
3Dプリンターは本当に地球環境を救うのか? サステナブルな社会を作るための技術革新とは?
地球環境は限界寸前
気候温暖化が進行している。北極では観測史上初の20℃以上を観測しており、昨年の日本の夏の最高気温は沖縄を除くすべての都道府県で40度以上を記録している。毎年、記録的な規模の台風が猛威を振るっている。温暖化についての見解は様々とはいえ、体感的にも何らかの気候変動が起こっているということについては否定しえないリアリティがある。
2019年には環境保護を訴えるグレタ・トゥーンベリの存在も話題になった。この問題においては誰しもが当事者であり、地球の一員として無視することはできない。背景には近代資本主義以降の産業構造がある。大量生産大量消費。エネルギーの過剰な使用。森林面積は毎年、日本の国土面積の2割程度ずつ減少している。一方で地球人口は20世紀頭から数倍に増え、今も増加の一途を辿っている。
人間がこれまでと同様の暮らしを続け、エネルギーを消費し続ければ、環境はもはや致命的に破壊されてしまう。しかし、環境保全のために全員が引きこもってしまったら世界の動きそのものが止まってしまう。この未曾有の困難に解決策はあるのか。テクノロジーの革新が鍵だ。
3Dプリンターは元来、無駄な生産、無駄な消費を減少させる可能性を持ったテクノロジーだ。しかし、実際のところ、3Dプリンターはどれくらいエコロジーに役立っているのだろうか。というわけで、今日は、3Dプリンターとエコロジーに関して、最新の情報を紹介したい。そして「3Dプリンターは本当に地球環境を救うことができるのか」ということについても、少し考察してみようと思う。
使用済み油を用いた土に還る「優しいレジン」が登場
さて、まずはウェブメディアGIZMODOが紹介していたこちらのニュースを取り上げよう。
マクドナルドの使用済み油、エコな3Dプリント素材に。土に還るしコストも安いしhttps://www.gizmodo.jp/2020/02/mcdonalds-fry-oil-3d-print-resin.html
なんでも北米カナダはトロント大学の研究チームが、使用済み油を加工して、3Dプリンタで使えるレジンに変身させる技術を編み出したそうだ。
記事によるとトロント大学スカボロ校のアンドレ・シンプソン教授が、市販の3Dプリンター用レジンの原料の分子が、料理油の脂肪分子と構造が近似しているということを発見したとある。
使用済み油と言えば下水詰まりの原因の一つ。あるいは廃棄も大変であり、家庭の悩みの一つとして知られる。しかし現代では毎日大量の油が消費されてる。その使用済み油をレジンに変身させてリサイクルするというのだから、これは実にエコな話だろう。
実は油の生産においても生態系が乱されているということはあまり知られていない。ファストフードなどでよく使われているパーム油の乱獲は現在オランウータンを絶滅に追い込もうとしている。パーム油は主にアブラヤシという木から取れるのだが、このアブラヤシの原生林はマレーシアのボルネオ島にしかなく、このボルネオ島は数少ないオランウータンの生息地としても知られている。現在、このアブラヤシの伐採によりオランウータンが絶滅に瀕しているのだ。由々しき問題である。
この一例をとっても油を無駄遣いすることはできない。使う量を控えるというだけではなく、貴重な油ならば使用後もちゃんとリサイクルしたいところだ。
この使用済み油をレジンに変換するという研究に関し、まず手をあげたのは世界第2位の規模を誇るファーストフードチェーンであるマクドナルドだったらしい。大手が名乗りを上げたことで、今後のこの技術が普及していくことは、間違いないだろう。
どうやら油1リットルにつき420ミリリットルのレジンが作れるらしい。さらにこのレジンは生分解性があるそうで、土に埋めれば微生物の働きによって2週間ほどでその20%が分解されるとのこと。
最近はこの「土に還る」ということが、世界的な関心を集めている。以前にも、土に埋めれば12週間で完全に生分解されるTシャツが発売され、話題になっていた。
【WIRED】そのTシャツは“植物”からつくられ、わずか12週間で土に還る
