廃棄物ゼロで3Dプリントされた家具の現代アート「インスタレーション」がアートバーゼルに出展
まだまだ続くアートバブルとアートフェア
現代美術作品が売れている。欧米だけの話ではない。日本でもだ。
この長らく続くアートバブルがいつ終わるのかは定かではない。ただ、最近では日本国内でも美術大学を出たばかりの若手作家の中にも作品が飛ぶように売れている作家もいたりする。
もちろん、アートの世界においては「売れている」ことが評価軸の全てではない。かねてよりマーケットとクリティーク(批評)は乖離していると言われてきた。つまり、アートの世界で高く評価されている作家の作品が必ずしも「売れている」わけではないということだ。
しかし当然、アーティストも作品が売れなければ生活していくことができない。主に現代のアーティストは所属ギャラリーを通して作品を販売するケースが多く、ギャラリーでの個展などがその売買の場となることが多い。一方、美術館などの公共施設においては作品の販売は原則的にはあまりなされることはなく、そのため美術館展示をするほど赤字になるなんて声もあるくらいだ。
ところでアートコレクターにとって、作品を品定めするために、各作家のギャラリー個展を巡り歩くのはなかなかに大変な作業だ。時間もかかれば、労力もかかる。それゆえ注目の作家の作品を一堂に集め、展示を行うアートフェアが、アートマーケットにおいては極めて重要な場となる。
日本でもこのアートフェアは各地で開催されているが、世界で最も有名な最大級のアートフェアといえばアートバーゼルだろう。
アートバーゼルはその名の通り、スイスの都市バーゼルで毎年開催されているアートフェアだ。しかし、アートバーゼルは近年、世界の各都市でも開催されるようになっている。パリ、LA、香港、そして東京でも。来場者はここ数年は毎年10万人規模というから、アートバブルの一端が窺えるというものだ。
ところで、ここまでは話の枕である。今回、アートバーゼルに触れたのは、2022年のアートバーゼル・マイアミビーチに出展されたある作品が画期的だったからだ。
アートバーゼルに出展された3Dプリント家具
12月5日に開幕となった第20回アートバーゼル・マイアミビーチは大規模だ。参加ギャラリーは283ギャラリー。日本からも神宮前のNANZUKAや六本木のSCAIなどが参加している。もちろん世界的なギャラリーも軒並み顔を揃えている。ガゴシアンやハウザー&ワース、リッソンギャラリー、ジェフリー・ダイチ。いずれもアート界きっての名門ギャラリーだ。
バーゼルの魅力といえば、プログラムの質の高さだ。参加するギャラリー、コレクター共に、バーゼルの審美眼によって見極められている。それゆえ、展示されている作品はいずれも「本物」だ。ここでいう本物とは贋作でないということではなく、時代を超えて価値を持ち続けるだろう作品たちだということだ。
そんな今回のアートバーゼルに出展された作品の中で、3Dプリンターを専門とする当ブログ欄にとっても見逃せない作品がある。ウィンウッド地区のソラナエンバシーにおいて展示されているユニークなデザインの3Dプリント家具からなるインスタレーション作品だ。
このインスタレーションはEndless Loop: From Waste to Wantedというタイトルの限定コレクション展となっており、12月13日まで開催される。もちろん、インスタレーションを構成している各作品はいずれも購入可能だ。そして、何より注目すべきは、これらの家具が廃棄物ゼロで3Dプリントされているという点だろう。
製作したのはオークランドを拠点とする持続可能な家具のデザイン製造会社Model No.。今回はデザインスタジオも関わっており、複数のアーティストとのコラボレーションになっている。もちろん、アートバーゼルは家具フェアではない。これらの家具が出展されたのは、このインスタレーションが家具ビジネスにおける製造慣行によって引き起こされてきた環境への害に対する警鐘という、時代にふさわしいコンセプトを持った「作品」であるからだ。
たとえばコラボ作家の一人であるマイク・ハンが制作したのはモノリスの彫刻作品。ハンは、灰を使った CNC彫刻と3Dプリンターを利用して、これを無駄のない彫刻オブジェクトとして作成した。
あるいはアリー・サリアーニが制作したのは、幾何学的な形をした立像。伝統的なフライス加工と職人技、さらに3Dプリント技術とを組み合わせることで、廃棄物として残されたものから機能的で美しいオブジェクトを制作することに成功している。
下の動画はナタリー・ルーのもの。今回のインスタレーション Endless Loop: From Waste to Wanted のイメージが美しい映像によって表現されている。
本気になれば「変えられる」ことの証明
これらの作品はあるビジョンを提示している。それは、ローカル、サーキュラー、およびデジタル製造慣行を採用することにより、業界の環境フットプリントを大幅に削減できるということだ。
今回、チームは会場のあるカリフォルニアのベイエリアの製材所に依頼して、倒木、おがくず、植物廃棄物をわずかな距離で調達。倒木は木材として、おがくずはバイオレジンに変えることで、いずれも無駄を一切生じさせることなく、各部品をカスタム生産している。
デザイナーのアイディア次第でこうした廃材利用が可能であること、そしてサーキュラーエコノミーへの移行がそれほど難しいことではないことを証明したということは非常に大きい。そして、アートがエコロジーとテクノロジーの先進的な実践を行う上でのフレームとして機能しているというのもまた重要なポイントだろう。
アートと聞くと、どうも「鼻持ちならなさ」を感じてしまう人も多いかもしれない。ただ、先入観だけで敬遠してしまっているのだとしたら、それはとてももったいない。アートは世界を新たにデザインするためのアイディアを数多く提供してくれる。
3Dプリント技術とアートの蜜月については、これまでも記事にしてきたが、あるいはアート作品が新たに技術を牽引してくれる可能性だってあるのだ。皆さんも是非とも時にはギャラリーやアートフェアに足を運んでみてはいかがだろうか。