宇宙への移住の鍵を握るのは3Dプリンターか? 宇宙開発における3Dプリント技術の最前線
3Dプリンターが宇宙開発を促進する
地球がくまなく探査されつつある現在、間違いなく今日の人類にとって最も魅力あるフロンティアは宇宙空間だろう。
太陽系以外の惑星に生命は存在するのか。あるいは人類が居住できるような環境を持った星がどこかにあるのか。気候変動が叫ばれる昨今、移住可能な惑星探しは切迫した問題として、人々の関心を集めている。
しかし、なかなかどうして宇宙探査は進まない。アポロ17号が月面高地に着陸して半世紀、いまだ人類は月の低重力大気を航行すらできていないのだ。
今日、イーロン・マスクやジェフ・ベゾスなどの億万長者たちは、宇宙の商業化に関して、強い関心を寄せている。気が遠くなるほどの大金が、惜しみなく宇宙産業の開発に注ぎ込まれているのだ。
その上で、非常に重要な問題が宇宙へのアクセスコストの削減だ。そこで重要となるのが3Dプリンティング技術である。
完全3Dプリント製のロケットエンジン
実際、ロケット開発にはいまや3Dプリンターが欠かせなくなっている。エンジン開発、あるいはボディの部品に至るまで、3Dプリンターは製造のコストカットのみならず、設計の自由度の向上や重量を減らすことに役立っている。
たとえば現在、Made In Space、Aerojet Rocketdyneなどの宇宙開発企業が3Dプリントメーカーと提携し、印刷可能な部品のリストの拡大を急いでいる。あるいは、それが3Dプリンティング技術の進歩をも促しており、Relativity Space社はよりスピーディーにロケットを製造するために、独自の積層造形技術を開発するに至っている。
最近では新興企業であるSkyrootやOrbexなどが完全に3Dプリントできるロケットエンジンまで発表しているという。昨年は世界中がコロナ禍でビッグストップに陥っていたにも関わらず、宇宙開発はむしろペースアップしており、過去20年間で最大の114回の打ち上げが行われたそうだ。
Orbexの世界最大の3Dプリントロケットエンジン
宇宙ゴミの破片を3Dプリントの原料に
一方、宇宙空間の過酷な環境で人類が生きていくための技術としても3Dプリンターには期待が高まっている。フード3Dプリンターによる宇宙食の出力はもちろん、物資をその場で出力できる3Dプリンターが孤立した宇宙空間で重宝されるのは、半ば当然と言えるだろう。
中でもTethersUnlimited社は宇宙ゴミの破片を再処理することで、3Dプリンターの原料を作る研究を行ってきた。すでに閉じられたループで7回のリサイクルを成功させており、地球からの物資に依存することがなく、宇宙空間で必要物資を調達する技術として高い注目を集めている。
また、宇宙での3Dプリンティングにおいては、環境が真空状態であるケースも考慮しなければならない。たとえばどこかの惑星に3Dプリントによる建築物を行う場合、規模的に宇宙船内で出力することはできず、真空状態においいて出力する必要がある。
この真空状態でも機能する3Dプリンター開発を進めているのはMade In Space社だ。同社が開発した3Dプリンター「Archinaut」は、現在、、宇宙ステーションポッドに設置され、通信衛星反射板の製造や、外部からの機械の修理を行う目的で開発が進められているが、やがては宇宙での大規模製造の革新的な手段となると言われていいる。
Archinautのイメージ映像
Space Xのスターシップ
ここまで紹介したのはほんの氷山の一角に過ぎず、3Dプリント技術を駆使した宇宙開発を目指している企業は無数にあるのだが、ここでは最後にイーロン・マスクが率いる宇宙開発事業会社Space Xを紹介しよう。
2015年にNASAが「火星の表面に液体の水が流れている証拠を掴んだ」とアナウンスしたことは広く知られているが、NASAよりも早く、火星への友人飛行を実現するだろうと目されているのが、このSpace Xである。
2020年12月、Space XのStarshipの飛行試験が完了し、火星を含め、準備された滑走路が存在しない場所への着陸が可能であることを世界で最初に証明したというニュースが報じられた。このスターシップはこれまでに世界で製造された最も強力なロケットと言われており、その心臓にあたるラプターエンジンには多くの3Dプリント部品が使われているという。現状でスターシップは30年以内に火星の大気圏に入ると予想されている。
Space XのStarship
果たして、人類が地球外で暮らせる日は本当にやってくるのだろうか。その実現の鍵を握っているのが3Dプリンターなのだ。