マルチマテリアル印刷が可能な光造形3Dプリンターがまもなく登場?|エジンバラの研究論文が話題に
光造形方式では不可能だった複数材料印刷、しかし
熱溶解積層方式、光造形方式をはじめ、3Dプリントには様々な方式があり、それぞれに独自の利点と欠点がある。ユーザーは用途に合わせ、それらを使い分けることが良いとされている。
たとえば熱溶解積層方式位であれば、複数の材料を印刷できるというメリットがあるものの、解像度などの点では物足りなさがある。一方で光造形方式では解像度は高いものの、複数材料でのプリントは現状できないとされている。
3Dプリントに関わらず、いいとこ取りは難しい。トレードオフは世界の原則なのだ——
と、諦めるにはまだ早い。実は現在、熱溶解積層方式と光造形方式の両方の長所を融合する取り組みが進められている。たとえば先日、エジンバラのヘリオットワット大学の研究者らが、マルチマテリアル印刷が可能な光造形3Dプリントについて発表した論文が、大きく波紋を呼んでいる。
SLAでマルチマテリアル印刷が困難であった理由
今回、その論文が対象としているのは光造形方式の中でも主にSLA(ステレオリソグラフィ)方式に関わるものだ。これまでも様々な記事で説明してきたように、光造形方式には主にSLAとDLPの2種類があり、SLAにおいては液体レジンのバットにレーザー光源を選択的に照射することで、オブジェクトを造形していく方式となっている。これにより非常に高い解像度を提供することができ、高さ25〜100ミクロンの範囲の非常に細かい層線のプリントが可能であるとされている。
ただ、SLAにも欠点があり、それがマルチマテリアル印刷、つまり複数材料での3Dプリントができないということだった。
ちなみに熱溶解積層方式においては、マルチマテリアル印刷は非常に簡単だ。プリントの中途でフィラメントを別のタイプのものに交換するか、あるいは複数の押し出し機を備えたマシンを用いるかするだけで、複数素材での出力が可能になる。しかし、一般的に一つのレジンタンクで構成されるSLAの場合、そうはいかない。もしSLAで複数素材を試みたい場合、まず思いつくのはプリント途中でタンク内のレジンを切り替えるということだ。ただ、これを行えば複数のレジンの相互汚染や気泡混入を避けることはできず、現実的には不可能であるとされていた。
鍵となるのはフォトンアップコンバージョン
今回発表された論文はこうした問題を突破しうる可能性を示したものだった。その際、鍵となるのは「フォトンアップコンバージョンのプロセスをサポートするナノ粒子を含むレジン」だ。
なんだか分かりづらい言葉が並んでいるが、ここでいうフォトンアップコンバージョンとはレーザー光線がレーザー焦点のみでレジンを硬化させることを意味し、光に対する材料の応答が光の強度と関係を持たない特性のことを指すらしい。
この特性をもたせたナノ粒子を含むレジンを用いることで他の方法で可能であったよりも樹脂バット内で材料をより深く硬化させることができるようになったという。従来のSLAプリンタの深さ制限が0.1mmだったところ、新しい技術では5.0cm以上になったというのだから、これは大幅な更新だ。
画像:UNSW シドニー
この深さ制限の改善によって、1つの材料を特定の深さで固化し、その後、2番目の材料を追加してその材料を異なる深さで固化することにより、複数の材料を使用してSLAで印刷することができるようになる、と論文は発表している。
写真をご覧いただけば分かるように、実験においてはすでに2色や3色でのマルチマテリアルSLA印刷に成功しているようだ。
画像:UNSW シドニー
研究チームによれば、この方法は手頃な価格で商業的にも実現可能だとしている。つまり、一般向けのSLA3Dプリンターでも複数素材出力をできるようになる日が遠からずやってくるということだ。これは非常に待ち遠しい。続報に期待したいところだ。
(参照論文)Upconversion 3D printing enables single-immersion multi-material stereolithography