3Dプリントされた超極小のルイ・ヴィトン風バッグが話題に|MSCHFが仕掛ける消費社会へのアイロニカルな悪戯
顕微鏡でしか見えないヴィトンのモノグラムバッグ
今、あるバッグが世界で話題になっている。
ルイ・ヴィトンのモノグラムトートバッグ風のそのバッグを発表したのは、ブルックリンを拠点とするインターネット集団MSCHF。アート、テクノロジー、資本主義を珍しい方法で融合させた、型破りでしばしば風刺的な作品で知られるこの集団が制作したこの「マイクロスコピックハンドバッグ」は3Dプリンターを使って制作された、顕微鏡でしか見ることができない超微小のハンドバッグだ。
同グループのインスタグラムの投稿によれば、「海塩の粒よりも小さく、針の穴を通るほど細いこのバッグは、見るには顕微鏡が必要なほど小さい」とのことで、さらに「大きなハンドバッグ、普通のハンドバッグ、小さなハンドバッグがありますが、これがバッグの小型化の最終形態です。ハンドバッグのようなかつて機能していた物体がどんどん小さくなるにつれて、その物体としてのステータスは着実に抽象化され、最終的には純粋にブランドを象徴するものになります」とのこと。
確かにこのハンドバッグにはいわゆる使用価値がない。バッグとしての機能性を一切持たないも関わらず、ルイ・ヴィトンの象徴的なデザインを踏襲した風のそれは、まさに純粋なるブランドの象徴になりうるということだろう。
名前が示すように、マイクロスコピックハンドバッグは、寸法が657x222x700μm (マイクロメートル)となっており、これは砂粒よりもわずかに大きい程度のサイズだ。この極小のアクセサリーは、二光子重合と呼ばれる複雑な技術を使用して作られている。二光子重合とは、小さな機械的バイオテクノロジー構造を作成するために使用されるステレオリソグラフィーの一種だ。使用された材料は、フォトポリマー樹脂、構造を保存するためのゲルケース、そして観察を容易にするための顕微鏡だそうだ。
消費社会を斜めからからかうMSCHFの作品
ところでMSCHFの制作は実にユーモラスなのだ。たとえば、本作についMSCHFは次のようにも述べている。
「これまでの小さな革製ハンドバッグは、依然として持ち運びに手を必要としていましたが、それゆえに機能不全に陥り、着用者にとっては実際のところ不便なものでした。マイクロスコープハンドバッグは、これを論理的で完璧な結論に導いています。実用的な物体は宝石の次元へと煮詰められることで、その推定上の機能はすべて蒸発します。そもそも高級品において、使いやすさというのは天使の分け前のようなものですから」
人々の所有欲はやがて目に見えないバッグにまで向かう。それがたとえ小さすぎて一切使用できなかったとしても、そこが本質ではないのだ。ここにはMSCHF流のそうした消費社会への皮肉が込められているに違いない。
なお、このバッグはパリのマティニョン大通り8番地にあるファレル・ウィリアムスのデジタルファーストオークションハウス兼コンテンツプラットフォームのJOOPITERでオークションに出品されており、現在(6月24日)まさに入札が行われているところだ。
ちなみにMSCHFはこれまでにもこうした社会風刺的な、それでいてハイクオリティな作品を多く発表しているのだが、トラブルが起こることもしばしばある。たとえば、MSCHFがラッパーのリル・ナズ・Xと協力して制作したナイキのエア・マックス97の改造版でありソールに本物の血液を注入した「サタン シューズ」プロジェクトにおいては、ナイキから訴訟を起こされてしまっている。
あるいはVansからもVans Old Skoolに似たスニーカーモデル「Wavy Baby」に関して訴訟を起こされている。
果たして今回のルイ・ヴィトン風の超微小バッグがまた問題の火種となるかは分からないが、どこかバンクシーを彷彿させるようなMSCHFの試みそのもは非常に刺激的であり、どうにも目が離せないのである。