3Dプリントされたクモの巣がパンデミックを未然に防ぐ?
クモの巣に溜まった「朝露」がアラートとして機能する
長く続いたパンデミックも一応の収束を見せ、社会が落ち着きを取り戻した感のある昨今。しかし、今回分かったことはウイルスという存在はどこからともなくやってきて、気付いた時には世界中に拡散されてしまっているという人間社会の本質的な脆弱さだ。
こうしたパンデミックを防ぐ、あるいはウイルスに対する対応を迅速化する上で欠かせないのは、なるべく早期に新たなウイルスの存在を発見することにある。実はその対策を実現化していく上で、3Dプリンターが役立とうとしている。
バージニア工科大学機械工学部の准教授であるジャンタオ・チェン氏が率いる研究チームが現在開発を試みているのは、3Dプリントされた「クモの巣」だ。雨が降った日の翌朝、朝日に照らされたクモの巣に朝露が輝く様子には、なんとも言えぬ美しさがある。研究チームが着目したのは、まさにこの「露」だった。
チェン氏によれば、水滴はその独特の形状と特性により、周囲の空気から粒子を補足することができるという。その粒子の中には粉塵や細菌、そしてウイルスも含まれている。研究チームはこれらの水滴に付着した粒子をレーザーによって識別、データを収集することで、早期のウイルス検出が可能であることに着目した。
クモの糸を帯電させて効果的に水滴を捕捉
しかし、環境上の個々の水滴をスキャンすることは非現実的だ。そこで注目されたのが「クモの巣」だった。クモの巣は構造上、複数の水滴を自然に保持することができる。その上で重要となるのは、より多くの粒子を水滴に引き寄せること。チェン氏の研究チームは、3Dプリントされたクモの巣に電極を使用して帯電させることで、より多くの粒子をクモの巣に引き寄せることに成功した。
天然素材と合成素材を組み合わせて3Dプリントされた偽の「クモの巣」は、柔軟性と耐久性を兼ね備えている。さらに、その中に含まれた特殊な液体は紫外線によって硬化し、「クモの巣」がその形状を保持して、小さな水滴を捕捉することを助けている。
これらの技術開発の念頭にあるのは、WHOが「疾病X」と呼ぶ、有効な対策が存在しない未知の病原体だ。これは今後、国際的に重大な伝染病の流行が、いまだ知られていない病原体によって引き起こされるかもしれないという危機意識からつくりだされた用語である。要するに、我々は未知のウイルスの存在に常に十分な注意を払い続けている必要があるということだろう。
果たして3Dプリントされた「クモの巣」は未来の脅威を絡め取ることができるのか。小説にもあるように、我々の運命は一筋のクモの糸に掛かっているのかもしれない。