子供の成長に合わせて成長する3Dプリント心臓弁|3Dプリンターが医療を変革する
ハーバード大学が子供と共に成長する3Dプリント心臓弁を開発
3Dプリント医療の発達は目覚しく、これまでは不可能だった様々な医療技術の開発に貢献している。
なかでも先日発表されたある研究は、実際に多くの子供を救うことになる可能性を持っている。
ハーバード大学の研究チームが現在取り組んでいるのは、子供の心臓弁の3Dプリントだ。心臓弁とは心臓の内部で、血液が流れる時には開いて、それ以外の時には閉じて血液の逆流を防ぐために重要な器官。この心臓弁がリウマチ熱などによって損傷してしまうことがあり、これは端的に命に関わるトラブルとなる。
こうしたトラブルが発生した場合、子供への人工心臓弁の移植を行うのが一般的な医学的対処となるのだが、そこには問題もあった。成長過程の子供においては心臓のサイズもまた成長過程にある。そのため、移植した心臓弁のサイズが合わなくなり、その都度、再手術を行わなければならなくなる。これが患者にとって極めて負担が大きいことであるのは言うまでもない。
今回の研究では、そうした患者の負担やリスクを減らすために、子供と共に成長する3Dプリント心臓弁の開発に取り組まれている。
この新たな心臓弁は「FibraValve」と呼ばれている。集束回転式ジェットスピニング(FRJS)と呼ばれる新しい方法を使用して、PLCLと呼ばれるポリカプロラクトン(PCL)とポリ乳酸(PLA)をカスタムで組み合わせたものを3Dプリントして作られるとのことで、その所要時間はわずか10分。この技術により、バルブの形状と特性をナノスケールレベルまでカスタマイズすることができ、すでに大型動物モデルでは成功しているとのことだ。
ハーバード大学ウィス研究所
生きた細胞によるコロニー形成を可能にする多孔性を持った構造
それにしても、一体、3Dプリントしたオブジェが成長するとはどういうことなのだろうか。
鍵となるのは「生きた細胞によるコロニー形成」だ。研究チーム曰く「FibraValvesは生分解性ポリマー繊維を使用して製造されており、患者の細胞が移植された足場に付着して再構築することを可能にし、最終的には生涯を通して成長し、子供とともに生き続けることができる自然な弁を構築する」とのこと。
実はこの研究は早くから始まっていた。2017年にはすでに羊の心臓において弁の埋め込みに成功。その後、改善点を拾い上げ、今回のFibraValveの開発へと至った。
FibraValve はポリマー繊維の長いフィラメントで構成されており、人間の心臓弁の物理的特性を再現している。細胞が浸潤して足場を生体組織に置き換えることができるに足りる多孔性を備えている点も重要だ。
ハーバード大学ウィス研究所
さらに研究チームはまた、弁を通って逆に漏れる血液の量を減らすために、弁の内側の「小葉」の形状を最適化している。これらすべての改良により、FibraValve は自らで自らを改造できるため、心臓が成長途中の小児心臓弁膜症患者にとって非常に役立つ性能を手にした。
研究者らはまた、こうしたアプローチは心臓弁移植にとどまらず発展可能性があると考えている。埋め込み型医療機器において、患者の身体の成長や変化は大きな難問だった。今回の3Dプリント心臓弁はそうした難問を解決する手立ての嚆矢となるかもしれない。