新しい技術を開発することで解決したという。そして、金属とプラスチックで構成される任意形状の立体を簡単に造形できるということを実証して見せたのだ。
早稲田大学のHP(https://skhonpo.com/blog/powder)によると
“本共同研究グループは、めっき技術と3Dプリンタ技術を組み合わせることにしました。無電解めっきを施すことが可能なフィラメントを独自に開発することで、めっき部(金属部)とプラスチック部の位置を制御した立体造形物の作製を実現できると考えました。”
“まず、プラスチック用の3Dプリンタで一般的に使用される材料であるABS樹脂に塩化パラジウムを含有させたABS+PdCl2フィラメントを新たに開発しました。その上で、開発したこのフィラメントとABSフィラメントをデュアルノズルの3Dプリンタによって、二色刷りの要領で、ABS+PdCl2部分とABS部分から構成される立体を3Dプリントします。”
“3Dプリントされた造形物に対して、無電解めっきを施すことによって、塩化パラジウムの部分に金属が析出します。その結果、金属とプラスチックから構成される立体造形物を作製することができました。”
とのこと。そうして実際にハイブリッド出力された造形物がこちらである。
画像引用:早稲田大学
画像引用:早稲田大学
選択された位置に金属メッキが施されているのが分かると思う。これは、従来の3Dプリンターでは不可能だったことだ。
研究チームは「AI/IoT用のデバイスやロボット製品等への活用はニーズがますます高まりつつある分野ですので、それらの分野の研究の加速に直接的に貢献できる」とも述べており、今後はよりプラスチックと金属の密着性を向上させるためのメカニズムを解明していきたいとのこと。
日本から生まれたこのハイブリッド造形技術は、今後の「ものつくり」を大幅に躍進させることになるかもしれない。ますますの発展と実用化に期待したい。
参考文献
金属とプラスチックのハイブリッド3Dプリンタ造形技術を開発(早稲田大学)
https://www.waseda.jp/top/news/70208