今後、このようにエコロジーの観点を取り入れたレジンが続々と出てくるかもしれない。SK本舗としても、エコを意識した開発を試みていきたいところだ。
世界の飲み水不足を3Dプリンターが救う
3Dプリンターが活躍するのはリサイクルにおいてだけではない。実は、世界の飲料水不足を3Dプリンターが解決するかもしれないと言われている。
現在、地球上の水のうち、飲用可能な汚染されてない水は1%未満と言われている。このことから発展途上国では清潔な飲料水が恒常的に不足している。
人間にとって水はライフライン。人口は爆発してるのに飲み水が足りないというのはとても深刻な事態である。
そこで3Dプリンターが活躍する。実はすでに米国エネルギー省とゼネラルエレクトリックが、3Dプリンターを使用した新たなる淡水化技術プログラムにおいて提携している。なんでも、ゼネラルエレクトリックは、3Dプリントされたタービンを使って空気、塩、水を圧縮し「過冷却ループ」なるものを形成する計画しているようだ。凍結すると塩が氷から分離する性質を利用し、最終的に融解することで飲料水を作ろうということらしい。
ゼネラルエレクトリック
水問題に取り組んでいるのはゼネラルエレクトリックだけではない。たとえばLiquidity Nanotechは「Naked Filter」と呼ばれる、3Dプリンティング技術によって可能となった濾過水製造のためのフィルターを製造、発売している。あるいは、バース大学のエマ・エマニュソン教授は3Dプリンティング技術を用いて開発した浄水装置「HWTシステム」を設計している。水不足問題においては3Dプリンターが大活躍しているのだ。
これは現在取り組まれている技術革新のほんの数例に過ぎない。次の十年間、イノベーターたちは3Dプリンターの能力を探求し続け、この水問題に関して、驚くべき効果をもたらすだろうと言われている。
結局、3Dプリンターは環境に優しいの?
環境問題と3Dプリンターについていくつか例を取り上げた。もちろん、これは氷山の一角だ。3Dバイオプリントによるオルトミートの拡充は確実に二酸化炭素排出量の削減に繋がるし、3Dプリント住宅の普及もまた森林伐採を止める手立てとなるだろう。そう考えると、3Dプリンターは実に環境に優しいテクノロジーであるように思える。
しかし、実は手放しに「そう」とも言いきれない部分もある。
3Dプリンティングが地球に優しいクリーンな技術になる可能性を秘めている、ということは誰もが認めるところだ。ただ、完全にクリーンだと主張するには時期尚早でもあるのだ。
たとえば3Dプリンターの一般化による各家庭でのオンデマンド出力の実現は大量生産大量消費による環境破壊を抑制する効果があると言われている。これは事実だ。しかし、いまだ3Dプリンターの多くは工業用で、一般消費者には十分に普及していない。
なぜか。現在の企業にとって、消費者のためにモデリングデータを作って、製品を各家庭で印刷できるようにすることに対する経済的なインセンティブが乏しいからだ。ようするに、技術としてはポテンシャルがあるのに、それを使う人間の欲望がそれを抑制してしまってるというわけだ。
たしかに、企業としてはデータを一回だけ売ってあとは好きに出力してもらうより、商品をたくさん作って買ってもらう方が現状では利益になる。さらに製造業においても、現在、3Dプリンターの導入は進んでこそいるものの、まだ部分的な導入にとどまっている。あるいはそうした技術導入がさらなる環境問題を引き起こすリソースの消費になってしまうとする意見もある。
3Dプリンターの導入が環境問題を悪化させる、というのはいささか皮肉だが、しかし、これは支払う必要のあるコストだとも言える。やがて、3Dプリンティングが従来の製造全体に取って代わった時、3Dプリンティング技術は真にクリーンな技術になるとも同時に言われているからだ。一般向け、工業向け、いずれにしても今はあくまでも過渡期ということだろう。
社会に完全に3Dプリンターが浸透した時、その技術の潜在性が遺憾なく発揮されることになる。SK本舗としては、今後も特に一般向け3Dプリンターの普及に努めていきたい。ユーザーの皆さんも是非とも3Dプリンターによる環境改善の啓蒙活動にご協力して欲しい。