3Dプリンターは芸術の新時代を切り拓くか? ポストデジタル時代の最先端アート
現代アートと3Dプリンター
現代アートは難しい。そんな印象をお持ちの方も少なくないのではないだろうか。
その印象は半分正しいように思う。そもそも、現代アートはその始まりからして難解だ。古典的な絵画や彫刻作品が絵としての美しさ、彫刻としての流麗さにおいて評価されていたのに対して、現代アートにおいては作品そのものよりも、作品の外部にある情報が重要視される。たとえば現代アート初期の代表的な作品といえば、マルセル・デュシャンの『泉』という作品だが、この『泉』からしてよく分からない。なんせ、市販されているトイレの便器にデュシャンのサインが入ってるだけ、という作品なのだ。もちろん、便器としての造形が評価されたわけではない。市販の便器を「作品として提示した」という行為そのものが「アート」としてここでは評価されているのだ。
『泉』マルセル・デュシャン
さて、なぜアートの話をいきなりしたのかというと、実は現在、アートの世界でも3Dプリンターが大活躍しているからだ。「ものつくり」革命を起こすマシンがアートにおいて重宝されるのは半ば必然。そこで今回はアート界における3Dプリンターの活躍ぶりを紹介しよう。
ポストデジタル時代のアート
アートの世界で近年に大きく話題となったことといえば、有名なキュレーターであるロン・ラバコさんによる「ポストデジタル」という言葉だろう。
ざっくり言えば「デジタル以降」という意味だが、ロン・ラバコさんがこの言葉で表したったのは、あえて「デジタル」という言葉を使うまでもなく、すでにアートの世界では3Dプリンターを始めとするデジタルファブリケーションのテクノロジーが手法として当たり前のものになっている、ということだ。下はラバコさんが取り上げているリチャード・デュポンさんというアーティストの3Dプリンターと彫刻をめぐる講演動画だ。
このように、3Dプリンターはすでにアートの世界では積極的に用いられているのだが、アーティストはみんな3Dプリンター持ってるのかといえば、現状、そんなことはない。美大などの教育機関には設置されているところが多いだろうが、個人所有となると限られている。多くは代行サービスを使って制作をしているケースが多いだろう。
アーティストの要望に従って、3Dデータを作成し、またプリントまでやってくれる代行業者も現在では多い。たとえば「3Dayプリンター」さんなどのサービスもそのひとつだ。
今のところ、モデリングには非常に高いスキルが必要であり、参入障壁はそれなりにある。ただ、今後は自分でモデリングできるアーティストも増えてくることは間違いない。あるいは、画力や造形力よりもモデリング力が問われる時代がくるかもしれないのだ。
では現状において、実際にはどんな3Dプリンターアートが作られてるんだろう?
それこそ日本でも2018年には大阪で3Dプリンターアート展が開催されていた。今でもサイトで作品の一部を見ることができるが、どれも3Dプリンターの魅力が詰まった素晴らしい作品ばかり。是非とも下の動画をご覧いただきたい。ついつい欲しくなってしまう作品ばかりだ。
偉大なる世界の3Dプリントアート
今後は3Dプリンターがあるからこそのアート作品が続々と生まれてくるのは間違いない。
もちろん、海外のアートシーンでも3Dプリンターは活躍している、有名どころを何人か紹介しておこう。まず「3Dプリントアートの父」と呼ばれているジョシュア・ハーカーさん。3DスキャンとCTスキャンを組み合わせて、驚くほど正確なプラスチック製の顔の骨格を制作したことで知られている。
あるいは超リアルな3Dプリント彫刻作品で知られるエリック・ヴァン・ストラテンさん。一体どうやって作ってるの?って不思議なくらい精巧な作品を手がけている。スポンサーを募集している動画があったので貼っておこう。
その他にも数年前には目の見えない人のために歴史的な絵画を3Dプリンターで立体化することで触って体感できるようにする、といったプロジェクトもあった。要するに、様々な可能性を秘めたテクノロジーである、ということだ。
今後3Dプリンターの進化に合わせて3Dプリンターアートもまた進化していくだろう。現代アーティストが新たなテクノロジーをどう使いこなし、あるいはハックしていくのか、楽しみだ。