3Dプリンターの導入でインプラントの費用が10分の1に!? 整形外科、形成外科で活躍する3Dプリント技術
コロナ禍で業績アップのある業界
コロナ禍は様々な産業に大きな打撃を与えた。しかし、その一方でコロナ禍になって盛り上がりを見せた業界もある。その一つが美容外科だ。
第一に、世界的なパニックに際して、人々が自分の身体というものにあらためて関心を深めたという点もあるだろう。だが、より大きな要素としては、在宅ワークの一般化により、美容整形につきもののダウンタイムを人と会わずにやり過ごすことができるようになったのが大きい。要は人と会わなくて済むこのタイミングに、せっかくだから美しくなってしまおうというわけだ。
実際、この2年で美容整形の広告を多く目にするようになった印象がある。一方でその広告のあり方については様々な批判も寄せられている。たとえば近年、広く知られるようになった言葉に「ルッキズム」というものがある。これは外見で人を差別することを意味する言葉で、美容整形の広告はこの「ルッキズム」を煽る効果があるのではないかという批判もあるのだ。
確かに広告のあり方に関しては検討の余地があるかもしれない。不安を煽るような文言を広告に用いるのは確かに品が良いとは言えない。さりとて、人が美しくなりたい、カッコよくなりたいと思う気持ちもまた、否定されるべきものではないだろう。美容整形は是か非かという古典的な議論もあるが、現在はそれ以上にどのように美容整形技術を使うかがより問われるようになっているように思う。何よりそれは人々をエンパワーするためのツールのはずであり、問われるべきはどのように技術を用いれば、より人々をエンパワーするものになりうるか、という点ではないだろうか。
さて、枕が長くなってしまったが、実は美容外科、引いては形成外科、さらに整形外科においても、現在、3Dプリント技術が大きく役立てられている。一つの目立った技術革新があるというより、もはや3Dプリンターは整形、形成外科医療の全域にわたって使用されているのだ。では一体、3Dプリント技術はどのように役立てられているのだろうか。
※なお一般に美容整形は形成外科に属するものとされている。一方、整形外科は骨、関節、筋肉、神経など運動をつかさどる運動器の機能障害を治療する分野とされている。
整形外科が3Dプリンターを導入することで得られる18のメリット
このことに関して、先日、世界的な3Dプリントメディアである「3DPRINT.COM」が面白いまとめを出していた。3Dプリント技術の導入で特に整形外科が得ているメリットが18点に渡って紹介されていたのだ。ここでは、その見出しをざっと紹介しておこう。
1. 安い
2. 新製品の再生産と開発が迅速になる
3. より多くのソリューションがテスト、試行、評価されている
4. より良い製品、市場への適合、またはより良いソリューションを得られる
5. デジタルアドバンテージのための新しいソフトウェアと連携することができる
6. グループ固有の/ニッチなインプラントをより安価に製造販売することができる
7. オッセオインテグレーション(チタンと骨の結合)に利点がある
8. 骨の弾性率をより正確に模倣することができる
9. 質量を減らすことができる
10. 患者によりよくフィットする内部構造を持ち、拡張性の高い、肯定的な機能を示す部品を作ることができる
11. ジオメトリ固有のIPに繋ぐことができる
12. 患者固有のインプラントを作ることができる
13. 高価な素材を最大限に活用することができる
14. 工業化できる
15. アップグレード可能
16. 永続的な競争優位につながる可能性がある
17. より少ないステップで医療を行うことができる
18. より少ない部品で生産することができる
(引用元/https://3dprint.com/286405/stacking-successfully-implementing-additive-advantages-in-orthopedics/)
CorinGroupがArcamEBMで製造した多孔性の高い寛骨臼カップ
ざっとこのような具合だ。専門性が高く分かりづらいポイントもあるが、要するに、コスト、パフォーマンス、イノベーションの可能性など、様々な観点において3Dプリンターが大活躍しているということだろう。
考えてみれば整形外科は患者それぞれの身体に合わせてインプラントなどを製造する必要がある。こうしたパーソナライズされた医療に3Dプリンターが役立つのは当然でもある。たとえば、整形外科以外でも、経口の医薬錠剤の製造などに関して、3Dプリント技術を駆使して患者それぞれにカスタマイズされた医薬品の製造などが各現場で行えるよう整える動きもあると聞いている。
そして患者側である我々にとっては何より、3Dプリンターの導入によるコスト面での利点は大きい意味を持つだろう。3Dプリント技術によってインプラントの製造コストは以前の約10分の1程度にまで下がっているという。
形成外科に分類される美容外科においてもインプラントが用いられることがある。美容目的のインプラントの使用は保険適用外である場合が多く、費用がかさんでしまいがちだが、もしそれが10分の1程度の費用になるとしたら、外見に悩みを抱えている方にとってはまたとない朗報となるだろう(もちろんインプラント製造コストの削減が美容外科手術費用の低下にダイレクトに直結するわけではないが)。
あるいは技術革新にも注目だ。先ほどのまとめは整形外科のものだが、形成外科においても3Dプリント技術は大いに活躍している。
たとえば最近、3DバイオプリンターメイカーのCELLINKが、バイオプリンティングを使用して患者それぞれにカスタマイズされた美容外科を提供するためのシステムの特許を取得して話題となった。このシステムは、AIを利用したアルゴリズムを使用して、患者の入力スキャンを希望の美的特徴と比較し、顔の各領域に最適な量のフィラーを注入する調剤計画を策定するように設計されているという。要は、自分の理想とする顔へと近づくために必要なプロセスの最適解をAIが判断してくれるというわけだ。
画像引用:CELLINK
いずれにせよ、整形外科、形成外科を問わず、私たちの身体にとっても、3Dプリント技術はもはや欠かせないものとなっているようだ。