隕石が落下するたびに点灯する3Dプリントドレス「メテオドレス」がすごい——オランダの新鋭デザイナーであるアヌーク・ウィプレヒトのSF世界
メテオドレスの一体どこが凄いのか?
今、あるドレスが近未来的だと話題を呼んでいる。その名は「メテオドレス」。デザインしたのは環境に反応するファッションデザインで知られるオランダの新鋭アヌーク・ウィプレヒトだ。
さて、まずは何より、こちらの動画をご覧いただきたい。
ご覧の通り、ドレスにはLEDライトが搭載されており、白く美しい光を放っているのが分かる。幾何学的な立体形状もSF的で、3Dプリンターで出力されたという制作背景を含めて、確かに近未来を予感させるデザインだ。
しかし、である。正直、LEDで光る3Dプリントドレスということであれば、これまでにも近いものはあったようにも思ってしまう。これが今大騒ぎされているというのは、いささか大げさではないだろうか。
果たして、その疑問は的外れだった。このドレスにおいて驚くべきは搭載されたLEDライトの点灯のシンクロ先にあったのだ。なんとこのドレス、実際の流星データのサンプリングを通じ、流星が大気圏にぶつかって、地球の夜空で大気を燃やすたびに、空で観察されたものと同じ速度と明るさで光を発するらしいのだ。
もはや願い事をするために夜空を眺める時代ではない、ということだ。なんてったって、このドレスを着ていれば、空の見えない流星にまで勝手に反応してくれる上、その流星と同じ強さ、タイミングで光ってくれるのだから。
一体どこに着ていくんだ? という野暮なツッコミはよしとしよう。小林幸子のドレスだって紅白以外では使いどころはないのだ。まずはこのテクノロジーとファッションの融合に、素直に賞賛を送りたい。
アヌーク・ウィプレヒトのSF的想像力
今回、ウィプレヒトによるメテオドレスの開発の協力を行ったのは、1961年にガガーリンが人類初の宇宙飛行に成功したことを記念し世界規模で開催されている宇宙イベント「ユーリーズナイト」と、Global Meteor Networkと呼ばれる流星ビデオカメラのネットワークを構築しているウェスタン大学の研究者デニス・ヴァイダだった。
実はこのウィプレヒトはこれまでにも今回と同様に、様々な専門家とタッグを組むことで驚きの3Dプリントドレスを数多く制作してきている。たとえば、「スパイダードレス」。このドレスは着用者の呼吸を計測するセンサーが内蔵されており、たとえば誰かが接近したことによる緊張で着用者の呼吸が高まると、普段は閉じている蜘蛛のような足がいっせいに開き、攻撃態勢に入るのだ。
あるいは同じく彼女の作品「スモークドレス」では、誰かが近づくたびに煙を発生させ自分自身の姿をカムフラージュするという特殊な性能をドレスに与え、大きく話題になった。
両方とも女性ならではの視点が活かされており、フェミニズムの時代を意識した強いコンセプトになっている。男性にとっては「そんな攻撃したり隠れたりしないでよ」と思うかもしれないが、だったらこちらはどうだろうか。
こちらの「パンゴリンドレス」は着用者の緊張と落ち着きに反応し、異なる色に光る仕様となっている。1024個の脳波センサーによって着用者の状況を正確に読み取り、たとえば落ち着いている時なら紫色に、緊張とストレスが増したと判断されたら、状況に応じたパターンで光が点滅し始めるという。
自分の精神状態が丸わかりというのは、若干、恥ずかしい気もしなくもないが、言葉では言いづらいことを光で伝えられるというのは、なんというか奥ゆかしさがあって面白い。このように様々な試みがなされているのだが、いずれのドレスにせよ、ネットフリックスのドラマ『ブラックミラー』を連想させるような、かなりSF的なドレスなのである。
そして、今回、満を辞してウィプレヒトが制作した新作が、身体ではなく流星と同調する「メテオドレス」だったというわけだ。ここで紹介したドレスの型はいずれも3Dプリンターで作られているが、なんだか3Dプリント云々がおまけ情報にしかならないくらいに、色々と凄すぎる。
すでにニューヨークのファッションウィークや、アルスエレクトロニカにおいても注目されているウィプレヒトの「メテオドレス」は、2021年4月12日(すでに終了)のユーリーズナイト・ワールドスペースパーティーで初公開されるという。今回はコロナ禍ということもあり、ライブストリーム配信もされるそうだ。
気になる方は以下のサイトをチェックして、是非とも最先端の3Dプリントドレスをリアルタイムで目撃してはいかがだろうか。もちろん、流れ星に願いを込めることを忘れずに。